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「PARCO劇場オープニング・シリーズ」特集

佐々木蔵之介が『佐渡島他吉の生涯』を語る

全20回

第2回

20/3/10(火)

※『佐渡島他吉の生涯』は緊急事態宣言の発令を受けまして、全公演中止となりました。

PARCO劇場には本当に育てていただいた

新装なったPARCO劇場。待ちに待ったオープニング・シリーズが3月13日(金)開幕の『ピサロ』でスタートする。華やか、にぎやか、多彩なプログラムが並ぶ中で、もっとも異色なのが森新太郎演出、佐々木蔵之介主演『佐渡島他吉の生涯』かもしれない。日々進化するメトロポリタン渋谷に、まだまだ人情という言葉が生き生きとしていた大阪・河童路地の小さな物語が紡がれる違和感が面白い。喧嘩っ早くて涙もろく、困っている人は放っておけない他ぁやんこと人力俥夫の佐渡島他吉を演じる佐々木蔵之介に話を聞いた。彼もまたPARCO劇場のオープンを待望していた一人だ。

── PARCO劇場はある意味、蔵之介さんの役者人生を映し出すような場所でもあります。

佐々木 「そうですね、やっぱりPARCO劇場がいろんな演出家さんと出会わせてくれましたから。初めての作品は福田陽一郎さん演出の『ロマンチック・コメディ』、まだ劇団(惑星ピスタチオ)に所属していたころです。渋谷の街は今もどんどん変わっていくんですけど、僕自身はその当時から変わったのかも気になりますが、PARCO劇場はずっと自分の場所という感じなんです。本当に育てていただきました。こうやってオープニング企画で一緒に新たな歩みを始めさせていただけるのはすごくうれしいことです」

── もう劇場は体験されたんですか?

佐々木 「PARCOさんのオープニングのテープカットをさせていただいたんですよ。その時に劇場直通のエレベーターに乗せてもらって。自動車でも入れそうな大きなエレベーターでバーッと。劇場階に着いたらお世話になっている制作の方が出迎えてくださって、そのまま舞台の上手に入れてもらいました。ステージ上から客席を見たら“あ、変わってない”と。たしかに舞台裏は大きくなっているんですけど、客席の傾斜や中通路の幅は変わらないんですって。うれしかったですね。ロビーも大きく変わりましたけど、とても懐かしかった」

前述の『ロマンチック・コメディ』(1998)を皮切りに、『Vamp Show』『ラヴ・レターズ』『おやすみの前に』『狭き門より入れ』『抜け穴の会議室~Room No.002~』『幽霊たち』『非常の人 何ぞ非常に』『マクベス』、そして『佐渡島他吉の生涯』に至る。知る人ぞ知るいち若手役者だった佐々木蔵之介が、いつしか押しも押されもせぬ座長への階段を登りつめていた。それだけの時間を過ごしたから、PARCO劇場の空間は彼の身体に染み付いている。

『佐渡島他吉の生涯』は、織田作之助の小説「わが町」を原作に1959年初演され、昭和の名優・森繁久彌が愛した人情喜劇の傑作だ。

大阪の人力俥夫・他ぁやんこと佐渡島他吉が、その家族や幼なじみ、心に秘めた女性らとともに時代の波に翻弄されつつ、貧しくもたくましく生き抜く物語。明治・大正・昭和を意地と人情で駆け抜けた破天荒な浪花男一代の人生大河ドラマ……。

本作では、コテコテの人情喜劇に取り組むこと、舞台で関西弁を初披露することが話題になっている。

── それにしても強烈な関西弁ですよね。僕らがイメージするいわゆる関西弁とは違う。

佐々木 「演出の森さんとも話したんですけど、織田作之助さん原作の映画『わが町』『夫婦善哉』の関西弁と、僕らが日ごろしゃべっている関西弁とは違います。吉本新喜劇、松竹新喜劇の関西弁とも違う。この時代の方言指導の先生をお願いした方がいいんちゃいますかと聞いたくらい。森さんも乾いた、落ち着いた話し方だとおっしゃってました。キレが良くて、ちょっと落とすんですよ。今の関西弁みたいに跳ねない。関西弁だから楽でしょ、開放できるでしょって言われるかもしれないけれど、そうでもないんです。その言葉、イントネーションをお客さんがどう感じるか、言葉のせいで聞きづらい、物語に入りづらいでは、いくら時代が合っていても演劇としてどうか考えなければいけません」

しかし、そんな古い関西弁から、他ぁやん、〆公(隣に暮らす落語家)と愛称で呼び合う人と人の距離感が伝わってくる。プライバシーだコンプライアンスだという息苦しさがなく、壁の大きな穴で隣の生活が丸見えでも平気なほどの信頼関係。

佐々木 「それ、皆さんどんなふうに見ますかねえ。ほんまに距離感が近いですもん。その近さがあるから人情喜劇なんだろうなあ」

こと舞台では、特にここ数年、身も心も削るように過酷な作品に、求道者のように取り組んできた佐々木。プロフィールを眺めてもコメディはあっても人情喜劇は見当たらない。どんな経緯でこの作品が選ばれたのだろう?

今回もハードな作品を選んだなぁと思う

佐々木 「まずは森新太郎さんとやろうというのが最初でした。そして森さんが『佐渡島他吉の生涯』を出してきはったんですけど、その時、僕は神妙な顔をしていたらしいです(笑)。森さんが実は織田作之助が大好きなんです。ご自身が唯一書いた戯曲にも登場させているほど。じゃあなぜこの作品か。森さんとは『BENT』でご一緒しているんですけど、悲劇を描くには笑いやユーモアが重要になる、それを蔵之介さんはうまくやってくれたから、今度はど真ん中の喜劇をやってみたいとおっしゃってくださったんです。そして森さんとしては、織田作ならではの名もなき市井の人間のたくましさを描きたい、たくましい人間を描きたいと。たしかに“人間体を責めて働かな一人前になれへん”が口癖で、死ぬ間際までそれを言うこんな奴はおらん。生活は楽にならなかったけれど、ずっと笑って生きてきた他吉はホントに心熱いな。カッコイイ男だ。よしやってみよう! と。ただ一日ワンステージにさせてくださいってお願いもしました、きついわ言うて。森さんも喜怒哀楽のギアチェンジに遊びがないから本当に疲れますよって笑ってはった。今回もハードな作品を選んだなあと思っています。どうなるんやろな、持つんかな身体はと」

ほんのちょっぴり弱音を見せつつも、佐々木の目はその先を見ている。まさに、体を責めて働かな一人前になれへんを地で行くのだ、この人も。

佐々木 「悲しい感情を表現するときは役柄を掘っていけばつくれるけれども、こういう喜劇の笑いはやはり技術が必要。ちゃんと組み立てていかなければいけない。劇場で一番お客さんの反応が返ってくるのは笑い。それを主眼とするならやりがいはある。そしてこの作品は、観てもらうのになんの前情報もいらないし、みんながわかる。難しいところは一個もなしですよ。それはそれで怖いなとは思いますけどね。全員に笑ってもらわないかん、全員に泣いてもらわないかん。それをPARCO劇場で、渋谷でというのが面白いですね。ただの人情喜劇では終わらせない。こういう芝居を見慣れない若い人も、劇場から離れている年配の方も来てくれはったらいいなあ」

改めて他吉について聞いてみる。

佐々木 「うーん、すべてが我がことなんですよね。人のことを我がことのように考える。嫁や娘やその旦那はもちろん、自分にかかわりのある人には全員、近所の銭湯のおばはんにもいっちょかみ。愛してるんやろうなあ。熱く思っているんやろうなあ。まさに“意地と人情で駆け抜けた”、このコピー通りですわ。ガッチガチやもんな。でも“人情”はやわらかい意味か。両方持って駆け抜けとる。いやあ、僕も責めますよ、この舞台」

『無法松の一生』の松五郎もそうだが、人力俥夫には無頼の格好よさがある。佐々木蔵之介が腰を屈めてゆっくり車を引き始める姿はさぞかっこいいことだろう。

佐々木 「花道があったらガーッと走って見せるんですけどね、PARCOにはないからなあ。そこは『破壊ランナー』みたいに残像を感じさせながら走る抜ける演技でもやりますか。この時期、藤吉郎(大河ドラマ『麒麟がくる』)をやりつつ、他ぁやんをやる。NHKとPARCO劇場のはしごですわ。まあ近いですけどね。こっちが公園通りを人力車で送ってほしいわ、ほんま!」

取材・文:今井浩一
撮影:星野洋介

作品情報

『佐渡島他吉の生涯』

5月13日(水)~6月7日(日)
PARCO劇場
全席指定-10000円 U-25チケット-5000円
原作:織田作之助(「わが町」より)
脚本:椎名龍治
潤色:森繁久彌
演出:森新太郎
出演:佐々木蔵之介、石田明、
壮一帆、谷村美月、松永玲子、
藤野涼子、大地洋輔、弘中麻紀、
福本伸一、上川周作、どんぐり、
陰山泰 ほか

※大阪公演あり。
6月25日(木)~28日(日)
NHK大阪ホール

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