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太田和彦の 新・シネマ大吟醸

ミニシアター上映再開! じつにぴったりの痛快編『独立愚連隊』に胸が躍った!

毎月連載

第24回

20/7/2(木)

特集「愚連隊大作戦」チラシ

『独立愚連隊』
ラピュタ阿佐ヶ谷 特集「GO! GO! GO! 東宝戦争ウェスタン 愚連隊大作戦」(6/21~8/15)で上映。

1959(昭和34年)東宝 108分
監督・脚本:岡本喜八
撮影:逢沢譲
美術:阿久根巌
音楽:佐藤勝
出演:佐藤允/中丸忠雄/中谷一郎/江原達怡/夏木陽介/南道朗/沢村いき雄/ミッキー・カーチス/雪村いづみ/中北千栄子/上原美佐/鶴田浩二/三船敏郎

太田ひとこと:敵軍大襲来を高い瓦屋根の上で待ち伏せていたが、そこでも賭けをして、うっかりサイコロをチョロチョロと屋根に転がして落としてしまい、それで気づかれるというなんとも粋なアイデア。
:ジェリー藤尾が酔っ払い兵でワンカットだけ出るのは、どうやらカメラテストらしい。

軍曹・佐藤允は毎朝新聞記者と偽って、部隊居留地で女と心中したとされる弟の死の真相を探りに、一人で北支最前線にやってくる。そこの慰安婦に本土から佐藤を追ってきた許婚の雪村いづみがいて佐藤は驚くが、俺の身分を明かすなと固く口止めさせる。

副隊長・中丸忠雄から、陣営から遠くはずれた場所にならず者兵ばかり集めた通称・独立愚連隊が駐屯すると聞き出し、「生きて帰れないぞ」と止められながらも向かう。

本隊から見捨てられたような愚連隊部隊はなぜか食料も届かず疲弊していたが、兵たちは意気軒高。連隊長・中谷一郎は怪しげな新聞記者を警戒する。

戦争なんかどうでもいい中丸はいずれの終戦を読んで、本隊からの軍資金や食料費、金品を部隊に回さず貯め込んで私腹を肥やしていた。それを知った部下(佐藤の弟)が意見書を記したのを知ると、女といる所を見計らって撃ち殺して心中に見せかけ、そのことも隊の不名誉であると秘密扱いにした。それを知るゆえに激戦僻地に飛ばされている連隊長・中谷は、舞込んできた佐藤を心中事件の兄と次第ににらんでくる。

軍隊映画は山ほど作られたが、これは戦場を借りた西部劇。上から下まで軍人精神もヘッタクレもない男たちが、軍規なんか知るかいと躍動する。

帝国軍人らしいのは二人だけ。その一人、部隊長・三船敏郎は要塞から落ちて(じつは中丸に落とされて)気が変になり、勲章をいっぱいぶら下げて抜刀し「整列! わが軍はこれより……」と命令するが、兵も洗濯する女たちも「また始まった」と誰も相手にしない。やがて名誉のご帰還とさせ中丸は隊の実権を握る。もう一人、軍旗を受け取りに来たいかにも軍隊エリートの少尉・夏木陽介は、何もしないうちにたちまち爆弾で目をやられ、兵にかつがれたお荷物と化す。がちがちの軍人はまるで役立たずだ。

そんな者より、大陸戦場を自分の生き延びもかけて自由自在にやってきた連中こそが主役。大口のにやにや笑いで相手をうかがう佐藤允はまさにリチャード・ウィドマーク。疑い深い目つきの中丸忠雄、さっぱりして余計なことは言わない中谷一郎らは、直立不動、挙手敬礼、大声報告などの軍人らしい態度は全くなく、服の胸ははだけて机に足を投げ出し、拳銃をおもちゃに時間をつぶす。

上がそうなら下も。何かといえば飯盒で「次の攻撃は来る、来ない」とサイコロ博打する奴。手榴弾を「えい、ほう、それ」と面白そうに投げる奴。サラリーマン喜劇で若手の遊び男が持ち役の江原達怡はちっとも軍人に見えず「死体処理、簡単にやっちゃいましょう」とドライ。勝手にやれという指揮官・中谷のもとに皆明るくのびのびと、男たちが好きなことをしている笑い声がこんなに多い軍隊映画はなかった。

悪党中丸も「どうせもうこんな戦争は終わる、今のうちにがっぽり得しとけばいい」とそれなりに合理的だし、佐藤と中谷は腹を探りあいながらも惹かれるものを感じ、最後はともに敵に向かう、西部劇の男と男の最も気持ちよい出合いそのままだ。

この「精神性ゼロ、面白ければいい」の不敵な作り方、また『二等兵物語』のような負け犬根性の戯画喜劇ではない明快なアクション仕立てがこの映画の最大の創造で、似る雰囲気といえばマキノ雅弘の『次郎長三国志』か。

アバンタイトル、草むらで仮眠していた佐藤が「アーア」と目をさまし、そのまま馬に飛びまたがって彼方へ走り飛ばすショットは、話の転換に繰り返され、さあまた面白くなるぞと乗り出させ、人物がこちらに来てカメラを塞ぎ、次は逆側からその背を見送る岡本喜八得意のカット割りもリズミカルだ。

軍旗を取り戻し本隊に戻れることになった隊に、中谷は「ご苦労だった」と言いながら「これは考え方だが、一応命令を受けて来た、俺なら命令を果たして戻りたい」と問いかけ、愚連隊連は一斉に「やっちまえ!」と歓声をあげ、最後の大作戦に入る。

そして敵の大軍を全滅させ愚連隊も滅びる。生き残った中谷は「俺もこれで日本に帰れるかな」とつぶやき(じつは彼は佐藤が偽装していた毎朝新聞にいたのだ)、「お前はこれからどうする」と訊かれた佐藤は、戦死した雪村の墓標を書き、大陸を駆け巡る馬賊首領の鶴田浩二(好演)に「よかったら一緒に来ないか」と誘われ、それもいいかと馬で駆け出してゆく。反戦も日本もくそくらえ、俺は自由にやるんだという決意に、アクション映画なのに感動する。

「すべてが痛快」クリント・イーストウッドのはるかなる先達は岡本喜八だったのだ。

ミニシアター再開。二ヶ月も映画館に行かなかったのは人生初めてだ。その間はDVDで映画を観ていたが、再見はともかく、初めての作品を小さなテレビ画面で観てしまっては、その真の価値がわからず印象を持ってしまう危険を感じた。映画は暗い大スクリーンで観るのを前提に作っており、そうしなければ観たとはいえない。その上映再開にじつにぴったりの痛快編に胸が躍った。皆さん、ミニシアターへ行こう! 映画文化を守ろう!

プロフィール

太田 和彦(おおた・かずひこ)

1946年北京生まれ。作家、グラフィックデザイナー、居酒屋探訪家。大学卒業後、資生堂のアートディレクターに。その後独立し、「アマゾンデザイン」を設立。資生堂在籍時より居酒屋巡りに目覚め、居酒屋関連の著書を多数手掛ける。



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