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世界的K-POPブームが作り上げられた背景 BTSをはじめとした“慰め”のメッセージ

リアルサウンド

20/12/19(土) 10:00

 2018年1月10日、韓国のグラミー賞と言われるゴールデンディスクアワードにおいて大賞を受賞したIUは、スピーチで「アーティストは皆誰かを慰める仕事をしています」と発言した。新型コロナウイルスに苛まれた2020年の今、私はこの発言を思い出している。

 ケイティ・ペリーが「私たちにはこれまで以上に元気づけが必要な気がする。そしたらきっと新しい音楽がほしくなるでしょ」と発言して“笑顔を取り戻す”アルバム『Smile』をリリースしたように、カイリー・ミノーグが「ミラーボールが闇を照らしてくれる」と発言して今は夢見ることしか叶わない“満員のダンスフロア”へ連れて行ってくれる『Disco』をリリースしたように、そして松任谷由実が「後の世界史に刻まれるであろう、この未曾有の年の思いの記録を残しておかなければ」という強い意志のもと”きっと私たち人間には愛しか残らない”ということを記録した『深海の街』をリリースしたように、2020年は癒しと愛を与えて現実を忘れさせてくれるような曲が私たちをたくさん慰めてくれた。

 そんな中、ひときわ活発的だったシーンがK-POPだ。奇しくも今年は、K-POPが持つ特徴と時代の潮流が、見事にマッチしたように思える。その最も大きなトピックが、BTSのシングル全米1位獲得およびグラミー賞ノミネートであろう。それでは何故K-POPがここまで世界を熱狂させるようになったのか、本稿で考察していきたい。

求められるのは一緒に楽しめるスター

 アーティストの世界的人気を語る時、その軸となるのは世界一の音楽市場であるアメリカであろう。干支を一周巻き戻して2008年、BoAの全米デビューシングル「Eat You Up」がリリースされた。日本デビューも全米デビューもK-POPの先駆者である20年選手のBoAが道を切り拓き、後輩たちも次々と全米デビューを果たす。当時はアメリカに合わせて強いイメージを打ち出すアーティストが多かったが、最も好成績を残したのはWonder Girlsのモータウン調の曲「Nobody」(2009年/全米76位)だった。2012年にはPSYの「Gangnam Style」が全米2位を記録したが、こちらはコミカルなイメージと振付が強く印象に残った。また、そのハードなスタイルが“元祖ドゥンバキ”と称されるMONSTA Xは、世界進出にあたってR&Bを基調としたメロディアスなスタイルを打ち出し、アルバム『All About Luv』を全米5位にランクインさせた。BLACKPINKも「DDU-DU DDU-DU」(2018年/全米55位)以降Billboard Hot 100の常連となっているが、現状最も高い順位を記録した曲はセレーナ・ゴメスとコラボしたバブルガムポップ「Ice Cream」(2020年/全米13位)である。これらのことから、大衆は圧倒されるより、一緒に楽しめる曲を求めている傾向にあるのではないかと考える。

BLACKPINK – ‘Ice Cream (with Selena Gomez)’ M/V

誰もが主人公? K-POPはインターネットの申し子

 One Directionが2013年の曲「Diana」で「違う言葉を話すけど、君の呼ぶ声が聞こえる」と歌っていたが、韓国語話者は英語話者の16分の1である(参照)。自ら学ばない限り未知の言語とも言える韓国語で歌われているK-POPは、何故今世界的に愛されているのか。韻の踏み方が心地よく聞こえたり、特有の発音が病みつきになったり、メンバーが好きで何を歌っているのか理解したくて勉強したり、理由はさまざまあると思う。しかし私は、韓国語には一人称・二人称によるジェンダーの区別がないことも大いに関係しているのではないかと考える。日本語には一人称・二人称が複数存在してそれぞれ多かれ少なかれジェンダー的な役割を持っているのに対し、韓国語は目上かどうかや親しいかどうかを区別するだけで、ジェンダー的な役割は持っていない。そのため、ジェンダーに関わらず誰もが曲の主人公になる事ができる。ショーン・メンデスが2018年にリリースしたセルフタイトル作で性別の代名詞をすべて排除していたように、歌詞のジェンダーレス化が進む中、K-POPの歌詞は時代にマッチしていると言えるだろう。

 また、K-POPは歌とダンスがセットであることが多く、アイコニックな振付もたくさん存在する。歌詞がわからなくても、ダンスは世界共通。TikTok全盛の今、真似したくなる振付は人気が出る。ZICOの「Any Song」がTikTokでバズって大ヒットを記録したように、今や公式自らが「#○○Challenge」というタグで曲をバズらせようとする時代だ。練習生という鍛錬の期間を経てデビューしたK-POPアイドルの高いダンス・スキルは、国境を超える大きな武器のひとつである。

[MV] ZICO(지코) _ Any song(아무노래)

 さらに、K-POPはコンセプトごとに凝ったMVを制作する。歌詞がわからなくても、ダンスができなくても、MVの映像でぼんやりと全体像を把握することができる。今では公式で各国の言語に翻訳した字幕を提供しているレコード会社もある。公式の提供がなくても、インターネットが普及した今、検索すればすぐに訳詞がヒットする。

 最後に、ファンとの距離が近いこと。K-POPアイドルはファンダムに名前をつけ、事ある毎にファンダムに愛の言葉を送る。サイン会や握手会、ハイタッチ会、コロナ禍の今であれば“ヨントン”と呼ばれるオンライントーク会。さまざまなイベントでメンバーとファンは交流ができる。それに参加できなくても、SNSやV LIVEという配信アプリでのメンバーの投稿や生配信(もちろん、ほとんどの場合は字幕が付く)がこまめに行われ、メンバーの素顔やメンバー同士の仲の良さを目の当たりにし、ファンはどんどんメンバーに親しみを抱いていく。新作を発表する前には決まった時間に画像や音源のプレビューが投稿され、ワクワク感を高める。TwitterのRTで回ってきた画像を見てプロフィールに飛んだが最後、気づけば目が離せない仕組みになっている。

 K-POPは、インターネットを存分に利用して全方位から供給を行い、日々ファンを増やし続けている。その上アイドルごとにコンセプトが違うため、いつの間にか複数のグループのファンになっていた! ということも多々あるのだ。

K-POPアイドルとファンダムは共に歩んでいく

 世界的人気を誇っていたボーイズグループOne Directionが2015年の大晦日に活動を休止してから約1年半が経過した2017年9月、元々はダークな路線だったBTSが『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』の軽快なタイトル曲「DNA」(2017年/全米67位)を引っ提げて、初めてBillboard Hot 100にランクインした。アルバムに掲げられた“自分を愛する”というテーマは、蔑ろにされていた権利を取り戻そうとする時代の流れや、思春期の子どもたち、誰しもが経験するであろう自己肯定感が低くなる瞬間など、さまざまなシーンにおいて大きな意味を持ったはずだ。シンディ・ローパー「True Colors」(1986年)、クリスティーナ・アギレラ「Beautiful」(2002年)、ケイティ・ペリー「Firework」(2010年)、P!nk「Fuckin’ Perfect」(2010年)、レディー・ガガ「Born This Way」(2011年)が大ヒットしたように、自分を愛する事は普遍的なテーマである。K-POPアイドルはさまざまな機会でファンに「健康で幸せでいてください」と伝えるが、その手助けとして自分たちの作品でファンを慰めているのだ。

 さて、起承轉結で構成されたBTSのLOVE YOURSELFシリーズは、その後の『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』と『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』の2枚とも全米1位を獲得した。翌年2019年、BTSは『LOVE YOURSELF : SPEAK YOURSELF』と題されたツアーを行った。“自分を愛して”というメッセージの次に、“自分のことを話して”というメッセージを打ち出してきたのだ。自分を愛することは、自分ひとりで行うもの。しかし、自分のことを話すのは、相手がいてこそ。同様に、NCTは2018年に『NCT 2018 Empathy』というアルバムを出し、2020年に『NCT 2020 Resonance』というアルバムを出した。こちらも、“共感”はひとりで行うものだが、その次はお互いに“共鳴”するという進み方をしている。また、SEVENTEENは『Heng:garae』(2020年)で夢に向かって挑戦する青年たちに応援のメッセージを伝えたが、次の『; [Semicolon]』(2020年)では休まず走り続ける若者に向けて「少し休みながら青春の饗宴を楽しもう」と手を差し伸べた。このように、K-POPアイドルはファンダムと一緒に次のステップへ進み、その絆をより強固なものにしていく。人生を共にしている感覚が、自分はひとりじゃないと感じさせてくれるのだ。

ダイナマイトに照らされて、人生は続く

 さて、BTSは次に『MAP OF THE SOUL』シリーズを展開する。アルバムは2枚(『MAP OF THE SOUL : PERSONA』、『MAP OF THE SOUL : 7』)とも全米1位、それぞれのタイトル曲もホールジーを客演に迎えた「Boy With Luv」が全米8位、「ON」が全米4位とトップ10ヒットを記録した。そしてそのシリーズを題した大規模なツアーを行う予定が、新型コロナウイルスによってすべてが白紙となってしまった。しかし、BTSがファンダムとの歩みを止めることはなかった。

 2020年8月21日、BTSはファンに癒しを与えるため、シングル「Dynamite」をリリースした。楽曲クレジットにメンバーの名前が一切ない、全英語詞の弾けるようなディスコソングだ。以前メンバーのVがシャッフル再生で曲を流していた時に「この歌はパンって弾ける感じがしないね。次の歌」とスキップしていたことがあったが、この曲は間違いなく”パンって弾ける感じ”のサウンドである。何より「ファンクとソウルで街を輝かせる/ダイナマイトのように照らすよ」と歌うサビは、コロナ禍ですっかり暗くなってしまった世界を文字通り照らしてくれた。その証拠に、この曲がBTSに初のシングル全米1位をもたらした。全英語詞にすることで、公式Twitterのリプライ欄で散見される「I don’t understand this but I like it(意味はわからないけど好き!)」というフレーズを使う英語圏のファンにもダイレクトに意味が伝わり、ラジオでもプレイされた結果であろう。BTSはこの曲でさらにファンダムを増やし、Jawsh 685 x Jason Deruloの「Savage Love (Laxed – Siren Beat)」に英語と韓国語のミックスという形で客演を行い、こちらも全米1位を獲得。

BTS (방탄소년단) ‘Dynamite’ Official MV

 vそして満を持して、メンバーが制作に関与し、全編韓国語で歌っている「Life Goes On」で全米1位を獲得した。この曲は、コロナ禍であっても“人生は続いていく”という、2020年的でありながら、それと同時に普遍的なテーマを持った優しい曲だ。SUGAのパート「人々は言う/世界が大きく変わったと/幸い僕たちの絆は今もなお変わらないまま」に、BTSとファンダムであるARMYとの強固な繋がりが感じられる。

BTS (방탄소년단) ‘Life Goes On’ Official MV

どんな時でもエンターテインメントを

 表立ってさまざまな記録を樹立しているためBTSにフォーカスしたものの、ファンダムへの慰めの提供やファンダムとの絆の確認は、他のK-POPアイドルも同様だ。

 SuperMは「With You」でメンバーとファンそれぞれが自宅にいても繋がれる事を伝え、PENTAGONは「HAPPINESS (KR ver.)」でうんざりする世界から一緒に逃げようと投げかけ、SEVENTEENは「Together」で一緒に行こうと手を差し伸べた。TOMORROW X TOGETHERに至っては直球で、コロナ禍で失われた季節を返せと歌う「We Lost The Summer」を発表した。

TXT (투모로우바이투게더) ‘날씨를 잃어버렸어’ Official MV

 また、どのK-POPアイドルも無観客でのパフォーマンスを強いられ、世界中から集められたファンの掛け声を聞いて涙したり、オンラインコンサートでファンと会いたくて涙したり、コロナ禍はファンだけでなくアーティスト側からもさまざまなものを奪っている現実を目の当たりにした。しかしファンに慰めを与えることはコロナ禍があってもなくても昔から続いている営みで、WINNER「Hold」、EXO-SC「1 Billion Views (Feat. MOON)」、Golden Child「Pump It Up」、THE BOYZ「Christmassy!」、SEVENTEEN「Left & Right」「HOME;RUN」、TOMORROW X TOGETHER「Blue Hour」、Yubin「yaya (ME TIME)」等明るく楽しい楽曲を届けてくれるアイドル、WOODZ「BUMP BUMP」、PENTAGON「Daisy」等感傷的にさせてくれるアイドル、EVERGLOW「LA DI DA」、CHUNG HA「Stay Tonight」、「PLAY (feat. CHANGMO)」等塞いだ気持ちをアゲてくれるアイドル、イ・ジニョク「Bedlam」、Stray Kids「God’s Menu」「Back Door」、TREASURE「I LOVE YOU」等頭を空っぽにさせてくれるアイドル、イ・デフィ「ROSE, SCENT, KISS」、Hwa Sa「Maria」、BAEKHYUN「Candy」、MINO「Run Away」等所属しているグループとは違う色をソロで見せてくれるアイドル等、2020年も絶えずさまざまな慰めが提供された。このように、コロナ禍はファン/アーティスト問わず全員に等しく起きている惨事であるにも関わらず、ファンを楽しませようとする“ファン第一主義”な姿勢が、慰めを求めるあらゆる層を巻き込み、今の世界的K-POPブームを作り上げているのではないだろうか。

K-POPは多様性の時代の象徴

 これまで述べてきたように、K-POPにはさまざまなタイプのアイドルや曲が存在する。日本人のYUKIKAが韓国で『Soul Lady』というシティポップをリリースしたり、3人組ユニットN.O.Mが「I’m not but」でヴォーギングをしたり、枚挙に暇がない。

 特にNCT Uの「From Home」は多国籍グループである事を生かした韓国語・英語・日本語・中国語の4カ国語で歌われるバラードで、活動曲として韓国の音楽番組でも披露された。逆に海外でも韓国語で曲を披露する機会が増え、ここ日本でもJapanese ver.ではなく韓国語そのままで歌唱されることが増えてきた。国の壁・言語の壁を超えて世界が開けていくようで、その瞬間に立ち会う度に感動を覚える。

 また、韓国のバラエティ番組『遊ぶなら何する?』から誕生したオム・ジョンファ、イ・ヒョリ、ジェシー、ファサ(MAMAMOO)によるスペシャル・ユニットRefund Sisters(払い戻し遠征隊)はアイコニックだった。ディーヴァが4人集結する構成はクリスティーナ・アギレラ、P!NK、Lil’ Kim & Myaの「Lady Marmalade」を思い起こさせ、4人が燃える建物をバックに大笑いしながら立ち去るという威勢の良さは、エネルギーに溢れていてとても元気をもらった。

 いろんな人がいるのだから、K-POPにもいろんなものがある。もちろん、これまで述べてきたことはJ-POPにも洋楽にも当てはまることである。しかし今、最も活発的に、かつ最もファンを慰めるために活動しているのは、K-POPアイドルではないだろうか。多様性を尊重する考え方がようやく広まりつつある今、韓国語話者が少ない世界でK-POPが人気になっているのは、まさに時代が進んでいることの象徴のようだ。私は、世界のチャートにいろいろなジャンル・言語の曲が並ぶ事は、希望だと思っている。今後、世界がさらに開けていき、まだ見ぬ知らないものとの出会いが待っていると思うとワクワクする。自分の世界が広がる楽しさを教えてくれるという点も、K-POP人気の理由のひとつに違いない。

 共に歩む喜びに、絶え間ない慰めに、そして新しい景色に、世界は今、熱狂している。

 最後に、ファンのことを考えてたくさんの慰めを与えてくれるK-POPアイドルたちへの感謝の言葉として、冒頭に抜粋したIUの受賞スピーチの続きを引用したい。

「人間として自分のことを先に考えて慰めてほしいです。表に出してはいけないと思って、逆に病気になったりつらい思いを絶対にしたりしないで欲しいです」

■ゆずひめ/音楽愛好家。
好きな音楽ならなんでも聴くため、「耳ビッチ」を自称している。架空のWeb雑誌『#BitchVogue JAPAN』の編集長を務め、UKI EYEというステージネームで自ら音楽活動も行う。Twitter:@akaredlipsberry

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