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赤名リカの想いは現在と地続きに 『東京ラブストーリー』が特別な存在になった理由

リアルサウンド

18/9/27(木) 6:00

 9月14日から関東地区(フジテレビ、メディアミックスa、月~金午後3時50分)で再放送されている『東京ラブストーリー』が、話題となっている。

 本作は1991年に月9(フジテレビ系月曜9時枠)で放送されたドラマだ。主演は織田裕二と鈴木保奈美。最終話の平均視聴率が32.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を収めたメガヒット作で、本作の成功によって、月9は波に乗り、『101回目のプロポーズ』や『ロングバケーション』といったヒット作を連発し、「月曜の夜は街からOLが消える」と言われるようになった。

 今回の再放送は、10月から月9で放送される織田裕二主演のドラマ『SUITS/スーツ』で鈴木保奈美と久々に共演することに関連した宣伝目的だが、テレビドラマの再放送がニュースになるということ自体、異例のことだろう。それだけ『東京ラブストーリー』が、ある世代の人々にとっては特別な存在だということなのだ。

 物語は、愛媛から上京してきたカンチこと永尾完治(織田裕二)が、同僚の帰国子女・赤名リカ(鈴木保奈美)と同郷の関口さとみ(有森也実)の間で思い悩む姿を描いたラブストーリーだ。

【写真】『東京ラブストーリー』名場面を振り返る

■「物欲的なトレンディから地味な純愛路線」

 原作は柴門ふみの同名漫画。脚本は坂元裕二。プロデューサーは大多亮。『最高の離婚』(フジテレビ系)や『カルテット』(TBS系)等で知られる坂元裕二の初期代表作であり、最大のヒット作だが、核となる部分を作ったのは大多亮だろう。

 大多は山田良明と共に、『抱きしめたい!』等のトレンディドラマを産み出したフジテレビのプロデューサーだ。そのため『東京ラブストーリー』も、トレンディドラマの枠組みで語られることが多い。だが大多自身は、同時期に制作した『すてきな片想い』、『東京ラブストーリー』、『101回目のプロポーズ』を、トレンディドラマから離脱し「物欲的なトレンディから地味な純愛路線」へ向かっていく時期の作品だったと、自著『ヒットマン テレビで夢を売る男』(角川書店)の中で語っている。

「キーワードは“一途な想い”。今までのトレンディドラマが華麗な多重恋愛をしながら、“よりいい恋”を探していたのに対して、ここでは、届かないかもしれないけど、決して揺れない、一途な恋を描いていこうと思ったのだ。」(同書)

 これは『すてきな片想い』に対する言及だが、『東京ラブストーリー』も同じテーマで作られている。もっとも、『東京ラブストーリー』の「純愛路線」は、「赤名リカの視点から見て」という保留が必要だろう。大多は、ドラマ化するにあたって、リカを中心に添えて性格を少し変えている。漫画版のリカは、地方出身のカンチにとっては東京とイコールの存在で、エキセントリックな言動で周囲を振り回す、男にはコントロールすることのできない愛情に飢えた猛獣だ。

 対してドラマ版のリカは当時の鈴木保奈美のイメージに合わせてか、口では先進的なことを言っていても、その内面はメソメソしている。今見ると、かなり痛々しいのだが、その無理している感じが魅力となっている。個人的には漫画版のリカに魅力を感じるが、多くの視聴者が感情移入しやすかったのは、ドラマ版のリカだろう。

 リカは、1986年の男女雇用機会均等法施行後に社会に出た、恋と仕事を自由に謳歌する(と同時にその自由ゆえに悩んでいる)ヒロインだった。だからこそ、月9の主要視聴者であるF1層(20歳から34歳までの女性)から絶大な支持を獲得したのだろう。

 また、トレンディドラマがファッション雑誌のようなオシャレなライフスタイルを生きる男女の姿を描いていたのに対し、『東京ラブストーリー』は愛媛から上京してきたカンチが東京の象徴であるリカに翻弄されるという構造になっている。カンチにとって東京は田舎から見たら、きらびやかだが遠い(トレンディドラマ的な)世界だ。これはクライマックスで、カンチがリカを探すために帰ってきた故郷の愛媛の描き方と比べると、とてもよくわかる。

■「恋愛の神様」と称された柴門ふみ

 放送された91年はバブル崩壊の年だった。まだまだ80年代の豊かさは残っていたが、享楽的な日常に対して後ろめたさを感じている人も実は多かったのだろう。本作の「純愛」というモチーフが多くの日本人を捉えたのは、戦後の核家族ともバブルの刹那的な享楽とも違う、心の拠り所がほしかったからではないだろうか?

 原作者の柴門ふみは当時「恋愛の神様」と称されていた。ポスト・バブル、ポスト・トレンディをいち早く体現した純愛ドラマ路線は、まるで宗教のように熱狂的に支持された。これは次クールの野島伸司・脚本、大多亮プロデュースのドラマ『101回目のプロポーズ』で決定的なものとなっていく。

 当時と時代背景が大きく変わってしまったため、若い人にとっては時代劇を見ているような違和感があるかもしれない。ただ、リカのように相手を一途に想いたいという気持ちは、若い視聴者にも伝わるかもしれない。痛々しさも含めて、当時、リカが感じていたことは、間違えなく、現在と地続きなのだ。

(成馬零一)

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