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木村拓哉が『教場』の現場で引き出した生徒たちの本気 「彼らのハンパない熱量はこの作品に映っている」

リアルサウンド

20/1/4(土) 6:00

 木村拓哉が警察学校の冷徹な教官を演じるフジテレビ開局60周年特別企画『教場』。警察小説の新境地としてベストセラーとなり、シリーズ化されている長岡弘樹の同名小説のドラマ化で、警察学校内のさまざまな人間模様が描かれると同時に、これまであまりクローズアップされることのなかった警察学校内部の描写においても注目すべきミステリーとなっている。

【写真】先週は三つ星を獲っていた木村拓哉

 「警察学校は適性のない人間をふるい落とす場である」という考えを持つ教官・風間公親を演じた木村。白髪に鋭い目つき、冷徹無比で人を寄せ付けない雰囲気を持つ男という、これまでにない役柄に挑んだ彼に、生徒役を演じた若手俳優とのやりとりや現場の雰囲気、ドラマの見どころなどを聞いた。

■撮影現場で考え続けた、風間公親にとっての幸せ

――演じられた風間公親は元神奈川県警捜査一課の刑事で、警察学校内でも厳しい教官だと恐れられている存在です。木村さん自身はその彼をどういう男だと捉えていましたか?

木村拓哉(以下、木村):もともと捜査一課という現場でバリバリ働いていた刑事なので、彼なりの正義はすごくあったのだと思います。でも、現場で起きたある事件をきっかけに、彼の中に納得できない部分が生まれ、それがわだかまりとなっているのかなと。その引っかかりが取れないからこそ、風間は刑事としての現場を退き、警官になる前の若い人材(生徒)を強くするために教官になったのではないかと思いました。

――そういう思いがあるからこそ、生徒に対して冷徹無比と言われるほど厳しい態度を取っているところも?

木村:それはあると思います。でも、それ以上に風間はものすごく重いものを背負っているんだと思いました。だからこそ、原作を読んだときも、撮影していても思ったのは、風間にとって幸せとは何なんだろうか、ということでした。

――その答えは見つかったのでしょうか?

木村:演じていて、そういう瞬間を感じることはありました。それが僕にとっての救いであったのは確かですが、風間は自分の幸せのために生きている人ではないんですよね。そして、そのアンバランスさが彼の魅力なのかなと思いました。

――クランクイン前のコメントで「普段とは違うエネルギーと筋肉を使う作品」とおっしゃっていましたが、実際に現場でそういったことを感じられましたか?

木村:何をやってもモラハラ、パワハラと言われるこの時代に、『教場』という作品を映像化すること自体が挑戦だと思いました。だからこそ普段とは違う筋肉を使う作品になるだろうと思ったし、実際のところでもそうでした。

――というのは?

木村:この作品では規律や上下関係に対する厳しさ、それを守れなかったときの懲罰制度など、前時代的と言えるほど壮絶なエピソードも多く、「普段とは違う筋肉を使う作品になる」というのは、僕だけじゃなく、監督やスタッフ、出演者全員が感じていたことだと思います。

――撮影に入る前、リサーチを含めて実際の警察学校を訪ねられたそうですね。

木村:監督やプロデューサーを含め、この作品の関係者と一緒に実際の警察学校に伺いました。そこで今の警察学校の現状やリアルな空気感に触れ、このドラマの基盤となるところができたように思います。ただ、『教場』で描かれる警察学校と、実際のそれとは大きく違うところがありました。

――具体的にどう違ったのでしょうか?

木村:劇中では風間と生徒が「警察学校は適性のない人間をふるい落とす場である」と話すシーンがあるのですが、実際の今の警察学校では“ふるい落とす”のではなく、ひとりの脱落者も出さず、おのおのが活躍できる現場に送り出すことが大事とされているそうなんです。それは『教場』の世界観と180度まではいかないにせよ、120度ぐらい違っていて驚いたのですが、その誤差を自覚できたのは大きかったと思います。

――実際の教官に会われて、風間としての役作りに参考にされたことはありましたか?

木村:風間はすごく特殊な人なので、それはなかったですね。でも、ノーマルの教官はこうなんだとわかったのはよかったです。あと、それとは別にこれから警察官になっていく人たちが警察学校の同じクラスで学び、そこで共に鍛えられた経験が彼らの人生においてとても大きな存在となっていることを感じました。警察学校というのは、単純に小学校、中学校、高校とはまた違ったものを備えてくれる学び舎なのかなと思いました。

――劇中には厳しいルールがいくつも出てきますが、その中で「ここまでやるのか!」と驚かれたことはありましたか?

木村:でも、それが警察学校なんですよね。自分はできていても、誰かがミスをしたら連帯で責任を負うとか。そういう経験が自分以外の人を感じるアンテナにもつながっていくし、つねに世に対して目を光らせておかないといけない警察官の職務に必要なことなんだと思います。

――このドラマを経て、警察官に対する印象は変わりましたか?

木村:僕は幼少期に剣道をやっていて、そのときの師範が全員、警察官だったんですね。なので、これまでにもリアルな接点はあったんですけど、警察官として現場に立たれているみなさんが間違いなく警察学校で鍛錬を積まれ、そして卒業できた人しか警察官になれないという意味では、とても特別な存在なのだと改めて感じました。

■“風間教場”のクラスメート30人、全員のギアが入った瞬間

――『教場』は警察学校という非常に厳しい世界が描かれた作品ですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

木村:現場はすごく生き生きしていましたよ。トーンとしては高くはないんですけど、熱量はすごく高かったです。

――生徒役のキャストのみなさんについて、印象的なエピソードはあれば教えてください。

木村:現場に入る前のことなんですけど、まだセットも何もないスタジオに集まり、そこでカメラの前に立つにあたっての“教場”がありました。生徒30人が制服に着替え、警察官を目指す者としての姿勢や敬礼の仕方などを教えていただいたのですが、そのときはまだ暑かったので、帽子をうちわ代わりに使っている子たちもいて。

――それを本当の警察学校でやったら、ものすごく怒られそうですね。

木村:でも、そりゃそうなんですよ。そのときは僕も含めてまだゼロの段階で、生徒たちも「これを着てください」と言われて制服を着たコスプレ状態だったので。でも、それを2、3回と重ねていくうちに、日下部役の三浦翔平が「一度、パーソナルな時間を作りませんか?」と言ってくれて。それでみんなで集まったときに、僕が「カメラの前に立つ状態が10だとしたら、今の自分たちはいくつの段階にあると思うか」と聞いたんですね。そうしたら、「2ですかね」と言う子もいれば、「2にもいってないと思います」と言う子もいたので、「今日中にそれを5まで上げようよ」という話をしました。

――そのときからすでに木村さんは風間教官だったんですね。

木村:いやいや、そのときは単なる木村でしかなかったです。ただ、生徒役のキャストたちがそうやって集まるのであれば、僕もそこに参加するべきだと思ったし、僕自身がまず風間公親として現場に入らないといけないとは思いました。

――その結果、生徒役のみなさんにも変化が?

木村:たぶん、みんながそれぞれにアンテナを張っていたと思いますが、何か言われなくても制帽であおぐ人間はいなくなったし、たとえ待ち時間であっても椅子の背もたれを使う人間もいなくなりました。全員が姿勢を正した状態でいて、それはそれで大変だったと思いますが、そこから全員のギアが入った感じがしました。

――そういう意味では、教官と生徒というドラマの関係性に近いものもあったのでは?

木村:それはどうかわかりませんが、個々の撮影が終わって「帰っていいよ」となっても、素直に「おつかれさまでした」と帰る人は誰もいなかったですね。そのうえ彼らが「ちょっとつき合ってもらってもいいですか?」と言うので、僕が号令をかけて生徒役のみんなで一連の動きをひたすら練習することもありました。それは工藤阿須加、大島優子、三浦翔平といった生徒役のメインキャストだけでなく、“風間教場”のクラスメート30人全員が言っていて、その彼らのハンパない熱量はこの作品に映っていると思います。

――では最後に、もし木村さんがドラマ『教場』で描かれる警察学校に生徒として入学したら、この厳しい世界に耐えられると思いますか?

木村:生徒として? それなら、耐える、耐えられない以前に、僕は入学しないかも(笑)。もちろん、実際に警察官になられている方々には敬意を表していますし、そこにたどり着くまでには大変な苦労があったと思います。でも、このドラマで描かれる警察学校は、風間の対応を含めて相当なものですからね(笑)。それでも入学するとしたら、相当な覚悟が必要だと思うし、それこそ腹をくくって挑むと思います。

(取材・文=馬場英美)

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