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『まんぷく』は“終戦後”をどう描いた? 加治谷(片岡愛之助)の再登場が意味するもの

リアルサウンド

18/11/4(日) 6:00

 出てきたのは麺とスープだけのラーメンだった。それでも、福子(安藤サクラ)と萬平(長谷川博己)は交代でそれを食べ始める。久しぶりにラーメンを口にした福子は、「う~ん、美味しい! あぁ、ラーメンや」とその幸せを噛みしめる。出逢って間もない頃に食べたラーメンとは少し違うが、2人にとっては久しぶりの“贅沢”だったのだろう。

参考:『まんぷく』第31話では、移り住んだ町で萬平(長谷川博己)の発明心に火が

 『まんぷく』(NHK総合)ではようやく終戦を迎えた。もちろん、まだ戦後復興の真っ只中であり、全てが戻ったわけではない。それでも2人がラーメンを食べるシーンを観ると、少しずつではあるが、着実に“戦後”に向けて前を向き始めている様子が窺える。憲兵からの拷問、空襲の恐怖、疎開生活、萬平の病気。戦時下には多くの困難があった。それでも、どうにか生き延びることができたからこそ、簡素なラーメンでも“まんぷく”になれたのだろう。

 「皆、それぞれの思いを胸に終戦を迎えたのです」とは、第25話のナレーションであるが、思い返せばまさしくその通りであった。例えば、忠彦(要潤)。戦地での照明弾の影響で、色の識別が困難になってしまった。とはいえ、彼の仕事は絵を描くこと。かつての色彩感覚を取り戻すことはできないが、彼は再びキャンバスに向かった。「今までと違う絵が描けるかもしれへん。やっぱり僕は描きたいんや」と呟く忠彦。今では自分の好きな絵を、いきいきと、自由に、伸び伸びと描くことができる。絵の世界に入ることで、彼は失いかけていた自分を取り戻せるのかもしれない。

 そして、真一(大谷亮平)もまた無事に帰ってきた1人である。彼にもまた「ただいま」を告げるべき愛する人間がいた。咲(内田有紀)である。福子たちのもとへ、帰ってきたことを知らせに来た真一は忠彦から1つの絵を返される。生前、病室に籠りきりだった咲は、忠彦が描いたその絵のおかげで“桜を見る”ことができたのだった。戦地に赴く前、忠彦にその絵を預け「これはあいつの大事な形見」だと言った真一。戦地では絵の中のような和やかな光景を目にすることはほとんどなかったのかもしれない。「ただいま、咲」。こう声を掛けた真一の眼にはきっと咲の姿が浮かんでいたはずだ。

 そして、世良(桐谷健太)、恵(橋本マナミ)、牧(浜野謙太)、敏ちゃん(松井玲奈)、ハナちゃん(呉城久美)といった懐かしの面々も無事だった中、あの加治谷(片岡愛之助)もまた生き残ることができていた。久しぶりに加治谷を見たとき、福子は怒りに震えていた。それもそのはず、萬平が憲兵に捕まったきっかけの張本人だからだ。ただ、それからしばらくして、神部(瀬戸康史)に加治谷のもとへと使いに行かせた萬平。家族を挙げて製作していたハンコを加治谷用に作っており、それを届けさせたのだった。その時の言づけはこうだった。

「諦めないでどうか生き抜いてください。あなたの人生の主役はあなたなんですから」

 これは今週の『まんぷく』を象徴するようなフレーズである。“戦後”という新しい時代が始まろうとしている今、みんなそれぞれの形で前を向き始めている。ハンコを作って世の中の役に立とうとする人々。再び絵を描くことで、自分の在り方を確立しようとする人。亡き妻の形見に触れて再び希望を確認する人。終戦後、寄る辺を失ったものの、家庭教師や雑用をしてとりあえずは食事と寝るところにありついた人。みんなそれぞれのリスタートを切り始めたのだ。

 “あなたの人生の主役はあなた”。『まんぷく』では、あの加治谷も含めたすべての人が“主役”として、生き生きと歩み始めることができることを示してくれたように思える。福子と萬平だけではなく、彼女の周りの多くの人々の立ち直り方にやさしく光を当ててきた。人それぞれのストーリーをないがしろにしないのは今週だけではない。『まんぷく』は今までもそうだったし、これからもきっと人々のささやかな物語も丁寧に掬い取っていくことだろう。(國重駿平)

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