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TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND、音色や響きを突き詰めたアニメ音楽の歩み

リアルサウンド

19/3/27(水) 7:00

 石川智久、フジムラトヲル、松井洋平に3人組テクノポップユニットTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下、TECHNOBOYS)。彼らがこれまでに担当してきたアニメ主題歌やキャラソン、劇伴から代表曲をまとめたベストアルバム『MUSIC FOR ANIMATIONS』を完成させた。アナログシンセに強いこだわりを持ち、音色や響きを突き詰めるからこそ生まれた楽曲とそこに込めた思いを、メンバー全員に話を聞いた。(杉山仁)

(関連:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDと高野寛が目指した、“現代のテクノポップ”とは

■『おそ松さん』ファンほどTRシリーズの違いを理解している

――TECHNOBOYS のみなさんは今年結成25周年を迎え、グループとして劇伴などを担当されるようになってからもちょうど5年を迎えます。今回のベストアルバム『MUSIC FOR ANIMATIONS』の企画は、どんな風に立ち上がっていったのでしょうか?

フジムラトヲル(以下、フジムラ):アニメに提供した曲が溜まっていく中で、「それをまとめたものを作りたい」という気持ちはずっとありました。確か、2年ぐらい前から言っていたと思いますね。ただ、実際にはなかなか手をつけることができなかったので、今回結成25周年の記念として、「頑張って作ろう」という話になったのが最初でした。

――その際、「こんな風にまとめたい」という方向性はあったのでしょうか?

松井洋平(以下、松井):プロデューサーからは、「TECHNOBOYSのカタログを作りたい」という話がありました。単純にオープニング(OP)/エンディング(ED)テーマを並べるだけではなくて、劇伴もキャラソンも含めて色んなことをやっていることを分かりやすくするために、選曲もそれに合わせた形にしています。僕らはアーティストとしても、作家としてもアニメ音楽にかかわらせていただいているので、まずは「アーティストとして出したシングルの曲を全部入れよう」と考えて、次に楽曲提供させていただいたOP/ED曲や挿入歌、劇伴やリミックス、自分たち名義の楽曲のセルフカバー曲を入れているうちに……2枚組になってしまったんです(笑)。

――聴かせていただいて、本当に色々な音楽が作れる方たちだということが、改めて伝わってくるように感じました。

フジムラ:客観的に見ていただいてそう感じていただけるのはとても嬉しいですね。

――では、ディスク1から順番に、特に印象に残っている楽曲について振り返ってもらえますか?

松井:色々ありますが、たとえば僕は「SIX SAME FACES~今夜は最高!!!!!!~」(TVアニメ『おそ松さん』EDテーマ)。この曲は僕らの認知度を上げていただいた曲ですし、同時にかなり遊ばせてもらった曲でもありました。

――セリフを印象的に使用していますよね。

松井:そうなんです。最初に石川が「『シェー』(劇中のイヤミのセリフ)を使ってファンクを作りたい」という頭のおかしいことを言い出して……(笑)。そのコーラスが、よくゴスペルであるような雰囲気になったら面白いな、というアイデアでした。そこから、イヤミさんが歌ってくれることになったんですが、その歌が出てくるまでに6つ子たちのセリフを使ってワチャワチャ感を出そうと考えて。そこでまずは「曲をしっかり作ろう」と話して、英語詞で洋楽テイストのファンク曲を作って、それを全部和訳していくという作業でした。しかもその和訳が、6つ子でそれぞれ変わってくるんですよね。それぞれ性格が違うからこそ、結果的に出来たものは全然違うものになったことがすごく面白かったです。

――和訳する作業によって、6つ子それぞれの個性がきちんと表現された、と。

松井:たとえば、一松はマイペースなので言葉数が少ないですけど、神谷浩史さんが(キャストを)担当されたチョロ松はオタク特有の早口をイメージしていたので、「本当にごめんなさい!」と思うような大変な作業になって。しかも、そうして個性が出た段階で、「でも、音が一緒だったら意味ないじゃん」という話になって――。改めて考えると、その「意味ないじゃん」の意味が、僕らにもよく分からないんですけど(笑)、6つ子をローランドのTRシリーズに例えて、それぞれに合ったリズムマシンを選んで遊ぶという発想になりました(笑)。リスナーのみなさんにドラムマシンの違いまで言及いただいて、音の違いをしっかり聴いてくれているのが嬉しかったです。「『おそ松さん』の音楽を聴いてくれている人ほど、TRシリーズのキックの違いを理解してくれている人はいないんじゃないか?」と(笑)。

――多くの女性にTRシリーズの素晴らしさを伝えることになったんですね(笑)。テーマを設けることで音楽的な冒険や遊びを入れられるというのは、アニソンの独自性かもしれません。

松井:確かに、TR-909を使ったあとに同じ曲でTR-606を使ってもいい環境って、アニソン以外にはなかなかないですよね(笑)。

フジムラ:僕が印象的だった曲というと、やっぱり「Book-end, Happy-end」(TVアニメ『ガイコツ書店員 本田さん』ED主題歌)ですね。

TVアニメ『ガイコツ書店員 本田さん』ED主題歌 「Book-end, Happy-end」 MV Fullsize/TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat.高野 寛
――みなさんがもともと好きで聴かれていた高野寛さんとの楽曲ですね(参考:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDと高野寛が目指した、“現代のテクノポップ”とは)。

フジムラ:僕の初めてのバイト代で買ったのが高野さんのCDだったので、そんな方と一緒に曲が作れたことは光栄でした。しかもただゲストとしてお招きするだけではなくて、がっぷり四つに組んで制作できて、ギターもアイデアをいただきましたし、歌も高野さんが作ったものかと思えるほど馴染むところまで持っていってくださって。共通言語が多くて、お互いどういうことがやりたいのかが何となく分かっているような作業でした。でも、最初は高野さんは、TECHNOBOYSに合わせてくれようとしていたんですよ。

松井:最初、僕らが思っていたギターの雰囲気と違ってビックリしたよね。僕らがイメージしていたのは、高野さんの「虹の都へ」のようなギターのストロークだったんですよ。

石川:そういう雰囲気でやってほしいな、と思っていたら、最初に高野さんからE-Bowを使ったエレキのロングトーンのものが出てきて、「おっ」と驚いたという。

フジムラ:でもそこから、「僕らは高野さんのこういう部分をイメージしているんです」と伝えて、最終的に僕らと高野さんの楽曲になったと思います。

石川:ロングトーンのギターも使いつつ、同時にギターのストロークを入れてもらいました。

松井:なので、この曲は僕らが意識していた高野さんのギターと、高野さんがTECHNOBOYSを意識してくれたギターが、1曲の中で共存する曲になりましたね。

――石川さんがディスク1で印象に残っている曲はありますか?

石川:この流れで言うなら、「Magical Circle」(TVアニメ『魔法陣グルグル』2クール目ED主題歌)ですね。打ち合わせのときに、中川翔子さんの”『魔法陣グルグル』愛”が凝縮された長文攻撃に圧倒されて、「一日置かせてくれる?」と伝えたんですよ(笑)。

TECHNOBOYSP.G 4th Sig「Magical Circle」試聴動画(今回もコント付き!)
松井:処理が追いつかなかった(笑)。その翌日に石川が作ったものを僕のところに送ってくれて、歌詞自体は、そこから完成までに全部で30分もかからなかったと思います。曲の中で、「ここにはこれを置きます」ということが、全部書いてあるんですよ(笑)。

フジムラ:中川さんから「ここにククリの要素を入れたい!」という要望もあったんです。それを僕が書記長のようにメモしていって、松井に投げた形でした。

■『ウィッチ☆クラフトワークス』はTECHNOBOYS延長線として取り組んでいた

――みなさんが劇伴なども含めて本格的にアニメ楽曲を手掛けていくきっかけとなった『ウィッチ☆クラフトワークス』や『トリニティセブン』の楽曲はいかがですか?

松井:『ウィッチ☆クラフトワークス』まではEDテーマやOPテーマを提供する機会があまりなかったので、どういう路線を求められているのか考えた結果、最初にかっこいい路線のものと、かわいい路線のものを2曲用意したのを覚えています。

――その結果、最終的にかわいい路線のものが採用された、ということですね。

松井:そうです。そのときは僕もフジムラも現場にはいなくて、石川だけが現場に向かっていて。石川から「井澤(詩織)さんの歌を聴いた瞬間に『勝った!』と思った」という話を聞いて、「カエサル?」と思いました(笑)。「行った、聴いた、勝った」って、「来た、見た、勝った」(=ローマの将軍カエサルが、紀元前47年のゼラの戦いの勝利を知らせた際の名言)じゃないか、って(笑)。

フジムラ:(笑)。その後年末に試写会があって、監督が「すごくいい曲だし、絶対に売れるよ」と言ってくださっていたし、僕らもいい曲ができたなと思っていたので、「ヒットしてくれるのかな?」という感覚はありましたね。

――海外のクラブミュージックが好きな人たちの反応もすごかった記憶があります。

松井:もともと僕らに話が来たのも、それが原因だったはずですよね。でも、劇伴まで僕らがやることになるとは全然思っていなかったです。

フジムラ:ただ、監督が「踊るテクノではないテクノ(=エレクトロニカなど)を劇伴に使いたい」とおっしゃっていたので、それなら僕たちが思うテクノと近いな、と思いました。

松井:それを逆に、「踊れるテクノポップ」に振り切ったのが『トリニティセブン』ですね。「TECHNOBOYSをくれ」と言われたのは、これが初めてだったような気がします。

石川:ただ、僕らは踊れるテクノを作っている意識はなかったので、作品のことを考えても「これは踊れるようにしなきゃな」と思って考えていきましたね。

フジムラ:『トリニティセブン』はPVもとてもお洒落でしたよね。監督とお話したときも、ちょっとエッチな要素もある作品で、「そこで音楽もベタに行くのは嫌だ。お洒落に見せたい」というお話をずっとされていたし、「これはやるしかないだろ!」と。

松井:あと、この作品ではキャストの声を先に収録させていただいて、それを劇伴に織り交ぜるというアイデアをプロデューサーからいただいたので、先回りして色々な音を準備しました。

フジムラ:まだアフレコがはじまっていない段階だったので、キャストの方々も戸惑っていたと思います(笑)。きっと「何だろうこれ?」と思っていたはずなんですよ。

松井:でも結果的に、「すごくよかった」という感想をいただいたのが嬉しかったですね。

――2000年代の中盤からアニソンがさらに進化していったと思うのですが、みなさんが『ウィッチ☆クラフトワークス』や『トリニティセブン』の音楽を手掛けた2014年頃には、アニソンの外でやっていたことをそのままやっても面白がってくれる、という雰囲気は感じていましたか?

松井:僕ら自身がこのタイミングまでは外側の人間だったので、「自分たちがやっていることがどういうことなのか」ということは、あまり理解できていなかったかもしれないですね。石川はアニメの仕事をしていたので、計算していた部分があったのかもしれないですけど。

フジムラ:『ウィッチ☆クラフトワークス』については、僕はいつも言っていますけど「これで終わり」だと思っていたので、TECHNOBOYS延長線として取り組んでいて。僕と松井はアニメの劇伴自体もはじめてだったので、実験をするような余裕はなかったですね。

松井:たぶんですけど、石川は僕らを見ながら「こいつら間違ってるなぁ。……よし!」と思ってたんじゃないかと思います(笑)。後から思えば。

石川:その「間違っているけど面白いところを切り取る」という感じです(笑)。

――『トリニティセブン』も『ウォッチ☆クラフトワークス』も、当時「アニメでもこんなにお洒落な音楽が使われるようになったんだな」と感じたのを覚えています。

石川:『トリニティセブン』の錦織博監督も、『ウィッチ☆クラフトワークス』の水島努監督も、そういうものに飢えていたのかもしれないですね。彼らはもともと、音楽が好きな人たちですから。そういうことができる作品が来たら「こんな風にしよう」ということを、ずっと考えていたんだと思うんですよ。それが僕らと上手く合致したのかな、と思います。

――そこでの経験が、以降の制作にも影響を与えていった部分はありますか?

石川:我々としては、作れば作るほど自らの首を絞めていくことになるんですよ。どんどんアイデアはなくなっていくので、アップデートしていくか、何かをスライドさせてくるか、ということをしなければいけない。

松井:それまでの僕らは、数カ月かけて一曲を作っていくようなバンドで、時間をかけて「この音はいらないな」とか「この音はこうしよう」ということを、かなり吟味していたんです。これは2014年の2ndアルバム『good night citizen』のときも本当にそうで。

石川:そこからアニメの様々な楽曲を手掛けて、自分たちで自分の首を絞めたからこそ、新しい要素を取り入れるようになっていったんだと思います。それこそ「Book-end, Happy-end」は、TECHNOBOYSでは本来ありえない楽曲だったと思うんですよ。「賭ケグルイ」(『TVアニメ『賭ケグルイ』オリジナルサウンドトラック「賭ケグルイノ音 -Notes for “kakegurui”-」』に収録)にしても、ほとんどフリージャズのような曲になっていて(笑)。

――確かに『good night citizen』の頃とはまったく違う要素が入ってきていますよね。

フジムラ:アニメの音楽の場合、「作品に合う音」というお題があるからこそ、そこに合うものを考えて、その結果TECHNOBOYSで出来ることも広がっていったような気がします。

■音が揺れるからこそ人にとって気持ちいい部分を探すことができる

――ディスク2で他に印象に残っている曲はありますか?

松井:僕は「ロ・ロ・ロ・ロシアン・ルーレット」(中原めいこの『ダーティペア』OPテーマのカバー)。「アニソン」「(ロシア好きの)上坂すみれさん」というキーワードだけで「ロ・ロ・ロ・ロシアン・ルーレット」を選んでしまえる無茶加減は、アニソンでしか出来ないのかな、と思います。きっと上坂さんのことを知っていないと、「どうしたの?」と思うじゃないですか(笑)。僕らと上坂さんとが直近でお仕事をさせていただいたからこそだということも理解していないと、「何でここで?」とビックリしてしまうかもしれない。でも、それができるのが面白いところだと思います。それに、僕ら自身のアーティスト名義の楽曲で、ボーカリストの人自体にここまで寄り添って曲を作ったのも珍しい経験でした。上坂さんありきで作った選曲/アレンジ/年代というものを、僕らがどう調理していくか、という意味で。原曲はブラスが印象的でしたけど、石川にブラスを入れるか聞いてみたら……。

石川:「入れない」と伝えました。すっからかんにしてやろう、と(笑)。

松井:普通のアニソンの文脈で言うと、音がたくさん詰まっている方が喜ばれるじゃないですか。それもあって、あえてスカスカにするということを楽しんだ曲ですね。

――上坂さんのボーカリストとしての魅力というと、どんなところだと思いますか?

フジムラ:楽曲提供をした「CUBIC FUTURISMO」も「リバーサイド・ラヴァーズ(奈落の恋)」もそうですし、ラジオでお話させていただいてもそうですけど、上坂さんは、おそらく「こういうものを目指してこういうものを作っている」ということを理解してくださっていて。それに合う歌い方やニュアンスを、言わなくても出してくれるんです。例えば、「80年代のここがおいしいノリだよね」という要素を入れてくれるんですよ。

松井:やっぱり、オリジナルを知っているということですよね。

フジムラ:高野さんもそうでしたけど、共通言語があるというか。

――ちなみに、今回の『MUSIC FOR ANIMATIONS』には、TECHNOBOYSさんバージョンの「CUBIC FUTURISMO」も収められています。

石川:これは狂気の沙汰ですね(笑)。

松井:原曲自体も僕ららしいサウンドではあったと思うんですけど、より自分たちだけのサウンドにしようと思って、歌も行き切ったものにしました。

フジムラ:昔の松井唱法なんですよね。

松井:デヴィッド・バーンやデヴィッド・シルヴィアンを聴きすぎていた頃の……(笑)。

石川:「♪And you may find yourself~」(Talking Headsの「Once in a Lifetime」の歌い出しを歌いはじめる)

――確かに、松井さんの歌はデヴィッド・バーンそのものという感じがします(笑)。「もってけ! セーラーふく EX.Motte[k]remix」についても教えていただけますか? これは随分昔、2006年頃のものですね。

石川:トラックをもらって、ボーカルトラックしか使わなかったといういわくつきのリミックスですね(笑)。

松井:「普通じゃないものの方が面白いだろう」と思って、全然違うものにしていきたいと思っていたんです。あと、今思うと間違えているのは、こういう曲って声優さんの声を聴くことを楽しみにしているわけじゃないですか。なのに、エフェクトをかけまくって、切り刻みまくって……。

フジムラ:ラジオボイスにしたりもして。

――しかも、ほぼ白石稔さんの声しか入っていないですよね(笑)。今でこそ、アニソンでここまで攻めたリミックスをしても受け入れられる状況が生まれていると思いますが、この頃はそうではなかったと思います。

石川:そうですよね。きっとこれのせいだと思います(笑)。

松井:オーディオのクリップノイズをあえて入れている部分も……。

石川:「不良品ですか?」と、当時のランティスに苦情が来たらしいです(笑)。

松井:今思うと、このときに考えたアレンジの仕方を、その後も受け継いでるな、とも思いますね。たとえば、コードを全部サンプリングしてからぶった切るから、手間が二倍かかる、とか(笑)。しかも、ソフトシンセならまだいいですけど、アナログシンセでのレコーディングなので、コードをちょっと変えるだけでも、全部をやり直す必要が出てきてしまう。

石川:(フジムラさんと松井さんを見ながら)こいつらがよくやるんですよ……! 「この一音……。この一音だけが違うんだよ……!!」って。

松井:石川くんのコード、難しいんだもん(笑)。

――音にこだわられている方々だからこその苦労ですよね。

松井:その極みが『魔法陣グルグル』の劇伴ですね。全部アナログシンセで作るという……。

フジムラ:あれは大変だった……。いまだに考えると怖いですよね。よくやったな、と。

松井:そんな作品なのに、僕は途中で一回、他の仕事のPro Toolsのデータを読んでしまって。いつもと設定が変わってしまったことに気づかずに作業して……。全部データを書き直すという経験をしました(笑)。しかもそれが、トラックダウンの日だったんです。すぐに家に帰ってやり直しましたね。

――楽曲のスマートな雰囲気に反して、実際の作業は血と汗と涙の歴史なんですね。

フジムラ:そうですよ、本当に(笑)。グルグルの頃は僕の家に和音のアナログシンセが2台しかなかったので、それを使い倒して、どうにも違ったらモノシンセを何個か重ねたりして。「今は一体何年だ? 俺は一体何をしているんだ……?」と思ったりもしていましたね。

――(笑)。そうまでしてアナログシンセの音にこだわるのは、なぜなんでしょう?

石川:まずは意地(笑)。あとはやっぱり、音にそれが出るんですよ。プラグインシンセサイザーだけを使った音をTVで聴くと、どうしても立体感が全然なくなってしまう。

――音に対する至上主義であるからこそ、その方法を変えない、と。

石川:そうです。アナログで出す音って、ピッチが一定じゃないんですよね。和音のシンセであっても、単音のシンセであっても、音が揺れるからこそ、人にとって気持ちいい部分を探すことができる。たとえば、ジャズの生演奏も、ミュージシャン同士のお互いの気持ちいいリズムが「合って」「離れて」「また合って」「また離れて」ということを繰り返すからこそ、人が聴いていて気持ちいいものになると思うんですよ。

――音楽自体が「音と音をあわせて生まれるもの」だからこそのお話なのかもしれません。

松井:そうですね。ずっとピタッとはまっていたら、意外と面白くないものになる。同じ音階の音を出したとしても、その出し方によって、受ける印象は全然変わってくるんです。

フジムラ:これは本当に不思議なことで。でも、やっぱり全然違うんですよ。

石川:だからこそ、アナログシンセにこだわることは大切にしていますね。

――では最後に、2枚組のラストに収録された新曲の「ORB」についても聴かせてください。この曲はどんな風に作っていったんですか?

石川:この曲では、アルバムの最後に「25周年の先を見せたい」と思っていました。そこで「イメージが広い音楽を作れたらいいな」と考えていましたね。

――よくテクノやハウスのアルバムやミックスCDで、最後に未来に向かっていくような雰囲気の楽曲が挿入されて終わるものがありますよね。そういうイメージですか?

石川:はい、それを意識していました。未来的な音楽がイメージできる曲、ですね。

フジムラ:あとは、アルバムの最後の曲なので、「3人で完結させたいね」と話していました。歌詞もTECHNOBOYSが25年間でやってきた言葉数の少ないもので、内容も「あるようでない」「ないようである」という雰囲気になっていて。集大成とまでは言わないですが、TECHNOBOYSがやってきたことのミックスになっていますし、これからのことを暗示するようなものにしたいと思っていました。この曲にはSIMMONS(「トゥーン」という音が印象的なシンセドラム)の音も入っていないですし、タイトルも3文字で、アルバムのラスト曲として3人だけで完成させた曲ですね。

松井:エンドロール的にこういう曲を入れたい、という気持ちでした。映画の最後に主題歌が流れて、盛り上がったあとに雰囲気の違う曲が流れる瞬間があるじゃないですか? あのイメージです。新しいことをやりつつも、ヴァンゲリスの匂いがしたりもする曲で、TECHNOBOYSのルーツ感もあるような、全部があるような曲になっていると思います。それに、「グラデーションが見える音楽が大切になってくるんじゃないか」ということを石川がずっと言っていたので、音数が少ないものにもなっています。

石川:せっかく高いリバーブを使っているんだから、それをしっかり聴いてもらえるような音楽があってもいいんじゃないかな、と思うんですよ。

松井:ベスト盤のインタビューの最後の話が「リバーブを聴け」(笑)。しかも、アナログシンセの話をあれだけしたのに、最後は「最新のデジタルリバーブがいい」という話で……。でも、その感じがいいのかな、と思いますね。それがTECHNOBOYSらしいと思うので。(杉山仁)

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