Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

日本のホラー映画興行に異変? 『犬鳴村』と『ミッドサマー』、日米異世界ホラーが同時ヒット

リアルサウンド

20/3/4(水) 19:30

 先週の当コラムがちょうどアップされたタイミング(2月27日夕方)に、新型コロナウイルス感染症対策本部で安倍首相が全国すべての小中高校と特別支援学校の臨時休校を呼びかけたことを受けて、映画興行を取り巻く状況は大きく動いた。そのコラムでも「成り行きが注目される」として具体的に名前を挙げた『映画ドラえもん のび太の新恐竜』をはじめ、『映画しまじろう「しまじろうと そらとぶふね」』、『2分の1の魔法』、『ムーラン』とアニメーション作品(『ムーラン』は実写作品)を中心とする、観客層に子供が多い作品の公開延期が決定。また、「緊急事態宣言」が出された北海道内の複数シネコン・チェーンのほか、都内でも岩波ホール、Bunkamura ル・シネマ、早稲田松竹などが休館を決定した。

参考:春休み興行に影を落とすコロナウイルスへの懸念 注目される『映画ドラえもん』の成り行き

 先週末の全国動員ランキングのトップ3作品は、3週連続1位の『パラサイト 半地下の家族』、2週連続2位の『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』、初登場3位の『劇場版 SHIROBAKO』。ただ、いずれも興収は1億円台で、閑散期の2月の終わりとはいえ例年と比べると明らかに数字が伸び悩んでいる。北海道の一部シネコンが休館中あることを差し引いても、コロナウイルスへの懸念が影響しているのは明らかだ。

 そんな中、今年2月から3月にかけて、大健闘を見せている作品が2作品ある。1作目は、2月7日に公開されて、2位→3位→3位→4位と公開4週目の先週末まで上位をキープしている清水崇監督の『犬鳴村』だ。3月1日までに累計興収は早くも10億円突破。清水崇作品が日本国内で10億円以上に到達したのは2003年の『呪怨2』以来17年ぶりのこと。ちなみに、あまり顧みられることがないが、国外において清水崇は『THE JUON/呪怨』(2004年)と『呪怨 パンデミック』(2006年)で2作連続、合わせて3週、全米ボックスオフィス1位に作品を送り込むという、日本では比べる存在がいない偉業を達成した監督。継続的にアメリカで映画を撮り続けることはなかったが(ブランクが空いて2014年に『Flight 7500』を撮っている)、今回の『犬鳴村』で見事にJホラー・マスターとしてその存在感を示したかたちだ。

 今回の『犬鳴村』、一部ではサプライズヒットと見られているようだが、自分は製作発表があった段階からヒットの可能性は高いと思っていた。というのも、本作の題材となった福岡県の犬鳴峠にある村の都市伝説は、ウマヅラビデオなどのホラー&都市伝説系ユーチューバーを通して、男子小中学生なら知らない子はいないほどホットな題材であることを息子を通して聞いていたからだ。ホラー映画におけるユーチューバーといえば、日本でも昨年の中田秀夫監督『貞子』でも主要キャラクターの一人として登場したのが記憶に新しいが、アメリカやヨーロッパや韓国の近年のホラー映画でもしばしば取り上げられる題材。しかし、『犬鳴村』はユーチューバー的なライトなノリは限定的で、あくまでもシリアスなホラー作品として仕上げられている。そこそこ怖い内容でありながら、レイティングが「G」(一般指定)と年齢制限がつかなかったことで、客層を取りこぼすこともなかった。配給の東映は、早くも「実録!恐怖の村」シリーズとして作品のシリーズ化を発表。次の舞台となる土地はまだ明かされていないが、監督は引き続き清水崇が務める。

 逆に、サプライズヒットと言えるのは、全国106スクリーンでスタートの小~中規模公開作品でありながら、公開週は初登場7位、先週末はランクアップして6位につけているアリ・アスター監督の『ミッドサマー』だ。配給のファントム・フィルムは宣伝の戦略上「ホラー映画」と称されることを避け(ホラー映画好きとして残念な話ではあるが、その戦略は理解できる)、スウェーデンの村で行われる祭典のかわいらしいビジュアルを全面的に展開していて、アリ・アスター自身も「ホラー映画」とジャンル分けされることに懸念を示している同作だが、中身はR15+指定も当然の強烈な恐怖描写と性的描写を含む相当ハードコアな作品。また、現在33歳のアリ・アスターは同世代の監督の中でも突出した筋金入りのシネフィル監督。イングマール・ベルイマンからパク・チャヌク、さらにはセルゲイ・パラジャーノフまで、今回の『ミッドサマー』にも全編に過去の映画へのレファレンスが張り巡らされている。本来はかなりコアな作品であるにもかかわらず、学生や20代を中心とする観客層で劇場は賑わっているという。日本でも『IT』シリーズの例外的なヒットはあったものの、まだまだ近年の海外におけるホラー映画のアート的な地位の向上とそれを取り巻く熱が伝わっていないことに常々苦い思いをしてきたが、Netflix『ストレンジャー・シングス』などを通して新しい時代のホラー作品に親しんできた若年層を中心に、いよいよその風向きが変わってきたのかもしれない。(宇野維正)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む