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フジファブリックの新旧楽曲が相次いで話題に 体制変化後も継承されるグループの音楽性を探る

リアルサウンド

18/10/9(火) 8:00

 今、新旧のフジファブリックに注目せよ。そんな状況なのである。

 山内総一郎がボーカルを務める現在のフジファブリックは、10月3日にミニアルバム『FAB FIVE』をリリースするとともに、主題歌だけでなく初めて劇伴を担当した映画『ここは退屈迎えに来て』のオリジナル・コンピレーション・アルバムも発売された。後者にはバンドのボーカル曲とインストゥルメンタルが収録されている。

 それに対し、亡き志村正彦がメインのソングライターでボーカルだったかつてのフジファブリックに関しては、「若者のすべて」がBank Bandや槇原敬之、柴咲コウにカバーされるなど、多くのアーティストに彼らの楽曲が歌い継がれスタンダード化しつつある。昨今では、菅田将暉が今年3月に発表した『PLAY』に「茜色の夕日」のカバーが収録されていた。今夏には志村の歌う「若者のすべて」が、LINEモバイル「虹篇」CMソングになって流れていた。バンドの新旧の曲が相次いで話題になる珍しい展開なのだ。

 志村正彦を中心に結成されたフジファブリックは、2004年のメジャーデビュー曲が「桜の季節」だったことにあらわれていたように、季節や景色を歌うことが得意なバンドだった。昭和の小説をよく読んでいた志村は、現代の日常会話では使わない古風な言い回しを詞に織りこむなど、特異なセンスをみせていた。また、アレンジ面では東洋的なフレーズや音色がわりと多かった。そのように叙情的で和風な路線から「茜色の夕日」、「若者のすべて」といった代表曲が生まれたのである。

 志村の歌いかたは標準語的でないというか、なまりとも違う彼独特の抑揚、朴訥な感じが持ち味になっていた。悔いやコンプレックスなどネガティブな感情をよく歌のモチーフにしており、その特有の歌いかたが曲にパーソナルな印象を与えていたように思う。

 だが、同時にフジファブリックはダンサブルな曲を作っていたし、「モノノケハカランダ」の〈ノケ ノケ!〉、「銀河」の〈タッタッタッ〉のように意味より響きの面白さを優先させた曲も少なくなかった。

 志村が生前最後に制作し、過去と対峙した『CHRONICLE』は、前期フジファブリックの叙情と遊び心の総決算だった。それなのに同作を発表した2009年の12月24日に志村は急逝してしまう。バンドの中心を失ったメンバーたちは、それでも残された3人でフジファブリックの継続を決意する。ギターの山内総一郎がメインボーカルも担当する現体制へと移行したわけだが、彼の歌いかたは志村とはかなり違う。山内のボーカルは、むしろ標準語的でニュートラルで素直な響きがある。バンドの詞もポジティブな内容が増えた。ネガティブなことを題材にしても、どこかに救いがあるような作風になったのだ。

 体制の転換で作品も変化したわけだが、それは志村と山内のパーソナリティの違いだけによるものではない。志村は『CHRONICLE』発表後、次作に向けた作業をメンバーとともに進める途中で亡くなった。彼の残した音源を残された3人で完成させたのが2010年の『MUSIC』だった。メンバーによると志村は、次作では前向きでポジティブなことを歌いたいと話していたという。

 つまり、ネガティブからポジティブへというバンドの変化は断絶ではなく、継承だったのだ。生前に対立があったわけではなく、誰も脱退や解散を考えていなかったのだから、志村の死後もバンドが存続したのは彼らにとっては当然のことだった。痛手の大きすぎる激変がありながら、以後の歩みが自然な変化とも感じられるのはそのせいだろう。

 メインのソングライターを失ったバンドは、ボーカルを引き受けた山内総一郎が曲作りの軸となり、ベースの加藤慎一、キーボードの金澤ダイスケもそれぞれ作詞作曲し、共作もする形になった。2014年の『LIFE』では多くを山内が書き、自らの歌う姿勢をモチーフにした「sing」をはじめ、彼のパーソナリティを感じさせる内容になった。とはいえ、次作以降は山内が核となりつつも、3人の共同作業という色彩が強くなっている。

 志村の内にある感情がバンドを大きく動かしていた過去に比べ、現在はメンバー3人の外への興味が推進力になっているようにみえる。前向きからさらに外向きへという進みかただ。来年迎えるデビュー15周年の前哨戦といえる今回の『FAB FIVE』には、特にそれを感じた。収録された5曲全部がタイアップで書き下ろされたものであり、メンバーもワーキングタイトルで「オーダーメイド」と呼んでいたのだという。(OKMusic

 ギターもキーボードもいるバンドとして様々なタイプの曲を作ってきたフジファブリックは、アルバムごとにサウンドやアレンジの幅を広げてきた。『FAB FIVE』では、映画『ここは退屈迎えに来て』の主題歌「Water Lily Flower」(作詞作曲:山内)が新味となっている。ギターのアルペジオに沿って起伏を作っていく曲は、過去の彼らにあまりなかったものだ。

 これに対し、ピアノのリフで始まる「電光石火」(作詞作曲:山内)は、志村時代の「Sugar!!」と同じく『J SPORTS STADIUM 2018 プロ野球中継』のテーマソング。ビート重視でスピード感を強調したサウンドを前回から受け継いでいる点で、バンドの連続性を感じさせる。

 『メディアタイムズ』(NHK総合)テーマソングの「1/365」(作詞作曲:加藤)は、オールディーズ風のキャッチーな曲。かつて志村はPUFFYに「Bye Bye」を書き、フジファブリック版も『MUSIC』に収録されたが、「1/365」は彼女たちが得意とする曲調に近い。いつかPUFFYがカバーしてくれたらと思ってしまった。

 「カンヌの休日 feat.山田孝之」(作詞作曲:フジファブリック)は、ドキュメンタリードラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)のオープニングテーマとなった元気なロックンロールで、この人気俳優をゲストボーカルに迎えつつ、詞にはカンヌ映画祭受賞作のタイトルを詰めこんだ遊戯的な内容になっている。

 それとは対照的に、Canonのショートムービー『僕たちは今日、お別れします』のテーマソング「かくれんぼ」(作詞作曲:金澤)は、夕暮れ、月明かりでのかくれんぼを題材にして孤独、別れを歌ったバラードで、フジファブリックらしい叙情性に満ちている。

 このミニアルバムにはバラエティに富んだ楽曲が並んでおり、今のフジファブリックが自分たちに枠を設けず、自由にロックやポップと取り組んでいる充実感が伝わってくる。振り返ってみれば、フジファブリックがインディーズ時代の2002年に制作し、「茜色の夕日」初期バージョンも収録していた最初のミニアルバムは、『アラカルト』と題されていた。アラカルトとは、コース料理ではなく、客が好みで注文する一品ずつの料理を指す。『アラカルト』制作時にもちろん志村はバンドに在籍していたが、加藤、金澤、そして山内が加入したのはもう少し後のことだった。しかし今、3人で作った『FAB FIVE』は、見事なアラカルトになっている。やはり彼らは、フジファブリックのバトンを受け取るべき人たちだったのだ。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)、『戦後サブカル年代記』(青土社)など。

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