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友川カズキの日常から見える純粋で強い生き様 ドキュメンタリー映画から伝わる“人としての魅力”

リアルサウンド

20/2/1(土) 12:00

 私事ではあるが、筆者が世界一のフォークシンガーだと信じて疑わない人物が友川カズキ氏である。その友川氏の、ある夏の日常を記録したドキュメンタリー映画『どこへ出しても恥かしい人』が、2020年2月1日より新宿K’s cinemaを皮切りに全国で順次公開されると聞き、居ても立ってもいられなくなり僭越ながらレビューを書かせてもらうこととなった。

(関連:映画『どこへ出しても恥かしい人』予告編

 友川氏のライブを観たことがある方であれば当然知っていることであるのだが、その唯一無二の独特な唱法とかき鳴らされるギターは、生で感じると「魂が震えない人間などいない」と断言できるほど圧倒的な迫力がある。

 友川氏には、以前インタビューをさせてもらったこともあれば、彼のライブを何度も観に行ったこともある。ときには、酒席を共にさせてもらったこともあるのだが、友川氏はいつも楽しく過ごさせてくれる。年齢や立場など分け隔てなく他者を気遣う、そんな友川氏の人間的魅力は一体どこからやってくるのだろう? と映画を楽しみにしていた。

 しかし友川氏の日常が競輪を中心として形成されていることを、この映画で知ることとなる。だがそれは決して落胆することではなく、むしろ「人間の生き方として、これほど理にかなった純粋で強い生き様はない」と感じるものであった。

 ライブのMCでも見ることができる、腹を抱えて笑ってしまう友川氏のユーモア溢れる言動の数々は、日常的にどんな人間との会話でも、どんな状況でも変わらないことがよく映し出されている。それは自らの息子に対しても同じだ。彼らの会話を聞いていると我が子でありながら友人であり、全く裏表のない親子関係が如実に感じられ、子を持つ親として「こんな関係を親子で持てたら最高だろうな」と感嘆する。競輪好きが昂じて息子とも競輪場へ行き車券を買うのだが、ゴール手前で立ち上がった二男・然斗と友川氏の姿は、立ち上がるタイミング、所作、息遣いと、何よりもその瓜二つの後ろ姿に「ああ、親子だなぁ」と微笑まずにはいられない。

 友川氏は日常会話の端々にハッとさせられる名言が数多くある。映画タイトルであり友川氏の楽曲でもある「どこへ出しても恥かしい人」という言葉も、この映画を観て友川氏の人間性の一端に触れれば、身にしみて理解できるようになってくるだろう。

 作品中にも人々や息子との会話の中に無数の名言が出てくるが、友川氏は自らを「気が小さい」と表現する。その言葉を噛み締めながら映画を観ていると、日常会話が非常に詩的であるために「照れ隠しの方法として、様々なユーモアや名言で自らの思いを表現しているのではないか?」との思いに至った。ほとんどの友人関係を断ち、独りアパートで暮らしながら競輪と絵画を描くことに没頭する日常と、息子という家族の存在、ライブでのステージや外出時に会う人々との会話の全てに、芯が通った強靭な意志が感じられる。若い頃からその意志をまともに正面からぶつけて生きてきた経験により得た、孤独に自らを貫く「武器」のようなものが、友川氏のユーモアや名言の数々なのではないだろうか。

 注意深くこの映画を観ていると、後ろ姿へのこだわりが感じられる。前述の二男との競輪場の姿もそうであるが、ライブでのアングルも後ろ姿のものがあり、代表曲である「生きてるって言ってみろ」の迫力が背中で感じられる貴重な映像は、一味違った生々しさと臨場感に溢れている。

 自宅のアパートの部屋で独り飯を食い「うんまい」と呟く後ろ姿や、ライブ会場へ向かう高円寺の商店街を歩いているシーン、絵を描くシーンでも後ろ姿からのアングルが多く観られる。孤独と情熱、他者の寂しささえも受け取ってしまう細やかな心と、いつも楽しくユーモア溢れるふざけた姿の全てが、友川氏の背中に表れていると感じざるを得ない。

 たこ八郎氏との逸話や、ちあきなおみ氏との逸話。友人たちとの酒席や新宿ゴールデン街での酔宴。「部屋でギターを弾くことなどない」と言っていた友川氏が部屋でギターを弾く姿や、映画スタッフを家に招いたときの気遣い。独りアパートで暮らす姿を映した定点アングルなどのほかにも、競輪に興じているだけではない「生き様としてのギャンブラーの姿」がありありとこの映画に映し出され「ギャンブラーという人生はこれほどまでに魅力的なのか」と唸らされてしまう「人間・友川カズキ」の姿がこの映画に詰まっている。

 人間の生き方としてこれほど正しいことはない。しかし孤独に打ち克つ強靭な意志がなければ、正しさは実践できない。

 友川カズキが好きで良かった。

 どこへ出しても恥かしい人は、生きてると言っている。(ISHIYA)

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