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『Dr.STONE』は“科学VS科学”の頭脳戦へ 千空たちは“科学の師匠”に勝つことができるか?

リアルサウンド

20/11/24(火) 10:49

 『Dr.STONE』(集英社)の第18巻が発売された。稲垣理一郎(原作)とBoichi(作画)が手掛ける本作は、『週刊少年ジャンプ』で連載されている人気科学漫画だ。

 全人類が突然、石化して数千年を経た世界で、天才科学少年の石神千空は目を覚ます。科学の知識と発明を武器に過酷な世界を生き抜く千空は、石化を解く解除液で人間を復活させ、仲間の大樹たちと共に科学王国を築き上げる。そして、全人類が石化した真相を探るために、科学船ペルセウス号で大冒険へと繰り出していく。

以下、18巻のネタバレあり。

 人類を石化させた存在が月に居ることを突き止めた千空は、月に向かうためのロードマップを考え、まずはアメリカ大陸に向かい、石化した人々を元に戻す復活液の原料となるアルコールを大量生産するための街を作ろうと考える。長い航海の末、千空たちはアメリカにたどり着くがマシンガンを搭載した謎の戦闘機に襲われる。すでにアメリカには、科学者のDr.ゼノを頂点とする王国が誕生していた。

 無線を傍受し、ゼノは千空たちに接触。ゼノは、アンモニアを作るハーバーボッシュ工場を完成させており、火薬(銃弾)を無限に作り出す技術を獲得していた。重火器で武装したゼノたちと千空たち科学王国の戦力差は歴然。直接ぶつかれば勝ち目がない。ゼノは「素直に投降して僕たちに仕えてほしい」と言うが、その後「人手不足でね」と付け加えたことで、ゼノが復活液の作り方を知らないことに千空たちは気づく。

 一方、ゼノも千空たちを見たことで、石化の秘密を彼らが知っていることに気付く。復活液の情報こそが唯一のアドバンテージだと思った千空たちは、復活液の情報を教えることを拒否、交渉決裂となった瞬間、敵の哨戒機が上空に姿を現し千空たちの乗るペルセウス号の位置が知られてしまう。敵機との空中戦を戦うため、千空は船を改造して滑走路のある空母を作ろうと考える。

 今回のアメリカ編が今までと違うのは、敵のゼノが千空と同じ科学者だと言うことだ。今までは、武力を行使する霊長類最強の獅子王司や、正体不明の謎の力(石化装置)で島を支配する妖術使いを千空たちが科学の力で打ち負かすという、科学VS武力、科学VS妖術という戦いだった。しかし、今回のゼノは千空以上の天才科学者。だから、2人の戦いは科学VS科学という理性的思考に根ざしたものとなる。お互いの考えを探りながら、一手一手作戦を進めていく様子はチェスのようで、頭脳戦としての側面が今まで以上に強い。

 突貫工事で空母を作ろうとする千空。しかし上空を飛ぶ哨戒機は実は牽制で、ゼノは、科学王国のリーダーの暗殺を目論んでいた。一方、千空は獅子王司を中心とした少人数の精鋭部隊を使ってゼノの身柄を拘束しようとする。

 今回の戦いが面白いのは、千空とゼノの思考が、天才科学者ゆえに、とてもよく似ていることだ。しかし、千空が「拘束」を目指すのに対し、「暗殺」を目指すゼノの方が千空の何倍も冷徹で容赦がない。ゼノは、ルーナという少女をペルセウス号にスパイとして送り込む。ゼノの元から逃げ出したと嘘をついてペルセウス号に救助を求めるルーナを、千空は保護し、船の中に招き入れる。もちろん千空はルーナがスパイであることに気づいており、彼女からゼノの情報を引き出そうと考えている。

 「科学バトル最大の武器は情報だ!!」という千空。すでにゼノの側には、メンタリストのゲンが科学帝国側のスパイとして(裏切ったフリをして)潜入しており、ゲンの漏らした嘘の証言で、千空ではなく大樹を科学王国のリーダーだと思い込んでいた。

 大樹を船の甲板に誘い出し、スナイパーに狙撃させるのがルーナの目的だったが、千空にアイスクリームを渡され、情にほだされる。そしてゼノが元NASAの科学者だと知った千空は、ゼノがかつてロケット作りの質問メールに答えてくれた“科学の師匠”だと気付く。千空たちに情が映ったルーナは、大樹を殺せなくなり、せめて味方に情報を送ろうと、千空の名前を口パクで伝える。

 千空のことを思い出したゼノは、大樹は影武者で本当のリーダーは千空だと気づく。そして、ターゲットを千空に変更。ゼノは録音した声から千空の身長を計算で割り出し、スナイパーに狙撃させる。しかし(自分が狙われていると察した)千空はアイスクリームを作った際に用いた片栗粉の入った袋に水を混ぜて、ダイラタンシー流体(ふだんは液体だが、急激な力が加わると突如、個体となるという現象)を起こし、片栗粉の入った袋を防弾チョッキに流用。銃弾で身体を撃ち抜かれるものの、なんとか一命を取り留める。

 小さな情報からお互いの正体を探り当てていく千空とゼノの情報戦は、読み応え抜群である。論理的かつ繊細に話を積み上げていく稲垣理一郎ならではの作劇手法と、大ゴマをうまく使ったBoichiのハッタリの効いた絵の相乗効果によって一気に引き込まれる。2人の作家の資質がうまく活かされた、鬼気迫る攻防だ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『Dr.STONE』既刊18巻(ジャンプコミックス) 原作:稲垣理一郎
作画:Boichi
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/drstone.html

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