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みうらじゅんの映画チラシ放談

『レスキュー』 『ダーティ・ダンシング』

月2回連載

第61回

『レスキュー』

── 最初の作品は『レスキュー』です。

みうら この連載で以前に取り上げた『ボルケーノ・パーク』って映画、こないだDVDを借りて観たんですけどね。村山さんが勧めるだけあって、あれ、ムチャクチャ面白いじゃないですか!

── 良かったです。ちょっとB級だとナメてたら損する面白さですよね。

みうら チラシに偽りなしでした(笑)。

── 僕もみうらさんがチラシを取り上げてなかったら、絶対に映画館に行ってなかったと思います。

みうら 絶対にって(笑)。そういう意味で言うと、今回の『レスキュー』も絶対に面白いでしょうね。とりあえずチラシに火がたくさん映ってるやつは、間違いないってことで(笑)。

── 確かに昔は、派手に燃えてるチラシってただのウソだったりもしましたけど、最近はCGのおかげでちゃんと劇中でも燃えてくれますよね。

みうら 燃えてますねぇ(笑)。しかもチラシには“10分に1回クライマックス!”って書かれてますからね。『レスキュー』って、全体で何分あるんですかね?

── 133分あります。結構本気な大作の長さですね。

みうら そもそも燃え燃え映画って短いイメージがありますからね。『ボルケーノ・パーク』も短かったですし。

しかし、本来クライマックスっていうのはラストに来るものですよね。ということは何回もエンド感が味わえるってことですよね。『シベ超(シベリア超特急)』にあったドンデン返し的なことでしょうか?(笑)。それが何度も続くわけですからね。夢オチということも、当然考えられますよね。

── まあ、考えられなくはないですけれども。

みうら 出だしに“こんな夢を見た”っていう文字が出てきちゃ、それは黒澤明監督作『夢』のオマージュっていうことになりますね。

130分ですから単純計算で13回、夢オチのクライマックスがあるわけですけど、つき合いきれますかね(笑)。僕はフロイトじゃないからどういう心理状態かは分からないですけど、きっと「火の中で助けた」っていう夢と、「海上で助けた」って夢は確実にありますよね。「あなたはちょっと欲求不満ですね」とか最終的に夢判断が行われる可能性はないですかね。ひょっとするとですが。

── それは、ひょっとするとあるかもしれませんね。

みうら ひょっとするとひょっとすることってありますからね。

── 確かに夢っぽいかもしれないと思うのは、チラシのレスキュー隊のみなさんが、ムチャクチャ髪型をキメてるんですよね。

みうら これはおそらく、ムチャクチャな髪形をしたひとりひとりの夢なんでしょうね。このメンバーたちが「俺、こんな夢を見たんだよ」って順番に披露していきますよ。人数的には13個には足りないんで、夢を二度見してる人もいるでしょう。たぶん、その夢話は深夜のファミレスでするでしょうね。

真ん中の人はあくまで僕のイメージですけど、“目利きの銀次”ってあだ名ですね。魚河岸関係の方ですよ。彼は海難関係の夢を見るんでしょうね。この右からふたりめの方は、学生時代にロックンロールのバンドをやってたんでしょう。いや、全員が当時のバンドメンバーですよ。

── バンドといえば、『ボルケーノ・パーク』のエンドクレジットもバンド演奏でしたよね。

みうら きっと彼らも、最後に1曲演奏して締める可能性はありますよ。ひとしきり夢オチの話が出揃ったところで、「一丁、久しぶりにやるか!」ってスタジオ入ってね。たぶん、「あの娘とドライブ」みたいな歌詞のロックンロールでしょうけど。

昔はロックンロールで食っていこうぜって盛り上がったけど、途中でチラシにある右端の女性を加入させたことでバンドは解散になったんでしょう。大概、揉め事はバンド内恋愛でしょうし。「そもそもロックンロールバンドに女性ダンサーなんていらなくね?」って誰かが悔しくて言ったんでしょうね。

ま、いろいろあったんでしょうが、久しぶりにファミレスで再会してね、昔話に花が咲いたんでしょう。僕、思うんですけど、そのバンドの名前が“レスキュー”だったんじゃないでしょうか?

── なんだか本当に合ってるような気がしてきました。

みうら でも、さらにヒネった夢オチということもあるかもしれません。最終的には「オレ、恥ずかしいけど、オネショしちゃってよ」みたいな。

── 海難救助の映画だけに水難ってことですか(笑)。

みうら 水が出てくる夢はね、そんな危険もありますからね(笑)。

『ダーティ・ダンシング』

── 2作目は『ダーティ・ダンシング』を選んでいただきました。

みうら やっぱり『ダーティハリー』の世代としては“ダーティ”って言葉には反応します。70年代初頭はちょっとしたダーティブームでしたから。スリー・ディグリーズの歌『荒野のならず者』も原題が『ダーティ・オールド・メン』でしたし、『ダーティ・メリー クレイジー・ラリー』ってのもありましたよね。それに『トーク・ダーティ・トゥ・ミー』(笑)。邦題が『私に汚い言葉を云って』だったと思います。

だから、どれだけダーティなダンスなのかには興味がそそられるんですよね。そう思ってチラシの裏を見てみたら“官能的で夢のようなダンス”って書いてあります。相当ダーティなことするんでしょうね。

今までまっとうなダンスをしてきた主人公が、ある事件をきっかけにダーティなダンシングに目覚めるんだと思うんですよ。当然このふたりは恋愛もして、いろいろあってのダーティですからね、R指定が入ってもいいかもしれませんよ。

── R指定ではないようですけど、ギリギリってことですかね。

みうら ホラ、このチラシの裏のダンス、やばくないですか? 村西監督が盛んに活動されていた頃は、駅弁スタイルと呼ばれていたやつじゃないでしょうか。たぶん何か、こういう性技からもダンスを編み出していくと思うんですよ。

── 今、ひさしぶりに“性技”って言葉を聞きました。

みうら 性技の使者とでも言いましょうか(笑)。そもそもチラシが蛍光ピンク、蛍ピンですからね。「これはピンク映画です!」って暗に言ってるみたいなもんじゃないですか。

“あなたに触れて私の中で何かが変わった”っていうコピーも、昔なら必ず筆書体ですよね。『ダーティ・ダンシング』というタイトルの文字は筆っぽいですから。そこは匂わせですよね。こんなこと言ってると配給会社から叱られますかね? でも、チラシが言ってるんですから、こっちの妄想ではなくね。

── 確かにそれに関しては怒られる筋合いはないですね。

みうら ストーリーのところに“裕福な医師の家庭に育ち、両親からいまだにベイビーと呼ばれている箱入り娘”とありますね。そんな彼女がダーティになるわけですから、このパートナーの男が相当なんでしょうね。

ダーティ・ダンシングのコンテストで賞をもらって壇上に上がった彼女が、「彼のダーティさに学びました」とスピーチするも、周りからは「あんたの方がダーティじゃねえの!」っていうツッコミを入れられますよ。パートナーの男も「お前に俺のダーティが引き出されちまったんだからな」とかアメリカンジョークっぽいことは言うでしょうね。

── ちなみにこれは80年代のアメリカ映画のリバイバル上映なんです。

みうら えっ? そうだったんですか(笑)。ま、『ダーティハリー』の影響はモロ受けてるってことになりますが。

── ちなみに主演のパトリック・スウェイジは、この映画でスターになって『ゴースト ニューヨークの幻』に主演した人です。

みうら え? あの、ろくろを彼女の背中越しで回した人? 僕、リメイク版の邦画も観ましたけど、ハハーン、分かりましたよ。パトリックは『ダーティ・ダンシング』の頃から手を回すのが得意なんですよ。そこがこの人のダーティたる所以なんでしょう。『ゴースト』の場合はあくまでろくろでしたけど、ダンスでは彼女の胸元に回すんじゃないですか?

最初は手を背後から添えていたものが、いろんなところに回してくる。それがセクハラなのか、ダンスなのか? ダンスであるからといって何してもいいわけじゃない。でもその一線を超えた瞬間に“ダーティ・ダンシング”が生まれたんでしょう。コンビですから同意のもとでしょうけどね。

── チラシ裏の写真にもありますけど、リフトに挑戦するすごく有名なシーンがあって、確かに息が合ってないと絶対に失敗する危険な技なんですよね。

みうら このダンスだと観客にパンツを見られちゃう可能性がありますよ。たぶん男は「恥じらいを捨てろ!」と、言うんでしょうね。

あと“力強く官能的なダンス、情熱的なマンボのリズム”ってありますから、加トちゃんの「ちょっとだけよ」のときの曲も流れるんじゃないですか?

── ペレス・ブラード楽団の『タブー』という曲ですね。

みうら このアカデミー賞を獲ったという『タイム・オブ・マイ・ライフ』って主題歌も当然マンボなんでしょ?

── いや、実はその曲はマンボではないんです。

みうら 残念です(笑)。だったら、せめてサブタイトルに“私に汚いダンスを踊らせて”ってつけてもらいたいです。

── でもそれだと京都八千代館とかでしか上映してもらえないんじゃないですか?

みうら 八千代館って、ずいぶん昔になくなっちゃたんですけど、その映画館(笑)。

取材・文:村山章

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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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