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ピノキオピー特別対談①:DECO*27と語り合う“ボカロの過去・現在・未来”

リアルサウンド

21/3/3(水) 12:00

 ボカロPのピノキオピーが、初のべストアルバム『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』を本日3月3日にリリースした。ニコニコ動画で巻き起こったボーカロイドシーンの隆盛、その黎明期に登場したピノキオピーの活動の集大成的な作品として発表された今作は、3枚組全37曲を収録。37曲の動画全ての総再生回数は1億回を越え、まさにピノキオピーの歴史がコンパイルされたベスト盤となっている。

 リアルサウンドでは、このベスト盤のリリースに合わせ“ピノキオピー自身が語り合いたい”と挙げた3名のクリエイターとの対談をセッティング。その第1弾として、同じく黎明期からボカロシーンを引っ張ってきたDECO*27を迎え、当時の思い出はもちろん、これからのボカロの未来について語り合ってもらった。(編集部)

長く活動するがゆえに立ちはだかる“過去の自分”

ーーお二人はもともと<U/M/A/A>のレーベルメイトだったわけですが、いつ頃から交流があるのですか?

DECO*27:ちゃんと会ったのはピノさん(ピノキオピー)がU/M/A/Aの所属になったタイミングだけど、その前にも……。

ピノキオピー:ボカロPが20〜30人ぐらい集まった飲み会があって、そこで顔を合わせたのが最初でしたよね。あれは2011年ぐらいかな。あの頃はまだ、僕自身にボカロPとしての自我があまりない状態だったので、何を話したかはそこまで覚えてないんですけど(笑)。

DECO*27:そうだったんだ(笑)。

ピノキオピー:その後に僕がDECOさんと同じ事務所に入り、レーベルメイトになって。<U/M/A/A>のメンバーでバーベキューをしたとき、初めてDECOさんと作品についての話をした気がする。あとはお互い家電好きなので。会うと「この家電が良かった!」みたいな話をしたり。

DECO*27:ピノさんの仕入れる家電情報は信用してるので、ピノさんが良かったと言ってた家電は自分も結構買っているかもしれない(笑)。

ーーDECO*27さんは2008年10月、ピノキオピーさんは2009年2月にボカロ動画を初投稿したので、ボカロPとしてのキャリアもほぼ同じぐらいなんですよね。

ピノキオピー:でも、僕からするとDECOさんは先輩なんですよ。僕が活動を始めたときには、DECOさんはすでにボカロでブイブイ言わせていたので(笑)。

DECO*27:(笑)。その時期はまだ「愛言葉」も「二息歩行」(どちらも2009年)もアップしてないからね。「恋距離遠愛」(2009年)ぐらいかな?

ピノキオピー:でも、1曲目(「僕みたいな君 君みたいな僕」)の時点で初投稿とは思えないほど洗練された音だったから、僕からするとプロの人がやってるのかなと思ったぐらいで。逆にその頃の僕は音楽的な知識があまりなかったので、2009年頃に上げた曲は和音とかもぐちゃぐちゃなんですよね。最近になってようやく曲っぽくなってきたというか。

DECO*27:いや、さすがにもっと前からでしょ(笑)! 僕としては、ピノさんはずっとボカロをやり続けているイメージがあるな。当時から(初音)ミクの楽曲をコンスタントに上げてる人って、僕が知っている限りではそれほど多くないから。僕も途中で1〜2年ぐらい、外の仕事をしていてボカロに触れていない時間があったので。

ーーDECO*27さんがおっしゃる通り、ピノキオピーさんは10年以上に渡ってボカロ楽曲を発表し続けてきたわけですが、今回、その集大成となる初のベストアルバムをリリースしようと思ったのは、どんな考えがあってのことだったのですか?

ピノキオピー:2021年と言うと、10年以上前から活動している僕らからしたら未来なわけで、これまでに自分がまだやってないことは何だろう? と考えたときに、ベスト盤を出してなかったなと思って。それと去年『マジカルミライ 2020』のテーマソング(「愛されなくても君がいる」)を作らせていただいたんですけど、僕にとってこの曲は到達点の一つという気持ちがあったんです。なので自分のキャリアを振り返る良いタイミングかなと思い、ベスト盤にまとめることにしました。

ーーCD3枚組となる本作には、Disc1:紅とDisc2:白に、ピノキオピーさんがこれまで発表してきた楽曲から代表曲を中心に26曲を収録。Disc3:金にはDECO*27さんを含む豪華アーティスト陣によるリミックスが11曲収められています。収録曲に関してはどのような基準でセレクトしましたか?

ピノキオピー:本当は全部好きな曲なので、5枚組ぐらいにして全曲入れたかったんですけど、それでは意味がわからなくなると思って(笑)。なので各楽曲のキャラクターとしてのバランスを考えつつ、アルバムとして聴けるように選曲しました。あとは単純によく聴かれている曲、ファンの人から好評な曲という基準でも選んでいます。僕は発表している曲が多いので、よく知らない人は入りにくいと思うんですよ。だからその人たちにとっては入門編として、僕にとっても名刺代わりになるものを意識しましたね。

DECO*27:ベスト盤用にミクの調声を直したりはしてるの?

ピノキオピー:結構してます。それこそ初期の「eight hundred」(2009年)は10年以上前の曲になるので。この曲は今回<EXIT TUNES>からリリースしたメジャー1stアルバム『Obscure Questions』(2012年)に入っているバージョンを収録しているんですけど、声が古かったので、今のミクの声に変えてミックスから全部やり直しました。

DECO*27:「eight hundred」はズルいよね。たしかこの曲でピノさんのことを知った気がする。

ピノキオピー:そうなんだ! その話は初めて聞いたかも。

ピノキオピー – eight hundred feat. 初音ミク

DECO*27:僕は歌詞に特徴があるので、そこに関しては昔から自信があったけど、「eight hundred」を聴いた瞬間にヤバい! と思って(笑)。ピノさんの作品は常にチェックしてるけど、毎回「やられた!」って気持ちになるんですよね。僕が書く歌詞は、自分と誰かの間にある気持ちを主観で表現するパターンが多いけど、ピノさんは自分と誰かを近くから見て、その現象について書くことが多い。だから僕とは視点が違うんです。歌詞にギミックを入れたり、面白い言葉遣いをしようという気持ちはお互い似てるけど、ピノさんが書く歌詞を見ると、他の人が上手いことを言っているときよりも悔しくなるんですよ。

ピノキオピー:嬉しい。僕は僕で、DECOさんの歌詞の主観で関係値を書くパフォーマンスは絶対にできないと思ってます。素直に自分の気持ちが乗ることの羨ましさがある。僕は俯瞰で書くことでごまかしてるじゃないけど(笑)、お互い得意技があるんだと思います。DECOさんの歌詞はポップな言い回しや印象に残るフレーズがたくさんあって、メロと歌詞の組み合わせもすごいし、その組み合わせで毎回高得点を叩き出してくる感じが鮮やかすぎるんです。

DECO*27:嬉しいなあ。ピノさんはもともと持つスキルに、今までの経験値を生かした戦略を練り上げて作られる曲が個人的に大好きなんです。最近だと「ラヴィット」(2020年)を聴いた時にそれを感じて。僕もピノさんも長い間活動しているから、どうしても動画のコメントやみんなの反応が自分の中に浸み込んでいくんです。「これをやるとみんなが喜んでくれる」と意識してしまうから、過去に書いた曲と同じようなことをやるようになっていくことがあって。なのでそこからの出口を探すんですけど、ピノさんはそれを考え抜いた結果、めちゃめちゃ良い仕上がりになってるんですよね。

ピノキオピー:そこを感じてもらえていて嬉しいです。僕自身もDECOさんの曲から、(リスナーに)喜んでもらえるビジョンがあったうえで、そこに甘んじることなく毎回チャレンジしていることを感じてます。同じ場所に安住することなく次の一手を探し続けるのは、創作を続けるうえでは苦しいですけど、それをやり続けているのがとても真摯だと思います。

DECO*27:そう。長いこと活動していると、過去の自分の曲が壁になって立ちはだかってくるんです。僕がそれを一番最初に感じたのが「モザイクロール」(2010年)で、しばらく“「モザイクロール」の人”っていう認識が続いていたんですけど、「ゴーストルール」(2016年)でそれを更新することができた。だから6年ぐらいかかったんですよね。その後は「ゴーストルール」が壁となり、今度は「乙女解剖」(2019年)がまたたくさんの人に聴いてもらえて。なので今は「乙女解剖」が壁になっています(笑)。

DECO*27 – 乙女解剖 feat. 初音ミク

ピノキオピー:壁が生まれ続ける、その感覚すごくわかります。でも“「モザイクロール」の人”という言われ方はまだよくて。僕の場合は「腐れ外道とチョコレゐト」(2011年)がそれにあたる曲だったので、“「腐れ外道」の人”だったんですよね(笑)。

DECO*27:知らない人が聞いたら「あの人、腐れ外道なの?」ってなるよね(笑)。

ピノキオピー:ある意味そうなんですけど(笑)。でも、そこから数年経って「すろぉもぉしょん」(2014年)という曲ができて。少し話がそれますけど、「腐れ外道とチョコレゐト」は、当時のボカロシーンは攻撃的なニュアンスの入った高速ロックが受け入れられやすい土壌があったので、そういうものを意識的に作っていたんです。なのである意味、公に向けたものというか、僕の気持ちは半分ぐらいしか入っていない。でも、「すろぉもぉしょん」は自分自身が100パーセント入っている。それで「腐れ外道」の壁を超えることができて安心しました。

DECO*27:過去の曲に勝つのは難しいよね。

ピノキオピー – すろぉもぉしょん feat. 初音ミク / SLoWMoTIoN

良い曲を聴くと悔しい気持ちが生まれる

ーー逆にお二人は最近、過去の楽曲をアップデートするような試みも行っていますよね。DECO*27さんは代表曲「二息歩行」をリメイクした「二息歩行 (Reloaded)」を2020年に発表して話題になりました。同じくピノキオピーさんも「ボーカロイドのうた」(2010年)のリメイク版となる「10年後のボーカロイドのうた」を2020年に発表、今回のベスト盤にも収録しています。

ピノキオピー:最初は普通に「ボーカロイドのうた」の音を作り直して収録するつもりだったんですけど、曲を作った2009年当時とはシーンの状況が様変わりしているので、ちゃんと今の世相や変化を反映したものにしようと思い歌詞も変えました。

ーーなかでも原曲では〈練りに練られたネタ曲も 日常を描いた曲も ちょっとエッチな曲も ボーカロイドのうた〉だったのが、〈売れ線の似ている曲も 踏み台の手段の曲も 人と共存する曲も ボーカロイドのうた〉になっていたのが印象的でした。ある種、棘も感じるフレーズと言いますか。

ピノキオピー:たしかにちょっと攻撃的ではありますけど(笑)。僕は“ボカロ踏み台論”(ボカロPが人気を得ていくと共に、ボーカロイドではなく自分自身で歌唱していく流れ)について否定はしていなくて、それも含めてボーカロイドだと思っていますし、はっきり言い切ったほうが楽になるとも思っていて。あと、歌詞の中に〈箱庭の音楽は力を失い〉という言葉があるんですけど、2009年当時はテレビよりもインターネットのほうが自由な音楽が多い時期だったので、「テレビのなかの音楽が力を失った」という意味で使っていたんです。でも今は逆で、ボカロシーンの音楽が逆輸入的にメディアに近づいていき力関係が変わった、というイメージで〈力を失い〉というニュアンスになっています。

ピノキオピー – 10年後のボーカロイドのうた feat. 初音ミク / The Vocaloid Songs 10 Years Later

ーーDECO*27さんは、以前に別の取材(※1)で、今後もリローデッドシリーズを続けていきたいとおっしゃっていましたが、その真意は?

DECO*27:リローデッドシリーズは基本的に二つの目的があリます。まず、僕の音楽を昔から聴いてくれている人に喜んでほしいというのが一つ。二つ目は、最近ボカロを聴き始めた若い人に向けて、昔のDECO*27にはこういう曲もあったということを知ってもらうため。さらにその二つの目的を合わせて、一つの曲を通して違う世代同士がコミュニケーションするきっかけになれたら、というのがある。要は架け橋的なものですよね。

ピノキオピー:僕のベスト盤も全く同じ目的で、過去の楽曲も聴いてほしいというのはあります。

DECO*27:たしかにベストアルバムはいい機会だよね。とある曲を目的に買ってみたら、昔の知らない曲を気に入ったり、逆に昔の曲を聴いていた人が新しい曲を知るきっかけになったりする。ピノさんの2009年からの流れを聴いてもらえる意味では、すごくいい作品だと思う。

ーーDisc3のリミックス集には今回、DECO*27さんとTeddyLoidさんが手がけた「すきなことだけでいいです – DECO*27 & TeddyLoid remix -」が収録されています。これはピノキオピーさんからオファーしたのですか?

ピノキオピー:はい。今回のリミックス集は<U/M/A/A>にいた人たちが全員集合というテーマもあるんですけど、この選曲には特に思い入れがありまして。「すきなことだけでいいです」(2016年)を投稿した直後に、DECOさんと仕事で福岡に行ったんですけど、そのときにDECOさんが「あの曲、聴いてほろりとしちゃったよ」「これは(ランキングの上位に)いくと思うよ」と言ってくれて。そしたらその後、本当にランキングで1位になったんですよ。純粋に屈託なく「ほろりときちゃったよ」と言ってくれたことがすごく嬉しかったし、その思い出も含めてこの曲のリミックスをお願いしました。

DECO*27:そうだったんだ! その話を聞いて、またほろりときそう。嬉しいなあ。僕はピノさんの曲を聴いてめちゃくちゃ良いと思ったときは、必ず連絡するか、会ったときに直接言うんですよ。

ピノキオピー:それを言ってくれた初めての曲が「すきなことだけでいいです」だった気がする。

ピノキオピー – すきなことだけでいいです feat. 初音ミク / All I Need are Things I Like

DECO*27:人が作ったものをストレートに褒めるのはあまり得意じゃないから。今は素直に言えるけど、やっぱり良い曲を聴くと悔しい気持ちが生まれるじゃない?

ピノキオピー:ある! 僕は悔しいから言えないもん(笑)。でも、お返しじゃないけど、DECOさんの「依存香炉」(2020年)もヤバいですよね。あれは本当にチャレンジの塊だから。DECOさんの最新アルバム(『アンデッドアリス』)は好きな曲がたくさんありますけど、「依存香炉」はまずスタンスが刺さりましたね。

DECO*27:ありがとうございます! あの曲に関しては、まずミクがラップするし、歌詞も僕が普段使わない名詞が結構入ってる。MVもイラストを使わず歌詞だけにしていて。

ピノキオピー:リリックビデオですよね、海外のラッパーのMVみたいだなと思って。

DECO*27:そうそう、言葉だけでごり押ししていくっていう。

DECO*27 – 依存香炉 feat. 初音ミク

ーー『アンデッドアリス』には「ネオネオン」などEDMの要素を取り入れた楽曲も収録されていて、DECO*27さんは今回のリミックスを含め、最近はクラブミュージック寄りの楽曲にも取り組んでいますよね。その意味では、ピノキオピーさんの近年のアプローチにも近いのかなと思って。

ピノキオピー:僕はルーツとして電気グルーヴやエレクトロニカ好きというのがあるので。最初の頃はパンクロックも好きだったからパワーコードで曲を作っていたのですが、2014〜2015年頃にそのやり方は先がないなと感じて、打ち込みの方を頑張り始めたんです。最近は音数を少なくするアプローチがとても気に入ってます。音を削ぎ落しながらも、ビビッドなものを入れるバランス感が好きですね。

DECO*27:僕は自分のイメージが固まってしまうのがめちゃくちゃ怖くて。例えばロックな曲ばかり書き続けていたら、みんなが飽きてしまうかもしれない。だから、やるにしてもいろんなジャンルの曲を挿みながら公開していくことで、どれもDECO*27っぽく見せつつ、新鮮に感じてもらえるようにしたいと思っています。

ピノキオピー:常に新鮮なことをしたいのが、僕らの共通点ですよね。動画のサムネイルにしても、毎回前作とは雰囲気をガラッと変えたりして。違う印象のものを与え続けたいというのは二人ともあると思っています。自分に飽きたくないんですよね。

DECO*27:そう、自分の書く曲にワクワクしたい。「自分はこんな曲も書けるんだ!」とか「まだ引き出しがあった!」とか。

ピノキオピー:新しい引き出しが開いた喜びみたいなものは、絶対に一個は入れたい。

(※1)https://www.lisani.jp/0000161346/

初音ミクへの想い、そしてこれからのボカロシーンについて

ーーお二人の共通項としては、様々なボーカロイドがあるなかで、ずっと初音ミクを中心に楽曲を制作していることがあると思います。初音ミクのどんなところに魅力を感じていますか?

DECO*27:結果だけ先に言うと、ミクが僕の曲に一番合うシンガーだと思っています。自分で聴いていても一番しっくりくるし、自分の色を一番自由に出せるんですよね。声も好きですし。だからずっと一緒にやっているんです。

ピノキオピー:これは誤解せずに受け取ってほしいんですけど、僕は声が間抜けなところが好きなんですよね。どんなにシリアスなことを歌っても抜け感があったり、声が間抜けなクセに歌姫と呼ばれているところも。ちょっとかわいそうな感じが好きなんですよ(笑)。僕はミクを取り巻く現象、ミクが持っているオーラみたいなものが好きなんです。DECOさんはキャラクターに対するまっすぐな愛があって……これはさっきの話に繋がるんですけど、DECOさんは主観でミクが好きなんですよ。で、僕は客観なんです。

DECO*27:なるほど! すごくわかりやすい。

ーーただ、今回のベスト盤のDisc1の1曲目「愛されなくても君がいる」は、初音ミク視点で歌詞が書かれていて、その意味では今までのピノキオピーさんのアプローチから一歩踏み込んだ楽曲にも感じました。

ピノキオピー:これは「初音ミクという依り代のなかに自分が入っていったらどうなるか?」ということを試した楽曲ですね。それを試している時点で客観視も入ってるんですけど(笑)。「客観視しながら主観で書くとどうなるか?」という実験でもあります。それと僕自身が『マジカルミライ』を観ているときに、あまり客観はいらないと思ったんです。やっぱりあのステージで歌っているのはミクなんですよ。だから制作者の想いというよりは、ミク側の想いが見えるものがいいと思って、ミクのメッセージを意識的に出しました。

ピノキオピー – 愛されなくても君がいる feat. 初音ミク / Because You’re Here

ーーその意味で言うと、ベスト盤のDisc2の最後に収録されている「君が生きてなくてよかった」(2017年)は、「愛されなくても君がいる」とは対照的な作りの楽曲ですよね。

ピノキオピー:そうですね。この曲は初音ミクの10周年のときにリリースされたコンピレーションアルバム『Re:Start』に参加したタイミングで作った曲で。当時、僕は初音ミクをテーマに楽曲を書いたことがなくて、「僕から見た初音ミクの曲」を書いてみようと思ったんです。なので「君が生きてなくてよかった」は僕から初音ミクに向けての歌で「愛されなくても君がいる」は初音ミクから僕やファンに対する歌。それぞれ逆の目線になっているので、双方向性のある関係なんです。だからアルバムの最初と最後に持ってきました。

DECO*27:うわ、それはズルい(笑)!

ピノキオピー – 君が生きてなくてよかった feat. 初音ミク / Thanks for being Lifeless

ーーちなみに、お二人はボカロシーン由来のクリエイターやアーティストが活躍の場を広げている現状について、どのように受け止めていますか?

DECO*27:今の世代の人たちはめちゃくちゃ強いと思います。それはなぜかと言うと、僕らの世代の成功と失敗を両方とも見てきているから。先人たちの轍や形跡が残っているので、自分がやりたいビジョンに合わせてどう進んで行けばいいのかを、ある程度考えることが出来ると思うんです。

ピノキオピー:本来なら、すでにやられているとやりにくくなるはずが、その轍を利用し、上手いこと発射台にして思いっきり飛んでいこうとしている感じがありますよね。

DECO*27:そうそう。僕らは助走をつけてジャンプ台から飛ぶから、飛ぶまでにすごく時間がかかったけど、今はいい曲を書いてたくさん動画を観てもらえたら、すごいスピードで上がっていける。めちゃくちゃ夢があると思います。

ピノキオピー:DTMの発達で(音楽を作ることの)ハードルがどんどん下がってきているのもありますよね。僕自身は、ボカロ出身の人がそれ以外の場所で受け入れられることでボカロも盛り上がるから、言い方は良くないかもしれませんが、いろんな人が出稼ぎに行けば行くほどボカロも盛り上がってくれるのかなと、ポジティブに考えています。

DECO*27:それを踏み台と呼ぶ人もいるけど、そもそも人それぞれ見ている主人公が違うんですよね。初音ミクが主人公だと思っている人は、シーンから羽ばたいていく人を「ボカロを踏み台にした」と言う。だけど、最初から作り手側を主人公だと思っている人は別にそう思わない。ミクがいるからボカロPがいるのか、ボカロPがいるからミクがいるのか。その二軸がグルグル回るところなんですけど。

ピノキオピー:それこそ僕は、初音ミクはずっとかわいそうなままがいいと思っているので(笑)。踏み台にされてもなお歌い続けていく姿が美しいんじゃないかなって。だからもっと踏み台にすればいいと思います、ボカロは死なないから。

ーーそういった状況のなかで、これまでボカロシーンの最前線で10年以上に渡って活動してきたお二人は、今後の活動についてどのようなビジョンを描いていますか?

DECO*27:僕は相変わらずミクが好きなので、自分の楽曲を通してより多くの人にミクを知ってもらいたいです。そのためにはまず、今後も変わらずいい曲を作り続けるのが重要なことだと思うので、しっかりやっていきたいですね。

ピノキオピー:ピノキオピーは僕とボカロが混然一体となっているアーティストだと思っているので、ボカロと一緒に歌いつつ『紅白歌合戦』に出場できたらめっちゃ面白いだろうなあ、という夢を持っていて。ただこれは壁がデカすぎるので、今は工藤大発見(ピノキオピーとは別名義のプロジェクト)として自分で歌う活動もやりながら、いろんなことを試して、自分の活動を広げていけたらと思っています。ずっと「こいつ面白いな」とか「受けるな、こいつ」と思われていたいです。

ーー個人的には、いつかお二人のコラボ曲も期待したいですけどね。

DECO*27:どうなるんだろう? メロディやアレンジはわりとスムーズにいきそうだけど、作詞で絶対に喧嘩すると思う(笑)。

ピノキオピー:たしかにそこの難しさはあるよね(笑)。どうマリアージュするのか想像がつかないなぁ。

DECO*27:でも、楽しそう。テーマを一つ決めて同じ作品のなかでコラボするということは、俺がピノさんの客観性を吸収できるチャンスだし。

ピノキオピー:でも、メタって悪く見えるんですよ(笑)。俺は主観の熱さを羨ましく思うし、それを大事にしたいと思ってるのに、そこに対して冷や水をぶっかけるようなことをして、悪者になりたくはない(笑)。

DECO*27:1曲のなかでコラボするのではなく、2曲作って、それぞれが作詞と作曲を担当するっていうのはどう? それをいつもお願いしてる動画師さんや絵師さんをシャッフルして、お互いのチャンネルで上げるとかね。

ピノキオピー:そっちのほうが良いですね。

DECO*27:それなら喧嘩しない(笑)。でもメラメラするよね。相手に対して負けねえぞ! っていう。

ピノキオピー:コラボというかボカロPバトルだよね(笑)。

■リリース情報
ピノキオピー
『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』
発売日:2021年3月3日(水)
価格:¥3,800+税
品番:UMA-9139-41
仕様:初回仕様限定盤三方背BOX付き3CD+P.32ブックレット

<Disc1>
01. 愛されなくても君がいる
02. すきなことだけでいいです
03. おばけのウケねらい
04. ニナ
05. すろぉもぉしょん
06. アップルドットコム
07. からっぽのまにまに
08. モチベーションが死んでる
09. 頓珍漢の宴 – MV edit –
10. マッシュルームマザー
11. きみも悪い人でよかった
12. ぼくらはみんな意味不明
13. 10年後のボーカロイドのうた

<Disc2>
01. セカイはまだ始まってすらいない
02. はじめまして地球人さん
03. ありふれたせかいせいふく
04. 腐れ外道とチョコレゐト
05. 空想しょうもない日々 – MV edit –
06. 内臓ありますか
07. ボカロはダサい
08. 祭りだヘイカモン – MV edit –
09. ゴージャスビッグ対談
10. アンテナ – re-rec –
11. ラブソングを殺さないで
12. eight hundred
13. 君が生きてなくてよかった

<Disc3>
01. マッシュルームマザー – ZANIO & PinocchioP live remix – / ZANIO & ピノキオピー
02. ニナ – Jumping remix – / ピノキオピー
03. ラブソングを殺さないで – JAPAN EXPO remix – / ピノキオピー
04. すきなことだけでいいです – DECO*27 & TeddyLoid remix – / DECO*27 & TeddyLoid
05. ぼくらはみんな意味不明 – nu metal remix – / 鬱P
06. アップルドットコム – Sickness remix – / ARuFa
07. ヨヅリナ – doze off remix – / ササノマリイ
08. 祭りだヘイカモン – 姦し remix – / 梨本うい
09. はじめまして地球人さん – nakatagai remix – / 椎名もた
10. 内臓ありますか – ATOLS remix – / ATOLS
11. すろぉもぉしょん – sasakure.UK remix – / sasakure.UK

『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』特設サイト

■配信ライブ情報
ピノキオピー『ありがとう』
開催日:2021年3月9日(火)
時間:19時00分
プラットフォーム:ピノキオピーオフィシャルYouTubeチャンネル
料金:無料

■関連リンク
ピノキオピーオフィシャルHP

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