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『映画 すみっコぐらし』なぜ異例の大ヒット? “ギャップ”あるストーリー展開とTwitterとの相性の良さ

リアルサウンド

19/11/19(火) 10:00

 『映画 すみっコぐらし』が異例のヒットを記録している。110館ほどの決して多くない公開規模にも関わらず、200館、300館規模の作品たちを抑えて公開初週の興行収入ランキング3位にランクインしており、劇場では満席が相次いでいるほどの人気だ。また大手レビューサイトでは高得点をマークするなど作品そのものへの評価も高い。

参考:『けいおん!』『バンドリ!』『うた☆プリ』……アニメーションにおける演奏表現の進化を辿る

 公開2週目に突入してもその勢いは増し、興行収入ランキングでは順位を一つ繰り上げ第2位につけており、前週比150%という異例の伸びを記録している。今回は“ギャップ”というキーワードを基に、異例の盛り上がりをみせる理由について考えていきたい。

 本作は、デザイナーのよこみぞゆりが大学の授業中に書いた落書きをモチーフに制作したキャラクターコンテンツ「すみっコぐらし」を映画化した作品だ。キャラクターのモチーフとしては、馴染みのある“ねこ”や“しろくま”のほかにも、食べられなかったとんかつの端をモチーフとした“とんかつ”、“エビフライのしっぽ”、“タピオカ”や、他にも“ざっそう”、”ほこり”などの類を見ないユニークなキャラクターがいる。その可愛らしいキャラクター造形から小学生以下の子どもをもつファミリー層を映画のメインターゲットにしている印象を受けるが、一部劇場では男性限定上映が行われるなど幅広い層に人気があることを伺える。

 監督を務めたまんきゅうは、5分から15分ほどの短編ギャグアニメを多く手掛けており、今作でも既存のキャラクターの魅力を活かしながら物語を作る手腕が光る。上映時間は65分と一般的な映画と比べると短いながらも、絵本を基にしながらショートショートのコメディを積み重ね1つの物語を作り上げている。すみっコたちは喋らないものの、イクメンタレントとしても活躍し、温厚なイメージのある井ノ原快彦や、本上まなみのナレーションがキャラクターの心情などを解説しており、その声も優しい世界観を生み出し癒しを与える一因となっている。ナレーションによって子ども達にも理解がしやすいように解説をしながらも、あえてキャラクターに喋らせないことで、大人たちには考察の余地を与える間が生まれている。

  本作が多くの観客の心をつかんだ理由を一言で説明すれば、“ギャップ“ということになるだろう。すみっコたちの和気あいあいとしたやり取りや、優しい世界観に癒される一方で、過酷な現実や大きな選択を突きつける展開が待ち受けており、その覚悟に大きな衝撃を受けることになる。“すみっこ”という言葉から生まれたキャラクターだからこそできる物語であり、鑑賞後にはメインビジュアルや、「きみも、すみっコ?」というキャッチコピーの意味にハッとさせられる観客も多いだろう。

 『すみっコぐらし』を展開しているサンエックスの人気キャラクター、リラックマが活躍する、Netflixオリジナルアニメ『リラックマとカオルさん』も同じように話題となった。リラックマも愛らしく癒しをあたえてくれるイメージがあるが、もう一人の主人公であるカオルさんは、忙しない社会人としての生活に疲れてしまう日々を送っている。その姿がリアルであり、視聴者が自分の姿を投影しながらも、リラックマの何気ない仕草などに癒される物語となっている。『映画 すみっコぐらし』もその可愛らしいキャラクターとのギャップという意味では同じ試みをしていると言えるだろう。

 本作がここまで広まった理由を考える上でTwitterの盛り上がりは避けることができない。「#すみっコぐらし」などのハッシュタグの他にも、「#逆詐欺映画」などのインパクトの強い言葉がトレンドにランクインしたことによって、より高い注目を集める結果となった。ただし、一部では他作品と比較し言及するツイートが物議をかもすなど、児童向けアニメ映画とは思えぬ現象も起きている。筆者自身も鑑賞後、異様な感想が並ぶ盛り上がりに首を傾げた面もあり、作品とは乖離したTweetに、“ギャップ”を感じてしまった。

 しかし当然ながら多数のTweetは作品を的確に捉えている。こういったTwitterで盛り上がるという点で連想される作品は、2018年9月に公開された『若おかみは小学生!』だ。公開当初はあまり注目を集めることがなかったが、スタジオジブリ出身の高坂希太郎監督のこだわりが詰まった細やかな動きや、可愛らしいキャラクターデザインとギャップのある過酷な物語により多くのファンを獲得し、その結果多くの人に愛される作品となった。このようにTwitterの口コミが興行に影響を与えた例としては、『この世界の片隅に』などもあり、アニメ作品とTwitterの相性の良さが改めて示される形となった。

 本作と『若おかみは小学生!』と『この世界の片隅に』はどれも公開前から高い注目を集めていたアニメ映画とは言い難い。本作の場合は『ターミネーター:ニューフェイト』などの大作に注目が集中しており、『若おかみは小学生!』も初週段階では興行的に厳しく、『この世界の片隅に』も公開規模が大きいとは決して言えない作品だった。だからこそ「自分が見つけたこの名作をオススメしたい!」という思いが強く働いたのではないだろうか? 大規模公開の大作映画では生まれづらい熱量と、インディーズ映画ほど小さくなく、地方でも遠出をすれば見に行けるであろう公開規模という条件が合致した結果の現象と言えるだろう。

 作品評価が高くても映画興行が盛り上がらない作品がある中で、多くの人が自分が好きな映画をオススメすることができるTwitterの口コミ力、拡散力が強く働いた結果のヒットでもある。しかしそれを巻き起こしたのは作品自体の持つ力であることは疑いようがない。子ども向けながらも子どもだましにならず、“ギャップ”がありながらも奇を衒わずに、児童にしっかりと向き合った王道とも言える物語こそが本作が成功した最大の要因だったのではないだろうか。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。

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