Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

【ライブレポート】今覚えておくべき新進気鋭バンド3組を下北沢ライブハウスで目撃!

ぴあ

『SMASH × SONY MUSIC presents Yellow Stage』錯乱前戦

続きを読む

2021年7月30日(金)、下北沢BASEMENT BARで、『SMASH × SONY MUSIC presents Yellow Stage』なるイベントが行われた。フジロック・フェスティバルの開催や、数々の海外アーティストのコンサートの招聘で知られる老舗イベンター、スマッシュと、ソニー・ミュージックの新人発掘セクションであるSDグループが組んで、立ち上げた企画の第1回目で、THE ティバ、Monthly Mu & New Caledonia、錯乱前戦の3バンドが出演。今後、10月、12月と、1回ごとに別アーティストをブッキングしての開催が、予定されている。

というわけで、基本的にインディー/アマチュアのバンドをフックアップするイベントなので、以下、バンド紹介とライブレポの間くらいの温度を心がけて書きます。

まず、トップはTHE ティバ。The White Stripesや初期ストレイテナーと同じ、ボーカル&ギターとドラムの2人組という編成。ふたりとも女性。左にボーカル&ギター、右にドラム、ギターはフェンダーのムスタングで、アンプとギターをつないでいるのはカールコード。

いわゆる90年代のグランジをルーツに持つような音で、全部で5曲を演奏。全曲英語詞。MCは「今日は2回目のワクチンを打って来て、かなりロック・スターです」などと言っていた、1回のみ。

コードに寄り添ったり離れたりしながら進んでいく歌メロや、時折地を這うように響き、時折爆発するようにボリュームが上がるギターや、そのギターとやたらと呼吸が合っているドラムにも、何度もハッとさせられたが、それ以上に、観ていてもっとも惹きつけられたのは、ふたりの表情だった。

楽しそうでもつまらなさそうでもないし、笑顔なんか見せないし、でも怒ってもいない。かといって、無表情かというと、むしろ逆。緊張している感じでもないが、はりつめてはいる。そんな、喜怒哀楽のどこにも分類されないような表情で、演奏に向き合い、歌に向き合うそのさまは、何かとても鬼気迫るものがあった。

二番手はMonthly Mu & New Caledonia(「Monthly Mu」というのは月刊ムーのことらしい)。ギターふたり、ベース、ドラム、ボーカルの5人編成。ステージ右のギタリストの横にはPCがあり、ドラマーはヘッドフォンを、他のメンバーはイヤフォンをしているので、バック・トラック使うバンドなんだということが、音を出す前の時点でわかる。

Photo:fukumaru

演奏が始まる。どファンクだ。「ミクスチャー」という呼称が定着する前の時代のRed Hot Chilli Peppersを思わせるような、言わば「ギターを軸としたバンド編成で鳴らすファンク」といった趣である。

ウィンドブレーカーのフードをかぶって飛び跳ねながら歌うボーカル、右が「静」で左が「動」、ただしふたりとも弾きまくりでリードとサイドの差がゼロのギタリストふたり、フロントマン3人とも花がある。2曲目はクイーンの「Another One Bites The Dust」のベースラインを元ネタにした曲。様子見という感じだったオーディエンスも、ここで「おっ!」と前に身を乗り出す感じになり、温度がちょっと変わる。

Photo:fukumaru

で、ライブの途中から「バンドで鳴らすファンク」の範囲を踏み越えて、どんどんカオスになり始める。左のギタリストがギターを手放し、床に座ってエフェクト・ボードやPCを操作して音を操ったり。それでリズムが打ち込みに変わった、と思ったら、ドラマーが前に出て来てラップを始めたり(「ラップもやってます」的なやつではなく、ちゃんと本職のラッパーのレベル)。ジャンルも手法もこだわりなく、やりたいことを全部詰め込んでいる感じ。

Photo:fukumaru

ラストに歌われた、ボーカルの門口夢大が、20歳でジャマイカに行った時に作ったという「Jamaica」という曲の、淡々としたメロディとリリックが、とてもよくて、沁みた。

そしてトリ、錯乱前戦。ボーカル、ギターふたり、ドラム、ベース(サポート/女性)の5人で、楽器を持つ前に、SEほぼ1曲分、横一列で踊りまくってから、持ち場につく。
そして、イギー・ポップ&ストゥージーズ、ニューヨーク・ドールズ、ラモーンズ、などをひたすらファスト&ラウド&ハードコアにしたみたいな爆音を、メンバー全員好き勝手に暴れながら、放ちまくる。

ギタリストふたりとも、2曲目で弦を切る。気を利かせた対バンのメンバーが、自分のギターをそっとアンプの横に置いてくれたが、曲が終わってもふたりともギターを持ち替えず、そのままさらに2曲やり通す。で、ようやく入ったインターバルで、そのギターを手渡され、「誰の? これ」。

それ以降も、もうひたすらずっとアクセルベタ踏み、緩急ゼロ、ずっとレッドゾーンのまんま。音楽とかバンドとか演奏とか、そういうのはもうすべて「とにかくテンション上げたもん勝ち」と信じて疑わないような按配だった、最後まで。大笑いした。で、こんな痛快なバンドを観たのは久々だ、と、つくづく思った。

というステージだったのだが。この日の錯乱前戦、実は本来の形ではなかった。ボーカルのヤマモトユウキが親知らずの痛みで歌うことができず、代わりにリズムギターの成田幸駿がボーカルをとり、ヤマモトユウキはギターを弾く(前述の「誰の? これ」の方のギタリスト)、というパートチェンジをしての、ライブだったのだ。

何それ。ヤマモトユウキのギタリストっぷり、本来のパートではない様子などまったくなかった、のはまだわかるが、ギタリストがスタンドマイクでアクションばりばりであんなに歌える、どこからどう見てもあたりまえにボーカリストのパフォーマンスである、って、どういうこと?

このレポの依頼をもらったから行ったイベントだし、錯乱前戦はかろうじて名前を認識していたが、THE ティバとMonthly Mu & New Caledoniaは、この日初めて知った。が、観終わった時、「いやあ、よく俺に頼んでくれました、ありがとう!」と言いたくなった。それくらい、心底楽しかった。

ビルボード・ジャパンなんかの年間チャートの上の方に入っているバンド、年々少なくなる一方だし、バンド以外に音楽を作れる方法も、ライブハウス以外に音楽を発表できる方法も、時代と共に充実していく一方だ。よって、バンドによる音楽が隅に追いやられていく実感は、日々強くなるばかりだ。

世の中が新型コロナウィルス禍になる、はるか前からそうだ。でも、ロック・バンドという表現形態って、今も、いや、今こそ、こんなに可能性あるんじゃん、ということを教えてもらった気が、この日、とてもしたのだった。

インディー/アマチュア3バンドのイベントだし、コロナ禍だし、平日で17:30開演だし、客入りは決してよくはなかった。にもかかわらず、1アクトごとにどんどん反応がよくなっていき(もちろん声は出せないにもかかわらず)、最後の錯乱前戦の終演後、客電が点いたのにハンドクラップを止めず、予定外のアンコールをやらせたオーディエンスの熱が、何よりもそのことを示していたと思う。

Text:兵庫慎司 Photo:fukumaru(Monthly Mu & New Caledoniaのみ)

アプリで読む