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『Black Lives Matter』プレイリスト楽曲がチャート浮上 チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」などから考察

リアルサウンド

20/6/9(火) 12:00

参考:https://spotifycharts.com/viral/jp/weekly/latest

 Spotifyの「バイラルトップ50(日本)」は、最もストリーミング再生された曲をランク付けした「Spotify Top 50チャート」とは異なり、純粋にファンが聴いて共感共有した音楽のデータを示す指標を元に作られたプレイリスト。同チャートを1週間分集計した数値の今週分(6月4日公開:5月28日~6月3日集計分)のTOP10は以下の通り。

1位:yama「春を告げる」
2位:瑛人「香水」
3位:YOASOBI「夜に駆ける」
4位:優里「かくれんぼ」
5位:Shuta Sueyoshi「HACK」
6位:神はサイコロを振らない「夜永唄」
7位:DISH//「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」
8位:Meland×Hauken「Chernobyl 2017」
9位:YOASOBI「ハルジオン」
10位:オレンジスパイニクラブ「キンモクセイ」

11位:韻マン「Change My Life」
12位:浪漫革命「あんなつぁ」
13位:jon-YAKITORY「シカバネーゼ」
14位:Rin音「snow jam」
15位:あいみょん「裸の心」
16位:宇多田ヒカル「Time」
17位:てにをは「ヴィラン」
18位:Gaho「Start」
19位:チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」
20位:Vaundy「灯火」

 1位 yama「春を告げる」から8位 Meland×Hauken「Chernobyl 2017」は先週もトップ10にランクインしていた楽曲たちであり、TikTok経由のヒットを生み出したことで、バイラルチャート上での圧倒的な強さを見せ続けている。そんな中で今週は、19位にランクインしたチャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」を取り上げたい。

(関連:「Black Lives Matter」の“時代を超えた連帯”

 5月25日、アメリカのミネソタ州ミネアポリスで、ジョージ・フロイド氏が路上で警官に首を押さえつけられて亡くなる事件が起きた。それを受けて、アメリカを中心に世界中で「Black Lives Matter」を掲げた抗議運動が拡大しているのは、連日報道されている通りだ。現地の音楽業界では「#TheShowMustBePaused」のハッシュタグとともに、6月2日に黒人差別撤廃に向けたストライキ「Black Out Tuesday」を実施する動きが広がり、多くの人々が黒い画像をSNSに投稿することで、理不尽な差別に抵抗する意志を表明していった。そして同日、Spotifyが全58曲入りのプレイリスト『Black Lives Matter』を公開。ここ日本でも、収録されていた楽曲の再生回数が急上昇し、「This Is America」も再び大きな注目を浴びることとなった。

 「This Is America」はまるでアメリカの写し鏡のように、社会の有り様を生々しく過激に描いた歌詞と、日本人監督のヒロ・ムライが手がけたMVが大きな話題を呼んだ2018年の楽曲。そこで揶揄された最大のテーマは、アメリカの歴史に根深く横たわる黒人差別問題で、チャイルディッシュ・ガンビーノとして活動するドナルド・グローヴァー自身の“アメリカ社会における自身の立ち位置”を反映させたパーソナルな内容でもある。その一方で、格差社会や銃社会、それらが引き起こした実際の黒人殺害事件へのリファレンスを効果的に配することで、アメリカの現状と成れの果てをひと塊にして突き出した強烈な1曲となった。今回の事件の内容をそのまま歌っているようにも聴こえる同曲の歌詞は、今の社会が改善されることがない限り、永遠にリアルな言葉として刺さり続けるのかもしれない。

 ここで今週(6月4日公開)の各国のバイラルチャートを見てみると、同じくプレイリスト『Black Lives Matter』収録の楽曲が多数ランクインしており、「This Is America」はアメリカで45位、イギリスで50位、グローバルチャートでは43位を記録している。特にアメリカでは、ポエトリー調の歌唱で〈革命はテレビに映らない〉と歌った1971年のギル・スコット・ヘロン「The Revolution Will Not Be Televised」が6位に、差別事件の現場を叫びながら訴え、銃を突きつけられたジャケット写真が印象的な2018位のJAG「Kapernick Effect」が7位に、若き日のディアンジェロとブライアン・マックナイトが手がけた1994年のアンセム、B.M.U.「U Will Know – Extended version」が14位に、“黒人としての誇りを高らかに叫べ”と歌って公民権運動の象徴にもなった1968年のジェームス・ブラウン「Say It Loud – I’m Black and I’m Proud」が38位にランクインするなど、戦後のアメリカ史において「Black Lives Matter」に共鳴してきた幅広い年代の楽曲が改めて聴かれている印象だ。対する日本でも、80年代以降高い人気を誇るPublic Enemy「Fight The Power」が23位に、事件後に感動的なスピーチを通してレイシズムの撤廃を訴えたキラー・マイクによる「Don’t Die」が24位に入るなど、プレイリストから計9曲がトップ50にランクインしている。

 今週のバイラルチャートから浮かび上がってくるのは、“時代を超えた連帯の意識”が世界中で高まっているということだ。どんなに新型コロナウイルスが未知の脅威であったとはいえ、貧困の割合が高い黒人層から重症化していったり、仕事を失ったりしていくという、人種差別が作り上げてきた構造的な問題の根本は変わっていない。そんな最中に起きた今回の事件は、本当に悲しく辛い出来事だが、現代に生きる我々一人一人が重く受け止め、生き方を律して、自分には何ができるかを改めて考え直す機会にしていかなければならない。

 プレイリスト『Black Lives Matter』はアグレッシブな楽曲が並ぶが、決してそれは攻撃ではなく、「自由と居場所を獲得するために、愛と誇りを持て」と歌い続けてきた偉大なる先人たちの歴史なのだ。それらを教訓にしつつも、自分たちのやり方でどう時代を切り拓くかが問われている2020年だが、『Black Lives Matter』に並ぶ楽曲をシェアするだけでも、自らの意志を表明することができるし、立場が違う人々同士でも音楽を通じたユニティを作ることができる。音楽は常に時代と社会と隣り合わせにあるものだからこそ、本当の意味で人々が立ち上がる時に力になってくれる。それが改めて証明されたような今週のバイラルチャートだった。(信太卓実)

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