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映画『音量を上げろタコ!』ロックへのこだわり 兵庫慎司が音楽描写に感じた“リアル”とは?

リアルサウンド

18/10/23(火) 8:00

 「驚異の歌声を持つ世界的ロックスター・シンと、声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうか。正反対の2人は偶然出会い、ふうかはシンの歌声が“声帯ドーピング”によるものという秘密を知ってしまう! しかもシンの喉は“声帯ドーピング”のやりすぎで崩壊寸前! やがて、シンの最後の歌声をめぐって、2人は謎の組織から追われるはめに。」

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 以上、ご存知ない方のために、まず宣伝文を丸写ししましたが、三木聡監督の最新作である『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』は、そのようなストーリーのロックムービーである。なので、シン(阿部サダヲ)もふうか(吉岡里帆)も劇中で自分の曲を歌うし、それ以外にもいくつかバンドが出て来る。

 劇中曲は7曲で、プロデューサーの西條善嗣が制作。キューン・ミュージックの仕事が多い制作マンで、普段グループ魂やPOLYSICSを手がけている方です。

 シンが歌う「人類滅亡の歓び」は作詞をいしわたり淳治、作曲をHYDEに依頼。ふうかが歌う「体の芯からまだ燃えているんだ」はあいみょんが書いてTHIS IS JAPANが演奏。「まだ死にたくない」「ゆめのな」はチャットモンチーを「完結」させたばかりの橋本絵莉子が詞曲を提供。「夏風邪が治らなくて」は、安部勇磨が書いてnever young beachが演奏。

 シンのバンドメンバーはギター:PABLO、ベース:KenKen、ドラム:FUZZY CONTROLのSATOKO。バイきんぐ小峠英二がボーカルのパンクバンド・ダエマオハギツの曲はグループ魂の遅刻こと富澤タクが作詞(監督と共作)&作曲&編曲&演奏&出演、そのバンドのリズム隊がニューロティカのKATARUとNABOで、演奏&出演。家の前でゴリラが死んでる(というバンド)のボーカルが清水麻八子であることは、映画仕事の多い声楽家なので納得だが、メンバーはなんと八十八ヶ所巡礼の3人。

 どうでしょう。「そこまでやらなくても!」としか言いようがないでしょう、なんだかもう。いや、すごいよ? すばらしいキャスティングだと思うよ? 思うけど、正直、伝わりにくいと思う、というか伝わる人がものすごく限られると思う。「ああ、だから曲自体も劇中の音楽シーンも、ここまでいい感じに仕上がっているのか!」ということが。

 ちなみに、その7曲以外の、映画全体の音楽は、上野耕路が担当している。映画、ドラマ、CMの音楽仕事でひっぱりだこだし、三木監督とよく仕事をしている方でもあるが、もうこうなって来ると「80年代にハルメンズでサエキけんぞうと、ゲルニカで戸川純と組んでた人だよな」という方向で解釈したくなって来るのだった。

 三木監督が当てブリが嫌いなため、すべての音楽シーン、本当に演奏し、歌っているそうだ(さすがに音はあとからかぶせているだろうが)。だから本物のミュージシャンを起用したのだろうが、よって本物のミュージシャンではない吉岡里帆は、どえらいレベルで歌とギターの練習をする必要に迫られた、という。

 とにかく、そんなようなわけで、「ロックファンが鼻白む思いをせずに観ることができるロック映画」を目指して作られた、それがこの『音タコ』だというふうに、私は解釈しました。

 あ、あともうひとつ。映画の骨格になっている「シンが“声帯ドーピング”で驚異の歌声を手に入れた」という設定。これ、「現実にはありえない荒唐無稽な話だからおもしろい」という動機で書かれたのか、それとも「実際にありうるからリアル」という意味合いだったのかは知らないが、僕個人としては、完全に後者の気持ちで観ました。

 もともとすごい声が出ない人が“声帯ドーピング”でそれを手に入れた、という実例は僕は知らないが、「もともとすごい声が出てたんだけど酷使しすぎて出なくなったのを、クスリ(違法ドラッグじゃなくて病院の処方箋で出るやつ)でなんとかする」という実例は、ひとつふたつじゃなく、知っているので。

 「あのクスリ、すごい効くけど副作用ひどいから、どうしてもって時しか使うな、って医者に言われて。それでも半年にいっぺんぐらい使わないとどうにもならない時、あるんですよねえ」

「あ、そうなんだ? 俺、毎回使ってる」

「ま、マジっすか!?」

 という、中堅ボーカリストとベテランボーカリストの会話を、目の前できいたことがあります。(兵庫慎司)

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