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真鍋"MR.PAN"崇

愛する楽器 第10回 真鍋"MR.PAN"崇のビンテージGIBSON ES-355

ナタリー

19/7/24(水) 17:00

アーティストが特にお気に入りの楽器を紹介するこの企画。今回はTHE NEATBEATSの真鍋"MR.PAN"崇が、自身のプライベートスタジオでビンテージの楽器や機材に囲まれる中、約50年前に作られたGIBSON ES-355への愛を語ってくれた。

自分の理想そのままの音

THE NEATBEATSを結成するずっと前、20歳そこそこの頃から俺は大阪でレコード店をやってて、よく海外に買い付けに行ってたんですよ。そんな中アメリカで出会ったディーラーのおじさんと仲良くなって、家に泊めてもらうようになったんです。このGIBSON ES-355はそのおじさんが持っていたものです。当時からずっと憧れて眺めたり、弾かせてもらったりして、冗談半分で「これ、俺に譲ってよ」みたいなことは言ってたんです。でも、「ノーノー、これは“キング・オブ・ギター”だから。いろいろギターを持ってきたけど、これが俺のベスト」と、譲ってはくれなかったわけです。でも、そんなこと言われたら余計欲しくなりますよね(笑)。

日本でもES-355は買えるんですけど、そのおじさんの家にあるあのギターが気に入ってたから、欲しくても買わずに「アメリカにあの1本があるしな。いつか譲ってくれないかな」と待っていたところもありました。それからずいぶん経って、そのおじさんが亡くなって、家族の人から「ES-355はMR. PANにあげてくれと言われていたから君に贈りたい」という連絡があって。譲り受けるにあたって葛藤はありましたよ。おじさんの家族に形見として残してあげたほうがいいんじゃないかと思いましたし。でも、「MR. PANにあげるのがいい。彼はずっと弾くであろうから」という遺言的な言葉があって、出会いから20年越しで俺の手に渡ることになったんです。「チャック・ベリーやキース・リチャーズにあげるなら、俺はお前にやるぜ」みたいな言葉ももらって、うれしかったですね。

ギターが届いて、いざアンプにつないで音を出してみたら、自分の理想そのままの音がしました。このギターを持ったら面白いアイデアとかフレーズが勝手に出てきたんです。それからはもうずっとこれを弾いてます。うちに来た経緯も含めて、俺にとっては運命的なギターかな。レコーディングではほかのギターもいろいろ使うんですよ。GIBSONのほかのモデルも持ってるし、FENDERはもちろん、いわゆるビザール系のギターも好き。ただ、ライブとなったときは「ああ、もうこれしかない!」っていう手応えがあるのは、このES-355なんです。

“王様”

なにしろES-355はチャック・ベリーが使っていたギターですから、やっぱり自分の中でも“王様”という気がします。もちろんLes Paulもギターとしては王様級なんですけど、俺が影響を受けたチャック・ベリーが持っていたギターとして、やっぱりこれが王様、“キング・オブ・ギター”なんですよ。「これ好き!」と思うレコードのジャケットでは、だいたいみんなこのギターを持ってます(笑)。学生の頃からそれを見てずっと憧れてました。ES-355のシリーズは俺の時代だと映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)とか、「ヘイル! ヘイル! ロックンロール」(1986年)とかにも出てきますね。

チャック・ベリーは、ライブのときでも1人で車を運転して本番の5分前に現場に着いて、トランクからギターとアタッシュケースだけ降ろして、ライブが終わったらその場でギャラをもらってすぐ帰る、というやり方を生涯貫いたでしょ。それって俺が思い描いていた理想の人物像というか(笑)。やってることは失礼なんだけど、やっぱり「ロックンローラーはこうだ!」みたいなところがある。誰ともつるまないし、メンバーは現地で雇ったその日限りの奴らだけど、「俺の曲なら全員知ってるだろ」って言える(笑)。その感覚がやっぱりキングだし、やってることがパンクですよね。ルールやデリカシーはないけど、“チャック・ベリーマナー”はちゃんとある。俺はそのスタイルがめちゃくちゃ好き。

このギターって、どっちかというとアフリカ系アメリカ人のアーティストが持ってる率が高い印象がありますね。ES-355には、フレディ・キングも弾いていたES-345、ES-335というシリーズモデルがあるんです。でも一番グレードが高いのがES-355でパーツがゴールドなんですよ。ゴールドって“成り上がった感”が表れるでしょ(笑)。最初は安いメーカーのギターで始めたブルースマンが、ちょっとお金を手に入れて「よっしゃ、GIBSON狙うわ」となってその次に、一番高い金ピカのES-355にする、みたいなイメージで俺はすごく好き。チャック・ベリーが高級車のリンカーンをずらっと並べてるのと同じ感じ。個人的にはそういう“成功の象徴”に思い入れがありますね。ビンテージという意味でのよさもあるけど、当時一番のハイグレードモデルとしてみんなが憧れてES-355を手に入れたという、そのサクセスストーリーが好きなんです。

ES-335も持ってるんですよ。だけど、やっぱり好きなのはES-355なんです。ES-335は誰もが「まずはここから行こう」と入口として選ぶ標準仕様。車に例えると、ホイールとかオプションがES-355のほうがカッコいいんです(笑)。車高も少し低くて、見た目的にもちょっと洗練されるし、乗る人も選ぶ感じ。それとこのES-355って、ステレオ仕様のギター(2台のアンプを使うなどして、2つの異なる音色を同時に出すことができるもの)なんですよ。1950年代後半では最先端の技術だったステレオ効果を取り入れたものなんですけど、当時はそんなギターなんてほぼ使い道がなかったから、実は欲しがる人もあまりいなかった(笑)。それでもあえて「この店で一番高いギターちょうだい」って言ってES-355を買う人をイメージできる。そういうところにロマンがあるんですよ。

目指すのはこのギターが似合う男

THE NEATBEATSは1997年に“1963年のブリティッシュビートバンド”という設定のスタイルで結成しました。だから楽器も機材も1963年以前のものでそろえたんです。その時代に存在してない楽器をメンバーが使ってたらおかしなことになっちゃうでしょ。楽器と機材が全部そろってから、初めてライブをしたくらい徹底してたんです。だから最初は楽器をそろえるのも大変でしたね。ギターの形、色、音、弾き方のスタイルというのは、その時代の音楽とマッチしてるんですよ。当時のギターで今みたいにがむしゃらに弾いたらダメな場合もあります。だから時代設定にこだわったんです。今はもう時代がだいぶ経って、設定では今年が1995年くらいなんですよ。だから今はもう楽器は何を使ってもいいことになってるんですけどね(笑)。

今ギターは200本くらい持っていて、それぞれに所有している理由があるんですよ。でも、その理由ってもはや音じゃないんですよ。見た目だったり、“〇〇が使ってたから”みたいなところが大きいです。見た目で惚れてるから、自分で弾いてみて「イマイチだな」と思っても買うのはやめない。逆に「こういうギターを〇〇は弾いてたんだ」というのを感じたいんですよ。それでいろいろ持ってはいるけど、自分の音楽性や今のTHE NEATBEATSのスタイルと合ってるのはこのES-355。ほかのギターもそれぞれいいところもあるけど、今の自分にマッチしてるという意味ではこれがベストです。これは絶対に手放さないでしょうね。今、兄弟を作ってあげようとES-355をもう1台探しているところです(笑)。

何でもそうですけど、昔のものって完全じゃないんですよ。ギターも同じ。100%いいわけじゃなく、短所も長所もある。俺はその短所も好きなんです。チューニングが甘いとか弾きにくいみたいなところも好きで、このES-355にもそういうところがある。でも、その使いにくさに自分を合わせていくんですよ。ビンテージのアメ車を乗りこなすように、自分のほうからそっちに行って“ES-355が似合う男”になる。そして、「MR. PANは355を持つとやっぱりいいね!」と人から言われるくらいのところに行きたいですね。

真鍋"MR.PAN"崇

和歌山県出身。1997年大阪でTHE NEATBEATSを結成する。プライベートスタジオGRAND-FROG STUDIO には1960年代ヨーロッパの名スタジオで使用していたようなビンテージ機材を保有し、さまざまなアーティストがレコーディングに訪れる。音楽レーベルMAJESTIC SOUND RECORDSを主宰するほか、50~60s専門レコード店OLD HAT GEARのプロデュースも行っている。9月25日には昨年2月に行われた「ビッグキャット・コロシアム ~スペシャル・パノラマショウ 2018~」の模様を収録した CD+DVD「LIVE AT "BIGCAT" COLISEUM ’18」を一般発売する。

取材・文 / 松永良平 撮影 / 阪本勇

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