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佐野元春がさらに追求した“ビートと言葉” 『ソウルボーイへの伝言 2019』極上のステージ

リアルサウンド

19/10/26(土) 12:00

 2020年にデビュー40周年を迎える佐野元春。佐野元春 & THE COYOTE BANDのクラブサーキットツアー『ソウルボーイへの伝言 2019』は、来年のアニバーサリーイヤーに向けたキックオフだ。佐野が『ソウルボーイへの伝言』とタイトルされたツアーを開催するのは、2010年以来、2度目。ライブハウスを中心としたツアーは約4年ぶりとなる。10月12日に予定されていた川崎CLUB CITTA’公演は台風のため中止となったが、10月15日のマイナビBLITZ赤坂公演で彼らは、“ビートと言葉”を中心にした表現をさらに追求した、極上のステージを体現してみせた。

(関連:佐橋佳幸×Dr.kyOnが語る、佐野元春らと作り上げた無国籍サウンド「Darjeelingに予定調和はない」

 細身の黒のスーツをまとった佐野、バンドメンバーの小松シゲル(Dr/NONA REEVES)、深沼元昭(Gt /Plagues、Mellowhead、Gheee)、藤田顕(Gt)、高桑圭(Ba/Curly Gi-raffe)、渡辺シュンスケ(Key /Schroeder-Headz)、大井洋輔(Per)がステージに登場し、会場を埋め尽くしたオーディエンスは拍手と歓声で迎え入れる。オープニングからビートの効いたナンバーを次々と披露し、ステージとフロアの距離が一気に縮まる。スタンディング形式の会場ならではの臨場感が心地いい。「初日はひどい天候で、残念ながらライブができませんでした。今夜はみんなで力を合わせて、ブルーな気持ちを吹き飛ばすようなライブをしたいと思います」と挨拶した佐野は、ライブ冒頭からフルスロットルだ。

 10月9日に新作『或る秋の日』(人生の秋を迎えた男女の心情を詩情豊かに描いた、シンガーソングライターとしての側面を色濃く反映した作品)をリリースしたばかりだが、今回のツアーのセットリストは、THE COYOTE BANDとともに制作した4枚のアルバム(『COY-OTE』『ZOOEY』『BLOOD』『MOON』)が中心。アレンジ、アンサンブル、演奏はさらにブラッシュアップされ、洗練度の高さと生々しい手触りを共存させたビート、そして、佐野が紡ぎ出すリリックがまっすぐに突き刺さってくる。

 すべての楽曲はシャープにデザインされているが、その奥にはきわめて豊かな音楽世界が広がっている。ロックンロール、ソウル、ブルース、R&Bといったルーツミュージックのエッセンスが内包され、(広義の)ポップミュージックの奥深さ、豊かさがしっかりと伝わってくるのだ。THE COYOTE BANDの結成から10数年が経つが、そのクリエイティビティは、いまがもっとも高いと言っていいだろう。

 もう一つの軸になっていたのは“言葉”。アルバム『COYOTE』以来、ビートジェネレーション的な手法に回帰した佐野だが、彼のリリックは作品やライブを重ねるごとに(40周年を目前にした現在においても!)研ぎ澄まされ、表現の奥行きを増している。THE COYOTE BANDが生み出すビートの快楽を味わいながら、佐野が繰り出す言葉とメロディによって様々な想像や思考を巡らせる。身体と頭を同時に揺さぶられるような体験もまた、佐野元春のライブの醍醐味だ。

 ライブ中盤では、この夏にリリースされた新曲「愛は分母」を初披露。レコーディングにはスカパラホーンズ(NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor Sax)、谷中敦(Bari-tone Sax))が参加したが、この日はTHE COYOTE BANDによるリアレンジバージョン。軽快なスカビートとポップなメロディがもたらす高揚感は、今回のツアーの大きなポイントになりそうだ。

 また、出来たばかりという未発表曲も演奏された。政治、経済を含め、シリアスな問題が山積みになっている社会の状況を見据えながらも、理想、希望を手離さないことの大切さを高らかに歌ったこの曲は、ライブ初めて披露されたにも関わらず大きな感動を生み出していた。来年のリリースに向けて制作中のニューアルバムも楽しみだ。

 アンコールでは代表曲、ヒット曲が次々と演奏され、観客の大合唱とともにフロアの熱気はさらに上がった。(そのなかには10数年ぶりにライブで披露されたという名曲も。ツアーに参加する方はぜひ楽しみにしてほしい)40年近く前の楽曲と2019年に作られた楽曲を同じステージで、完全にフラットな状態で演奏していたことも、現在の佐野の好調ぶりを証明していたと思う。

 ビート、メロディ、歌詞にビビッドに反応し、終始気持ちよく盛り上がり続ける観客の姿も(20代らしき若いオーディエンスの姿も)印象的だった。そして何より、佐野元春その人から感じられる瑞々しさ、強いエナジー、観客と真摯に向き合う姿勢に心を打たれた。最後に改めてバンドメンバーを誇らしげに紹介し、ステージを去った佐野。11月末まで続く全国ツアー『ソウルボーイへの伝言』で彼は、“2019年の佐野元春”をダイレクトに見せつけることなるはず。その先にある40周年のアニバーサリーでも、ノスタルジーに浸るのではなく、現在進行形の音楽を響かせてくれるだろう。(森朋之)

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