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NBA選手 八村塁がキーマンに? CMや応援ソングから探るヒップホップ×スポーツの動向

リアルサウンド

20/3/20(金) 12:00

 2019年6月にワシントン・ウィザーズより日本人初となるNBAドラフト1巡目指名を受けて、念願のNBA入りを果たした八村塁。その活躍ぶりは、連日のニュースで届けられている通りだが、最近では国内ヒップホップシーンを賑わせるキーマンとしても注目が集まりつつある。というのも、今年に入ってから、少なくとも3名のラッパーが八村をテーマにした楽曲を発表しているのだ。その全貌を時系列順に追っていこう。

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 まずは、JP THE WAVYが2月7日にリリースした「Louis 8」。八村の名前を冠した同曲のタイトルは、JP THE WAVYの愛好するハイブランドをオマージュしており、そのリリックもまた、“Rookie of the Year”などのワードを散りばめながら、八村に絡めて自身のボースティングに結びつける内容に。同曲のプロデュースを担当したJIGGは、これまでに「Young Rich」などでJP THE WAVYと関わってきたトラックメイカー。バスケットシューズのこすれる音や、ボールの不規則なドリブル音などをサンプリングした、何から何までバスケ尽くしなトラックが特徴的だ。

 JP THE WAVYが得意のダンスを見せるMVからも目が離せない。フックで披露するレッグスルーなど、要所にバスケ要素を盛り込みつつ、全体的にバウンシーな振付で統一しているのがいかにも彼のスタイルらしい。また、出演ダンサーらは今作のシングルジャケットが描かれたユニフォームを着用。NBAチームのロゴをオマージュしたようなプリントをはじめ、真っ白な「AIR FORCE 1」で足元を揃えたり、スニーカーヘッズなら絶対に唸るバッシュ(バスケットシューズ)の山に埋もれたりと、誰もが目を奪われるこだわりが詰め込まれた映像だ。

 続いて3月4日に、Daichi Yamamotoとトラックメイカー・KMが、大正製薬『リポビタンD』のCM「でかい夢」編に楽曲提供。同CMには八村本人も出演しており、タイトルにある“ビッグスケール”を体現するように、遥か上空のリングに力強いダンクを決める映像が収められている。そんな八村の背中を押すように、Daichi Yamamotoも力強いバースをキック。自身の努力や積み重ねで、目の前のハードルを超えることを鼓舞してほしいと歌っている。

 Daichi Yamamotoといえば、昨年9月に1stアルバム『Andless』をリリースしたばかりの若手注目株だ。同アルバムに収録された、KID FRESINOの客演参加曲「Let It Be」を機に、その多彩なスキルに気がついたリスナーも少なくはないだろう。そんなDaichi Yamamotoの現在の境遇は、NBAプレイヤーとして1年目の八村とも共通しているからこそ、リリックに込められた意味も八村にとって“自分ゴト”として響くのではないだろうか。

 さらに3月5日には、八村がイメージキャラクターを務める株式会社マキタが、オリジナルプロモーション映像を公開。八村自身も出演する同映像では、KEN THE 390がリリックを書き下ろし、八村のドリブルプレイがトラックに盛り込まれた「HACHIMURAP」を楽しむことができる。ここでは、そのシンプルで音数の少ないトラックに合わせるため、KEN THE 390もフロウが一辺倒にならないよう、様々なパターンへの切り替えに挑戦したとのこと。ラップとバスケで音楽を創りだすという異色な“セッション”が興じられたわけだ。

 ヒップホップとバスケの関係性は、どちらもストリートカルチャーと深い関わりがあるだけに、ここだけで簡単に振り返ることは難しい。ただ、最近でいえば、2018年のNBAオールスターゲームにおいて、Migosがハーフタイムショーに参加したり、同クルーのクエイヴォが、「セレブリティ・オールスターゲーム」に常連として顔を連ねたりと、何かと話題に事欠かないのは間違いないだろう。

 スポーツを盛り上げる音楽といえば、これまでの主流はやはりロックだった。しかし、近年はその流れも変わってきている。その傾向はバスケとヒップホップにおいて特に顕著であるほか、徐々に日本のスポーツ界にも、ヒップホップを応援歌とするアイデアが浸透してきているように思える。

 その例は、今夏に開催予定の「東京2020オリンピック」でも同様だ。例えば、今年1月よりオンエアを開始したNTTドコモのCMでは、SILENT POETSが5lackを客演に迎えた「東京 ~ NTTドコモ Style’20」がテーマソングに。5lackが綴るリリックは、選手らがCM内で語る言葉ともリンクしており、オリンピックという大きな挑戦への幕開けを予感させる、クールで堂々としたラップを披露している。また意外にも、同曲がリリースされたのは2016年12月。長きにわたり選手らの想いを代弁してきたことも特筆すべきポイントだ。

 さらにKID FRESINOは、2019年12月よりオンエアされている三菱地所のCMに楽曲提供。同曲のリリックは、選手らが抱える“もうひとりの自分”と対峙するプレッシャーや、それを乗り越える想いが歌われたものに。〈影は唯一 足から離れ 1人きりの空中〉といったリリックで、映像との親和性の高さを担保しつつ、PARKGOLFによるビートとの相性の良さも発揮するなど、タイアップと自分らしさの両立する姿勢に引き込まれることだろう。

 以上を踏まえるに、スポーツにおける応援歌がヒップホップへと移り変わる潮流は、少しずつだが日本においても現れはじめた。なかでも日本では、adidasやNIKE、Reebokなどのスポーツウェアブランドが、その立役者として率先している印象が強い。その象徴たる存在が、2016年に「Get Light」でReebokとタッグを組んだKANDYTOWNだろう。そのほかに、スポーツウェアブランドではないものの、2017年にはTimberlandとのタイアップ曲「Few Colors」を発表したり、メンバーのIOがadidasのプロモーションに単独で参加したりと、ステージ外でも何かと目にする機会が多いファッションアイコンだ。

 もちろん、彼ら以外にもスポーツウェアブランドの広告塔となるラッパーはますます増え続けている。日本における彼らのパブリックイメージや、ヒップホップの大衆的なポジションの変化が、これらの現象を通して示唆されているのではないだろうか。いずれにせよ、日本国内におけるスポーツとヒップホップの関係性は、八村が加わったことでその変容をより明瞭にし、果ては大きなムーブメントを巻き起こす可能性さえある。ただ、まずは本稿で紹介した楽曲を聴きながら、八村塁を中心とした今後の動向をじっくりと見守っていきたい。(一条皓太)

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