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久保帯人 meets 『ハリー・ポッター』!? 『BURN THE WITCH』アニメ版は風景描写に注目

リアルサウンド

20/10/4(日) 12:00

 レジェンドの帰還――。累計発行部数1億2000万部を誇る人気マンガ『BLEACH』の作者・久保帯人による新作マンガ『BURN THE WITCH』が、2018年に発表された読み切り版に続き、2020年の9月から全4回にわたって短期集中連載され、さらにはアニメ化。10月2日の劇場公開と同時に、Amazon Prime VideoとひかりTVでの配信が始まった。

 劇場公開と同時にAmazon Prime Videoで配信という流れは『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』や、『劇場』と同じ形式。ちなみに『劇場』は新型コロナウイルスの影響を受けての特別措置で、劇場公開からNetflix配信に切り替えた『泣きたい私は猫をかぶる』に近い形だ。

 しかしアニメ『BURN THE WITCH』においては、久保が「ネーム描いて現場と共有し、原稿も描いたものから共有し、デザインもできるだけ共有し、脚本も全チェックし、セリフやシーンの変更点も全て演出意図を確認し、オーディションも収録も最初から最後まで参加し、できるところは全て、納得いくまで協力しました」と語る通り、入念な仕込みと、チームワークによって作り出された一作。まさに「マンガとアニメの完璧な同時展開」といえるプロジェクトなのだ。

 ではまず、『BURN THE WITCH』のあらすじを紹介しよう。舞台はイギリス・ロンドン。遥か昔から、かの地における全死因の72%は、人々が見ることのできない「ドラゴン」と呼ばれる“異形の存在”が関わっていた。社会の秩序のためには、ドラゴンの管理が不可欠だが、ドラゴンはほとんどの者には目に見えない。彼らを視認できるのは、ロンドンの“裏側”に広がる街「リバース・ロンドン」の住人だけだ。したがって、リバース・ロンドンの住人たちはドラゴンの保護・管理を請け負うこととなった。

 さらに、ドラゴンの直接接触は、特別な試験をパスした「魔女(ウィッチ)/魔法使い(ウィザード)」と呼ばれる資格保持者のみに許される、というのがこの世界のルール。本作では、新橋のえるとニニー・スパンコールという“魔女”コンビが、ドラゴンにまつわる事件を解決に導く姿を描いていく。

 『BLEACH』のメインの戦闘スタイルは刀だったが、本作においては銃。『BLEACH』における「鬼道」は、「マジック♯(ナンバー)」に置き換えられる。また、読み切り版では、『BLEACH』と同じ世界線にあることが示唆され、ファンを狂喜させた。

 久保のセンスが光る基本設定、ダブルヒロインであるのえるとニニーのキャラクター、さらには『BLEACH』とのつながりなど、『BURN THE WITCH』はイマジネーションの宝庫だが、ある作品との比較も面白い。それは、『ハリー・ポッター』&『ファンタスティック・ビースト』シリーズだ。

 『BURN THE WITCH』のリバース・ロンドンとフロント(表)・ロンドンという設定は、魔法界と人間界を想起させるし、「魔法使い」と「魔女」という単語も出てくる。読み切り版では、「電話ボックスがリバース・ロンドンとフロント・ロンドンをつなぐ移動手段」として描かれ、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』と共通する要素も。

 のえるとニニーが使う、笛にも銃にもなる武器は杖に代わるものとも見ることができ、ドラゴンに乗って移動するのはほうき、さらにマントと制服というコスチューム、新聞がリバース・ロンドン用に切り替わる設定や、ドラゴンを飼育する描写など、両シリーズを比較するだけでも楽しめる。言い過ぎなきらいはあるが、久保帯人 meets 『ハリー・ポッター』的なワクワク度を感じられるのは、確かだ。

 ではここからは、その『BURN THE WITCH』のアニメ版について、ご紹介していきたい。

 久保作品の大きな魅力には、彼のデザイン性あふれる世界観や画面構成、卓越した画力によるアクションの見せ方などが挙げられる。アニメ化されたことでどんな変化が観られるのか、が気になるところだったが、ここで興味深いのが、アニメーション制作が 「teamヤマヒツヂ/スタジオコロリド」であること。

 スタジオコロリドといえば『台風のノルダ』『ペンギン・ハイウェイ』『泣きたい私は猫をかぶる』といった、イマジネーション豊かで心温まる作品のイメージが強い。スタイリッシュかつソリッドな久保の世界観とどんな融合が図られるのか、なかなか予測がつきにくかったものの、いざ蓋を開けてみれば、両者の“いいとこ取り”が実現できていた。

 とくに際立っていたのは、風景描写だ。原作マンガからアクションシーンのスケールが増大しているが、舞台がアパートの一室だったのが、ちょっとジブリっぽさも感じられる昔ながらのレンガ造りの家に変更がなされていたり、凶暴化したドラゴンがリバース・ロンドンを縦横無尽に駆け回るシーンを入れたことで、観る者によりくっきりと世界観を提示している。

 建物を水彩、あるいはクレヨン調に描いている絵本チックな部分も、実にスタジオコロリド的。このように、街並みの描写に見られるような「懐かしさ」は、スタジオコロリドの得意技ともいえ、久保が生み出した現代的なヒロインたちとの融合が新鮮だ。

 また、植物の生き生きとした描写、雨、風、空、雲といった自然現象の豊かな表現もスタジオコロリドの特長だが、『BURN THE WITCH』はほぼ全編にわたって屋外が舞台という珍しいつくりになっており、コロリドならではの空の描写力が存分に発揮されている。物語が進むにつれて青空から夕暮れ、夜空へと移り変わっていく空の様子にもぜひ、注目していただきたい。

 風の動きは、のえるとニニーがドラゴンに乗って空を舞うシーンなどに顕著で、クライマックスで展開する怒涛の空中戦など、飛行シーンが「風」によって表現されている。対象物がハイスピードで動くだけでなく、その際に生じる風圧まで組み込んで描いている部分は、なかなかに画期的だ。

 主に映像面について書き連ねてきたが、ストーリー的には、原作を忠実に再現している。前半は、ドラゴンを呼び寄せる体質となった「ドラゴン憑き」の青年・バルゴを中心とした物語、後半にはニニーの友人メイシーが絡んだ物語。その中で、「童話竜(メルヒェンズ)」と呼ばれる、強大な力を持つ7頭の古代竜の存在が明かされ、この先のより大きな展開を予見させる。

 同時に、のえるとニニーの上司や、突如登場したアイテムなど未回収の謎が多く残された形となり、既に発表済みの原作マンガ『BURN THE WITCH』シーズン2、さらにそのアニメ化への期待が高まるところ。さらに、よりダイレクトな『BLEACH』とのつながりも……。こうしたクリフハンガー的な“引き”の上手さも、百戦錬磨の久保帯人らしさを感じさせる。色々と妄想や考察は尽きないが、続きが楽しみなビッグコンテンツがまた一つ誕生したのは、間違いない。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■公開・配信情報
『BURN THE WITCH』
新宿ピカデリーほかにて2週間限定イベント上映中
Amazon Prime Video、ひかりTVにて独占配信中
配給:松竹ODS事業室
(c)久保帯人/集英社・「BURN THE WITCH」製作委員会
公式サイト:burn-the-witch-anime.com
公式Twitter:@BTW_anime

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