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Omoinotakeの歩みから見える“誠実さ” 『THE HOME TAKE』で披露した「One Day」が灯す希望の火

リアルサウンド

20/5/30(土) 14:00

 新型コロナウイルスの影響により、ライブやコンサートが開催自粛となって早くも3カ月以上が経過した。音楽家は「現場で演奏する」という大切な表現方法を奪われたままだ。まともにCDをリリースすることも困難な状況下で、自身のスタンスを保ちながらどうやって音楽を届けるか。今まさに、多くの音楽家たちの前に立ちはだかっている壁である。だが、配信コンテンツ、特にYouTube上でのライブパフォーマンスは、緊張感のあるアーティストの姿を見られるからこそ需要は高まっていると言えるだろう。本稿の主役、Omoinotakeは5月29日、アーティストが自宅やプライベートスタジオから一発撮りで演奏を届けるYouTubeコンテンツ『THE HOME TAKE』に出演し、視聴者に素晴らしい音楽を届けた。試行錯誤の時代にバンドとしての熱量をしっかり感じられるパフォーマンスだったが、彼らの歩みを振り返ってみると「自分たちの音楽をどうやって真摯に聴き手に届けようか」という問題意識と常に向き合い続けてきた歴史があったと思う。

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 Omoinotakeは、藤井レオ(Vo&Key)、福島智朗(Ba&Cho、通称:エモアキ)、冨田洋之進(Dr&Cho、通称:ドラゲ)で結成された島根県出身の3ピースバンド。福島の筆による衒いのない歌詞、それを伸びやかに表現する藤井の美しい歌声とピアノのメロディ、高いプレイヤビリティでタイトに刻み、歌を引き立てる冨田のドラム。ベーシストが作詞し、ボーカリストが作曲するという珍しいソングライティング体制だからこそ、彼らの演奏の中心には、互いの気持ちを理解し合おうと最大限に努める「誠実さ」がある。結成から8年、ストリーミング上でも着実に再生回数を伸ばしているのは、彼らの音楽が“一人一人に届けること”をしっかり意識した誠実なポップスであるからに他ならない。

 とはいえ、バンドの原点を辿ってみると、藤井はHi-STANDARDなどのパンクをルーツに持ち、もともと衝動的な音楽やギターヒーローへの憧れもあったというのだから面白い。そこに冨田の趣向性も相まって、次第にピアノを活かしたジャズ的なアレンジや、グルーヴィなリズムワークが加わっていき、「Hit It Up」や「fake me」のような軽快でダンサブルな楽曲が生まれていく。ミニアルバム『beside』(2017年)の頃には、タイトル通り誰かに寄り添うような優しいメロディの楽曲が作品の中心を占めるようになっていった。この頃の変化について、藤井は「アコギ1本でも成立するくらいシンプルな歌モノを目指した」と語っており、これまで以上に言葉を届けたいという想いが強く表れた瞬間でもあっただろう。踊れるサウンドで、聴き手の足元に光を照らすような歌詞の「Ride on」は象徴的な楽曲である。そこから1年後の『Street Light』(2018年)は、よりメロウで都会的なサウンドへ挑戦し、ソウル、R&B、ヒップホップなどに幅広く傾倒した意欲作であった。「Friction」など、過ぎ行く時代の速さと自己探求を表現したような楽曲もあり、世の中のリアリティを体現するメッセージにさらなる深みが出てきた時期だったと振り返る。

 そして今年2月にリリースされた3rd ミニアルバム『モラトリアム』は、『beside』で生まれた歌詞への意識変化と『Street Light』での音楽的な挑戦、その両方が王道のポップソングとして結実した会心の作品であった。表題曲「モラトリアム」をはじめ、打ち込みを随所に配置してリズム面を強化しながら、ポップスとしての洗練されたメロディが冴え渡っており、その中で自分自身と向き合い抽出された、純度の高い言葉が歌われているのだ。アニメーションのMVが印象的な「惑星」もバラードとして高い完成度を誇っている。「自分にしかわからないようなことが、逆にいろんな人に届く。それが普遍性なんだなっていうのが『惑星』で掴めた気がします」と福島がインタビュー(参照:billboard JAPAN)で答えている通り、ソングライティングに一つの確信を得たような清々しさが『モラトリアム』全体に通底している。耳を惹くサウンドやメロディと、心にじんわり沁みる歌詞ーーそれは「行き交う人々を立ち止まらせ、少しでも長く聴いてもらいたい」という長年のストリートライブの経験が、楽曲に根づいている証でもあるだろう。

 本来であれば2020年の春は、『モラトリアム』を引っさげてのリリースツアーや、自主企画『FACE TO FACE』などを通して、Omoinotakeが多くの人々に音楽を届ける季節になるはずだった。しかし、コロナ禍によってツアーは延期、自主企画は中止を余儀なくされる事態に。そんな状況でも彼らは4月から3カ月連続配信を行い、積極的なリリースを続けている。「欠伸」に続いて第2弾で配信された「One Day」は、昨年の夏からすでにあった楽曲に、昨今の社会情勢を受けて急きょ歌詞を書き下ろし、リリースすることになったのだという。また、この曲は配信に先駆けて歌詞を公開し、ファン投票でジャケット写真を決定したり、募集した映像素材を使ってMVを作成するなど、Omoinotake史上初めての試みに多く取り組んだ楽曲でもある(MVは現在制作中)。まさに一人一人の気持ちが重なり、相手を思いやることで音を奏でていくOmoinotakeらしさが体現されている。

 そして5月29日22時、Omoinotakeが『THE HOME TAKE』に登場。演奏されるのは「One Day」だ。「たくさんの約束が消えてしまったこの期間を超えて、いつか必ず再会できますように」という願いが語られた後、静かな熱を帯びて藤井が歌い始める。現状をありありと描写した〈笑い合う声も消えた街 疲れ果てた顔して〉は、渋谷という街でストリートライブを行ってきた彼らが歌うからこそ刺さる言葉でもある。後を追うようにベースとビートがゆっくり入り込んでいくが、〈涙に震える君の肩を抱きしめることさえも/ままならないfoggy night きっと答えはない〉という歌詞とともに徐々にテンポが加速し、サビの高揚感へと一気に繋がっていく。〈だから僕は灯火が消えないように/今歌うから〉という叫びからは、この状況下でも歌を届けることで誰かの心に火を灯すことができる、それだけが答えを見つけ出すための確かな道なんだという、表現者としての強い意志を感じ取った。

 2番に入るとアレンジをガラリと変え、あえてピアノを弾かないことによって言葉を際立たせる巧みな展開もさすがだ。楽曲を下支えする福島のベースと、緩急自在な冨田のビートを存分に味わえるパートでもあるだろう。サビを終えた後の〈そばにいたいと声を枯らすよ/これ以上何も奪われないように/絶えず鼓動をここで鳴らすよ〉というパートは、藤井の美しいファルセットと相まって胸を締めつける、この曲のハイライトとも呼びたくなる瞬間だ。そして結びの言葉は〈再会を誓い合いたいtonight 繋ぐその先で〉。3人が想いを重ね、そして一人一人のファンとも心を通わせたことでリリースに至った「One Day」が、この言葉で締めくくられるのはとても素敵なことだと思う。今はまだ見えなくても、決して出口がないわけじゃない。明るい未来で再会を誓う「One Day」は、この苦難の時代を切り抜けるための希望のアンセムとなるはずだ。

 『THE HOME TAKE』の放送時間はわずか4分30秒だが、非常に濃厚な音楽体験であった。オンラインでもこんなに力強く響くのは、上述したように、誠実に歌を届けようと試行錯誤してきたバンドの歴史があるからであり、それを『モラトリアム』という作品で一つの形に落とし込むことができていたからでもある。ポップスの王道を行くバンドとして、Omoinotakeは今、キャリア史上もっとも切実で普遍的なメッセージを放つことができており、ソングライティングも演奏もますます磨きがかかっている。バンドとして非常に旬な時期を迎えているのだ。そんなパフォーマンスを生で体感できるのはもう少し先かもしれないが、6月12日にはホームとなる渋谷Milkywayから配信ライブを行ってくれるそうで、彼らは決して歩みを止めることなく進み続ける。必ずライブハウスでOmoinotakeと再会できる日が来るはず。その日まで「One Day」を聴きながら、胸に希望の火を灯して生きていこう。(信太卓実)

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