Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

中国SF文学『三体II』はなぜブームとなったのか 文芸書週間ランキング

リアルサウンド

20/7/17(金) 17:08

■週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(7月7日トーハン調べ)
1位 『気がつけば、終着駅』 佐藤愛子 中央公論新社
2位 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ 新潮社
3位 『流浪の月』 凪良ゆう 東京創元社
4位 『きたきた捕物帖』 宮部みゆき PHP研究所
5位 『心霊探偵八雲(12) 魂の深淵』 神永 学 KADOKAWA
6位 『冒険者をクビになったので、錬金術師として出直します! 辺境開拓?よし、俺に任せとけ!(4)』 佐々木さざめき 双葉社
7位 『美女ステイホーム』 林真理子 マガジンハウス
8位 『三体II 黒暗森林(上)』 劉 慈欣/著、大森 望、立原透耶、上原かおり、泊 功/訳 早川書房
9位 『クスノキの番人』 東野圭吾 実業之日本社
10位 『三体II 黒暗森林(下)』 劉 慈欣/著 大森 望、立原透耶、上原かおり、泊 功/訳早川書房

 7月の文芸書ランキング、注目はなんといっても8位と10位にランクインした『三体II』だろう。昨年7月に刊行された第1巻は、バラク・オバマ前米国合衆国大統領や、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ氏らも夢中になったという触れ込みで日本に上陸するやいなや、発売後1週間を待たずに、10刷。累計8万6千部を達成したベストセラー作品だ(ちなみに全世界では、昨年9月の段階で2900万部を売り上げている)。続編を待ち望む声も多く、このたび刊行された『II』は、上下巻ともに初版は6万部。発売4日目に重版が決まり、累計発行部数は14万部となった。

関連:【画像】世界で2900万部を売り上げる『三体』日本版書影

 本が売れなくなったといわれるこの時代に、約2,000円もする海外SFがなぜこれほどのブームを巻き起こしたのか。詳細については、訳者のひとり・大森望氏を筆頭にさまざまな論者がインタビューに答えているのでそちらを読んでいただきたいが、驚嘆し夢中になった読者の声をきくと共通しているのは「全部入っている」ということ。

 世界的物理学者たちが立て続けに自殺している謎を、主人公のひとりである男性科学者が学術団体に潜入して探るスパイミステリー、かと思いきや、「三体」と呼ばれる奇妙なVRゲームに出会ったのをきっかけに、宇宙人からの侵略という壮大な物語へと展開していく。

 専門家顔負けの歴史や科学の知識を下敷きに、過去と現在を交錯させながら、ラブストーリー要素をはじめ、ありとあらゆるエンタメ要素を詰め込んで描かれる究極の“物語”なのだ。大風呂敷を広げることをおそれない「ものすごいハッタリ」が『三体』の魅力であり、SFファン以外の読者も惹きつけている理由だと前述の大森氏は述べている。

 「なんか難しそう」「読みきれる自信がない」と思っている人のなかにも、『スター・ウォーズ』や『ONE PIECE』は全作観て(読んで)、伏線もつながりも細かくチェックしています!という人はいるだろう。物語のおもしろさにジャンルの境界はない。現実を忘れてなにかに夢中になりたい、という人はこれを機会にぜひ手にとってみてほしい。

 5位の『心霊探偵八雲(12) 魂の深淵』 は、累計700万部突破したシリーズの完結編。主人公は赤い左眼で死者の魂を見ることのできる大学生・斉藤八雲。同じ大学に通う同級生・小沢晴香にある事件をもちこまれたのをきっかけに、助手となった彼女とともにさまざまな謎を解決していくミステリーなのだが、論理的な推理と理屈ではわりきれない心霊現象が両立しているところが本作の読みどころだ。そして事件の影に見え隠れする「赤の両瞳をもつ男」と八雲の因縁や、秘められた八雲の過去。16年かけて描かれてきたすべてに決着がつく最終巻、待ち望んでいたファンの多さを証明するように堂々のランクインとなった。

 新型コロナウイルスにくわえ、続く低気圧と雨模様になんだか鬱々としていて、「重たいものを読む気力がない」という人も多いだろう。その世相を反映してか、エッセイが2冊ランクイン。96歳を迎えた佐藤愛子の、半世紀に及ぶ『婦人公論』連載のなかから特に読み応えのあるものを収録した『気がつけば、終着駅』が話題作をおさえて1位に。7位『美女ステイホーム』は、林真理子による雑誌『anan』の連載「美女入門」シリーズ第18弾。ひとりの時間が増えた今、静かに自分の来し方をふりかえり、心の内側を覗いてみるのもいいかもしれない。

(文=立花もも)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む