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和田彩花の「アートに夢中!」

『トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション』『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』

毎月連載

第55回

『トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション』

今回、まず最初にご紹介するのが、横浜美術館で開催中の『トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション』です。

この展覧会は、横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館の3つの美術館から、美術館を代表する20世紀西洋美術の名品が揃うという、とっても豪華な展覧会です。各館が自身のコレクションを自分たちの美術館で見せることはありましたが、こうやって集めて、見せる、ということはこれまであまりなかったと思います。

抽象画が好きになる

私はこれまでずっと、マネをはじめとしたフランスの具象絵画を中心に見てきました。そういった絵が好きでしたし、何が描かれているのかがわかりやすく見やすいし、語りやすかったんです。でもこの展覧会でいままであまり興味のなかった抽象絵画にも心地よさを感じ、好きになりました。

モチーフがわかりやすい具象絵画に対して、抽象絵画は具体的に何が描かれているか、ということはほとんどわかりません。だからこそ、自分で考え、解釈する余地があるな、ということに気づいたんです。

あと、ただただ見るだけで面白い、楽しいという感覚もあります。具体的に描かれたモチーフについて考えなくてもいい楽さというか。考えなくちゃならないことや、心配なことが多い今だからこそ、抽象絵画に心地よさを感じたのかもしれません。

フランティシェク・クプカ 《灰色と金色の展開》1920-21油彩、カンヴァス 愛知県美術館

その中でも特に好きだった作品が、抽象絵画の先駆け的存在である、フランティシェク・クプカの《灰色と金色の展開》です。タイトルの通り、灰色と金色が、一定の形を保ちながら、まるで連続写真のように展開、変化していきます。

超シンプルな作品だけど、色や形、そのすべてが自分にとって心地の良い作品でした。でも皆さんが想像するような抽象絵画よりは、まだ具体性が残っていると感じませんか? 例えば人が動いている残像のように見える人もいるかもしれません。こういった具体と抽象が入り混じり、かつ、変化していく過渡期をこの絵から垣間見ることができる、重要な作品の一つだなって思いました。

それにフランシス・ピカビアにも興味を持ちました。今回1点のみの展示だったのですが、少し調べてみると、彼は何度もそのスタイルを変えているんだそうです。だからここで見たピカビアのイメージのままでいると、次にピカビアの作品に出会ったとき、まったく違う人の作品と思うかもしれないということです。そういう楽しさを持っている画家と出会えたのも収穫の一つでした。

ジユアン・ミロ

展示風景:左からジュアン・ミロ《花と蝶》1922-23 横浜美術館、ジュアン・ミロ《パイプを吸う男》1925 富山県美術館、ジュアン・ミロ《絵画》1925 愛知県美術館

さらに今回は、いままでほとんど見てこなかったジュアン・ミロがこんなにも面白いのか、と気付き、ちょっとその面白さに取り憑かれてしまった感じがしました。この人も抽象と具象を両方、またはその間を描くという感じで、前の時代からの流れを継承しつつ、独自の路線を歩んだ人です。今回も具体と抽象、そしてその間のような作品が並んでいました。

私はその中でも、《絵画》という作品が好きでした。その画面はなんとも不可思議で、色も単純。荒く塗られた画面に、黒い線がただ描かれ、よくわかりません。だからこそ、ぼんやりと見られたというか、ただただ好きだなあ、面白いなあと思い、時間が経つのを忘れてしまいました。

国内のコレクションの厚さを実感

20世紀の西洋美術といえば、欧米の美術館などのコレクションから借りてきて展示される、という印象を持つ人が多いと思います。でも実は日本国内にも、こんなに素晴らしいコレクションを所蔵する美術館があるんです。いままでそれがあまり知られていなかった気がして、とってももったいないな、とも思いました。そして日本の美術館のコレクションの厚さを改めて知ることができる展覧会でもありましたね。

開催情報

『トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション』
2月28日まで、横浜美術館にて開催
https://yokohama.art.museum/special/2020/trialogue/index.html

3つの公立美術館が誇る、珠玉の20世紀西洋美術コレクションが一堂に会する豪華展覧会。20世紀の西洋美術の展開を30年ごとに区切り、各館のコレクションから厳選された作品によって、20世紀西洋美術の歴史を振り返るとともに、日本の美術館の西洋美術蒐集の足跡も追うことができる。

〈巡回予定〉
愛知県美術館 2021年4月23日(金)〜6月27日(日)
富山県美術館 2021年11月20日(土)〜2022年1月16日(日)

『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』

次にご紹介するのは、東京都現代美術館の『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』。アートディレクター、デザイナーとして日本だけでなく、アメリカでも活躍した石岡瑛子さん。その石岡さんの世界初の大規模回顧展です。開幕してから、私も本当にたくさんの人からオススメされ、早く見た方がいいと言われました。

会場には、初期の広告から、映画、オペラ、演劇、サーカス、ミュージック・ビデオ、オリンピックのプロジェクトなど、石岡さんの仕事が並び、こんなにも幅広く活躍されていたのかと驚かされるとともに、そのパワーに圧倒されました。

パルコの広告

たくさんのお仕事が並ぶ中で、私が一番心惹かれたのが、とても力強くてメッセージ性の高いパルコの広告たち。石岡さんのアートディレクションに花を添えるようなキャッチコピーもとても素晴らしくて心に響き、いまを生きる私たちにも突き刺さります。

それに、多様な人種と国籍のモデルを起用しています。それは、今のように“多様性”という言葉がまず先にくる、というよりも、適材適所というのでしょうか。この肌の色だからとか、この国の人だからとか、外国人だからとか、日本人だからとかそんなのは関係なく、石岡さんの伝えたいメッセージにあった人を使う。その潔さと信念にも共感を覚えました。

ポスター『女は明日に燃えるのです』(パルコ、1973年)
アートディレクター:石岡瑛子
撮影:横須賀功光
コピーライター:杉本英介
提供:公益財団法人DNP文化振興財団
ポスター『男は明日を見つめるのです』(パルコ、1973年)
アートディレクター:石岡瑛子
撮影:坂田栄一郎
コピーライター:杉本英介
提供:公益財団法人DNP文化振興財団

例えば「女は明日に燃えるのです」「男は明日を見つめるのです」というキャッチコピーがついた、1973年の渋谷パルコオープニングキャンペーンのために作られたポスター。めちゃくちゃかっこいいですよね。色ももちろん、構図も素敵です。とても計算された色使いで、強烈な印象を残してくれたポスターです。

ポスター『さらば故郷、ファッションに国境はない。』(パルコ、1974年)
アートディレクター:石岡瑛子
撮影:坂田栄一郎
コピーライター:杉本英介
提供:公益財団法人DNP文化振興財団

このポスターも最高です。今では、様々なタイプのモデルさんが起用され、美の価値観も多様な時代となってきましたが、当時は、美しさの価値観って閉塞的なものだったんじゃないかと想像できます。そこを恐れず、石岡さんは各モデルたちの美しさをそのまま映し出しています。誰もが特別で、好きなことを楽しんでいいんだと思わされるのではないでしょうか。

それに石岡さんの作品には、いろんな「美」が息をするように詰め込まれています。そして様々な地域の文化に関心を寄せる姿勢が、モデルとなる人たちの「美」を引き出しているように気がします。

シンプルだけど派手。シンプルだけどインパクトがあり、目に飛び込み、記憶に残る。これって広告の仕事にとってとても大事なことだと思います。でも残念ながら、そういう広告を最近あまり見かけない気がします。記憶に残りづらいというのかな、似たようなものが多いと言ったら言葉が悪いかもしれませんが。石岡さんの広告と同じぐらいこれから先、人の記憶に残り、時代の中で意味を持つ広告ってどれくらいあるでしょうか。

要素を詰めこんだり、作り込むことで人の目を惹くこともありますよね。でも本当にいろんなものがあふれている時代の中で、こういったシンプルだけど力強い画面作りというのに立ち返ることも必要なのではないか、と思わされました。

石岡瑛子という人。その世界

石岡瑛子 1983年 Photo by Robert Mapplethorpe
©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

展覧会の最後に展示されていた石岡さんのポートレイト。力強いまなざしが、様々な経験と、芯の強さを物語っているように見えました。確かに、日本からアメリカへとその活躍の場を広げたというキャリアからも、石岡さんが切り開いたものの大きさは計り知れません。

私自身、女性のあり方や多様性について発信活動も行っているので、石岡さんが歩まれた、切り開いた道があるからこそ、現在の私も自分の道への歩みを続けられるなと改めて思いました。そんな視点からも、今回の展示のパワフルさに勇気をもらい、楽しませていただきました。

石岡瑛子 映画『ドラキュラ』(フランシス・F・コッポラ監督、1992年)衣装デザイン
©David Seidner / International Center of Photography
展示風景:映画『ドラキュラ』衣裳

展覧会では、もちろんポスターだけじゃなく、石岡さんが手掛けたさまざまなプロジェクトが紹介されています。一緒に仕事をしてきた人たちも世界の超一流な方々ばかり。その中で石岡さんは時に力強く、時に想像力を駆使して独自の作品世界を作ってこられました。恐れずに自分の世界を提示し、新しい価値観やデザイン、時代を築いてきたんだということを、今回初めて知ることができました。

開催情報

『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』
2月14日まで東京都現代美術館にて開催
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/

アートディレクター、デザイナーとして、多岐にわたる分野で、世界を舞台に活躍した石岡瑛子。時代を画した初期の広告キャンペーンから、映画、オペラ、演劇、サーカス、ミュージック・ビデオ、オリンピックのプロジェクトなどから、新しい時代を切り開いた唯一無二の存在、石岡瑛子の個性と情熱が刻印された仕事を総覧する。

どちらの展覧会も、新しい発見があるとともに、日本人の、そして日本のすごさというのでしょうか、こんな美術館があって、こんな人がいるんだぞ、ということを改めて知ることができると思います。いま簡単に海外に行けない時代になってしまったからこそ、自分も含めて、当たり前に自分が住んでいる日本に目を向けることも重要になってきた気がします。それを思い出させてくれ、学びを与えてくれた、そんな2つの展覧会でした。

構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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