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w.o.d.、初のUNITワンマン公演を徹底レポート スリリングな爆音の奥に垣間見えた、素直な想い

リアルサウンド

20/2/12(水) 20:00

 たとえばNirvanaがそうであったように、時代の不穏な空気に抗うバンドサウンドには、理屈やテクニックを超越した生々しいリアリティが宿っている。すなわち、安易な二元論や固定概念に絡め取られることのない、正直で嘘のない音楽表現だ。グレーでアンビバレントな感情をそのまま吐き出す純粋さこそが、時に聴き手の心を惹きつけ踊らせるのである。1994年生まれのサイトウタクヤを中心としたw.o.d.は、そんなグランジの精神性を現代に受け継ぐ若手バンドの真打と言っていい。

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 昨年9月に2ndアルバム『1994』をリリースし、秋から年末にかけて対バンツアー『スペース・インベーダーズⅢ』『スペース・インベーダーズⅣ』、今年に入ってからはワンマンツアー『バック・トゥー・ザ・フューチャーⅡ』で全国を行脚してきたw.o.d.だが、そのツアーファイナルとなる東京公演が2月1日に代官山UNITで行われた。過去最大規模のワンマンだが、チケットはきっちりソールドアウト。注目度の高まりがよくわかる。

 思えば『1994』は、1stアルバム『webbing off duckling』以降の1年だけを切り取ったとても鮮度の高い作品だったが、対バンツアーを経たことで、その収録曲たちがどんな存在感を放つようになったのか。今回の大きな見どころである。

 開演とともに3人がゆっくりステージに現れると、静寂を切り裂くように「0」のイントロが鳴り響き、ライブがスタート。どこか悟ったように諦念を抱えながら生きてしまう世代感を体現した歌詞は、まさにw.o.d.の音楽を象徴している。と同時に、Red Hot Chili Peppers由来のファンキーなリズムを存分に味わえるのもこの曲の魅力だ。そこから「QUADROPHENIA」へ畳み掛けたかと思えば、3曲目「丸い真理を蹴り上げて、マリー。」で会場の熱気が一気に上昇。今後も彼らの代表曲であり続けるだろうこの曲は、メロディの良さを活かした演奏も抜群だし、細かいことをこねくり回さず、ひと言のインパクトで鋭く真実を突く言葉のエネルギーも凄まじい。

 勢いを緩めることなく、「Mayday」ではサイトウの激しいシャウトが、「HOAX」では中島元良の性急なドラムが、「lala」ではとぐろを巻くようなKen Mackayのベースが炸裂する。そして中盤の大きな見せ場、「ハロウ」「サニー」というミドルテンポの2曲へ突入。「ハロウ」でのサイトウは、死んだような目をして世界の広さをシニカルに歌い上げ、メロウな「サニー」では〈作り笑顔はもう崩れそう/何度も「大丈夫」呟いた〉という切実な感情の吐露が身体に沁み入ってくる。この異様なゾクゾク感は何だろうか? その気だるい叫びが、どうしようもなくロックスター然としたオーラを感じさせるのだ。カート・コバーンの姿が頭をよぎらずにはいられなかったし、サイトウ自身にもそうした立場を請け負おうとする強い決意が芽生えているように思えた。歌い手として、フロントマンとして、彼の成長ぶりがとにかく素晴らしい。

 ここでライブは折り返し地点。後半への入り口でキーになったのは、バンドアンサンブルの強度だ。「VIVID」ではタイトなドラムと緩急豊かなベースのグルーヴが、「Vital Signs」ではエッジの立ったギターソロが、「THE CHAIR」ではアグレッシブにせめぎ合う間奏が、今まで以上に輝きを放っていた。昨年のVIVA LA ROCKやSATANIC CARNIVALといった大きなステージでの経験が、確実に彼らを強くしてきていることも伺える。

 そして、この日のハイライトは「セプテンバーシンガーズ」だ。「自分が音楽に救われたように、この曲も誰かの背中を押せるようになったらいい」とMCで語ったサイトウ。夕暮れ時のような美しいメロディに彩られたこの曲は、何かをぶち壊そうとするエネルギーよりも、大切なものを守りたいという温かい気持ちで溢れている。憧れられるようなクールな存在であると同時に、時には自分の原点に立ち返って大切な想いを忘れずにいたいし、そんな音楽が誰かを鼓舞できたらいいーーそれは注目度が上がってきている中で、バンドをやる意味と真摯に向き合いながら芽生えた、本当に素直な感情だろう。この「セプテンバーシンガーズ」をどこで歌うかに力点が置かれたセットリストだったと思うし、それによって本人たちが得た手応えも大きかったはずだ。そこから「スコール」「Wednesday」「Fullface」と、1stアルバム収録の必殺曲を畳み掛けて、ラストの「1994」へ。熱量の高い楽曲の連投に、会場全体も拳を突き上げて湧き上がる。ボルテージがこの日最高潮に達したところで、本編が終了した。

 会場が明るくなってBGMが流れ始めるが、観客は誰一人として帰ろうとせず、アンコールを待つ拍手が鳴り響く。ほどなくして3人がステージに戻ってきた。「アンコールやらないとか言いながら、毎回出てきちゃうんですよね」とサイトウがひと笑い取ると、「いい曲を1曲だけやって帰ります」と言って「みみなり」を演奏。『1994』が平成の終わりとともに、サイトウ自身の「初期衝動の終わり」を告げるアルバムだったとするならば、音楽の原体験がストレートに歌詞に反映された「みみなり」でこのツアーが締め括られるのは、とても意義深いことだと感じた。改めてセットリストを見てみると、Nirvanaのようなバンドに共鳴し、平凡な日常に抗うように音楽を掻き鳴らしながらも、次第に自らの音楽家としての役目と向き合うようになり、心の奥底にあった素直な想いを露わにしていくという、バンドのストーリーを感じられたのが何より感動的だった。もちろん、どこまで意図的だったかは定かではない。だが、楽曲の見せ方が考え抜かれていて、希望的な未来への兆しがしっかり見える構成だったからこそ、素晴らしいライブになったのは間違いない。夏の対バンツアーの日程も発表されたが、このワンマンライブを経たw.o.d.はどんな進化を見せてくれるのだろうか。若き3ピースの未来が楽しみでならない。(信太卓実)

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