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HBOはなぜ往年の名作を蘇らせた? 現代と深くリンクする『ペリー・メイスン』のテーマ

リアルサウンド

20/10/2(金) 16:17

 近年の動画配信サービス台頭により根付いたビンジウォッチ文化で悩ましいのが、序盤であまり目新しさのないドラマを観続けるかどうか。E・S・ガードナーによる推理小説をベースにした往年の人気TVドラマ『弁護士ペリー・メイスン』(CBS系)を時代設定はそのままに、現在、スターチャンネルEXにて配信中の今の時代にアップデートしたHBO新作ドラマ『ペリー・メイスン』も、往年の人気ドラマのリメイクと聞くだけで、最近特にそういう作品が多いのでまたか……と思わなくもない。だが、さすがのHBO。ただのリメイクでは終わらせない。主人公ペリー・メイスン演じる(くたびれた人を演じさせればピカイチな)マシュー・リスをはじめとした俳優たちの素晴らしい演技と、1930年代初頭世界恐慌で荒むロサンゼルスを最新のVFXも駆使し、温度や香りまでも漂うような濃厚なビジュアルに仕上げている。直近で配信がスタートした第4話から最終話にかけて、クライム・ノワールから法廷劇へと発展するドライブ感と重厚さは、来年のエミー賞に絡むのではないかと思う見事な出来栄えだ。今回は俳優陣の魅力だけに留まらない、本作の魅力をお伝えしていきたい。

※次段落以降、一部ストーリーに関するネタバレあり

次第に明るみになる絶望的な社会構造の闇

 1930年代初頭にロサンゼルスを震撼させた乳児誘拐殺人事件の被疑者を弁護する旧知の弁護士EB・ジョナサン(ジョン・リスゴー)から依頼を受けた、私立探偵のペリー・メイスン(マシュー・リス)。しかし、検察がフェイクニュースさながらに、状況証拠のみで被疑者を極悪人に仕立てメディアを煽り、日に日に無罪立証が難しくなっていく。真実を証明するため、彼と相棒のピート(シェー・ウィガム)の捜査により、事件に隠された検察と警察そして新興宗教団体RAGの存在が見えてくる。

 「黒幕にいる権力」として検察や警察の登場はありがちながらも、フェイクニュースに隠れた闇が炙り出される過程には釘付けになる。また、第4話以降で描かれる白人男性特権階級の腐敗は現代にも通じていく。社会は彼らのエゴと地位、財産を守るためだけに存在して犠牲になっているのではと、絶望すら感じるストーリー展開は見応え充分だ。

 中でも地方検事で次期市長に立候補予定の地方検事メイナード・バーンズ演じるスティーヴン・ルートの悪代官ぶりはひたすらに憎たらしい。ただ憎たらしいだけでなく、社会構造を充分に活かし、賢く根回しし尽くすスマートさも兼ね備えており、憤りのやり場に困るほどだ。そして、現実世界と同様に『ペリー・メイスン』においてもピンチに現れる救世主のようなヒーローはいない。そんな視聴者を突き放すような展開にも唸る。

奇しくもコロナ禍の現在に通じるメッセージ

 本作後半の注目は、クライマックス第7話、8話も当然だが、そこに至るまでの怒涛のドライブ感醸成を一手に担ったデニス・ガムゼ・エルギュヴェン監督回である(『裸足の季節』『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』など)第4話~第6話。真実に迫れば迫るほど、検察と警察の思惑に絶望するペリー、EB、被疑者、ピートとそれでも諦めない秘書デラ・ストリート(ジュリエット・ライランス) 、警察の腐敗と人種差別に屈するのか葛藤する黒人警官ポール・ドレイク(クリス・チョーク)、それぞれの想いを細かく描き切った手腕は素晴らしい。何よりも黒幕に抗う彼らが純粋潔白では全くなく、全員が不器用で過去への後悔を抱えているところが切実だった。

 彼らは、正しいことしかしたことない人だけが正義を求めるのではなく、過去の自らの行いに対する償いとして、ある種背水の陣として正義を求めていく。しかも今回の事件を通して償いたい過去は全員全く別のもの。世界恐慌中という、奇しくも現在のコロナ禍にも似た、世界が不安に苛まれる時代に、ただ事件解決に奔走するのではなく、自分自身の心の救済として正しさを求めるキャラクターたちへの感情移入はただならぬものがある。

 そのキャラクターたちのなかでも、極めつけは新興宗教団体のカリスマ福音伝道師シスター・アリス(タチアナ・マズラニー)だ。狂信的な妖しい女性としてだけ描くのではなく、彼女もまた一人の人間として掘り下げるストーリーラインは、今回のリメイクの中でも革新ともいえる。たびたび登場するシスター・アリスが信者を煽動する場面では、殺害された乳児の母親エミリー(ゲイル・ランキン)をはじめ、狂信的な信者が盲目なまでに彼女にすがり、救いを求めてるようで危うさもある。そして、本作では最終話に向け思いがけない一面を見せていくところが面白い。シスター・アリスと自身の母との関係、エミリーの交流を描きながらのラストは、それまでに抱いたシスター・アリスへの感情をいい意味で裏切ってくれる展開になっている。私たちがメディアに触れる度に過剰な煽動に飲み込まれていないか、自分が思う正しさは一体何を持って正しさとしているのか……今一度自分自身の視点の持ち方を考えさせてくれる最終話は必見だ。

 2020年は国内外問わず暗いニュースばかりだ。しかしその中で、絶望する社会に対して今自分に何ができる点のか、本当に目の前の情報は正しいのか……そういった視点を持って本作を観ることで、この時代に敢えて往年の名作をリメイクした理由が見えてくる。期せずして現代と深くリンクしたストーリーは高く評価され、すでにシーズン2の製作も公式発表されている。ぜひ今に通じる部分を頭の片隅に置きながら楽しんで頂きたい。

■キャサリン
Netflix、Amazonプライムビデオ等のストリーミングサービスで最新作を追いかける海外テレビシリーズウォッチャー。webメディアなどで執筆。noteTwitter

■配信・放送情報
『ペリー・メイスン』(全8話)
【配信】
スターチャンネルEXにて配信中
【放送】
字幕版:BS10 スターチャンネルにて10月27日(火)23:00より放送予定
※10月25日(日)第1話無料放送
吹替版:BS10 スターチャンネルにて11月4日(水)22:00より放送予定
※11月4日(水)第1話無料放送
製作総指揮;ロバート・ダウニーJr.、スーザン・ダウニーほか
監督・製作総指揮;ティモシー・ヴァン・パタンほか
出演:マシュー・リス、タチアナ・マズラニー、ジョン・リスゴー、ジュリエット・ライランス、クリス・チョーク、シェー・ウィガム、ゲイル・ランキン、ネイサン・コードリー、スティーヴン・ルート、アンドリュー・ハワード
(c)2020 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. All Rights Reserved.
スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS:https://www.amazon.co.jp/channels/starch 
BS10 スターチャンネル:http://www.star-ch.jp

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