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令和のアーティストとSNS 第1回 松島功&宮本浩志が教える、デジタルプロモーションで押さえておくべきポイント

ナタリー

20/9/4(金) 17:00

左から松島功、宮本浩志。

SNSの普及により、アーティストが自分の言葉でファンにメッセージを送る機会が増えている。新型コロナウイルスの影響による外出自粛要請はその流れを加速させ、さらに瑛人の「香水」などTikTokが起爆剤となったヒット曲も登場し始めた。新たなトレンドも生まれる中、アーティストはSNSとどのように向き合うべきなのか。この連載では、実際のアーティストの声を中心に、新時代におけるアーティストとファンのコミュニケーションの形について探っていく。第1回は、元Spotifyで現在デジタルプロモーション / マーケティング会社arneの代表を務める松島功氏と、キングレコード、広告代理店を経て現在LINE株式会社に籍を置き、noteに「音楽マーケティング」について投稿している宮本浩志氏の対談をお届けする。アーティストを間近で見てきた2人は、デジタルプロモーションで押さえておくべきポイントをさまざまな角度から教えてくれた。

取材・文 / 丸澤嘉明 撮影 / 後藤壮太郎

音楽マーケティングとは

──SNSを活用して商品やサービスの認知およびブランディングを行う「SNSマーケティング」の重要性が企業に浸透してきていますが、音楽業界に置き換えたときにSNSをどう活用すべきかあまり語られていない印象があります。

宮本浩志 そうですね。それは僕もレコード会社にいたときに感じていました。

──なのでまず初めに、音楽業界におけるSNSマーケティング、つまり「音楽マーケティング」を定義したいと思うのですが、どのような説明になるでしょうか?

宮本 マーケティングの世界では「顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達するための活動」みたいな小難しい定義があるんですけど、音楽に関して言えば「ファンや世の中が欲しいものをつくる、届ける、愛される仕組みを作ってファンを増やす」という行為になると思います。プロモーションというと何かを仕掛けることに意識が行きがちですけど、そうじゃなくてアーティストとファンの関係が永続的に自走する仕組み作りのほうがイメージが近いですね。

松島功 宮本さんは「仕組み作り」と表現されていますけど、僕も思っていることは一緒で。今の時代、何百万円かけた広告よりもアーティスト自身の発信力が一番影響力があるんですね。アーティスト本人が「自分の曲を聴いてください」って言うのが一番パワフルで、そのアーティストの熱量を周りのスタッフの人たちが広げていくのが最適解になっていると思います。

宮本 リスナーの広告嫌いみたいなものも背景にありますよね。本人の言葉や楽曲、コンテンツで自然流入してもらうのが仕組み作りで、そういう状況をいかにデザインするかだと思います。

──音楽業界で働いている方たちは、実際どの程度そういうマーケティング的な視点を意識されているんでしょうか?

宮本 僕もキングレコードでずっとアーティストと向き合ってやってきましたけど、みんな必要性を感じているし勉強もしていると思います。ただ、言語化する機会があまりないというか、「言わなくてもわかるよね」という雰囲気はありました。なので若手からするときちんと学ぶ機会はあまりなくて、理解するまでに時間がかかるんじゃないかな。僕もすごく時間がかかったので。それもあって、noteにこれまで自分が勉強してきた音楽マーケティングに関する知識をまとめてみることにしたんです。でも今は、それこそ松島さんもnoteでいろいろ記事を投稿していますし、これまであまりアクセシビリティのなかった情報の民主化が進んでいますよね。それによって新しい発想が生まれて、どんどんチャレンジも起きていると思うんです。ここ1年くらいで状況が変わってきた感じはします。

──松島さんもここ1年ほどの音楽業界の変化は感じていますか?

松島 なんと言っても、ストリーミングサービスで曲を聴いてもらったり、YouTubeで動画を再生してもらったりする方向に完全にシフトしていますよね。わざわざどこかへ足を運ばなくてもクリック1つでできるので、結局デジタルマーケティング、SNSをしっかりやっている人のほうがどうしても自分たちの音楽を聴いてもらう確度が上がるというのはあると思います。

お手本のようなOfficial髭男dism

──では、実際にSNSを上手に使っているアーティストというと誰がいますか?

宮本 サカナクションの山口一郎さんがすごいと思います。新型コロナウイルスでみんな不安になっている中、自分たちの曲の中の一節である「夜を乗りこなす」っていうハッシュタグで、「深夜対談」というライブ配信をInstagramで毎週水曜日に行っていてファンに寄り添っているんです。インスタライブはストーリーズに表示されるので、親近感が生まれやすく、ファンとの距離感も近いのでそれで安心感やエンゲージメントを高めたり、Twitchを使ってみたり、今だからこそいろんなチャレンジをしていて、サカナクションというチームの軸が素晴らしいと思います。Official髭男dismもうまいですよね。

松島 ヒゲダンすごいですよね。SNSがキッチリしているし、メンバーで言うと小笹大輔さんはさりげなく曲を聴いてもらえるような投稿をするんですよ。自分の楽器のことに触れつつ、YouTubeの動画に遷移させるような投稿をしていて。意識しているかどうかはわからないですけど、本当に上手だと思います。

宮本 TBSの「CDTVライブ!ライブ!」に出演したあとにバンドのアカウントで「パチパチ」って拍手する絵文字だけのツイートをしていたんです。そのあとに同じように拍手の絵文字のリプライがブワーッと並んでいて、あれほどエンゲージメントが高いのはすごいと思うし、「いいね」も3.4万とか付いてるんですよ。YouTubeでも、ちょうどブレイクし始めた頃に過去の曲を聴ける動画を上げるなど、全体的にとても考えられていて。やっぱり売れるアーティストには理由がきっちりありますね。

松島 デジタルプロモーションを大事にしているかどうかは、そのアーティストのYouTubeチャンネルとTwitterを見たらわかりますからね。

──具体的に教えていただけますか?

松島 もちろんGoogleでアーティストを検索することもありますけど、今はYouTubeで検索する人がとても多くて、最初の入り口になっているんですね。ヒゲダンのYouTubeはちゃんと全部わかりやすくなっています。これまでの曲のMVやライブ映像などセクションごとにまとまっていて、コミュニティ投稿や概要欄もきっちりしている。それぞれの動画ごとのコメント欄の説明もしっかり書いてあるんですよ。各ストリーミングサービスへの導線があって、フィジカルに飛ぶリンクもあって、各SNSのURLも載せてある。すごくよくできていますね。

宮本 基本的なことなんですけど、それをやらなきゃいけなくて。数字がどんどん変わってくるんですよ、本当に。

松島 ヒゲダンはTwitterとInstagramのフォロワーの合計よりYouTubeのチャンネル登録者数のほうが多かったはず。(調べて)Twitterが37.5万人、Instagramが47.2万人、YouTubeが211万人(※数字は取材時点)。

──本当ですね。

松島 SNSのプラットフォームとしてYouTubeが最強になっているんです。もちろんエンゲージメント率は別ですけど。ONE OK ROCKも同じですね。

宮本 松島さん、ワンオクが4月から6月にかけてYouTubeでライブ映像を公開してチャンネル登録者数を30万人増やしたっていう記事を書かれてましたよね(参考:ONE OK ROCK、コロナ禍に30万人YouTubeチャンネル登録者数増加 コンテンツを通して作り出した“ファンとの繋がり)。

今は細かい設計が大切

──その記事で言及されていましたが、やはり映像を一度に投稿するのではなくて、こまめに出すことが大事ですか?

松島 絶対にそうですね。

宮本 これまでの音楽プロモーションがそうだったんですけど、山を作っちゃうとそれを過ぎたら一気に下るんですよ。今は、新曲のプロモーションで考えると発売日に向けて告知日から積み上げていくという考えは同じなんですけど、発売日以降にピークから下落する角度をいかに緩やかにしていくかが大事なんですよね。さらに言うと、ストリーミングで長く聴かれる時代なので、リリース後に新規リスナーを獲得して上向きにすることも可能なんです。細かい設計が大事になってきたというのは大きな変化だと思います。

──ストリーミングは時間軸を超えやすい、つまり過去の作品も聴かれやすいのが特徴だという話もありますよね。

松島 今レコード会社さんはストリーミングで儲けなきゃいけないという問題に直面していて、過去のカタログをいかに聴いてもらうかが重要なミッションになっています。逆に言うと、過去カタログってすでにあるものでお金を生み出せるので宝の山なんです。どのアーティストさんもプレイリストを作ったりキャンペーンをやったりしてがんばっていると思います。例えばももいろクローバーZさんが「昔のライブDVDの中身を思い出してね」っていう内容で当時のライブのセトリを公開したりとか。もう1点言うと、新曲を出すと過去の曲も聴かれるんですよ。再生回数のグラフを見ていると昔の曲でも上がるポイントがあって、「なんのタイミングで上がっているのかな?」って調べると新曲が出たタイミングなんです。

──確かにストリーミングサービスで1曲だけ聴いて止めることって少ないですね。

松島 ですよね。それって新曲のタイミングで過去の曲を聴いてるということなので、すごく可能性のある話ですよね。

“告知”ではなく“メッセージ”を

──デジタルプロモーションにおいて、Twitterではどんな点に気をつけるべきでしょうか?

松島 上手にできている人とできていない人の一番大きな差は、そのアーティストの方がどこに向かっているのかがファンに伝わっているかどうかです。コロナ禍になる前、ライブが当たり前のようにできていたときはよかったんですよ。SNSであまりつぶやかない寡黙な人でも、ライブのMCで熱く語ったりすると、物販が売れたんです。熱い思いを聞いて、その夢を叶えるために私は応援しよう、人によってはファンクラブに入ろうとなっていたけど、今はそれができない。SNSか生配信で本人の声をファンに届けるしかない。そうするとアーティストがどうなりたいのか、ファンの人が応援することによってそのストーリーにどう参加できるのかがちゃんと伝わることがめちゃくちゃ大事なんです。それができているアーティストは、ファンもそのストーリーに参加したいからもっと曲を聴くし、広めるし、何か自発的に行動を起こすので、どんどんスケールが大きくなっていきます。アーティストが普段の生活のことを話す、曲が出たタイミングで「よかったら聴いてね」と言う。聴くほうは自分が楽しいから聴く。もちろん何も間違ってないんですけど、ストーリーを描けている側のファンの人たちは聴くことで自分が応援しているアーティストもよくなる、夢を叶えるお手伝いができていると実感できるんですよね。

──例えば、YOASOBIが「関ジャム 完全燃SHOW」出演後に「関ジャニ∞さんとぜひ紅白でお会いしたい」とつぶやいていて、それに対してファンが「今以上に応援します!」って返信をしていたことがありましたが、そういうことでしょうか?

松島 素晴らしいですね。大事だと思います。

宮本 僕は“告知”と“メッセージ”の違いだと思うんですよね。アーティストはファンを仲間にしていかなきゃいけなくて。仲間に対して告知しないじゃないですか。僕もDJしていたのでわかるんですけど、いくら告知してもどんどん友達が来てくれなくなるんですよ(笑)。僕の先輩のDJを見ていて上手だなと思ったのは、「俺たち学生だけど大阪のクラブシーンで土曜日の天下取りたいから」みたいなことを言っていろんな人を巻き込んでいくんですよね。そういうイベントだと、参加した人たちは「このイベントの成功に自分も関わった」って充足度も感じるし。

──意識が主体的になりますね。

宮本 そうなんです。全体をデザインしたうえで、どうコミュニケーションするかが大切だと思いますね。佐藤健さんのLINE公式アカウントが話題になったのご存知ですか? 普通、公式アカウントって告知がメインだと思うんですけど、佐藤健さんのアカウントはまるでご本人から届くように、「なにしとる こちらドライブ ノブ」というコメントと共に千鳥のノブさんが車を運転している写真が送られてくるんですよ。それはまさにコミュニケーションで、Twitterもそういうコミュニケーションであるべきだと思いますね。その結果エンゲージメントが高くなって、フォロワーのタイムラインに表示もされやすくなるので。

松島 アルゴリズムはちゃんと把握しておいたほうがいいですよね。

Instagram、TikTokと音楽の関係

──お二人は、Instagramの特徴はどんなところにあると思いますか?

宮本 今はやっぱりストーリーズだと思います。ストーリーズの特徴は“日常の切り取り”ですよね。今何をしているのかがわかって、24時間経ったら消える。あれは親近感の形成にすごくいいと思いますね。タイムラインに関しては“作る場”なのでデザイン性の高いことをやらなきゃいけない。

松島 音楽系だとApple、Spotify、LINE MUSICなど主要の配信サービスは端末からストーリーズにシェアできるんですね。あとはミュージックスタンプ機能があるので、日常の切り取り──例えばアーティストが犬と散歩している動画を撮って、その動画に自分の曲をBGMとして設定して投稿できる。音楽を付けて投稿するだけで、見ているファンは曲が聴けるし、それが入り口となってほかの曲を聴きに来てくれるかもしれない。自分たちの曲に導くことができるのでそういう意味ではすごくいいと思いますね。

宮本 「こういうシーンで聴いてほしい」って提示しやすいですよね。海辺を散歩しているときにサーフロック系の曲を付けたりとか。TikTokもそうですけどモーメントの獲得ってすごく大事だと思っていて、歌詞とのリンクも含めて「こういうシーンでこの曲を聴くんだよ」って提示することで広がりやすくなると思いますね。

──Rin音さんの「snow jam」など、TikTok発で話題になる曲が増えてますよね。

宮本 あの曲はカップルで動画を上げている人がたくさんいますけど、カップルの日常が「Loadingで進まない毎日 / 上品が似合わないmy lady」という歌詞とリンクしているんです。りりあ。さんの「浮気されたけどまだ好きって曲。」とかもそうですけど、「この歌詞だとこういう映像」というように、そのシーンを彩る主題歌として機能していて。ああいうUGC(※User Generated Content。一般ユーザーによって作られたコンテンツ)は自然発生なのでなかなか仕掛けるのは難しいですけど、それをきっちり見つけることは大事で。うまいなと思ったのは、神はサイコロを振らないの「夜永唄」が話題になったときに、本人が「歌ってみた」で降臨したんですね。そこからまたバーンと盛り上がっていて。

松島 気付ける状況にしておくのは重要ですよね。自分たちのコンテンツがどこでどうなっているのか把握してる人って意外と少ないですからね。早めに気付けたら積極的にアクションを起こすこともできるだろうし。

宮本 あと、TikTokのヒットにおいて、LINE MUSICの存在が実はすごく大きくて。両方とも若年層に強いので、TikTokから初めに遷移する先がLINE MUSICなんですよ。LINE MUSICには独自フリーミアムがあって、無料ユーザーでも月に1回全楽曲をフル再生できるサービスがあります。ほかのストリーミングだと無料ユーザーはシャッフル再生になるんですけど、LINE MUSICだとアルバムを頭から聴けるので、「プロモーションとして無料でいいので一度聴いてみてください。好きになったらよかったらフォローしてください」という施策が打てるんです。そこから継続的なエンゲージメントを取っていけばいいので。そういう意味でTikTok×LINE MUSIC、若年層におけるLINE MUSICというのをアーティストの方にはもっともっとうまく活用してもらえるとうれしいです。

SNSを使って知名度を上げるには

──SNSマーケティングではペルソナの設定が基本戦略として語られていますが、アーティストのSNSでもファンの想定は必要だと思いますか?

宮本 僕は広告代理店で働いていたときに飲料ブランドやお菓子ブランドのコミュニケーションデザインもやっていたんですけど、ブランドは人格がないのでペルソナを設定する必要があります。でもアーティストはそもそも人格がすごくはっきりしているので、音楽マーケに関してはいらないと思います。自分たちのコンセプトにリーチしてくれそうな人たちっていうのはなんとなくわかると思うので、そういう人たちがTwitterで何をつぶやいているのか、それこそほかにどんな人をフォローしているのかまで調べて(笑)、仮説を立てて実証していくのがいいんじゃないでしょうか。LINEリサーチという、若年層に強い調査サービスがあるので、場合によってはそういうものも使いながら。調査すればまた確度が高くなるので。

松島 僕もペルソナはなくていいと思いますね。YouTubeであればYouTube Studioを見ればわかるし、AppleはApple Music for Artists、SpotifyはSpotify for Artistsを見ればどういう人たちが自分たちの音楽を聴いているのかがわかるので。音楽はそこが圧倒的に得ですよね。

──では、まだ知名度が低いアーティストがSNSを使って自分たちを広めるためには何が必要だと思いますか?

松島 YOASOBIとかそうだと思うんですけど、UGCが強いですよね。アーティストのことを知らない人に知ってもらうには、間接的に紹介してくれる仲間を増やすのが最善策だと思います。自分たちの作品そのものなのか、自分たちの曲のカバーなのか、2次創作なのか、なんでもいいと思うんですけどしっかり広げてもらって、なおかつそれを自分たちも見てるということをちゃんと伝えるのが大切です。

──アーティスト自身がリアクションを返していくということですね。ずっと真夜中でいいのに。のACAねさんも、ファンのコメントにこまめに返信している印象があります。

松島 素晴らしいですね。すごく重要だと思います。TikTokもそうですよね。アーティストが「自分たちの曲を使ってね」って言うことってあまり意味がないんですよ。それよりも「使ってくれたら僕たちも見るからね」と言うほうが格段に強い。後者だとみんなやるんですよ。それって昔から変わらなくて、好きな人が出ているラジオにリクエストを送るのと同じなので。

宮本 そういうのが生まれやすい状況を作っておくことが非常に重要だと思いますね。最初に「愛される仕組みを作ってファンを増やす」と言いましたけど、音楽におけるSNSの活用法ってまさにそういうことで。あと僕は、自分たちのことを知ってもらうにはSNSハック(※SNSのアルゴリズムを理解して、情報が届きやすいようにすること)も大事だと思います。YouTubeのTHE FIRST TAKEが話題ですけど、あのタイトルって、例えばLiSAさんで言うと「THE FIRST TAKE / LiSA - 紅蓮華」じゃなくて、「LiSA - 紅蓮華 / THE FIRST TAKE」なんですよ。アーティスト名が先に来る。YouTubeって頭の文字の検索を大事にするので。

松島 そうそう、この曲、YouTubeで「紅蓮華」「LiSA 紅蓮華」って検索するとご本人のいわゆるミュージックビデオよりTHE FIRST TAKEのほうが上に表示されるんですよ。フル尺のMVはシングルの初回限定盤DVDの特典になっていて、YouTubeにはショートバージョンしか上がっていないので、おそらくYouTubeが長いコンテンツのほうを正しいコンテンツだと認識するんでしょうね。YouTubeのアルゴリズムは明確ではないのであくまで予想ですが。結果的にTHE FIRST TAKEの「紅蓮華」ほうが検索上位に表示され、再生回数が上がることに影響しているんだと思います。もちろんフル尺のMVをDVD特典にするというのはLiSAさんサイドの戦略だと思うので、あくまでYouTubeでの再生回数での話ですけどね。

宮本 チョコレートプラネットさんがカバーした瑛人さんの「香水」も、タイトルを見たらわかるんですけど頭が同じなんです。「香水/瑛人」で始まって、そのあとに「MV再現 (covered by 瑛肩)」って続くんですけど、そういうふうにちゃんとハックしていくことが大事だと思います。

──検索したときに並んで表示されるわけですね。

宮本 あとはサジェストとか関連動画ですよね。次の動画で出てきやすいように。

松島 知らない人に知ってもらう方法ってまだまだあって、例えばYouTubeでゲーム実況をやっている人の最後に流れる音楽をとあるアーティストが提供したら、自分の動画の再生回数も伸びたという話もありますし。ほかにも、YouTubeのフィットネス動画で洋楽を使ってもらうっていうのをワーナーミュージックがやってるんですよ。そうするとフィットネスの3分間の動画の間ずっと曲が流れるので。

──すごくいい宣伝になりますね。

松島 もともとよく観られるコンテンツに対して自分たちの曲を付けるやり方も知名度を上げるにはいい方法だと思います。

その海外志向、本当に必要ですか?

──最近、インタビューで「海外で活躍したい」と話すアーティストが増えているように感じます。YouTubeやSpotifyで気軽に海外に音楽を届けられる状況も要因だと思いますが、海外で活躍するためにSNSでできることはどんなことがあると思いますか?

松島 僕の本音としては絶対に海外でも活動したほうがいいと思うんですけど、本当に海外進出すべきかは見極めが重要で。僕がSpotifyにいたときにシンガポールのチームともよく話したんですけど、シンガポールはもともと人口が少なくて、何年経っても人口が変わらないって全員わかってるんですよ。自国内だと音楽マーケットのパイが伸びないとわかっているから、最初から海外とか周辺の国に受けるような曲を書くし、歌詞も英語だし、ディストリビューションも海外に強いところを使っているんです。それは戦略が伴っているから正しいですよね。日本でも何年後かにはストリーミングのユーザーがこれくらいで、自分たちの再生回数がこれくらいになってるってある程度予測できるはずなので、それでも本当に海外でやったほうがいいのかを考えるべきだと思います。

──なるほど。

松島 日本のアーティストは「世界でがんばりたい」って言うんですけど、海外では誰も「世界でがんばりたい」とは言わないんですよ。イギリスのアーティストに「次にどうしたいの?」って聞くと「フランスでの再生回数を上げたい」とか、「ドイツでもっと聴かれるようになりたい」と、具体的な国名が出てきます。日本人は「世界で世界で」って言うんですけど「どこ?」みたいな。

宮本 確かに! 僕もキングレコードにいたときそうだったので、すごくよくわかりますね。なんとなく「世界を目指します」みたいな。

松島 それでもやるのであれば、まずはターゲットの国を決める。今のコロナみたいな状況でなければ「今年は2カ月に1回台湾でライブします」とか。そのうえでプランニングとしてSNSが必要で、発信する際に英語とかその国の言語で投稿してみるとか、そういうことだと思います。星野源さんのYouTubeを見てもらえればわかりますけど、英語はもちろん、韓国語、中国語、スペイン語などマルチランゲージ化されていて全部字幕が見られるようになっています。YOASOBIずっと真夜中でいいのに。も翻訳が付いてますね。

宮本 現実的に考えるなら日本のカルチャーをすでに取り入れている国からやるべきだし、そうなると中国、韓国、タイ、シンガポールとか、経済成長がすごいインドネシアとか。どうしても欧米に意識が行きがちな我々ですけど、Spotify for ArtistsやYouTube Studioを見てちゃんとファンがいる国を調べて。ただでさえ忙しいのに、海外までとなると大変ですから。

──その分労力を割かれるわけですもんね。

宮本 音楽業界はわりと自分の労力をカウントせずに気持ちで動くので、自分もついついがんばっちゃいますけど(笑)、結局有限じゃないですか。人数が多いわけでもないし、選択と集中をしていかないといけないですね。

無理なく楽しくやることが大事

──改めて、アーティストがSNSを使ってファンとコミュニケーションを図るために必要なことはなんだと思いますか?

松島 すでにファンになってくれている人、これからファンになりそうな人が何に時間を使っているのかを知ることが重要だと思います。自分たちのターゲットがどのSNSに一番時間を割いているかを調べて、そこでコミュニケーションをしたほうが効率的ですよね。もしそれがYouTubeなのだとしたら、YouTubeを一番しっかりやらないとダメだし。YouTubeってコンテンツの量と、コンテンツにタッチした人がそのチャンネルにどれだけ滞在したかがすごく大事なんです。自分たちの楽曲をたくさん公開するのは難しいかもしれませんが、コミュニティ投稿でもストーリー投稿でも、方法はなんでもよくて。さらに付け加えると、それが楽しくできたらいいですよね。

宮本 それ本当に大事ですよね。人間って感じ取るんですよね、無理やりやらされていたら。

松島 例えばVaVaさんは、ゲームの実況とかやっているんですよ。本人の語り口がゲーム実況と相性がすごくよくて。観ている人はチャンネルの滞在時間が長くなるので、次の日以降のおすすめのインプレッション数が上がるはずなんですね、絶対。やってる本人は楽しくゲームしているだけで。その間にアルバムの告知をしてもいいし、「動画を観終わったら新曲聴いてね」って言ってもいいわけだし。料理でもなんでも、音楽以外にも自分の得意なことってあると思うんです。意外とみんなやらないですけど。

宮本 大事ですよね。僕は、SNSの最終的な目的地はファンクラブの会員、つまり仲間をどれだけ作れるかだと思っていて。こちらの図を見てほしいんですけど、ピラミッド型で考えたときに、一番下にいるのがストリーミングやYouTubeで聴いているリスナー、そこから好きになってTwitterやInstagramをフォローする層になり、さらに好きな人がダイレクトコミュニケーションできるLINEに入って、最終的にファンクラブに入る。LINEはファンクラブに一番近い存在なので、目的のためにうまく取り入れてもらって、DPCA(Do、Plan、Check、Action)のサイクルを回していってほしいですね。

松島功

Spotify退職後、音楽専業のデータ分析・デジタルプロモーション・マーケティング会社arneを設立。インディペンデントのアーティストサービス、レコード会社のデジタル事業サポートを務める。

宮本浩志

キングレコード内のレーベルEVIL LINE RECORDSにて多くのアーティスト、作品の宣伝を担当後、広告代理店でのコミュニケーションデザイナーを経て、現在はLINE株式会社のエンターテイメントカンパニーに所属。サウナ好き。

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