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猫を失った悲しみは猫でしか埋まらないーー『心にいつも猫をかかえて』は愛猫家の心に寄り添う

リアルサウンド

20/3/24(火) 18:41

 ねこライター。そんな肩書きを名乗り始めて、もうすぐ5年になろうとしている。振り返ってみればこの5年で色々な「猫脈」が生まれ、愛猫以外のニャン生にも想いを馳せる機会が増えた。筆者の心の中には何をしていても、どんな気分の時でもいつも猫がいる。

 だからか、村山早紀さんの初エッセイ『心にいつも猫をかかえて』(マルモトイヅミ:絵/エクスナレッジ)の書籍名を見た時、自分と同じ心境の猫仲間がいることを嬉しく思った。

 村山さんは人気シリーズ『コンビニたそがれ堂』(ポプラ社)を手がけ、児童文学作家としても活躍中。彼女の作品は、くたびれた心を包み込む。そんな村山節は本書でも健在だ。

 村山さんはこれまでにペルシャのランコやアメリカンショートヘアのりや子、縞三毛のレニ子という3匹の猫たちを看取ってきた。本書には今でも大切な存在である先代猫たちとの思い出話がしたためられている。なにげない日常の中で感じた幸せだけでなく、愛猫を亡くした時の悲しみもストレートに綴られており、思わず心が共鳴してしまう。

どんなに長く生きて、幸せそうな一生を終えた猫でも、飼い主はもう一日長く生きて欲しかった、と泣くものなのです。たぶん。

 村山さんの猫愛は、現在共に暮らしている麦わら猫・千花ちゃんへの想いからも伝わってくる。先代猫を亡くした村山さんは自分の年齢を考慮し、次はシニア猫を迎えようと思っていた。しかし、インターネット上のとあるサイトに掲載されていた1匹の子猫の写真に目が釘付けに。「この猫だ」と思い、収容されている長崎県の動物管理所へ行き、一般的な猫よりも尻尾が短い千花ちゃんを家族に迎えた。

 運命的な出会いを果たした千花ちゃんは村山さんにとって、「健康的に生き続ける理由」に。子猫がやってきたことで規則正しい生活をするようにもなった。そして、千花ちゃんを迎えたからこそ生まれた作品もある。それが『コンビニたそがれ堂 猫たちの星座』(ポプラ社)だ。

 日本では昔、しっぽの長い猫は老いると猫又になるという言い伝えがあり、しっぽの短い猫が好まれた。それがもし本当なら、千花は猫又になれないんだな……と、ふとかわいそうに思ったことから、村山さんは猫又に憧れる子猫のキャラクターを思いつき、同作を完成させたのだ。妖怪になってもいい。むしろ、長く生きてくれるのなら妖怪になってほしい――。千花ちゃんの短尾に対する想いの裏には、そんな猫飼いあるあるな“猫愛”が隠されているように思え、微笑ましくなる。

 先代猫を亡くし、ポッカリと空いてしまった心の穴。それを満たしてくれたのも、また猫だった。失恋が恋でしか埋められないように、猫を失った悲しみも猫でしか埋まらないように思う。だから私たちは、猫という動物を永遠に愛し続けてしまうのかもしれない。

 SNSが盛んな近ごろは、他のお家で暮らす猫に感情移入している方も多いはず。実際、筆者もライターとして様々な愛猫エピソードを伺う中で、現実社会では決して出会えなかった小さな命を何度も愛しく思った。

 村山さんも日頃からTwitterでの交流を通し、愛猫以外の動物も愛でているよう。消えていった魂やその魂を愛していた誰かの心も愛おしんでいる。

あの子猫たちも老いた猫たちも、この老犬も、あのうさぎさんも小鳥さんも、生まれつき弱かったり、闘病していたあの子たちも、路上で病んだり傷付いて拾われた子たちも、最期まで、みんな頑張ったね、幸せだったね、とそっと泣いたりもします。

 SNSに流れてくる情報は、ハッピーなものばかりではない。関わりのあった子の誤報も飛び込んでくるし、残酷な事件を目にすることもある。そんな日は辛い気持ちになってしまうけれど、ひとつの小さな命が懸命に生きていたことを知るのは、意味があること。虹の橋に旅立っていった命を通して私たちは愛猫との向き合い方を振り返りたくなったり、悲しい命を増やさないためにできることは何かと考えたくなったりする。

覚えていてくれるかぎり、時折思い出してくださるかぎり、あの子たちの存在は消えないような気がするのです。たとえ、不幸にして短く儚く終わった命があったとしても、きっと。

 こんな気持ちを持てる人が多くなったら、安らかに旅立てる子も増えていくように思う。

 存在を思い出すことは、愛情表現のひとつ。たとえ、この世に肉体がなくても私たちは大切なあの子を思い出すことで、愛でることができる。そう思わせてくれる本作は猫への愛が凝縮された一冊。猫にまつわる、ちょっぴり不思議なショートストーリーも収録されているので読み物としても楽しめるだろう。

 亡くした猫。今、ここにいてくれる猫。あの日、救えなかった猫。そして、飼い猫以外の愛おしい猫たち。これまで出会ってきたすべての猫たちを心にいつまでも抱え続けながら、これからも「ねこライター」を名乗っていきたい。

■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。

■書籍情報
『心にいつも猫をかかえて』
著者:村山早紀
絵:マルモトイヅミ
出版社:エクスナレッジ
価格:本体1,600円+税
発売日:2020年4月13日(予定)
出版社サイト

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