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いま、最高の一本に出会える

『ロケットマン』は観客に体験させる映画!? “フィクション”と“映画”ならではの面白さ

リアルサウンド

19/8/29(木) 10:00

 イギリスのそれなりに複雑な家庭で暮らす少年は、5歳にして圧倒的なピアノの才能を自覚する。少年は“神童”として音楽の英才教育を受けつつ、当時世界を席巻していたロックンロールの洗礼を浴び、音楽産業の世界へ飛び込んでいく。そして自らエルトン・ジョン(タロン・エジャトン)と改名し、優れた作詞家にして親友のバーニー・トーピン(ジェイミー・ベル)を得た。エルトンは瞬く間にスターの階段を駆け上がっていくが、ロックスターとしての生活は、徐々に人生を蝕んでいく。切るに切れない親との関係、去っていく仲間たち、あの時代に同性愛者を生きること、酒に薬に浪費癖……。きらびやかなステージと裏腹に、エルトンの生活は荒れ果てていく。果たしてその先に何があるのか?

 ……と、本作『ロケットマン』(2019年)のあらすじを書いてはみたものの、皆さんご存じの通り、エルトン・ジョンは健在だ(つい先日公開された『ライオン・キング』(2019年)でもバリバリに歌っていた)。また、インターネットの普及によって、エルトン・ジョンを知ろうと思えばファンサイトやWikipediaでいくらでも知ることはできるし、彼のパフォーマンスだってYouTubeに無数に上がっている。つまり物語の結末については最初からネタバレ全開だ。昔の『世界まる見え!』的にいえば、エルトンは今日も元気に芝生を駆け回っている……こういう結末になるのは仕方がない。

 そこで本作の作り手たちは大胆な決断をした。情報ではなく、体感の映画にしたのだ。本作は「知られざる事実」を描く作品ではない。エルトン・ジョンの人生を、歌とダンスに彩られたファンタジーに昇華させ、観客に体験させる映画だ。本作を手がけたデクスター・フレッチャー監督は、昨年大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)も「後任」という形で手がけている人物である(同作の監督交代劇について書くと大変なので、今回は割愛させていただきます)。

 『ボヘミアン~』では、クイーンの音楽を使い、いくつかの「フィクション」を混ぜつつ、あくまでノンフィクション映画としての体裁をとっていた。しかし、本作は映画を完全なファンタジーに振っている。たとえば、幼いエルトンがベッドの中でオーケストラを指揮する妄想に浸れば、目の前に本物のオーケストラが現れ、彼と音楽を鳴らす。こうしたシーンはWikipediaでもYouTubeの過去映像でも、ドキュメンタリー映画でも味わえない。現実には起きえない「フィクション」、そして視覚を重視する「映画」ならではの面白さだ。

 こうしたファンタジー映画的な画を見せながら、要所ではエルトンの苦悩や孤独を非常に地に足の着いた形で見せてくれる。母に「遺伝だから20代でハゲると思う」と言われて、「え?」と驚いたり、怖いプロデューサーに叱責されつつ、それでもデビューのチャンスを逃すまいと我慢したり。こうした姿を見ているうちに、世界で最も売れているスーパースターなのに、見ているうちにドンドン身近に思えてくるし、まるで我がことのように思えてくる。そして観客を感情移入させた状態で、前述した夢のような画を放り込んでくるのだ。文字通り夢中になって当然だろう。

 本作の結末は、誰もが知っている通りの部分に落ち着くが、そこに至るまでの過程には様々な工夫が凝らしてある。エルトン・ジョンを知らなくても、まったく問題ないだろう。夢・友情・愛情・失恋・孤独・欲望・衝突・挫折……誰もが多少は経験したことのあることを、名曲と共に体感させてくれる。普遍的かつ唯一無二な1本だ。やっぱね、友達は大事ですよ。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■公開情報
『ロケットマン』
全国公開中
出演:タロン・エジャトン、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデン
監督:デクスター・フレッチャー
脚本:リー・ホール
製作:マシュー・ヴォーン、エルトン・ジョン
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:https://rocketman.jp/
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