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東日本大震災から10年、『音楽の日』にこめられた願い 歌の持つ不思議な生命力

リアルサウンド

21/3/13(土) 10:00

 中居正広と安住紳一郎アナウンサーが総合司会を務める『音楽の日』(TBS系)が、3月11日午後7時から4時間にわたって放送された。数ある大型音楽特番のなかでも、この『音楽の日』は、番組タイトル通り音楽本来の魅力をシンプルに伝える良さのある番組だが、今回は特にそう感じられた。

 そもそもこの番組は、東日本大震災を受け、「音楽の力で日本を元気に!」という思いから2011年に始まったもの。そして今年はその東日本大震災から10年という節目の年。これまではすべて夏場の放送だったが、11回目の今回は震災が起こった3月11日、しかもはじめて東北の地、宮城セキスイハイムスーパーアリーナからの生放送となった。

 ただ、いま「節目」と書いたが、番組中MISIAも語っていたように悲しみに終わりはない。だがそのなかで、前を向くことも必要だ。そして歌は、少しでもその助けになるかもしれない。「未来へ響け 歌のチカラ」という今回のテーマは、そんな出演者やスタッフの強い願いが込められていたように思う。

 番組のオープニングに宮城県石巻市の海辺で歌われた、櫻井和寿と小林武史による「花の匂い」はその意味でも感動的だった。そこでは、こんな場面があった。歌の途中で、震災が発生した午後2時46分になり、サイレンが鳴り響いた。そして2人が黙とうを終えると、歌は再開された。その出だしのフレーズが〈どんな悲劇に埋もれた場所にでも 幸せの種は必ず植わってる〉というもの。そこからは、悲しみと希望は一体のものであることが自ずと伝わってきた。

 また今回は、歌の持つ不思議な生命力も改めて感じさせられた。すぐれた楽曲は、それが歌われる場所によって意味合いが変わり、新たな生命を得る。たとえば、「花の匂い」は、中居正広が主演し、戦争の悲劇を描いた映画『私は貝になりたい』の主題歌だった。それがここでは、東日本大震災の被災者のこころに寄り添うものになった。今回岸谷香が歌った失恋ソングの定番「M」なども、やはり同様だった。

 もちろん、それぞれ東北にゆかりのあるミュージシャンも次々と登場し、番組を大いに盛り上げた。メンバーの山口隆が福島出身のサンボマスター、東北を拠点に活動を続けるRakeとMONKEY MAJIK、2011年にデビューしたKis-My-Ft2、さらにゆずは東北3県の学生との合唱で「友 ~旅立ちの時~」を歌った。「SHINING MAN」と「生きてく強さ」を披露したGLAY、「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」を披露したYEN TOWN BANDも流石だった。そして一夜限りの復活で楽天生命パーク宮城から「あとひとつ」など3曲を披露したFUNKY MONKEY BABYSも、記憶に残る。

 そうしたなかで、今回の『音楽の日』をけん引していたと言えるのが、MISIAと櫻井和寿である。

 ブルーインパルスをバックに歌ったMISIAのようにともに持ち歌を歌うだけでなく、2人は「はるまついぶき」、さらに番組ラストには今回のためにつくられた新曲「forgive」で圧巻のコラボを繰り広げた。同曲は、〈えんやこら〉というフレーズが印象的な「力強く未来へ漕ぎ出す歌」(櫻井)。それは、オープニングの「花の匂い」と響き合いつつも、鮮やかなコントラストをなしていた。

 もうひとり今回の立役者をあげるとすれば、Bank Bandを率い、宮本浩次、milet、スガ シカオ、柴咲コウ、AI、森山直太朗らとのコラボで音楽の力を堪能させてくれた小林武史だろう。

 番組中紹介されていたように、小林自身も、被災地で長年復興支援活動を続けている。そしてほかにも、今回は出演していないが、たとえばRADWIMPSやGReeeeNのように、それぞれのスタイルで同じく復興支援活動を続けているアーティストは多い(RADWIMPSについては、3月13日にNHKで特番『3.11 10年 そしてこれから』が放送される)。今回の『音楽の日』は、音楽、そしてアーティストがいかにして社会とかかわり得るのかを教えてくれる貴重な機会にもなったのではないだろうか。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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