Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『鬼滅の刃』我妻善逸、一つの技しか使えない剣士の強み 「霹靂一閃」に魅了されるワケ

リアルサウンド

19/11/18(月) 8:00

 累計発行部数1,000万部超の大ヒット漫画『鬼滅の刃』。今年4月にはアニメシリーズもはじまり、加速度的に注目を集め、今や『週刊少年ジャンプ』でトップクラスの人気を誇る。(メイン写真/吾峠 呼世晴『鬼滅の刃』(集英社))

 主人公・竈門炭治郎の家族が、ある日、鬼に皆殺しにされた。しかし、妹の竈門禰豆子は鬼へと変貌して生き延びる。炭治郎は妹を人間に戻し、家族を殺した鬼に復讐するため、鬼殺隊へと入隊する。人間社会に巣食う鬼狩りが物語の根幹だ。

 本作の最大の魅力は、剣術の体系とそれを利用した戦闘シーンにある。剣術の体系には、呼吸法と鬼殺の隊士ごとに異なる型がある。呼吸法とは、鬼狩りのための基礎。極限まで空気を取り込むことで肺を大きくし、血を躍動させ、技を繰り出す。「全集中の呼吸」に始まり、隊士の適正ごとに習得する型は異なる。炭治郎であれば水、のちに詳述する善逸であれば雷。呼吸の型により攻撃が可能となるのだ。

 戦闘シーンは、鬼たちの行使する「血気術」という特殊な術と、隊士の呼吸法を用いた攻撃との応酬が見物。双方の個性あふれる術と技との駆け引きではあるが、単に必殺技の連続というわけではない。隊士側は、術をかわす、ダメージをおさえる、間合いや呼吸をととのえるなど、技以外での戦術も凝らされている。互いの「次の一手」が常に気になり、ページをめくる手がとまらない。特に、炭治郎の戦闘描写は、技の手数、戦術から、アクションゲームの攻略動画を見るような爽快感があるのだ。

 しかし、本稿では、心・技・体のすべてを高いレベルに引き上げる炭治郎ではなく、ふだんはヘタレで技も一つしか持たないが、その技のみで一点突破する我妻善逸について掘り下げる。

 善逸は、鬼殺隊入隊のための最終選別で炭治郎とはじめて出会い、第20話から鬼狩りに同行する。すぐに弱音を吐き、自分に自信が持てない、さらに感情の浮き沈みが激しく、特に意中の女性を見つけるたびに暴走する。一見頼りないキャラクターだ。

 しかし、蜘蛛の鬼編からは、それまでの姿からは想像できないほどの活躍を見せる。第32話にて、善逸は、蜘蛛の鬼一族の住む山で、炭治郎たちとは別の行動をとり、たった一人で蜘蛛の鬼(父)の相手をする。はじめは鬼の放つ小蜘蛛に刺され、さらに彼らの姿が人面蜘蛛であるのを確認するや、「夢であってくれたなら 俺 頑張るから」、「起きた時 禰豆子ちゃんの膝枕だったりしたらもうすごい頑張る」と叫びながら逃げるありさまだ。もちろん蜘蛛の鬼(父)と対面したときも逃げる。刺された部分から毒が回ることも指摘され、木に登る。

 以降、善逸の意識は薄れ、しばらくのあいだ、育ての師範との日々を回想へ。そこでも、同じく木に登り剣士としての修業の厳しさから逃げている。だが、善逸は師範を尊敬している。というのも、惚れた女に別の男とかけおちするための金を貢がされ、借金まみれになった自分を救ってくれた恩があるからだ。恩義から、師範の期待に応えたいおもいも強いが、努力してもできないことも多く、自信がないと善逸は嘆く。自身でも変わりたいというおもいは強い。

 回想からもどり、いったん眠り込む。その直後、彼の唯一持つ剣技「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」を放つ。途中、善逸は師範からの言葉、「お前はそれでいい、一つできれば万々歳だ。一つのことしかできないならそれを極め抜け。極限の極限まで磨け……信じるんだ。地獄のような鍛錬に耐えた日々を。お前は必ず報われる。極限まで叩き上げ 誰よりも強靭な刃になれ」を思い出す。そして、愚直に一つの剣技を繰り返し、最後に六連で鬼の首を狩る。技の名のとおり、雷の走る攻撃のコンボで倒す描写から、カタルシスを感じるのだ。倒したあと、毒が回ったのもあり、ぐったりしながら感謝の言葉を回想のなかで投げかける。

 炭治郎のように、強靭な精神、修行に対するひた向きさ、柔軟な思考、技の手数の多さ、慈悲深い心など、完璧なキャラはたしかに魅力的だ。一方、善逸はどうだろうか。普段はへたれで修業からも、鬼と対峙したときも、逃げ回る。おまけに不器用だ。だが、そんな彼だからこそ、ここぞというときに放つ、たった一つの技に魅了されるのだ。

 善逸のキャラクターからは、たとえ不器用で一つの強みしかなくとも、それを磨きぬけば不安なことも切り抜けられる。そうエンパワメントされるのではないか。

(文=梅澤亮介)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む