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和田彩花の「アートに夢中!」

トランスレーションズ展 −「わかりあえなさ」をわかりあおう

毎月連載

第51回

現在、21_21 DESIGN SIGHT(東京・六本木)で開催中の『トランスレーションズ展 −「わかりあえなさ」をわかりあおう』(2021年3月7日まで)。本展は、国籍を超えてさまざまな表現媒体に携わる情報学研究者のドミニク・チェン氏をディレクターに迎えて、「翻訳=トランスレーション」は「コミュニケーションのデザイン」とみなし、「翻訳」を「互いに異なる背景をもつ『わかりあえない』もの同士が意思疎通を図るためのプロセス」と捉え、その可能性を多角的に拓くもの。「翻訳」という言葉をキーワードに、AIによる自動翻訳を用いた体験型の展示や、複数の言語を母国語とするクレオール話者による映像、また、手話やジェスチャーといった豊かな身体表現、さらには人と動物そして微生物とのコミュニケーションに至るまで、さまざまな「翻訳」のあり方を提示する作品を紹介。和田さんは「翻訳」と「デザイン」との関わりをどう見たのか。

展示風景

「トランスレーション」と言われると、どうしても日本語を英語に訳すなどの「翻訳」が頭に浮かんで、それがデザインと結びつきどう展示されるのかわかりませんでした。それに今回のサブテーマが「『わかりあえなさ』をわかりあおう」とありますが「わかりあえなさ」もネガディブな言葉というイメージ。

でも今回の展覧会では、そのわかりあえないけど、どうわかりあえるのか、ということを具体的な作品や、実際に現場で使われているある種の商品などで具現化しているんです。だからその「わかりあえない」をなくすために、その手段として開発や作品が作られていく過程というのも知ることができて、とても面白かったですね。

確かに「翻訳」というのは、ただ言語を翻訳するというだけでなく、自分の考えや思いを言葉や文章にすることも「翻訳」であり、私がマネについて話すのも一種の「翻訳」ということに気づかされ、「翻訳」という行為が、これほどまでにいろいろな意味を持っていることに初めて気づきました。

翻訳という行為は簡単ではない?

展示風景:Google Creative Lab+Studio TheGreenEyl+ドミニク・チェン「ファウンド・イン・トランスレーション」

まずやっぱり気になったのが、今回のために制作された新作のインスタレーションである、Google Creative Lab+Studio TheGreenEyl+ドミニク・チェンの《ファウンド・イン・トランスレーション》。鑑賞者が会場のマイクに向かって話すと、その言葉が23カ国語に翻訳されるという作品。しかもただ翻訳されるのではなくて、機械がどのようにして言葉を発見し、それが翻訳されていくのかというプロセスが可視化されています。

この作品を見たことで、いままで簡単にパソコンとかで打ち込んで翻訳していた行為のその後ろに、どれだけの労力が隠されていて、どれだけの複雑な仕組みがあるのかということがイメージできたように思いました。

サメを誘惑する?

展示風景:長谷川 愛《Human×Shark》

びっくりしたのは「異なる動物と愛し合う」をテーマにした長谷川愛さんの《Human×Shark》。

これは「人間と恋愛するのは骨が折れる、言葉でも感覚でもわかりあえないときがある、だったらいっそのことわかりあえないなら人間から遠い、コミュニケーションの可能性が未知の生物、例えば『サメ』とつながってみたい」という発想から制作された作品。

ではどうやってつながるかというと、「香水」を通して。作家の長谷川さんがサメのメスに化けるために、特殊な材料を使ってオスのサメを誘惑する香水を作ったんです。実際にその匂いを嗅ぐことができるのですが、香水と思って嗅いでみると、その匂いにかなり驚かされました。

でも映像を見ていると、香水によってオスザメがこれでもかというほど長谷川さんに寄っていくんです。その光景は恐ろしさも感じますが、匂いを翻訳するという行為を目の当たりにしました。

「翻訳」というのは「コミュニケーション」とディレクターのドミニク・チェンさんがおっしゃっていますが、私はこの作品を通して、まさにその通りだな、ということにも気づきました。

音で翻訳する

展示風景:本多達也《Ontenna(オンテナ)》

何かを介して翻訳する、という意味では、実際に実用化されている本多達也さんの《Ontenna(オンテナ)》も面白かったですね。

これは振動と光を使って、音の特徴を身体に伝えるインターフェース。聴覚障害者の方や、ろう者と協働で開発されたもので、会場では私たちもそれを体験することができます。

音の大きさによってその振動はまったく違うんですが、私たちが当たり前に聞いたり行動したりしていることが、それが当たり前じゃない人たちにどう影響するのか、どうわかりあえるのか、ということを考えさせられました。

距離の可視化

展示風景:やんツー《観賞から逃れる》

それとこのいまの時期だからこそ、いろいろと考えさせられてしまったやんツーさんの《観賞から逃れる》。

鑑賞者が近づいたり前に立つと、絵画や仏像、ディスプレイの3つの作品が、それぞれの方法で自分から逃げていきます。これは「わかりあう」「向き合う」ことや、鑑賞物と鑑賞者の距離感を可視化した作品です。

展示された作品というのは、完全に見られるためのものであり、自分からその場を逃れることはできません。だからこの作品はある意味矛盾しているとも言えます。これらの作品は近づくと自分から離れていってしまい、鑑賞者は戸惑ってしまいます。

でも仏像は逃げるというよりも、追いかけられるというような感覚。仏像と自分がいまどれだけの距離を保って対峙しているのかということや、ソーシャルディスタンスを守っていない、密だということを音声で教えてくれるんです。自分がいままで意識していなかった、作品との距離感が可視化され、さらには普段自分が鑑賞する側として何を見ているのか、日常におけるいろんな距離感についても改めて考えさせられる作品でした。とっても面白かったですね。

翻訳っていったいなんなんだろう?

多角的な視野から翻訳という行為を解釈した作品が並ぶ今回の展覧会を見て、「翻訳」という言葉には、とても多くの意味が込められているんだということを知りました。ネット上でも簡単に言語翻訳もできるし、自分にとっても身近なものだけど、そんなに深く意味や行為ということを考えることなんてなかったんです。

でも、いままで自分が触れてきた言語翻訳にしても、そのニュアンスや言い回しは、その土地に行ってみたり、住んでみたりしないとわからない、理解できないってことが多いんです。いくら勉強しても、特に方言とかってニュアンスが伝わらないことがあります。日本語もそうですよね。だって日本人ですら、国内で翻訳をしながら過ごしているようなものですから。翻訳してみんなにわかってもらうようにするというのは、実はとても大変だけど面白い行為。

最初に言ったように、自分の気持ちを言葉にすることも、私が美術を見てそれを言葉にして伝えることも言うなれば「翻訳」。「翻訳」はただ言語を翻訳するだけではなく、とても奥が深いものということがよくわかりました。

翻訳という行為を通して伝える情報というのも、実は的確に伝わるわけでもないんだろうな、ということも思いましたね。発信する側と受け取る側の価値観やものの見方、立場によっても全然感じ方は違うわけで。だからこそ、そこには今回の「わかりあえなさ」とか「わかりあえる」という重要なテーマが関係してくると思います。「わかりあう」ためには、いろんな手法があり、さらにはこれから「翻訳」がどうあるべきか、その先には何があるのか、ということを今回の展覧会は提示してくれています。

今はSNSなんかで人と人とのコミュニケーションが簡単になっているように思えますが、その簡単な部分だけを受け入れていいのかな、とも思うんです。「言葉」というのは一番身近な翻訳ツールですが、いまの私たちはそれすら使いこなせていないなって感じます。もっともっと「わかりあう」ために、私自身も言葉を大切に使っていきたいなとも思った展覧会でした。

構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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