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“品格”を大事に男役を追求、 宝塚歌劇団星組男役スター・愛月ひかる退団への思い

ぴあ

愛月ひかる

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2007年の初舞台から14年、星組男役スター・愛月ひかるが9月18日(土)より幕を開ける『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム』で退団する。前作『ロミオとジュリエット』ではモンタギュー家と敵対するキャピュレット家のティボルトと、“死”を象徴するダンサーの二役を役替わりで演じ好評を博した愛月。“充実期”の今、退団することへの思い、これまでのタカラヅカ人生、そして、ラストステージにかける意気込みを取材会で聞いた。

ラストステージは、ヒール役とロマンチックレビューで集大成

取材会が行われたのは、8月下旬の稽古期間中。真っ白なスーツをまとった愛月が颯爽と登場すると、その凛とした佇まいと存在感に空気がピンと張る。タカラジェンヌとしての最後の公演に向けて稽古を重ねる中、現在の心境を尋ねると、「とても清々しい気持ちで毎日お稽古しています。本当に今回の二作品が最後の公演でよかったなという思いです」と穏やかに話す。

第一幕は、史実にフィクションを織り交ぜ壮大なスケールで描いた山田風太郎の傑作時代小説『柳生忍法帖』。宝塚歌劇で初の舞台化となる本作で愛月に配された役は、トップスター・礼真琴演じる天才剣士・柳生十兵衛の敵役・芦名銅伯だ。「滅びてしまった芦名一族を復活させたいという思いに執着している人物で、この舞台では、“年齢が分からないくらい美しく妖艶で怖い”というイメージでビジュアルを作らせていただく予定です」。これまで数多くのヒール役を演じてきた愛月。「今、タカラヅカの中で私が一番ラスボスみたいな役を演じるのが得意なんじゃないかなと思っていて(笑)。今回の役も自分に合っているなと思います」。

第二幕は、宝塚歌劇の永遠のテーマ“男役の美学”を追求する“ダンディズム”シリーズで、1995年花組・真矢みき主演の『ダンディズム!』、2006年星組・湖月わたる主演の『ネオ・ダンディズム!』に続く第三弾となる。「とてもクラシカルな雰囲気のロマンチックレビューで、私がこれまで男役として突き詰めてきたものすべてが詰まったショーになると思います」。中でも注目は“白い軍服”で踊る場面だ。「私の憧れの役として、『うたかたの恋』のルドルフをやりたいとずっと『宝塚おとめ』に書いていたのを演出の岡田敬二先生が知ってくださっていて、“最後は愛月に軍服を着せたい”と仰っていただきました。念願の真っ白な軍服で出させていただくのですが、一歩二歩歩くだけでも華やかさが出る、男役の原点のような場面だと思います。指先まで神経が行き届いた男役像をしっかりとお見せしたいと思っています」。

タカラジェンヌとしての“品格”を最後まで大事にしたい

2007年に宙組に配属され、新人公演やバウホール公演で主演を務めるなど、早くから注目を集めてきた愛月。一番最初のターニングポイントは2015年の『TOP HAT』で、初めて三枚目の役を演じたことだという。「三枚目をやったことでお芝居の感覚がさらに開けました。役者として作品に必要である存在になりたいとか、作品の中で存在感を残せる役者になりたいと思い始めたのはその頃です」。そして2019年2月、専科へ異動したことを機に、自身の意識が変化した。「宙組時代は、本当にいろんなトップさんから学ばせていただくことができ、とても貴重な経験でした。ただ、上級生になってもいつまでも下級生感が抜けず、自覚が足りなかったのではないかと。専科のお話をいただいた時は辛い思いもありましたが、専科時代にさまざまな組の下級生と接することで、私の姿を見て学んでくれている後輩たちもたくさんいるんだということに気付き、上級生としてもっといろいろと見せていかなければという自覚が生まれました。もっと自信を持っていいんだと」。

さらに専科への異動から9か月後、星組へと異動。「星組に異動した時点で自分の中で退団を決めたので、もうやるしかないし、悔いは残したくないと。周りからの批評などをまったく気にしなくなりました」。特に『ロミオとジュリエット』の“死”の役では、空気を一変させるような圧倒的な存在感で観る者の目を惹きつけ、大きな話題となった。「自分のことをダンサーだとはまったく思っていなかったので、役をいただいたときは大丈夫かなと思っていましたが、お稽古場で初めて“死”として踊ったり表現したときに、演出の小池(修一郎)先生や組のみんなが “そこしか見れなくなる”とか“釘付けになる”ということを言ってくださって。宙組時代、『エリザベート』(2016年)のルキーニ役をさせていただいたときは、舞台で自由に存在することがすごく難しかったのですが、“死”を演じて、自由に存在することがこんなに楽しいんだと感じられたことが奇跡のように思います。今までのすべての経験が生かせたからこその“死”だったなと思います」。

紆余曲折がありながらも、常にタカラジェンヌとしての“品格”を大事に歩んできた。「品格を大事にしたいという思いは、下級生の頃から今に至るまで、微塵もブレることがありませんでした。それだけは自信を持って言えるので、最後まで貫き通したいです。星組の下級生にも、その思いを残していけたらいいなと思います」。そして、応援してくれる人たちへ向けては「コロナ禍で直接触れ合える機会がなくなってしまいましたが、舞台から皆さまに感謝をお伝えできる場面がたくさんあると思いますので、感じていただけたらうれしいです」と言葉を残した愛月。愛月が突き詰めた男役を劇場で見届けたい。



取材・文:黒石悦子

宝塚歌劇団星組
宝塚剣豪秘録『柳生忍法帖』 / ロマンチック・レビュー『モアー・ダンディズム!』

【兵庫公演】
2021年9月18日(土)~2021年11月1日(月)
会場:宝塚大劇場

【東京公演】
2021年11月20日(土)~2021年12月26日(日)
会場:東京宝塚劇場

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