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星野源、2018年最後のチャートで首位獲得 『POP VIRUS』は“根っこ”を語るアルバムに

リアルサウンド

18/12/29(土) 10:00

参考:2018年12月31日付週間アルバムランキング(2018年12月17日~2018年12月23日・ORICON NEWS)

 2018年最後となるオリコン週間アルバムランキング。1位に輝いたのは初登場の星野源『POP VIRUS』です。発売当日、デイリーランキングで16.6万枚を記録した本作は、その後も売れに売れまくり、1週間で27.8万枚のセールスを誇る今年度屈指の大ヒットアルバムとなりました。いやー、凄い!

(関連:米津玄師、星野源からTWICE、DA PUMPまで 2018年注目された“踊るMV”の傾向を探る

 世間的なイメージでいえば、親しみやすさも含めて好感度MAX。音楽番組でダンサーを従えて「どうもー! 星野源でーす!」と笑っている好青年の姿が思い浮かぶでしょう。昨今のテレビ業界における(音楽番組だけではなくドラマともリンクした)彼の活躍は凄まじく、2016年の後半から昨年にかけて「恋」ダンスが全国に浸透したのは周知の事実です。

 また今年に入れば小学生たちが〈どどどどどどどどど ドラえもん〉と合唱し始め、NHK連続テレビ小説『半分、青い』にハマった老若男女が「アイデア」を口ずさむようになる。やることなすことすべてヒットしている状態は、無敵のポップスターのそれですね。だから1週間で30万枚に近いセールスというのはまったく不思議なことではありません。でも、しかし……。

 かつてを知る音楽ファンから見れば、“あの”星野源なんです。2000年代にインストバンド・SAKEROCKでキャリアをスタートさせ、2010年に『ばかのうた』でソロデビューした彼の歌には、メインストリームの姦しさからそっと距離を置く静けさがありました。もっといえば諦念に近いニュアンス。“いつかいなくなる自分”を知っていて、その事実すらドライに笑い飛ばすような、穏やかな悲しみのある歌うたい。少なくとも私はそう評価していたのですが、そこから闘病を経て一気にアッパーな方向に進んでいったのは納得がいきます。“いつかいなくなる”イメージを超越できたなら、“今この時代”のエンタメを本気で引き受けるほうが面白い。その後『YELLOW DANCER』が生まれたのは、なんとも小気味よいストーリーだったと思っています。

 そこから3年で生まれた『POP VIRUS』。「恋」「Family Song」「アイデア」などの大ヒット曲を含む作品です。ただしこれ、「どうもー! 星野源でーす!」という笑顔がはちきれんばかりに炸裂するようなイメージの作品ではないんですよね。特に中盤の感触はソロ初期に近い。すなわち、穏やかな悲しみや諦念の漂っている音楽。そのうえで、アレンジが素晴らしく現代的で鮮烈! びっくりしました。

 俎上に載せたいのは5曲目の「Pair Dancer」。まさに『ばかのうた』時代を彷彿とさせる朴訥としたミドルテンポです。でも単なる弾き語りではなく、ハイハットや効果音が印象的なトラックは海外のトラップやビートミュージックを意識したものになっている。ただのバラードとはいえず、ちょっとレゲエのような雰囲気もあって、なんともジャンルレスな、それでいて日本語の歌モノとして成立するナンバーなんですね。あまりにさりげないからさらっと聴き流してしまいそうになるけど、こういう曲を書く人が日本のエンタメの頂点にいるって、かつてなかったことじゃないでしょうか?

 『POP VIRUS』のジャケットは、心臓から咲いた花。でも、どう見ても大事なのは“根っこ”の部分ですよね。ファンクやソウルといった音楽的ルーツの話も当然あるだろうけど、星野源という個人がどんな根っこを持って今ここにいるのか、そこを改めて語っている1枚。そんな作品がここまで爆発的に売れていることに拍手喝采を贈りたい気分です。(石井恵梨子)

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