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樋口尚文 銀幕の個性派たち

福本清三、名もなき映画サムライの構え(前篇)

毎月連載

第30回

『葬式の名人』 (C)“The Master of Funerals” Film Partners

東映京都撮影所の斬られ役として「5万回斬られた男」と称される福本清三は、1943生まれ。普通の俳優なら、主演スタアの吹き替えでスタントをやらされるなど危険だし自分のプライドにかかわるし、絶対避けたい役まわりだろう。ところが斬られ役にこそ面白味と、自分のレゾン・デートルを見出してきた福本にとっては、自分が老練の脇役として敬意の対象となり、誰かが自分の吹き替えをやってくれたりした時ほど「自分の役割は終わったのか」と淋しくなるという。これはまた何ともおかしい逸話だが、上昇志向と自意識を強烈に発散させて自分の印象をグレードアップさせてゆくのが俳優道の醍醐味と思っている向きも多かろうに、福本はひたすらスタアを下支えする脇役、斬られ役を掘り下げることにのみ喜びと居心地のよさを感じていた。

実は映画監督としての私は、川端康成原案の『葬式の名人』という作品をオール関西ロケで昨年の猛暑のなか撮りあげたのだが、作品の序盤で高良健吾の主人公が元クラスメートの死を悼むべく霊安室に赴くと、部屋を間違えてやくざの一派が抗争で死んだ組員を弔っているところへ迷い込んでしまう、というくだりがある。そこで凝りに凝って、組長を『日本の首領』の中島貞夫監督に、若頭を福本清三氏にお願いしたのだった。

『葬式の名人』(C)“The Master of Funerals” Film Partners

カメラ前の福本清三は、いきなりおっかないドスのきいた風貌に変身するのだが、衣装や小道具で武装する前に、ふらりと現場にあらわれた時はなんとも華奢で奥ゆかしい感じの、そこらへんにいそうな76歳なのだった。太秦の東映京都撮影所で会った時は、食堂の端っこの窓辺にすわって午後のやわらかい陽射しのなか「いつもの」お茶でゆっくりされていたので、あれこれお話しをした。

兵庫県の6人きょうだいの三男であった福本は、中学を出るとすぐに働きに出ることとなった。地元では染物屋の丁稚になったりするのがお定まりだったそうだが、親類の米屋にあずけられた。まだ幼なく恥ずかしがり屋だったので、あきんど的な所作にもなじめないでいたところ、たまさかその米屋が納品していた関係で東映京都撮影所の大部屋にもぐりこむことになった。映画の俳優をやろうなどとは思ってもみなかったが、演技部がこの子は体が強そうだと見込んで採用してくれたらしい。

この福本が撮影所に入った1959年というのは、戦後の日本映画の観客動員数がピークを迎えた直後で、まさに日本映画黄金期であった。人気スタアが出る映画は劇場にかければ当たる状況で、即製のプログラム・ピクチャーが量産されていた時代だ。そこで福本が採用された大部屋というのは、映画俳優のはしくれとは言っても、そこからのして行ってスタアになることなどあり得ない、言わば「その他大勢の盛り立て役」が集められた場所だった。そして福本はそこで、今ならパワハラと言われるであろう先輩から後輩へのお叱りの数々を味わった。

なにしろ福本によれば、時代劇の駕籠かきに選ばれるまで何年もかかるのだそうで(面白いのは東映太秦の大部屋では駕籠かきを任されるようになると皆の見る目が変わるのだそうだ!)、そのほか苛酷な撮影環境下で浪人から町人、農民、はては死体までなんでもかんでもやらされて、うまくやれずに悪目立ちしたらどやされる、という大変な仕事であった。

しかし、福本はこの大部屋でずっと踏ん張って、十年ほど経った時分から少しずついくらか目立つ役が来るようになったそうだが、しかしそういう時には必ず危ないアクションなどをやってみせるのが条件なのだった。スタア俳優にはやらせられない危険なアクションを、当然顔が見えないように「吹き替え」でやることもたびたびだった。ひょっとしたら大けがをするかもしれないし、無事にやりおおせても顔が売れるわけでもないのに、こういう役まわりを買って出て作品とスタアを盛り上げることが大部屋俳優の矜持であった。(つづく)



最新出演作品

『葬式の名人』(C)“The Master of Funerals” Film Partners

『葬式の名人』
2019年9月20日公開 配給:ティ・ジョイ
監督:樋口尚文 原作:川端康成
脚本:大野裕之
出演:前田敦子/高良健吾/白洲迅/尾上寛之/中西美帆/奥野瑛太/佐藤都輝子/樋井明日香/中江有里/大島葉子/佐伯日菜子/阿比留照太/桂雀々/堀内正美/和泉ちぬ/福本清三/中島貞夫/栗塚旭/有馬稲子



出演作品

『パンク侍、斬られて候』
2018年6月30日公開 配給:東映
監督:石井岳龍 脚本:宮藤官九郎
原作:町田康
出演:綾野剛/北川景子/東出昌大/染谷将太/浅野忠信/永瀬正敏/村上淳/若葉竜也/近藤公園/渋川清彦/國村隼/豊川悦司/福本清三



『栞』
2018年10月26日公開 配給:NexTone
監督:榊原有佑
脚本:榊原有佑/眞武泰徳
出演:三浦貴大/白石聖/鶴見辰吾/池端レイナ/前原滉/佐藤玲/福本清三



『多十郎殉愛記』
2019年4月12日公開 配給:東映=よしもとクリエイティブ・エージェンシー 監督:中島貞夫
脚本:中島貞夫/谷慶子
出演:高良健吾/多部未華子/木村了/三島ゆり子/栗塚旭/山本千尋/永瀬正敏/寺島進/福本清三



プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ)

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が9/20(金)に全国ロードショー。

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