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映画製作、劇場興行、配信プラットフォームまで 新型コロナウイルスがハリウッドに及ぼす影響

リアルサウンド

20/4/7(火) 10:00

 新型コロナウイルスの猛威はとどまる気配が見えず、欧米でも各都市の封鎖が続いている。ハリウッドの膝元であるロサンゼルスでも、映画館の閉鎖を含むロックダウンが続き、ハリウッドはビジネスの基盤を揺るがしかねない大きな打撃を受けている。この記事を書いている4月4日現在の状況も交えつつ、今回の新型コロナウイルスがハリウッドに与える影響について考えてみたい。

参考:相次ぐ新作の公開延期 これから「半年間の空白」がやってくる

 まず製作においては、多くの作品で制作スケジュールに影響が出ている。すでに報じられている、ヴェネチアで撮影が予定されていたトム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル』7作目をはじめ、大手業界誌VarietyやDeadlineなどで公表されているだけでも、長編映画では実写版『リトル・マーメイド』や『ファンタスティック・ビースト』3作目、ドラマシリーズではHBOの『サクセッション』やAmazonの『ロード・オブ・ザ・リング』などの撮影が止まっている。

 同時に、有名俳優がウイルスに感染するケースも増えており、トム・ハンクスが夫人と共に陽性と判明した際には、全米に衝撃が走った。現在は無事回復、隔離期間を終えているが、他にもイドリス・エルバなども陽性を公表している。映画のセットでは多数の人が仕事をしており、互いの距離が非常に近くなることも多く、リスク回避のために撮影が止まっている現在、俳優やクルーなどが仕事を失うという事態も起こっている。一方、多くの仕事をリモートで行うことで踏みとどまっているのは『ザ・シンプソンズ』や『ボブズ・バーガーズ』などのアニメーションシリーズの制作であるが、放送スケジュールを毎週から隔週へ変更する声が出始めているなど、こちらも決して楽観視はできない。

 完成した映画を上映する劇場興行は、興行成績という数字によって、ウイルスの影響が一番明確に見えやすいところではあるが、冒頭に書いた通りロサンゼルスでは映画館が一斉に閉鎖されており、例えば3月20日の週以降の興行収入はほぼないに等しいし、そのタイミングに運悪く劇場公開があった作品の興行成績も燦々たるものである。ハリウッドのスタジオや配給会社たちは、少しでもダメージを減らすべく、その方法の模索を続けている。まず、劇場公開と感染拡大のタイミングが直撃してしまった『ソニック・ザ・ムービー』や『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』などの大規模作品、それに直前に公開を控えていたいくつかのジャンルものの作品は、早々に配信に登場させることを決めた。メインは48時間限定のレンタルやデジタルセルなので、SVODとして他タイトルに埋没させることなく、劇場と遜色のない価格帯である程度回収したいという意図があるのだろう。

 一方、巨額の製作費をかけて製作されている『ムーラン(実写版)』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』『ワンダーウーマン 1984』などの作品は、全世界での劇場公開によって何百億ドルもの売り上げを回収する必要があり、公開延期が発表されている。配信に回す作品と公開延期を選んだ作品とが分けられているところに、各スタジオの戦略が見え隠れする。今後、大きなスクリーンと音響がある劇場で観たい大規模作品と家でゆっくりと楽しめる小規模なアート系、現在徐々に広がっているそれぞれの鑑賞方法の差が、これをきっけにさらに広がるかもしれない。

 そんな状況下で最善の対応策を見つけようと、劇場やスタジオ、配給会社が試行錯誤している中、視聴者を伸ばしているのがNetflix、Amazon Prime Videoなどに代表される配信プラットフォームである。アメリカの調査会社ニールセンによると、3月16日の週に視聴者が配信での視聴に費やした時間は、前年同時期との比較で50%増となった。さらに今後はNBCによるPeacockや、ワーナーメディアによるHBO Maxがローンチを控えているし、何よりハリウッド関係者が最も大きな興味をもって見守っているのは、現地時間4月6日にローンチ予定の、スマートフォン特化型配信プラットフォーム「Quibi」である。ドリームワークスの設立者の一人であるジェフリー・カッツェンバーグが率いるこのプラットフォームであるが、すでにスティーヴン・スピルバーグら監督の他、ジェニファー・ロペスやリアム・ヘムズワースなどのトップタレントがそのコンテンツに名を連ねる。先発組のNetflixやAmazon Prime Video、後発組のApple TV+、Disney+に加え、これらプラットフォームの登場によって、配信業界の競争激化は避けられない。

 以上のように、配信や興行でそれぞれ違った形で厳しい戦いを迫られているわけだが、ウイルスの状況が収束した後、ハリウッドが何事もなかったかのように元に戻るのかというのは一つの大きな疑問である。4月1日にDeadlineに出された記事によると、全米6800人を対象にした調査で、「コロナ禍が収束したらまだ映画館に足を運ぶか」という質問に対し、答えの中で最も多い45%の人々が「かなり高い確率で戻る」と答え、さらに追加の質問では20%が「収束次第すぐにでも」、25%が「収束してから数日以内には」と答えたとのこと。一方で11%が「数ヶ月は待ちたい」と答え、映画鑑賞をめぐる一部の消費者の行動にも変化が現れるかもしれない。

 さらに、消費者行動だけでなく、映画ビジネスをめぐる最も基本的な慣習も変わるかもしれない。実は、これまで映画は劇場公開をファーストウィンドウとし、そこからDVDやVODが始まるまでには約3ヶ月の時間をあけるのが通常であり、このモデルを壊すことについては劇場側から強い反発を招いてきた。今までも、例えばNetflixによる『アイリッシュマン』は劇場公開から配信開始までの期間の折り合いがつかず、大規模公開がかなわなかったし、2017年にも30~50ドルの価格帯で劇場公開後20日~45日で配信を可能にするという案が、いくつかのメジャースタジオから上がった際にも、劇場側の強い反発があった。しかし、このような非常事態の中で、通常よりも早く配信を開始するなど、これまでできなかった実験ができたことで、今後ハリウッドの慣習や人々の消費行動を変えてしまうことは大いにありえるのだろう。

 ハリウッドでも新型コロナウイルス禍のロックダウンで思わぬ追い風が吹いている配信であるが、配給側、特にハリウッドのスタジオも、非常事態における映画ビジネスの脆さというのを目の当たりにし、より柔軟で多様な公開方法に舵を切っていくところが見られるかもしれない。

【参照】
・https://deadline.com/2020/04/coronavirus-moviegoing-study-cinemas-reopen-on-demand-streaming-viewing-quarantine-1202897573/
・https://deadline.com/2020/03/animation-tv-series-continue-coronavirus-challenges-1202890786/
・https://deadline.com/2020/03/jeffrey-katzenberg-quibi-launch-interview-1202894393/
・https://deadline.com/2020/03/streaming-services-quibi-hbomax-peacock-launches-coronavirus-impact-1202892947/

(田近昌也)

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