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『HiGH&LOW THE WORST』評論家座談会【前編】「川村壱馬くんは『高橋ヒロシ漫画』感がすごい」

リアルサウンド

19/9/19(木) 8:00

 『HiGH&LOW』シリーズのスピンオフ映画『HiGH&LOW THE WORST』が、いよいよ10月4日に公開される。男たちの友情と熱き闘いをメディアミックスで描く『HiGH&LOW』シリーズと、不良漫画の金字塔『クローズ』『WORST』がクロスオーバーした同作は、川村壱馬をはじめとしたTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEのメンバーらが出演することでも注目を集め、映画に先がけて放送されたテレビドラマ『HiGH&LOW THE WORST EPISODE.0』(日本テレビ系)も大いに話題となった。

 『HiGH&LOW』シリーズの最新作と聞いて黙ってはいられないのは、ドラマ評論家の成馬零一氏、女性ファンの心理に詳しいライターの西森路代氏、アクション映画に対する造詣の深い加藤よしき氏の三名だ。これまで『HiGH&LOW』シリーズの新作が公開されるたびに口角泡を飛ばす激論を繰り広げてきた彼らは、『HiGH&LOW THE WORST』にどんな願望を抱いているのかーー自他ともに認める“HiGH&LOWバカ”たちの座談会の模様を、余すことなくお届けする。(編集部)

■成馬「密度を濃く圧縮するほうに向かっている」

加藤よしき(以下、加藤):僕は正直、今作の企画が発表されてからドラマを観るまで、不安半分、期待半分でした。『クローズ』をはじめ、高橋ヒロシ先生が描いているジャンルは大別するとヤンキー漫画といわれるもので、「HiGH&LOW」もヤンキー漫画的な側面は強いですが、両者は似て非なるものだと思います。刑事ドラマでいうと、『相棒』と『西部警察』みたいな感じですね。まったく混ざらない可能性もあるし、うまくハマればお互い高めあえる。「HiGH&LOW」がまた0か100かのことを仕掛けてきたな、と思っていました。

成馬零一(以下、成馬):物語自体は『HiGH&LOW THE MOVIE/FINAL MISSION』(以下、『FM』)で、やること全部やりきったと思っていたので、この先どうなるのかというのは、想像できなかったです。その後、映画『DTC 湯けむり純情篇 from HiGH&LOW』(以下、『DTC』)があったので、こういうスピンオフを小出しにしたり、あるいは『PRINCE OF LEGEND』のような違うシリーズを動かして、しばらくは本編はやらないのかなぁと思っていました。『HiGH&LOW THE WORST』(以下、『THE WORST』)もスピンオフという位置づけですよね。

西森路代(以下、西森):以前に、平沼(紀久)さんが「鬼邪高のスピンオフをつくる」と定時の3人と約束していたんですよね。ただ今作はドラマが1シーズンあって映画があるという、かなり時間をかけて描く作品になるわけで。これまでの本編くらいしっかりした世界観をまたつくろうとしているんだなと感じます。山王街にそれぞれの人間ドラマがあったように、どこの街にもそういうドラマがあるんだ、という世界を示しているんだなと思いました。

加藤:たしかに、ここからさらにいろんな意味で「HiGH&LOW」の世界を広げていこうという意図をすごく感じますね。ドラマ第3話で『HiGH&LOW THE MOVIE/END OF SKY』(以下、『EOS』)の冒頭が流れたときは我が目を疑いました。「初めて観る人をここから「HiGH&LOW」の世界に入れようとしている」と。「HiGH&LOW」を知らない人が『THE WORST』を観ると「これは一体なんなんだ」となると思うんですよ。『クローズ』っぽいものをやっていると思って観ていると、ところどころで『HiGH&LOW THE MOVIE』のコンテナ街のシーンが入ったり、『EOS』のパルクールが入ってきたりする。過去の映像の中でも一番「このアクションは何!?」と思う場面を入れているのは、『THE WORST』単体で楽しんでもらう気持ちに加えて、「過去にはこんなすごいことをやっているんだ」と興味を引くように仕掛けているんだろうなと思います。新規の人向けの工夫と、世界観を広げる試みが結びついて成り立っている。それがすごく面白いです。

西森:以前HIROさんにインタビューした際、「クオリティーが高い映像を作れば、映画の回想シーンでもなんでも、何回こすってもかっこいいままなんです」(参考:https://news.yahoo.co.jp/feature/1320)と言ってました。それが実践されてるんでしょうね。やっぱり、シリーズ通してのファンは、ああいう映像が入ると、高まりがある。逆に、初めて観る人は、過去のシリーズとの接続がわかるし、振り返ってシリーズを観たくなるということもあるのではないでしょうか。

成馬:『THE WORST』は、最初は何を目指してるのか、よくわからなかったのですが、3話まで観たらだんだんわかってきた気がしてます。世界を広げるというよりは細部を埋めていってる感じがするんですよね。『FM』で九龍&国家 vs SWORD地区の全面戦争までスケールを広げたあと、今度は密度を高める方向に向かったのかな、って。今までスカスカだった地図を埋めていって「この建物、実はこんなに細かく部屋が分かれていたんだ」と思わせるというか。鬼邪高にこんなに細かいディテールがあることを後出しで見せられると、解像度が上がるじゃないですか。広げる方向から、密度を濃く圧縮するほうに向かっているんだと思いました。

西森:シリーズもので、後出しでキャラクターが増えていくというのは洋画や洋ドラではよくあるんですか?

成馬:海外ドラマではありますね。MCUの映画に対する、ドラマ『エージェント・オブ・シールド』なんかはまさにそう。映画でヒーローたちの活躍を華々しく描いて、ドラマではヒーローたち(アべンジャーズ)を後方支援する組織の捜査官たち(普通の人間)の活躍を描くことで物語や世界観を掘り下げていく。「HiGH&LOW」もそうですよね。多分、琥珀さんやコブラの話はスケールが大きくなりすぎて、動かしにくくなってるんだと思います。だから『FM』のあとに『DTC』があったのは必然で、あれって、あまり強くない人たちの話ですよね。『THE WORST』も、リーダー格ではない人たちの話を細かく描こうとしている感じがあって、それが心地良い。

加藤:アメコミだと、脇役だったキャラが単独でシリーズになったり、そこにさらに新キャラがたくさん出てまた人気になったり……というのは結構あります。「HiGH&LOW」の今のシリーズの状況は、たしかにその感じはある。

成馬:バスケ漫画の『スラムダンク』で、主人公の桜木花道がバスケットの選手として成長していくと、試合ばっかりになってしまい、花道の友達のヤンキー仲間たちの居場所がなくなって、応援シーンばかりになるじゃないですか。でも、あいつらにはあいつらの日常と物語があったはずなんですよね。『DTC』はあいつらを主役にして見せてくれている感じがあった。そういう作品って、実は意外と大事なんじゃないかと最近は思っていて。都会に住んでいない、運動がすごくできるわけでも勉強ができるわけでもない10代の男の子が「ここに俺がいる」と思える映画やドラマって、実はあんまりないと思うんですよね。そこを押さえているのは、実は新海誠だけなんじゃないかと思うんですよ。『君の名は。』と『天気の子』はそういう男の子でも観に行けるけど、少女漫画原作のキラキラ映画だと「ここには俺がいない」って思ってしまう。だからそういうときに、ダンさん(山下健二郎)のような人の物語が必要なんだと思うんですよね。

加藤:『DTC』は地に足がついてますからね。

成馬:戦闘力が高くない人たちの話もちゃんとやってくれるところが「HiGH&LOW」は面白いですよね。『THE WORST』も、今のところは団地の子たちがどれくらい強いかまだわからないじゃないですか。そういうケンカの強さとは違うところで、どれくらい個性を見せられるか? だから、現時点ではヤスキヨ(西川泰志:佐藤流司&横山清史:うえきやサトシ)が一番気になりますね。

西森:ヤスキヨの2人は持っていった感じがありますよね。佐藤さんはミュージカル『刀剣乱舞』の主役ですが、実際に舞台を見たときにも、場を自分のキャラクターの世界に持っていく力の強さを感じました。今回もそれがすごく出ていると思います。

■西森「川村壱馬さんはいるだけで背景が感じられる」

加藤:僕は佐藤流司さんに、ドラマ『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』シーズン1の2~3話の頃の山田裕貴さんを重ねて観ています。「主役を食ってやるぞ」という気持ちを感じる。山田裕貴さんがあの頃に村山役でやっていたことを、新キャラの佐藤さんがやっているのを観ていると、早くも1周回った感があるな、と。「昔、お前みたいな目をしたヤツがいたぜ」的な、ヤンキー漫画のOB目線で観てますね。勝手に。

西森:「HiGH&LOW」は、俳優が自分の魅力の見せ方ひとつでのしあがっていける、腕試しができる場なんだなという感じがあって面白いですよね。フィクションとしてのテーマとも重なります。

成馬:基本的に、誰が目立つかっていう話ですもんね。不良同士の戦いが、そのまま、誰がいい演技を見せるかという俳優同士の演技バトルにもつながっている。ただ、次々に強面の人が出てくるのは面白いですけど、肝心の話は全然進んでいないですよね。

加藤:そこはありますね。正直、若干の素材不足は感じます。『THE MOVIE』の映像を流用しているのもそうですが、山王の面々の小ネタが各話に挿入されているじゃないですか。今のところあのやりとりは本編に特に絡む様子がなさそうなので、実は鬼邪高の映像自体はそんなに分量がないのかな? という疑惑が……。これは僕がB級映画でそういう手法をいっぱい観ているせいで、そう感じるのかもしれませんが。でも新規の映像は今回もかっこいいです。全員がものすごい“強キャラ”感を出してくる。轟(前田公輝)は明らかに今までで一番強そうで、『君主論』を読んでる場面なんかもはやズルいと思います。

西森:今回の轟、「強いだけでいいのか」というテーマも背負っていてめっちゃいいですよね。

成馬:それってまさに『クローズ』の世界観ですよね。喧嘩が強いだけではリーダーになれなくて、人望がなければいけないっていう。

加藤:高橋ヒロシ先生的な価値観では、もちろん喧嘩が強いにこしたことはないけれど、それだけじゃダメだっていうのが絶対的なルールなんですよね。『クローズ』の主人公の坊屋春道はちゃんと喧嘩が強くて、本人はリーダー面したくないんだけど、人望があるから周りが勝手についてくる。一方でリンダマンという、めっちゃ強いけどそれゆえに周りから距離を取られているし、本人もあえて距離を取っているキャラクターもいます。轟はこのポジションで、でもその中身を理解できる芝マン(龍)と辻(鈴木昴秀)はついていく。

 それでいうと、『THE WORST』の川村壱馬くんは「高橋ヒロシ漫画」感がすごいんですよ。映画『クローズZERO』シリーズでは、小栗旬さん、東出昌大さん演じる主人公はいずれもクール系というか、周囲と馴れ合わないキャラクターだったけど、川村壱馬くんの花岡楓士雄はすごく漫画版『クローズ』の主人公っぽい。あれはすごくいい。高橋ヒロシ先生の漫画を読んできた人間として、「高橋ヒロシっぽい主人公が出てきた」という嬉しさがありました。鬼邪高のメンツは「HiGH&LOW」の世界を生きているのに対して、彼は『クローズ』の世界を生きてるなって思う。ある意味今まで実写化されなかった部分、三池崇史監督や豊田利晃監督の『クローズ』ではオミットされていた部分を背負ってるというか。

成馬:「HiGH&LOW」は古今東西のバトルモノのテイストが混ざり合ってたんですけど、今回は鬼邪高が舞台の中心なので、必然的に拳で殴り合う喧嘩バトルの養素が強く出てますよね。その時に本家である『クローズ』の世界と合流したのが、面白い。

西森:川村壱馬さんはすごいですよね。まだそんなに知られていないときに『PRINCE OF LEGEND』の京極竜役をやって、連動するライブでのパフォーマンスやMCも含めて、観ている人の気持ちを持っていったじゃないですか。それが今度は『THE WORST』でしっかりセンターを張っていて。

加藤:まだ“概念じいさん”――もとい、ヤンキー漫画に出てくる”良いおじいちゃん”を具現化させた泉谷しげるさんと一緒に暮らしている場面しかないですが、「この子はすごく強いし、いい子なんだろうな」というのが伝わってくる。あれはいい意味で予想を裏切られたというか、思った以上に川村くんはすごいなと思いました。

西森:何もしていなくても、いるだけで背景が感じられるんですよね。「いいところがある子なんだろうな」って。

成馬:上手い俳優さんは細かい仕草だけで過去を感じさせるという、行間を埋める芝居をきちんとやるんですよね。そういうセンスがある人なんだろうと思います。

加藤:彼は凄く良いですよね。『THE WORST』で川村くんが気になってTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEのMVを観て、「当たり前だけど歌もうまいやんけ!」となって、今はすっかりTHE RAMPAGEの曲を聴き漁ってます……。まんまとLDHの策略にハマってしまいましたね。

西森:それと、鬼邪高生が「てっぺん」にこだわっているのを観ていると、「誰かが頂点を獲ることで均衡が保たれる」というのが「HiGH&LOW」の世界ではすごく大切なんだなとあらためて感じます。全員が横一線だと“かえって”均衡が保てない、強い人がトップにいないといけない、という考えが根底に流れているのかもしれません。人望があってみんながついていく人物が存在しないといけないというのが、すごく大きいテーマなんだな、って。

加藤:それは最初のドラマシリーズから一貫して描かれていますね。すごく強い個が存在したほうが円滑になるというのは、組織ならどこにでもある話ではあります。看板になる人がひとりいて、そいつについていく、という。

成馬:本編は『FM』以降だと九龍なき世界で、つまり均衡が壊れた世界になっている。ここをどうしていくんでしょうね。

■加藤「『THE WORST』から入っても全然問題ない」

西森:今『クローズ』を観てから『THE WORST』を観ると、場面は屋上であったり、校舎であったりと近いのに、美術や衣装の方向性は違っていたのが興味深かったです。『クローズ』に出てくる壁の落書きのほうが殺伐としていて、「HiGH&LOW」のほうが全体にしゃれている。

加藤:「HiGH&LOW」の落書きはグラフィティ寄りですからね。そこは、根底にヒップホップカルチャーがあるLDHらしいなって思います。

成馬:喧嘩の場面も、「HiGH&LOW」はダンスの延長って感じがします。

加藤:『クローズ』はアクロバットな動きよりも殴り合いの方向にいってますからね。

西森:衣装にしても、「HiGH&LOW」はお客さんがキャラクターというものを注意深く見ていることを意識している感じがあるんですよね。村山の学ラン+ネルシャツみたいに、色味だったり着崩し方だったりで、同じように学ランを着ていてもそこにキャラクターが反映されているというか。ある種、アイドル衣装の文脈にも近いかもしれません。そういう工夫が必要なんだ、という意図が感じられる。

成馬:ただ、西森さんが言うような楽しみ方がある一方で、これから初めて「HiGH&LOW」を観る人は、「いっぱい人がいて誰が誰だかわからない」ってなると思うんですよ。どの作品から観たとしても。でも、実は「誰が誰だかわからない」という時期ならではの面白さもあると思う。映画版の予告編で、坊主に白ランの鳳仙の不良たちが大量に歩いているシーンとか、「うわっ」ってなるじゃないですか。そういう群体としての人間に圧倒される興奮って、各キャラクターに対する解像度が低い時だからこそできる楽しみ方だと思います。

 ドラマ版のシーズン1をリアルタイムで観ていた時は、そういう楽しさがありました。鬼邪高生が大量に歩いているところで、「なんかよくわからないけど、恐い人たちがいっぱいいる!」って。今『THE WORST』を観ていると、こちらの目が慣れちゃってるから結構、顔が識別できるんですよね。そうすると当初とは違う見方になってくる。あの群衆の迫力は、新しく観始めた人だからこそ味わえる、ここ数年のフィクションでは珍しい興奮だと思う。

西森:鳳仙学園の場合は、グレーの学ランでみんな坊主という画一性が不気味にも見えるという。そのことで、個人のキャラクターではなく、学園のキャラクターというものが際立ってくる。それって、オリジナルの「HiGH&LOW」と、原作ものが組み合わさったからこそのコントラストの違いなんだと思うと面白いですね。

加藤:現実離れした光景を見せるのは、映画というかフィクションの基本ですからね。そういう意味で、今回生まれて初めて「HiGH&LOW」に触れる人は、鬼邪高の荒れ果てた光景を観た瞬間に「なんだこれは」ってなると思う。過去にもいろんな学園ドラマで荒れた高校が出てきたけど、鬼邪高の荒れ方は頭一つ抜けてるし、それなのにオシャレっていう絶妙な塩梅なので。

 そもそも「HiGH&LOW」って、全部観ていても完璧に把握することは無理だと思うんですよ。だから『THE WORST』から入っても全然問題ないと思いますね。「その前にこれを予習しておけ」みたいなことは一切ない。今作で「おっ」と思った人は、ここからでも問題なく楽しめると思う。これから先、このシリーズを追って損はしないですよね。その期待は裏切られないと思います。(取材・構成=斎藤岬)

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