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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 5回目 後編 フィロソフィーのダンスとボーダーレスなアイドル像を考える

ナタリー

「聴くなら聞かねば!」ビジュアル

佐々木敦と南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。前回に引き続きフィロソフィーのダンスをゲストに迎えたトークの後編では、メンバーが考えるアイドルとしての在り方や、女性アイドルを取り巻く環境に思うこと、グループとしての覚悟と決意などについて話を聞いた。

構成 / 瀬下裕理 撮影 / 朝岡英輔 イラスト / ナカG

マインドの源はアイドル

佐々木敦 前回も少しだけ話したんですが、僕は普段YouTubeで皆さんの作品を含めてアイドルの映像を観ていまして、各動画のコメント欄を熟読するのがすごく好きなんです。それで皆さんが出たライブ映像のコメント欄を見ると、初見のときの自分と同じように、その動画で初めてフィロソフィーのダンスを知った人たちが衝撃を受けている感じが表れているんですよね。「発見した」「なんなんだ、この人たちは!?」みたいな驚きのコメントがすごく多い。こういうまだグループのことを知らない人たちを、一瞬で「この人たちはいったい誰なんだ?」と惹き付けるような、ものすごく力強いものが皆さんの音楽やパフォーマンスにはありますし、そしてそれが動画だけでもしっかり伝わってくるという(笑)。そういうパワーも、グループが長く続いている要因の1つなのかなとも思います。

奥津マリリ うれしい! もうこうなったら、やっぱり1回現場に来てほしいな(笑)。

十束おとは ね。チェキとかみんなで撮ってみたい(笑)。

奥津 でも現場に行かずにネット上で推す気持ちもわかるし。

南波一海 YouTubeのコメント欄の話で言うと、僕も佐々木さんと同じくいつもコメントを読んでいるんですけど、フィロソフィーのダンスが新曲の映像を公開すると、けっこうな賛否両論が巻き起こるじゃないですか。あそこで懐古的なことを強く主張する気持ちってどういうところから出てくるんだろうと思ってしまうんですよね。

奥津 あ、怒ってる。

南波 皆さんと話すときは自分が1人で憤慨していることがよくあるんですけど(笑)。賛否両論あっていいし、否定することが悪いことだとは決して思わないんですが、アイドルが表現や楽曲の幅を広げようとしているときに、逆に既存の枠へと押し込めようとするのはなんだかなと思っちゃうんですよ。

十束 私たちはいいですけどね(笑)。

奥津 うん。うちらはあんまり気にしてない(笑)。

南波 気にしてるのは自分だけだった。

一同 あははは(笑)。

佐々木 それで言うと、この連載でほぼ毎回話題になることではあるんですが、アイドルの方々は時間の経過とともにいろいろな努力を重ねて、以前は歌えなかった難易度の高い歌が歌えるようになるとか体がより動くようになるとか、次第にスキルアップしていくじゃないですか。本人たちはそうやってレベルアップするためにがんばっているはずなのに、パフォーマンスの質が高くなっていくと、そのことに戸惑ったり引いてしまって応援するのを止めてしまうファンも実際にはいますよね。

日向ハル それ、めっちゃ言いたいことがあります(笑)。フィロソフィーのダンスは、結成当時から「アイドルか否か」みたいなことをやっぱり言われてきたんですけど、5年以上も活動しているとパフォーマンスのクオリティも当然どんどん上がっていくんですよ。そうなると「やっぱりアイドルじゃないじゃん」と言われることもあって。でも私がアイドルになって本当に大事だなと学んだことは、ファンの方たちとの距離感や精神面のことであって、パフォーマンスのジャンルや質はまったく関係ないんですよね。実際、私たちはファンの方とかなり近い距離感で話したりコミュニケーションを取ったりするんですが、パフォーマンスがどんなに変わっていこうと、私たちのマインドは絶対にアイドルなんです。でもそういうアイドル像を求めてくる方々だけに合わせて、かわいらしいアイドルソングばかりを歌う必要はないんじゃないかなと思っていて。

佐々木 本当は自分たちの好きなようにやっていいはずなのに、おかしな話ですよね。

日向 そうなんです。だから、パフォーマンスに未完成な部分があって、そういう未熟でかわいらしいアイドルこそ真のアイドルなんだという風潮には違和感を覚えています。

佐々木 アイドル文化には拙さを愛でるという傾向もあるし、自分もその気持ちがわからないわけではないんですが、応援されている本人たちは当然複雑な気持ちになりますよね。「なんで成長しちゃいけないの?」と思ってしまう。

日向 日頃ファンの方々とやりとりしていると、私たちと築いた親しい関係性を大切に思ってくれているんだなと感じる場面がたくさんあるんです。だから、このマインドやファンの方々との関係性が変わらなければ、どんなにパフォーマンス面で変化しようと、私たちはずっとアイドルなんです。それに、そもそもアイドルという言葉の定義は人それぞれだなとも思っていて。私にとってはずっと椎名林檎さんや洋楽アーティストがアイドルだったし、パフォーマンスのクオリティでアイドルか否かを区別しないでほしいなと。でもその考えを浸透させていくには、やっぱり自分たちのグループが既存の概念やジャンルを超越して、フィロソフィーのダンスという名前を世の中に広めていくしかない。だから、私たちが売れるしかないというか、横並びのグループみんなで売れて1つのシーンを作っていくしかないと思っていますね。

佐々木 素晴らしいですね……。

南波 本当にそうあってほしいと思います。

十束 アイドルシーンの拡大に伴って「あのグループはアイドルなのか否か」という論争が増えてきた気がしますが、誰かの人生にパワーとときめきを与えてくれる存在なら、ジャンル関係なくそれは誰かのアイドルなのではと思います。今の時代はアイドルも多様化していて、さまざまな特徴を持った素敵なグループがたくさんあるので、既存の型にはめて押し込めようとすることは本当に残念だなと。やっぱり私たちがそういう現状を変えていくしかないなと、改めて思いました。

佐々木 フィロのスの皆さんは、自分たちがアイドルだということを決して捨てないところが素敵だと思います。アイドルとしての自覚を保ちつつ、アーティストと呼ばれてもいいようなスキルフルなパフォーマンスを見せていく。中には混乱する人もいるかもしれないけど、それによってむしろアイドルという存在の定義が変わっていくわけですから。既存のアイドル像に身をもって疑問を呈しつつアイドルシーンを変えていこうとする姿を、これからも目に焼き付けたいと思います。

女性アイドルだけど別に続けててよくない?

南波 もう1つ聞きたいことが。今日の女性アイドル文化には年齢のハードルが確かに存在していると思うんですが、皆さんはどう考えていますか? 僕としてはそこは変わっていってほしいなとずっと思っていて。活動を長く続けていこうとするフィロソフィーのダンスは、その部分も変えていってくれるという期待も託されているんじゃないかなと。

十束 確かにハードルはあります(笑)。でもその問題って、アイドルの世界だけで起こっていることじゃないですよね。私の友人も、勤めている会社の同僚から「もういい歳なのにまだ結婚しないの?」と言われたそうで、令和の時代にまだそんなことを言う人がいるんだとびっくりしました。アイドル界の話でいうと、男性アイドルは年齢についてはあまり言及されないのに、女性アイドルは言われるじゃないですか。それってもはやアイドルという職業どうこうの話じゃなくて、根底に「女性だから」という理由があるのかなと感じました。なのでこの問題を解決するには、今の社会の現状を変える必要があるので時間がかかると思いますが、私たちが活動することで少しでも力添えできていたらうれしいです。

南波 メジャーデビュー曲「ドント・ストップ・ザ・ダンス」(2020年9月発表)には女性の在り方を描いた歌詞も盛り込まれていたので、今の社会と切り離されずにメッセージを発信しているのがとても印象的だったんですよね。

日向 まさか私たちもこんなふうになるとは想像していませんでした。

佐々木 これまではアイドルの方々自身、言えることと言えないことがはっきりしていた時代が長く続いていたと思うんです。大人に教わったことや運営から言ってよしとされていることしか話せないというムードがずっとあったけど、今は自分たちのことや社会に対する考えを以前よりは自由に発言できる時代になった。実際に僕もこの連載にゲストで来てくれたアイドルの方々からお話を伺うと、「すごいな。こんなことを考えてたんだ」とすごく刺激を受けますし、自分の思いを正直に言葉にしたり、歌詞やパフォーマンスに自分たちの思いを込めたりするのも歓迎すべきことだなと思います。

日向 歌詞に関して言うと、メジャーデビューを機に作詞を担当してくださる方々の体制が変わったということが大きいですね。インディーズ時代はヤマモトショウさんにいただいた歌詞を自分なりに解釈して歌っていたんですが、メジャーデビュー以降、作詞家の方が固定ではなくなったんです。そのタイミングでレーベルの人たちから私たちに「曲を通して何を伝えたいか、自主性を持って考えてみて」という話があって。

佐々木 なるほど。

日向 で、スタッフさんと一緒になってどうしようかと考えたときに、私たちは女性だから、同じ目線で誰かを応援できる曲にしたいとか、メンバーの年齢は非公開ですけどそういうところを含めて私たちのストーリーを感じられるものにしたいという気持ちが固まったんです。「ドント・ストップ・ザ・ダンス」の作詞を引き受けてくださったのはヒャダインさんだったんですけど、歌詞の中に4人それぞれの自己紹介的な要素も入れていただいて、それであの形になりました。私たちはアイドルで、その立場からアイドルの概念を変えることを目標にしてはいますが、社会全体を変えたいなんて大きなことは言えないです。でもやっぱり男性アイドルは何歳になってもアイドルとして存在しているのに、女性アイドルは30歳とかになると「まだやってるんだ」と思われてしまう空気が確かにあると思います。AKB48の柏木由紀さんが「女性アイドルの概念を変えたい」とおっしゃっているように、私たちも「女性アイドルだけど別に続けててよくない?」と言えるような存在になりたい。当たり前のように、ただグループを続けていたいんです。それに私たちだけじゃなくて、「周りからなんと言われようと活動を続けたいから続けるんだ」という女性アイドルグループが増える時代になったらいいなと思います。

佐々木 アイドルの方は10代前半でデビューするケースが多いかもしれないですが、もっと年齢を重ねてからアイドルになったって別にいいですよね。大切なのは活動の中身ですから。活動をストップせずに自然に歳を取っていきながらアイドルでい続けていいし、辞めずに続けることの価値はとても大きいと僕は思います。若いときの一瞬の輝きこそアイドルの醍醐味と考える人は今も多いだろうし、もちろんそういう刹那的な価値を持った側面も確かにあるんだけど、その時間が過ぎたらアイドルとしての人生は終わりなのかと考えると、決してそうではないと思うんですよね。だからフィロのスの皆さんに限らず、アイドルを続けたいと思う方にはずっと続けていってほしいです。

日向 走り続けます。

おじさんだって自由に踊っていい

佐々木 2020年代、今後の活動についてフィロソフィーのダンスさんはどんなビジョンを持っていますか?

奥津 今日お話していて改めて思ったのは、私たちは何かを否定しながら生きていくより、自分たちの姿を見せることで、グループとしてのスタンスを示し続けたいなって。「自分たちはアイドルじゃない」と言ってアイドルシーンを否定したり、「若いって何?」と若い子たちを否定したりはしたくない。どの年代やジャンルのパフォーマンスにもそれぞれの素晴らしさがあると思うんです。

佐々木 なるほど。

奥津 さっきも話に出ましたけど、今アイドルを取り巻く環境が閉鎖的で複雑になったのは、アイドル自身の責任でもあるし、実際にそういう受け取られ方をする機会をアイドル側が増やしてしまったことにも問題があると思います。さらにアイドル業界に集まってきた女の子たちを、一部の大人がおいしいと思う部分だけビジネスとして搾取して、その部分だけ切り取られたアイドル文化がネガティブなイメージで世の中に浸透していることも、よくないんじゃないかなと思います。

南波 うんうん。

奥津 でも、そんな時代の中で生まれた私たちだからこそ、ここから先は自分たちで「こういうアイドルになりたい」「こういう女性になりたい」と思い描きながら、アイドルとしても女性としても年齢とキャリアを重ねていきたいですね。それに「どの年代もいいよね」「どのアイドルもいいよね」「でも私たちはカッコいいほうがいいよね」みたいな、あくまでもポップな感じで自分たちの思考を示していけるような、アイドル界の新しいシンボル的な存在になれたらなあと思っています。

日向 ちゃんとまとまった(笑)。

南波 素晴らしい。

奥津 去年から世の中はコロナ禍で落ち込んでいるけど、私たちに何ができるか考えたら、誰かを明るくすることや元気のない人にパワーを与えることだと思ったんですよね。それはエイジレスであり、ジャンルレスな行為でありたい。私たちは「子供も踊っていいし、おじさんだって自由に踊っていいんだよ」って全世界を肯定したいと思っている集団なので。この時期、この情勢だからこそ、「ジャパンにはフィロソフィーのダンスが必要でしょ」と思えるぐらい陽気にがんばりたいです!

佐々木 すごく素敵ですね。佐藤さんはどうですか?

佐藤まりあ うーん、どうなんですかね。この先グループがどうなっていくかはわからないですけど……私はフィロソフィーのダンスを青春の1ページという気持ちではなく、ここまで来たら人生だと思ってやっているので。

日向 うわー、めっちゃいいこと言ってる!

南波 人はアイドルたちに“青春の1ページ”感を求めすぎですよね!

奥津 あ、南波さんがまた怒った!

佐藤 着火させちゃった、ヤバいヤバい(笑)。

南波 いや、そうじゃなくて、むしろそういうものが好きなほうなので、佐藤さんの言葉にハッとしたんです。

佐藤 でも本当に青春の1ページではなく、これは私の人生だと思ってフィロソフィーのダンスの活動をしているので、とりあえず終点まではメンバーについていきたいと思っています。

南波 終点(笑)。

佐藤 「ライブ・ライフ」(2018年8月発表)のMV冒頭で1人ずつインタビューに答えているシーンがあるんですけど、そこでマリリが言っていた「この音楽を枯らしちゃいけない」という言葉がずっと頭に残っていて。自分たちの活動が終わったら、フィロソフィーのダンスの音楽自体は残るけど、ちゃんと生かしてはあげられないじゃないですか。私たちがステージで歌ってこそフィロソフィーのダンスの音楽には輝くものがあると思うので、ファンの方や誰かが求めてくれている以上は歌い続けたいと思っています。

佐々木 いやあ、どんどん感動モードになってきた……。

南波 何度も言ってしまいますが、フィロソフィーのダンスの皆さんにはシーンを変える力があるってすごく期待しているんです。だからどんどん思うことを発言していってほしいし、本当はライブ映像(4月に発表された最新シングル「カップラーメン・プログラム」付属Blu-rayに収録されている映像「"World Extension"2020.11.19@harevutai」)の副音声にもピー音を被せなくてもいいんですよ。

日向 でもあれ、◯◯◯◯ですよ(笑)。

南波 ◯◯◯◯なんて別にいいじゃん。ハルさんの発言にピーって自主規制音が入っちゃうことがあるけど、もはやそれも規制しないほうがフィロソフィーのダンスらしいいんじゃないのという気持ちになりました。まあ、ピーが入ること自体がネタとして面白いというのもあるんですけど。

日向 あははは(笑)。私もおいしいところはいただいたなと思いますよ。

奥津 私もどうせだったら過激なやつ言ってみたいです!

十束 というか何ならピーになるんだろうね。

南波 ピーを狙う必要はないですが(笑)、もっと言っていいと思いますよ。皆さんは空気を読めてしまう人だけど、これからのインタビューとかでも変に周りに気を遣わず、普段思っていることをガンガン話していいんじゃないかな。

十束 それで次ピーだらけになったらどうしよう。

日向 「使えるところがないです」って撮り直しになったら終わる……でもそうなったら「南波さんに言えって言われました!」って話そうっと(笑)。

フィロソフィーのダンス

奥津マリリ、佐藤まりあ、日向ハル、十束おとはからなる4人組のアイドルグループ。2015年に加茂啓太郎のプロデュースにより活動を開始し、同年12月に会場限定シングル「すききらいアンチノミー」、2016年11月に1stアルバム「FUNKY BUT CHIC」を発売。以降“音楽性にはコンテンポラリーなファンク、R&Bの要素を取り入れ、歌詞には哲学的なメッセージを込める”というコンセプトのもとコンスタントに楽曲を発表し続けている。2020年9月にメジャー1stシングル「ドント・ストップ・ザ・ダンス」、2021年4月にメジャー2ndシングル「カップラーメン・プログラム」を発表。同年7月に東名阪ツアー「Philosophy no Dance Dance with Me TOUR 2021」を開催予定で、翌月8月にはメジャー3rdシングル「ダブル・スタンダード」を発売する。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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