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伊藤英明は作品に説得力を持たせる 『病室で念仏を唱えないでください』で見せる“厚み”

リアルサウンド

20/3/6(金) 6:00

 『病室で念仏を唱えないでください』(TBS系)で主人公の松本照円(照之)を演じる伊藤英明。連続ドラマの主演は、2016年の『僕のヤバイ妻』(関西テレビ・フジテレビ系)以来実に4年ぶりだ。

参考:伊藤英明、命に関わる作品に「自分自身が救われている」 幼少期の苦しい体験を経た僧医役への思い

■俳優としての代名詞『海猿』
 伊藤英明と聞いて映画『海猿』シリーズを思い出す人も多いだろう。8年にわたる同シリーズは4作品合計で興行収入200億円を超え、伊藤の代名詞となった。伊藤が演じたのは、海難事故に立ち向かう海上保安官の仙崎大輔。人命救助に命をかける仙崎と仲間たちの姿は、CG、ロケ、セットを駆使した迫真の映像とも相まって大きな反響を呼んだ。

 さわやかで熱血漢なイメージが先行する伊藤だが、俳優としての伊藤は役と一体になったような独特の存在感が特徴だ。当初、第2作で終了する予定だった同作が8年にわたる大ヒットになったのも、「『海猿』と仙崎大輔をもっと見たい」というファンの熱意に後押しされた背景がある。そのくらい役柄を魅力的に見せる伊藤の演技は際立っていた。

 恵まれた体格と身体能力の高さに定評のある伊藤にとって、体を張ったアクションやスペクタクルは持ち味を最大限に発揮することができる場所だ。潜水士の仙崎をはじめ、映画『252 生存者あり』での元レスキュー隊員・篠原や、映画『テラフォーマーズ』の小町小吉は伊藤ならではの役どころと言える。

 また、武骨な男らしさも伊藤の魅力。映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』での林業に従事する山の男や、映画『3月のライオン』の棋士、ドラマ『天皇の料理番』(TBS系)で主人公を導く炊事軍曹では、背中からにじみ出るオーラに圧倒された。

 パパブリックイメージと対極的な役柄で注目されたのが映画『悪の教典』。高校教師でサイコパスの蓮実聖司として教え子を次から次へと惨殺する同作は、それまでのイメージもあって二重にショッキングなものだった。逆説的に命の尊さを訴えた同作以降、ドラマ『連続ドラマW 罪人の嘘』(WOWOW)での悪徳弁護士・笠原など、あらためて役者としての振れ幅の広さを示してきた。

■厚みのある人間力で患者を救済
 『病室で念仏を唱えないでください』の松本は救命救急医で僧侶という異色のキャラクターだ。正確には医療機関で心のケアをするチャプレン(臨床宗教師)だが、心身両面から患者を相手にするタフな役どころである。医師であれば一人でも多くの命を救おうとするものだが、そこには救いきれない命があるという暗黙の前提が隠れている。

 医療の現場は全力で立ち向かうべき場所だが、同時に自らの無力さとも向き合うことになる。最期を迎えた患者や遺族に何ができるかという重いテーマを扱った本作では、個性的な救急救命センターの面々に加えて、唯一無二と言える松本のキャラクターがドラマのトーンを決定づけている。

 血の気が多く、言葉よりも先に手が出てしまう松本は、虐待をした患者の家族を殴ってしまうなど、医師としての自制心よりも人間としての正義感が上回る場面もしばしば。僧侶であるにもかかわらず煩悩を隠さない姿には矛盾を抱えた人間臭さがあふれており、患者との触発がドラマを生み出す。多くの命と向き合ってきた伊藤の人間力とも言える厚みが、作品に一過性のものではない説得力を持たせている。

 デビュー前に肉体労働をし、家族と過ごす時間をつくるためにアメリカに移住するなど、飾らない素顔が親近感を抱かせる伊藤英明。年齢を重ねても若々しさを保っているのは、等身大で役と向き合っているからだろうか。現在放送中の大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合)をはじめ、映画『燃えよ剣』も公開を控えている。40代俳優の真打として、スケールの大きな演技を見せてくれることを期待したい。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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