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『今日から俺は!!』『コンフィデンスマンJP』がヒット ドラマ映画化の強さはまだ健在?

リアルサウンド

20/8/12(水) 6:00

 新型コロナウイルスの影響で映画館の興行が苦戦している中、『今日から俺は!!劇場版』と『コンフィデンスマンJP プリンセス編』が大ヒットしている。この2作は、テレビドラマを映画化した幅広い世代が楽しめるコメディ映画という共通点があるのだが、何より役者の魅力を極限まで引き出していることが最大の魅力だ。

 まず『今日から俺は!!』だが、本作は三橋貴志(賀来賢人)と伊藤真司(伊藤健太郎)という不良少年二人を主人公にしたヤンキー漫画をドラマ化、映画化したものだ。原作は1988~97年に『週刊少年サンデー増刊号』(小学館)と『週刊少年サンデー』(小学館)で連載されていた西森博之の同名漫画だが、映像化に際して監督・脚本を担当した福田雄一は、舞台を連載時期よりも前の1981~82年に設定した。そのため、80年代色が強く、当時を体験した大人にとっては懐かしく、当時を知らない若者にとっては、時代劇のような感覚で作品世界を楽しめたのが広い世代に支持された理由ではないかと思う。

 劇中では福田が得意とする脱力ギャグと激しいケンカが交互に描かれるのだが、面白いのは喧嘩がとてもリアルだということ。ドラマの時から生々しいとは思っていたが、映画では、より振り切ったものとなっている。

 今回は伊藤と三橋がかつて戦った不良と共闘し、北根壊高校の不良と戦うのだが、北根壊を束ねる柳鋭次を演じる柳楽優弥の悪役ぶりがマジで怖い。

 柳はナイフを常に携帯しており、躊躇することなく相手を刺せる男で、観ていて「痛そう」な場面が何度も登場する。この「痛そう」というのはとても大事なことで、喧嘩は「血の流れる暴力」で「死ぬこともある」ということをちゃんと描いていることの証明だからだ。この感触は、ゲームやダンスに接近している『クローズZERO』や『HiGH&LOW』といった不良映画より以前の80年代の不良映画の雰囲気に近いもので、個人的には、井筒和幸監督の『ガキ帝国』を思い出す。これは登場する不良たちの顔立ちや佇まいによるところも大きい。特に前述した柳楽優弥と、巨漢の不良・大嶽重弘を演じる栄信が素晴らしく、福田監督は、コメディだけでなくアクションにおいても役者の魅力を最大限まで引き出していると感じた。

 一方、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』は、昨年公開された映画『ロマンス編』と同様、古沢良太の脚本を田中亮が監督している。『コンフィデンスマンJP』は信用詐欺師(コンフィデンスマン)たちを主役にした作品で、物語は毎回、ダー子(長澤まさみ)たち詐欺師がターゲットを騙すために、あの手この手を駆使するというもの。

 今回のターゲットは、世界有数の大富豪フウ家の当主レイモンド・フウの遺産。ダー子は詐欺師の片棒を担がされていた16歳の少女・コックリ(関水渚)を、レイモンドの隠し子・ミシェルに仕立て上げて、フウ家の遺産をだまし取ろうとする。

 『コンフィデンスマンJP』もまた、役者のポテンシャルを見事に引き出したコメディ作品なのだが、福田雄一が、役者たちとの交流で生まれた現場のライブ感を重視するのに対し、古沢良太の脚本が中核にある本作は、物語とキャラクターが細部まで作り込まれており、古沢が構築した難しい役に挑むことで、俳優たちは新たな魅力を引き出されている。

 ジョージ・ロイ・ヒル監督の『スティング』を筆頭に、昔から詐欺師が主人公の映画には傑作が多いのだが、それは詐欺師と役者が「演じている存在」という意味において、とても近い存在であるため、役者が役にシンクロしやすいのだろう。その意味で様々な役を演じるダー子たちの振る舞いは、役者自身の演技による俳優論と言えるところがあるのだが、今回の『プリンセス編』は特にその傾向が強い。

 ダー子と共に偽物のプリンセスとしてフウ家に潜り込んだコックリは、最初は無学で垢抜けない少女だったが、ダー子と詐欺師としてのミッションに挑む中で、心身ともに美しく成長していく。そんなコックリの変化が、新鋭女優・関水渚の成長物語と重なることが本作の面白さだろう。

 その意味でも『プリンセス編』は、宮崎駿監督のアニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』のような立ち位置の作品で、世の中には本物も偽物もなく、演じることで人は何者にでもなれるというメッセージは『コンフィデンスマンJP』が描いてきたテーマの集大成であると同時に、それ自体が優れた俳優論だったと言えるだろう。

 映画の舞台はマーレシアのランカウイ島。ゴージャスな建築物や着飾ったセレブたちが集う姿は豪華絢爛で、コロナによって国家間の旅行が難しくなった現状を考えると夢のような物語である。この現実から切り離された夢を描こうという姿勢は、80年代の時代劇に徹した『今日から俺は!!』にも通じるスタンスで、だからこそ、この2作は熱烈な支持を得ているのだろう。コロナに疲れている人は、この2作を観て、せめて映画の中だけでも辛い現実を忘れてほしい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『今日から俺は!!劇場版』
全国公開中
出演:賀来賢人、伊藤健太郎、清野菜名、橋本環奈、仲野太賀、矢本悠馬、若月佑美、柳楽優弥、山本舞香、泉澤祐希、栄信、柾木玲弥、シソンヌ(じろう・長谷川忍)、猪塚健太、愛原実花、鈴木伸之、磯村勇斗、ムロツヨシ、瀬奈じゅん、佐藤二朗、吉田鋼太郎
原作:『今日から俺は!!』西森博之(小学館『少年サンデーコミックス』刊)
脚本・監督:福田雄一
配給:東宝
(c)西森博之/小学館 (c)2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kyoukaraoreha/

『コンフィデンスマンJP プリンセス編』
全国公開中
出演:長澤まさみ、東出昌大、小手伸也、小日向文世、関水渚、古川雄大、白濱亜嵐、柴田恭兵、北大路欣也、竹内結子、三浦春馬、広末涼子、織田梨沙、ビビアン・スー、滝藤賢一、濱田岳、濱田マリ、デヴィ・スカルノ、石黒賢、前田敦子、生瀬勝久、江口洋介
監督:田中亮
脚本:古沢良太
主題歌:Official髭男dism「Laughter」(ポニーキャニオン/ラストラム・ミュージック・エンターテインメント)
配給:東宝
制作プロダクション:FILM
製作:フジテレビ・東宝・FNS27社 
(c)2020「コンフィデンスマンJP」製作委員会
公式サイト:http://confidenceman-movie.com 
公式Instagram:https://www.instagram.com/confidenceman_jp/
公式Twitter:https://twitter.com/confidencemanJP

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