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『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』4DXは“アクション娯楽大作”としての真価を発揮!

リアルサウンド

18/8/8(水) 12:00

 「3D」を超えて、現在、最も新しいかたちの映画鑑賞が楽しめるのが、「4D」と呼ばれる上映方式である。なかでも世界で59カ国、500以上のシアターが存在し、日本の複数のシネマコンプレックスでも観ることができる「4DX」は、多彩な仕掛けによって観客を楽しませている。2D、もしくは作品によっては飛び出す3D映像の内容にあわせて、前後左右、上下に座席が動き、バイブレーションによって振動や衝撃を与え、水や雪が舞い散り、吹き付ける風、耳元をかすめるエアーなど、映画を観ながら五感を刺激するアトラクションのような体験ができるシステムだ。2017年に「4DX」シアターは、全世界で2000万人を動員、ヨーロッパや北米の20~30代を中心とした若い層の間で支持を受けている。

 さて、そんな最新型システム「4DX」で、トム・クルーズ主演の人気シリーズ最新作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を鑑賞してみたら、どうなのだろうか? 今回、実際に本作を「4DX」で鑑賞してみた。その感想をレポートしながら、本作『フォールアウト』の魅力とともに、これを「4DX」で体感することの意味について考えていきたい。

■4DXで味わう“フォール・アウト”

 トム・クルーズ本人が、自ら危険なアクションに挑戦し、観客の度肝を抜く本作。通常の劇場で鑑賞したときも、トム演じる命知らずのエージェント、イーサン・ハントが、ビルからビルへ飛び移ろうとしたり、危険なカーアクション・シーンなどピンチの場面で、作品に没入した観客たちが、思わず声をあげてしまう瞬間が何度もあった。観客はトムの肉体を通じ、一時の危険な冒険に飛び込むことができるのだ。

 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は、もともとそのような「体験型」の作品である。その意味では、様々な方法で映像とシンクロし、さらに没入感を高めてくれる「4DX」に向いている映画作品だといえるだろう。

 まず、敵に見つからないように目的地へと潜入するため、成層圏寸前の超高度から、身一つで落下し、低い高度でパラシュートを開くという、危険な「ヘイロージャンプ」を行うシーン。ここでは、3Dの映像と風やシートの動きなどによって、イーサンの降下に同期した「フォール」感覚が味わえる。観客が座るシートは地面についているはずなのに、空中にいるような錯覚が与えられるのに驚く。

 パリの市街地で行われる派手なカーアクション、バイクアクションの場面では、シートの動きが最大限に活躍。極めつけは、ヘリコプターでの熾烈な戦いだ。車、バイク、ヘリコプターと、運転席、操縦席でのイーサンの手に汗握る攻防は、まさに4DXの真価が発揮される「ライド」感にぴったりのアクションが続いていく。

■楽しみはアクション・シーンだけではなかった

 このようなスリル体験以外にも、4DXによる意外な楽しみがある。ラロ・シフリン作曲の有名な『スパイ大作戦』のテーマ曲は、本シリーズの象徴となっているが、 4DX版では、劇中で有名なフレーズが流れると、これに合わせて、「ズン、ズン、ズンッズン、ズン、ズン、ズンッズン……」と、座席がシンクロして振動するのだ。この演出には笑ってしまったが、ライブ会場で轟音を体験するように、身体の芯でテーマ曲を「体感」できるというのは、本シリーズでは嬉しい部分だ。

 セーヌ川でのシーンでは、観客に少量の水がかかる場面があり、夏の猛暑には納涼になるかもしれない。また、「ああ、これがセーヌの水か……」という錯覚にも陥り、実際にはそうではないのだろうが、パリにあこがれを持つ筆者は、ありがたい気持ちになってしまった。さらにアクションが最高潮を迎える舞台で、風情ある意外な演出があり、アクション以外でも「4DX」は楽しめる部分がいろいろとあるという印象を持った。何より、観客を最大限、面白がらせたい、楽しませたいという、エンターテインメントを提供する側の気持ちを強く感じた。

 本作に主演するトム・クルーズは、本シリーズのプロデューサーでもある。彼自身の発言によると、いつも心がけているのが、とにかく「観客を楽しませること」だという。あらゆる方法を駆使して、観客を喜ばせたいというトムの精神は、「4DX」の提供する娯楽性に通じるところがあるはずだ。

■『フォールアウト』は没入度が高い

 それにしても、本作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は、なぜ観客が思わず声を発してしまうほど没入度が高いのだろうか。

 通常のアクション映画では、ドラマやサスペンスの部分とアクションシーンは分断されており、雰囲気が明確に異なっている場合が多い。しかしここでは、それらを出来る限り同じ質感、同じ印象にしようとして、むしろ並列的に描こうとしているかのように感じられるのだ。

 170億ドル以上といわれる、超高額な制作費で撮られる作品だ。できるだけクリアで精彩、美麗な映像を目指したくなるのが人情である。しかし本作では、ロケ撮影を中心に暗い場面も多く、撮影によって映像の質感がざらつこうが、無数にレンズフレア(光の像の漏れ)が発生しようが、望遠で空気のゆらぎによって対象が歪もうが、むしろその“汚さ”こそが「映画」の醍醐味だと言わんばかりに、コントロールしやすい大掛かりなセット撮影よりも、本物の雰囲気を伝える撮影方法を敢行している。そうやって撮られた、パリやロンドンの光景には、もともと映画が持っていた、自然体の「映画的」美しさがある。そしてその態度は、アクションシーンでも同様なのだ。

 アクションシーンにおいて、そのような自然な撮影を貫こうとした場合、演じる人間は本当にパリの市街をバイクや車で疾走したり、本当に上空でヘリコプターにぶら下がったり、本当に高度から落下しながら演技しなければならなくなってしまう。トム・クルーズは、本当にそれらを自分自身でやってのけてしまった。実際に転落しかけるという事態や、撮影中に骨折するという事故も起こった。もちろん劇的効果を高めるため、そこには特殊効果などが追加されている場合もあるが、近年の娯楽大作にありがちなグリーンバックの前での演技を合成する手法では、このような説得力ある映像は絶対に撮れない。

 最近はTVゲームの分野でも、プレイ部分とムービー部分をシームレスにつなぎ、作品世界にリアリティを持たせてプレイヤーを興奮させるような手法がとられることが多くなってきた。『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は、本物のアクションと、“映画的”撮影という組み合わせによって、荒唐無稽で、あり得ないアクションの連続する内容にも関わらず、観客を作品世界のなかに自然に入り込ませしまう。その達成によって本作は、アクション娯楽大作を次のステージに進ませたとすら感じられる。

 シリーズの進行とともにエスカレートし続けるアクション。今までと比較しても、本作の内容は最も狂気に近づき、試み自体も、その手法も、シリーズの到達点といえる洗練を見せている。クライマックスにおける決死の予感漂う捨て身のアクションは、スリルやエモーション、トムや監督らの狂気などによって、もはや何が起こってるのかすら混乱してしまうほどの熱量が込められている。「4DX」は、この興奮や衝撃、そして映像から伝わる狂気を、さらに高める役割を果たしていたと感じられた。

 人気作といえども、映画館で観ることのできる期間は限られている。おそらくは伝説になるだろう本作。「4DX」で観られるうちに、ぜひ多くの観客にトムとのシンクロ体験を味わってほしいと思う。(文=小野寺系)

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