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『あなたの番です』黒島沙和は西野七瀬だからこそできた役? 今後の女優活動の大きな糧に

リアルサウンド

19/8/31(土) 10:00

 約半年、2クールに渡る放送もいよいよ終盤に差し掛かり、ついに物語の核心へと迫ろうとしている日本テレビ系列日曜ドラマ『あなたの番です-反撃編-』。先週放送された第18話のラスト、二階堂(横浜流星)がマンション内で起きた交換殺人ゲームと、ゲームから外れて繰り返される不可解な殺人事件、そして5年前に高知県で起きた少女殺害事件などの膨大データをもとにAIで分析をかけた結果、事件の黒幕である確率が89%という最重要容疑者の存在が浮かび上がる。それが202号室の住人で、二階堂の恋人でもある黒島沙和だ。

参考:場面写真一覧はこちらから

 そんな黒島沙和を演じている西野七瀬といえば、言わずもがな国民的アイドルグループ「乃木坂46」の中心メンバーとして活躍し、2018年いっぱいをもってその活動を終了。今年に入ってからは女優としての活動を本格化させた。先日公開された乃木坂46の活動を追ったドキュメンタリー映画『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』では、彼女の卒業発表によって揺れるメンバーたちの様子が赤裸々に映し出され、グループ内での彼女の存在の大きさを改めて感じさせられることとなった。

 もっぱらいつの時代も“アイドル出身女優”となれば、ルックス先行で演技力が伴わないという先入観で見られることがしばしばあるが、乃木坂46を卒業したメンバーで括れば今泉力哉監督の作品で印象的な演技を見せる深川麻衣や、『潤一』での鮮烈な演技が記憶に新しい伊藤万理華など、見事に転身を遂げた先例がある。そういった中で、本ドラマにおける西野の演技は、彼女の女優としての技量を測る上でひとつの試金石になっていたわけだ。

 ドラマ序盤での西野演じる黒島沙和は、常に体のどこかに傷を作り影を帯びたミステリアスな女子大生というキャラクターであった。しかしその後、突然傷がなくなり雰囲気も明るく変わるとともに、田中圭と原田知世が演じる主人公たちの謎解きをサポートする役割を果たし、数学をこよなく愛する“リケジョ”キャラも確立していく。そして2クール目に入ってからはさらにそのポジションを押し上げ、二階堂との恋模様が緊張感に満ちた物語の緩衝材としての役割を果たしていく。さながら前半での主人公夫婦の不器用さをなぞるかのような二人の描写は、沙和が駅のホームから転落して意識を失う第15話あたりから感動要素のひとつとして機能するのだが、第16話で急転する。

 沙和を高校時代からつきまとっていたストーカー男・内山(大内田悠平)の存在が明るみに出て、彼が謎に包まれていた一連の事件の犯行を告白する動画を残して不審な死を迎えるのだ。数多くの疑問点が浮かび上がる告白動画と同時に、マンションの新住人・南(田中哲司)の娘が殺された5年前の事件によって、両方に共通点を持つ沙和へと疑念の目が向けられてしまうことに。もっとも、これまでもドラマ放送後に白熱しているネット上の考察では、常に黒幕の最有力としてあげられ続けていた沙和。9月1日に放送される第19話で、この半年間活発に交わされてきた“黒島沙和黒幕説”のアンサーがようやく出されるのかもしれない。

 しかしながら、脚本上で沙和に疑念が向けられることがほとんどなかったとはいえ、“黒幕説”や“双子説”など様々な言説が飛び交うだけ飛び交って、その答えが明示されるまで核心を突くものが何もないというのは、ミステリー作品として大成功ではなかろうか。それと同時に、黒幕を演じるためには途中で黒幕であることを気付かれてはいけないし、ミスリードするための役柄を演じるのであってもそれを気付かれてはいけない。そうした非常に微妙なラインを攻める役をここまで演じきったという点においては、西野の演技力を高く評価してもいいのではないだろうか。

 以前西野が主演を務めた『あさひなぐ』が公開された際に、彼女が放つ“普通さ”と“おとなしい雰囲気”が『あさひなぐ』の主人公像と英勉監督が演出するコメディ作品にマッチしていると論じたが(参照:乃木坂46西野七瀬、映画女優としての可能性は? 久保田和馬が『あさひなぐ』の演技を熱弁)、それと同じ部分を今度はミステリー要素にきちんと応用できていると見える。映像演技初挑戦となった『49』(日本テレビ系)から比較するとキャラクター性の違いはあれど、演技の上でのぎこちなさ、台詞回しであったり表情の硬さがあることはまだ否定できない。

 だが、『あさひなぐ』であったり『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』(テレビ東京系)と、そうしたぎこちなさが活きる作品、ないしは役柄に起用されることで、その伸びしろをひとつの強みへと置き換えて役に還元しているように見受けられるほどだ。

 ぎこちなく危ういからこそ、もしかしたら黒幕かもしれないが、もしかしたら違うのかもしれないと、ドラマ全体の謎を深める。これがかえってあらゆる状況を把握しながら伸びやかに演じきれるような完成しきった女優が演じていたとしたら、一目で黒幕か否か判別が付いてしまうのだろう。黒島沙和が黒幕か否かはさておき、後半戦のヒロインとして(ここに関しても、二階堂との関係の不器用な感じがナチュラルに表現されているわけだ)、そして視聴者の推理を盛り上げる役割として充分すぎるほどに果たしていく。

 無論、これだけ大勢の実力のある俳優たちと半年間に渡って共演し、1つの役柄に向き合い続けたという朝ドラにも匹敵する密度を経験したことによって、画面に映る彼女が着実に「西野七瀬」としてではなく「黒島沙和」という役柄に染まりはじめていることは見逃せない部分だ。この『あなたの番です』というドラマは、女優・西野七瀬にとって今後の大きな糧となることは間違いない。あとは、この「黒島沙和」という役のイメージを次の作品でどこまで取り去ることができるのか。そこで初めて西野の持つ真の演技力を確認することができるだろう。 (文=久保田和馬)

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