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おとな向け映画ガイド

今週の公開作品から、笑って泣ける家族の映画2本とファッション・レジェンドのドキュメンタリー1本をご紹介します。

ぴあ編集部 坂口英明
20/9/27(日)

イラストレーション:高松啓二

今週のロードショー公開は20本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。全国100スクリーン規模以上で拡大公開される作品は『浅田家!』『トロールズ ミュージック★パワー』『小説の神様 君としか描けない物語』の3本。中規模公開とミニシアター系の作品が17本です。その中から厳選して、ハートウォーミングな家族を描く2本とファッション・レジェンドのドキュメンタリーをご紹介します。

『浅田家!』



この映画のモチーフとなった写真集『浅田家』を最初に見たときは、おもわず笑いました。写真界の芥川賞といわれる木村伊兵衛写真賞を浅田政志さんが受賞した後だったと思います。消防士から始まり、レーサー、バンドマン、極道など、いわばコスプレなんですが、写っているのはいつも同じ中年の男女と若者2人。どうやらこれは家族の写真らしい、と気がついて、想像力がふくらみました。でも、まさか、映画になるとは思ってもみませんでした。

なるほど、この写真集がどのようにして作られたか。すてきな着想です。写真家になりたかった次男(二宮和也)に協力し、家族がなりたかった自分を演じる。消防士は、お父ちゃん(平田満)が夢見た職業でした。看護師のお母ちゃん(風吹ジュン)は昔映画で観た『極道の妻たち』を、とやや悪のり。やさしいお兄ちゃん(妻夫木聡)は、勝手な弟に振り回されながら、父母が喜んでくれるならと、例えば消防車を借りる交渉とか、縁の下の力持ちに努めます。

そのメイキング・オブ・写真集『浅田家』と、東日本大震災後の東北で浅田さんが体験した「写真洗浄」のボランティアをめぐるお話を、「家族と写真」という心のテーマとしてつないでいます。『湯を沸かすほどの熱い愛』という珠玉の家族映画を世に送り出した中野量太監督のオリジナルストーリーです。

マイペースな自由人であり、どこか優柔不断で涙もろい、浅田政志役の二宮、もうぴったりです。妻夫木、平田、風吹の家族はみていてほっこりします。政志の幼馴染若奈は黒木華(この人もいいなあ)。大津波で散乱した写真を探して洗浄し、持ち主に返すというボランティアのエピソードでは、菅田将暉、渡辺真起子が重要な役割を演じます。いまの日本映画を代表する顔ぶれが揃いました。個人的には、浅田の才能をみつけ、写真集『浅田家』を出す弱小出版社の、いつも一升瓶を小脇にかかえる豪傑社長(池谷のぶえ)の存在が楽しかったです。ネットで調べると、この社長の人生もユニークで、映画になってもよさそうな。

『フェアウェル』



同じ民族、同じ家族でも、住んでいる国やライフスタイルが異なれば、なかなか理解し合うのは難しい、それでも家族はひとつになれるー。中国系のルル・ワン監督の実体験をもとにした中国人一族の物語です。映画の舞台はほとんど中国ですが、アメリカ映画です。スタート時は全米で4館のみという、日本で言えばミニシアター系の公開でしたが、批評のよさと口コミで3週目には全米興行TOP10入りという大ヒットになった作品です。

ルーツは中国の長春。ここからアメリカに渡り、ニューヨークで暮らす中国人一家の娘、ビリーが主人公です。30歳をすぎてもまだ自分探しの日々。そんなある日、中国に住む祖母ナイナイが末期ガンで、余命3ヶ月とわかります。自身の本当の病を知らない祖母のため、従兄弟の結婚式という嘘を作り、親族が故郷に集まることになります。

よかれと思ってつくみんなの「優しい嘘」がおこす悲喜劇。中国の大叔母は「助からない病は本人には知らせない」のが中国の習わしと言い、ビリーの父母や、東京にいる叔父など一族のほとんどがそれに賛成します。身も心もアメリカ人のビリーだけは、そんなのはおかしいと反対です。夢を追い続ける彼女の最大の理解者であるナイナイ、その残された時間を、自分の思うように過ごしてほしい、と考えたのです。しかし、久しぶりに再会したナイナイの顔をみると、その嘘は、まちがいでもないと思い悩むビリーでしたが……。

ビリー役はラッパーでもある注目のオークワフィナ。昨年のゴールデングローブ賞では、この作品でアジア系女優初の主演女優賞(コメディ・ミュージカル部門)を獲得しています。

『ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン』



日本で、ピエール・カルダンといえば、 中年以上の知名度はバツグンです。とはいえ、例えばタオルにこのロゴがつけば高級感がでるというくらいのブランドイメージの人が、実は多いのではないでしょうか。でも、このドキュメンタリーを観ると、印象が驚くほど変わります。こんなすごいブランドなのだと。

創設者のピエール・カルダンはことし98歳。元気にインタビューに答えています。パワフルな現役です。ファシズムが台頭するイタリアを逃れ、家族でフランスへ。10代の頃は仕立て屋で働き、戦後まもなくファッション・ビジネスの世界に。28歳の時にディオールのアトリエから独立。富裕層向けのオートクチュール(高級仕立服)からプレタポルテ(既製服)へ、ファッションの大衆化の旗振り役となります。以降、ファッション界の「初」に挑戦し、様々なジャンルのデザインに進出しただけでなく、ブランドを活用した新しいビジネスモデルを編み出した企業人でもあります。

色とりどりの写真や映像と関係者の証言で語られるカラフルな人生。スリムな美男子だったカルダンは、同性愛のアーティストたちのあいだで人気者だったようです。恋人と目された男性の姿もちらちらするのですが、男性だけでなく、結婚寸前までいったという名女優ジャンヌ・モローとの恋は、当事者のふたりが証言をしています。インタビューに使われた場所は、パリのマキシム・ド・パリ。カルダンがここのオーナーになったいきさつは…(これが笑えます)。監督は、P.デビッド・エバ―ソール&トッド・ヒューズ。実はこれがカルダンをとりあげた初めてのドキュメンタリーです。完成後の作品を観たカルダンは「すべて真実だ!」というメッセージをよせた、といいます。

ファッション界の異端児、成功したビジネス・イノベーター、芸術の理解者であり後援者、古城からアール・ヌーヴォーのコレクター、そして恋する男。常に未来をイメージしてきたピエール・カルダン。100歳は軽々と越えそうです。

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