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片桐仁の アートっかかり!

宇宙人から謎の置物まで「何これ〜」と自由に楽しむのが正解! 『人、神、自然—ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界—』

毎月連載

第16回

今回片桐さんがチョイスした展覧会は、東京国立博物館東洋館3室で開催中の特別展『人、神、自然—ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界—』。カタール王族のコレクションから、世界各地の古代工芸品117件を紹介する同展を、同館研究員の小野塚拓造さんに解説していただきながら鑑賞しました。

カタール王族の豪華コレクションから
古代の名品が集結

小野塚 このコレクションはカタール王族アール・サーニ家のシェイク・ハマド・アール・サーニ殿下が収集したもので、ハマド殿下は子供のころから世界中の博物館や美術館を巡っているうちに美術の世界にのめり込んでいったそうです。そして今度は、自分が収集した美術品を世界中の人に鑑賞してもらいたいと考え、こうした展覧会を各地で開催しています。

片桐 世界中の美術品を収集しているんですね。

小野塚 時代的にも地域的にも大変幅広いのがこのコレクションの特徴です。今回の展覧会では年代を古代に絞り、世界各地の古代文化が生み出した工芸品の数々を「人」「神」「自然」の3つの章に分けて紹介しています。

片桐 いろいろな地域のものを一挙に見られる展覧会ってなかなかないですね。

小野塚 そうなんです。ですので今回の展示は年代や地域で分けず、各章の中で「頭部像」や「器」「宝飾品」などのテーマを設けて紹介しています。

王の権力を知らしめる
金や貴石などを使った豪華な品々

小野塚 こちらは、古代の支配者である王がその権力を人々に見せるために作られた品を紹介しています。ポイントは「豪華」ということ。素材が美しく稀少なもので、優れた加工技術を要し、王の権力を誇示するデザインや絵・図柄が描かれています。

左:《人物像「バクトリアの王女」》 中央アジア バクトリア・マルギアナ複合 前2300〜前1800年頃 中央:《女性像頭部》エジプト 新王国時代 アマルナ文化 前1351〜前1334年

片桐 王の姿を彫像で残そうとしたんですね。エジプト、メソポタミア、ナイジェリア、中央アジア・・・本当に世界中のものが集まっている! こっちは、王様が狩りをしていたり、戦車に乗っていたり・・・王のパワーを見せつけているんですね。

《皿》西アジア ササン朝ペルシア 3〜5世紀

小野塚 支配者の力は、金や貴石を用いた精巧な工芸品にも現れます。ラピスラズリや瑪瑙(めのう)といった素材を遠方から取り寄せ、一流の職人たちに高度な技術で加工させることができる権力がないと、制作することができないものです。

《盃》東地中海地域 アケメネス朝ペルシアまたは古代ギリシア・ローマ 前4〜後1世紀頃

片桐 金よりも、貴石の方が加工技術としては難しいですよね。

小野塚 そうですね。硬い鉱物に比べれば、金の加工は容易です。でも、それを薄く伸ばして首飾りにしたり、細い金線を編んで帯飾りにしたりするには、熟練した職人技が必要になります。

《ブレスレット》エジプト 第3中間期、第21王朝 前1044〜前994年

片桐 このブレスレットはキラキラ輝いていてきれいですね。

小野塚 金のかたまりなので重量感があるんですよ。

片桐 持ったんですか!?研究員の方は実際に触れるのがいいですよね!

理解不能!?
不可解な形をした飾り板

片桐 何ですか、これ!?

小野塚 これはもう理解不能、説明不能のものですね。金の薄い板に、瑪瑙やガーネリアンといった貴石を散りばめた《飾り板》で、形は2人の人物が抱き合った姿を様式化したのではないか、と言われていますが・・・。逆に、片桐さんのように造形や美術に携わる方がどう感じるか知りたいです。

片桐 ぜんっぜん分からない! 初めて見る形だし、今後も見ることないと思う(笑)。平べったいので、壁にはめ込まれていたものなのか・・・。何かを様式化したのか、何の目的で作られたのか、さっぱり分からないですけど、邪神感がありますね。

《飾り板》中央アジア バクトリア・マルギアナ複合 前2千年中頃

片桐 来ました、中南米! 大好きです!

小野塚 マヤ文明の埋葬用の仮面ですね。

片桐 やっぱりいいですねえ。どれか一つくれるって言われたら、僕はこれがほしいです! ジャガーを被っているものもいますね。

小野塚 ジャガーは王権の象徴としてよく登場します。

《仮面》グアテマラ マヤ文明 3〜6世紀
《仮面》メキシコまたは中央アメリカ北部 マヤ文明 3〜6世紀

神か、人間か、宇宙人か!?
謎の「スターゲイザー」

小野塚 ここからは、各地域でつくられた「神々」を紹介しています。

片桐 何これ!? 「スターゲイザー」って、めちゃくちゃかっこよくないですか!?

小野塚 これも意味不明のものなんですけど、目が真上についていて、まるで星を眺めているように見えることから「スターゲイザー」と名付けられています。

片桐 かっこいい名前をつけましたね。神様なんですか?

小野塚 神なのか、人なのか、分かっていません。

片桐 これは宇宙人ですよ! 土偶っぽいですしね。

《女性像「スターゲイザー」》アナトリア半島西部 前期青銅器時代 前3300〜前2500年頃

片桐 この「スカーフェイス」もすごいですね。

小野塚 顔に傷がつけられているんです。

片桐 本当だ。鱗っぽい胴体とか、スカートっぽい腰巻とか、独特すぎますね!

《精霊像「スカーフェイス」》中央アジア バクトリア・マルギアナ複合 前2300〜前1800年頃
《精霊像》ザグロス山脈または中央アジア 原エラムまたはオクサス文化 前3千年紀

片桐 これは「前3千年」って書いていありますけど本当ですか!?

小野塚 神と人をつなぐ存在の精霊ですね。ツノが生えていたり、鱗があったり、半身半獣の存在は、古代ではよく見られます。

片桐 この小人サイズでいてほしいですね。

片桐 うわ!すげえな、このまつげ!

小野塚 アラビア半島の女性です。まつげは青銅で作っていますね。首飾りや腕輪は金と貴石をはめ込んでいます。

片桐 ずいぶん素っ頓狂な顔になっちゃってますね!

《浮彫》アラビア半島南部 古代南アラビア文化 100年頃

動物の姿を酒杯にした
「リュトン」がずらり勢揃い!

小野塚 ここでは「自然」、中でも動物をテーマに、宴会で用いられた器などを紹介しています。

片桐 ワインを入れるリュトン、いいですよね。僕も粘土で作ったことあります。

《リュトン》西アジア アルサケス朝パルティア 前2〜前1世紀頃

小野塚 メソポタミアから地中海地域で、こうした動物の形をした盃が見られるんです。

片桐 馬の胸に注ぎ口がありますよ。ここから飲むということは、足の蹄が邪魔じゃないですか!?

小野塚 リュトンから浅い鉢のような容器に注がれて、その容器から飲んだり、また時にはリュトンを高く掲げて、口で受け止めるような形で飲んでいたようです。

片桐 ええ!? 不便きわまりないじゃないですか! こんな大きくて重たい容器をずっと持ってなきゃいけないし、飲み終わらないと置けないし・・・。

《リュトン》アナトリア半島 青銅器時代 前2千年紀前半

片桐 これもリュトンなんですか ?ストローみたいなのが鹿の口から出ていますね。

小野塚 この管が、口から胴体内部まで通っています。

片桐 本当だ! これはきれいですね。鹿の毛並みが細かい点線で表現されていて。

小野塚 骨や肉感もリアルに作られていますね。ただ、一見写実的に作られているようでも、図鑑などで実際の動物の姿と見比べると全然違うことがよくあります。これもツノや足は実際とは異なると思います。

片桐 厳格なルールがあるわけじゃなくて、わりと自由な発想で作っているんですね。

《水差し》西アジア アケメネス朝ペルシア 前7〜前6世紀

片桐 これは船ですか? 船に羊が乗っている?

小野塚 そうですね、銀製の船体に金製の羊がつけられています。当時の王家にとっては所有している家畜の数が権力を象徴するものだったと考えられています。

《水差し》西アジア 前アケメネス朝ペルシア 前7〜前6世紀頃

片桐 なるほど。こっちの水差しにはライオンもいますね。

小野塚 これは中央に都市のような建築物があり、それをアイベックスとライオンが守っているように見えます

片桐 アイベックスなんですね。よくこんなにたくさん乗せましたね!

遊牧民たちの財産
繊細な装飾品

小野塚 ここでは、動物をモチーフにした遊牧民たちの装飾品をまとめて紹介しています。

片桐 うわっ! これは細かいですね!

小野塚 洋服を留める留め金で、細い金線とビーズをつないだもので作られています。

片桐 結び目の真ん中に天使がいますね。

小野塚 ギリシャ神話に登場するエロスです。この留め金をつけた人物が動くと、エロスもパタパタと動く仕組みになっているんです。

片桐 ええ!? 技術的にはこれはナンバーワンなんじゃないですか!? こんな繊細な細工が壊されずによく残ってしましたね。

《留め金》ギリシア ヘレニズム 前300年頃
《オーナメント》中央アジア スキタイまたはバクトリア 前10〜前7世紀

片桐 これも小さいけど、すっごい面白いですね! ヤギが襲われている。

小野塚 2匹の猟犬にヤギが襲われている場面です。

片桐 なんでそんな場面を!? スキタイの黄金文化も謎に包まれていて面白いですよね。

小野塚 まだまだ解明されていないことが多いですね。

《クマ》中国 前漢 前206〜後25年

片桐 このクマはゆるキャラっぽいですね(笑)。「敷物の四隅を固定するための置き物」と解説がありますけど、本当ですかあ!?

小野塚 この展覧会の作品は、学術的にはっきりと判明していないものが多いんです。解説に書かれている用途などは一つの解釈であって、正解はないんですよ。だからこそ、見る方には自由に感じて、楽しんでもらえたらと思っています。

多種多様な古代の品々を一つ一つ、食い入るように見ていた片桐さん。正解がないからこそ、それぞれの独特な造形に魅せられたと言います。

「全部が印象的で、インパクトがあって、ものすごく面白かったです! 美術の展覧会に行くと、いつ作られたのかとか、作者はどんな人なのかとか、その作品のバックボーンを知ろうとしてしまうんですけど、今回はそういうのとは全く違って、純粋に造形を楽しめました。素材とか、技術とか、用途とかに注目できるんです。どうしてこれを作ったんだろうとか、なんでこんな形にしたのかなとか、そういうのを想像する楽しさがありましたね。“お勉強”ではなく、気楽な気持ちで楽しんでほしい展覧会です」

開催情報

特別展『人、神、自然—ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界—』

2020年2月9日(日)まで東京国立博物館 東洋館3室にて開催

関連リンク

東京国立博物館

プロフィール

1973年生まれ。多摩美術大学卒業。舞台を中心にテレビ・ラジオで活躍。TBS日曜劇場「99.9 刑事事件専門弁護士」、BSプレミアムドラマ「捜査会議はリビングで!」、 TBSラジオ「JUNKサタデー エレ片のコント太郎」、NHK Eテレ「シャキーン!」などに出演。講談社『フライデー』での連載をきっかけに粘土彫刻家としても活動。粘土を盛る粘土作品の展覧会「ギリ展」を全国各地で開催中。

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