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いま、最高の一本に出会える

中央が演出の高橋正徳

実に29年ぶり! 文学座が名作『ガラスの動物園』に挑む

ぴあ

19/6/21(金) 11:16

文学座の公演『ガラスの動物園』が6月28日(金)、東京芸術劇場 シアターウエストにて開幕する。アメリカ演劇を代表する劇作家テネシー・ウィリアムズによるこの名作を、文学座が上演するのは5回目で、1990年の前回から実に29年ぶりとなる。「『ガラスの動物園』は、文学座の人間にとっては馴染みの深い作品です」と語るのは、その大切な演目を自ら選び、演出に名乗りを上げた高橋正徳だ。

「名作なのでプレッシャーはあるけれど……、よくプレッシャーに対して“肩肘張らずにやろう”とか言いますが、座組の皆とは、むしろ“肩肘張って、やっていこう”と話しています。ちゃんとプレッシャーを受け止めて、そういう作品をやるチャンスを得たことを、肝に銘じてやっていこうと」

文学座の俳優養成機関である附属演劇研究所において、森本薫『女の一生』、ソーントン・ワイルダー『わが町』に次いで、長きに渡り教本として扱われてきた戯曲が『ガラスの動物園』だ。高橋も、研究所時代にこの戯曲と初めて出会ったという。

「僕が研究所に入ったのは20年近く前です。それ以前の学生時代は主に小劇場演劇を観ていたので、いわゆる演劇の名作戯曲を読んだのは研究所からでした。とても読みやすいし、当時の僕自身にも身につまされる内容ではあったんですが、やってみたいとまでは思わなかった。その頃はやっぱり、新しいものをどう取り入れるかということばかり考えていたんですね。20年経って、当然ながら歳を取るごとに戯曲の見え方も変わってきます。新しい作品、作家との出会いで刺激を受けることも大事だけど、過去の文学座の作品を先輩方から受け継いで、あらためて検証し、リニューアルというか、更新することも大事だと考えるようになりました」

父親不在の家庭で、現実に心を閉ざして生きる母アマンダと娘ローラ。トムはそんな母と姉にいら立ちながら、見捨てることもできずにいる。そこに青年ジムが現れ、一家の生活に変化が訪れる——。アマンダ役の塩田朋子、ローラ役の永宝千晶、トム役の亀田佳明、ジム役の池田倫太朗と、高橋の望む最強の布陣が整った。とくに29年前の劇団公演でローラを演じた塩田には、「ぜひアマンダを演じていただきたかった」と強調する。

「29年前の塩田さんのローラは残念ながら観ていないけれど、芝居に対する熱量や力強さが素敵だなと感じる女優さんです。アマンダは、家庭の中で母としての役割を全うしようといろんな表情を見せる役なので、今回は塩田さんの多彩な表情が見られると思います。亀田君は同い年で、演劇的な言葉のやりとりができる俳優です。すごく信頼しているので、二人三脚で作品作りをしているような感覚でいますね。永宝さんも実力のある女優さんで、舞台より先に声の仕事で……、『スター・ウォーズ』のレイ役とかで忙しくなったんですが、本来は舞台がやりたい、文学座の作品に出たいと。ローラは相当内面が屈折した、闇を抱えた女性なので、深く掘り下げる力のある女優を考えた時に、永宝さんが思い浮かびました。池田君は元サッカー少年で、怪我でサッカーから離れる時に、ふと思い立って文学座を受けたら受かっちゃった人(笑)。だから当初は演劇のエの字も知らなかったけど、やっぱり身体性が優れている。役者はどこかナルシスティックなところがあるから、自分の役ばかりに集中しがちなところを、彼は無意識に周りを見られるタイプなんですね。また、演劇って初舞台から数年は楽しいけど、徐々に成長曲線が落ちてきて、未来に対するぼんやりとした不安を抱える人は多いと思うんです。でも長年スポーツに取り組んできた彼みたいな人は、2、3年で結果は出ないということを知っているから頭でっかちにならない。つねに前向きに、じゃあ今何が必要かということを具体的に考えられる人間なので、すごく面白いです」

後列左からジム役の池田倫太朗、トム役の亀田佳明、前列左からローラ役の永宝千晶、アマンダ役の塩田朋子

過去の公演はすべて鳴海四郎訳での上演だが、今回は小田島恒志に新訳を依頼。その狙いを「とても現代劇な問題を孕んだ家族劇なので、よりアクチュアルな関係を観客に提示したい」と語る。

「描かれているのは1930年代のアメリカです。金融恐慌から立ち直ろうとする社会状況の中、トムは仕事の単純作業に日々明け暮れ、生きている実感を得られずにいる。若者たちが未来を想像できない状況という点は、とても今の日本に通じるものがあります。また、父親不在による問題、母と娘の関係など、観る人によって、“他人事じゃない”といった共感ポイントはたくさんあると思うんですよね。“あんな母親がいたら、逃げ出すよ”って人もいれば、“いや、母親とはそういうものだ”と、トムを責める人もいるかもしれない。客席からどんなリアクションが聞こえてくるのか、楽しみです」

文学座での初演は1969年。劇団力で引き継いできた至宝の舞台が、清々しく頼もしい精鋭たちの力で、さらに太い幹となって立ち上がろうとしている。

「それぞれのキャラクターが持つ寂しさ、悲しみがちゃんと浮き出てくるよう、丁寧に作り上げたいと思います」

7月7日(日)まで。

取材・文:上野紀子

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