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スタージル・シンプソン『SOUND & FURY』 竹内宏彰氏×落合隼亮氏が語る、映像作品への熱意

リアルサウンド

19/9/27(金) 18:00

 2016年の前作『A Sailor’s Guide to Earth』がグラミー賞の「年間最優秀アルバム」にノミネートされ、「最優秀カントリー・アルバム賞」を受賞するなど、カントリーの枠にとどまらない音楽性で人気を博すアメリカのシンガーソングライター、スタージル・シンプソン。彼が最新作『SOUND & FURY』を完成させた。この作品は、ヒップホップやクラブミュージックの要素も取り入れながら、大胆にロックに振り切れた驚きの勝負作。同時に、作品の収録曲すべてに映像がつけられ、アルバム発売にあわせてNETFLIXでの全世界配信が行なわれる。この映像作品では、スタージル自身が考案した原案をもとに、神風動画の水崎淳平氏がディレクションを、岡崎能士氏がキャラクターデザインを担当。森本晃司氏が株式会社Griot Grooveとタッグを組み、マイケル・アリアス氏、Grayscale ArtsのMasaru Matsumoto氏、D’ART ShtajioのHenry Thurlow氏、Arthell Isom氏といった豪華クリエイター陣が集結している。今回は、これまで『アニマトリックス』や『Wake Up,Girls!』『ベルセルク』などのプロデュースを務め、今回の映像作品にクリエイティブ・エグゼクティブとしてかかわった竹内宏彰氏と、スタージル・シンプソンの長年の友人で、コー・エグゼクティブ・プロデューサーを務めた落合隼亮氏に、映像の制作風景や、アルバム『SOUND & FURY』の魅力を聞いた。(杉山仁)

SOUND & FURY (OFFICIAL TRAILER)

NETFLIX スタージル・シンプソン: SOUND & FURY

タイミングと偶然と人の繋がりで生まれた作品 

ーーまずは竹内さんと落合さんが、それぞれどのような経緯でスタージル・シンプソンの新作『SOUND & FURY』の映像作品にかかわるようになったのか教えていただけますか?

落合隼亮(以下、落合):僕は、スタージルとは10年来の付き合いで、彼の奥さんと僕が高校の同級生だったこともあり、彼が本格的にアーティストデビューをする前から、日本での活動を手伝っていました。そして、2017年に彼がフジロック・フェスティバルに出演するため来日したときに、「次のアルバムはこんな作品にしたいと思っていて、全曲に映像作品をつけたいと思っている」という話を聞いたんです。

ーー2017年の時点で、すでに今回のアルバムに向けたアイデアがあったのですか。

落合:そうですね。最初に聞いたのは、7月25日、フジロックの直前でした。その日、バスに乗っていたときに、ふとその話になったんです。ただ、今思うと、その頃のアイデアはまだまだ漠然としたものでした。彼曰く、その時点で「アルバムも8割ぐらいはできあがっている」という話だったんですが、ふたを開けてみれば、「全然できあがってないじゃないか!」という感じで(笑)。でも、すでに骨組みの部分はできていて、そこに映像をつけたいという話もしていました。その時点では、最初の導入部分だけをアニメーションにして、その後は実写の映像作品にしたいと思っていたようで、「荒廃した世界で、車が出てくる、黒沢明監督のサムライムービーのような雰囲気の映像を撮りたい」と言っていましたね。

竹内宏彰(以下、竹内):私が落合さんから話をもらったのは、去年の7月頃でした。今回の映像作品のエグゼクティブ・プロデューサーをしている黒田さんの会社のアニメーションや映像を、ここ数年手伝っていたんですよ。それで、黒田さんから落合さんをご紹介いただいたのが、私が関わるようになったきっかけです。

落合:それも実は、すごい偶然で実現したことでした。僕はスタージルからアニメーション/映像作品の話を聞いた後、「こういうアニメもあるよ」「こんなのはどう?」とやりとりをしていたんですが、その中で彼から「こういうテイストで作りたい」と送られてきたのが、『アニマトリックス』と『ニンジャバットマン』だったんです。僕は声優/ナレーションの仕事で青二プロダクションにも所属しているので、青二ならその制作会社とも繋がりがあるだろうと思って会社の人に聞いたんですが、実は声優プロダクションというのは、音響効果さんや音響監督さんとしかあまり繋がりがなく、当てが外れてしまって(笑)。「どうしよう?」と思っているときに、僕が間借りしているオフィスで工事がはじまり、そこに映像の制作会社が入ったんです。そして、それが自分も以前から知り合いの、今回のエグゼクティブ・プロデューサーの黒田さんの会社でした(笑)。黒田さんに「どんなアニメを作りたいんですか?」と聞かれたので、「神風動画の『ニンジャバットマン』や、『アニマトリックス』のような作品を作りたいようです」と伝えたら、「『アニマトリックス』のプロデューサーは、うちに所属していますよ!」という話になり、竹内さんを紹介していただきました。

竹内:本当に、今回はタイミングと偶然と人の繋がりが合ったんだと思います。僕ははるか昔に集英社の『ヤングジャンプ』のスタッフをしていて、当時は珍しかったアニメの担当になり、その後自分のスタジオをはじめて30年ほどアニメ業界で仕事をしてきました。たとえば、新海誠監督で有名なコミックス・ウェーブ社創業社長は私で、『秒速5センチメートル』までは社長を務めました。新海誠監督の『ほしのこえ』を作っているときに、同時に『アニマトリックス』も作っていました。ただ、自分自身は経営よりも現場が好きな人間で、「監督とけんかをしながら作品を作り、完成したら酒を飲む」ことに喜びを感じる人間なので、この10年ぐらいは、ハーフリタイアメントをしながら、色んな会社のプロジェクトや、面白いと思う作品のプロデュースをしていたんです。それで数年前から黒田さんとお仕事をしていて、現在の会社に参加することになりました。

ーーなるほど! その結果、奇遇にも竹内さんが落合さんのオフィスと同じ建物で働かれることになった、と。本当に様々な偶然が重なって人が繋がっていったのですね。

竹内:そのとき作っていた作品がひと段落した頃に、黒田さんから落合さんを紹介いただいて、「何ですか?」と聞いたら、「グラミー賞のカントリー部門の受賞アーティストが、アニメの映像作品を作りたいと思っている」というお話だったので、最初は「???」という感覚でした。もともと落合さんのお名前は知っていたので、「パーソナリティやナレーターをやっている落合さんが、何で海外アーティストの仕事を持ってくるんだろう?」と不思議に思ったんです。

落合:それが去年の5月ぐらいで、僕もすぐにスタージルに連絡をしました。それで、自宅でワールドカップの決勝を観ていたら、夜中にFaceTimeで連絡が来て、「明後日から日本に行くから、竹内さんを紹介してほしい」という話になって……。「竹内さんは、そんなに急に来ても会ってもらえないよ!」と言ったんですが、結果的に黒田さんや竹内さんが調整してくださって、日本で竹内さんにスタージルと会ってもらえることになったんです。

竹内:当日、先に打ち合わせ場所について会議室をチェックしようと早めに向かったら、スタージルさんと落合さんが、すでに来ていて座っていました(笑)。

落合:(笑)。彼はもともと(米国)海軍にいたので、時間をきっちり守る人なんですよ。また、「竹内さんを待たせちゃダメだろう!」ということで、会議室に早く着いていました。

ーーそのとき、みなさんでどんな話をしたんでしょうか?

竹内:僕が最初に聞いたのは、「何で日本のアニメがそんなに好きなんですか?」ということでした。話を聞いていると、やはり落合さんの影響も大きいのかな、と思いましたし、彼は海軍時代に横須賀に住んでいたので、その中で色々と日本のアニメに触れたようです。それから、『ニンジャバットマン』や『アニマトリックス』について、どの辺りが好きなのかを聞きました。すると、「あの世界観や独特の雰囲気が好きだ」「黒沢明の世界に通じるものがある」、と言っていて。その時点で、自分が作りたい映像が、彼の中に明確にあるのを感じました。黒沢明の『用心棒』のような世界観で、同時にスタイリッシュで、近未来的な、『マッドマックス』的な大戦後の荒廃とした世界観が頭の中にあったようです。

落合:そうですね。そのときには、ガスマスクをかぶったサムライのーー。

竹内:いわゆるメインキャラクターのイメージが、彼の中にすでにあったんです。

落合:それで、竹内さんが「じゃあカメラはどういうイメージなんだろう? ズームインするのか、ズームアウトするのか」という話をされていて。

竹内:……一般的にアーティストの中にはMVは監督に任せる方もいますが、スタージルさんは自身も積極的に企画を出していくタイプの方ですよね?

落合:そうですね。僕は日本で撮影した「Railroad of Sin」のMVも手伝っていたんですが、あのMVでも、本人的には「こういうものを撮りたい」というものが明確にありました。

竹内:僕はフィルムディレクターではない、海外のミュージシャンや俳優さんとも何度か仕事をしたことがありますが、スタージルさんのようにあそこまで映像のビジョンを明確に形にして伝えてくれる人は初めてでした。それもあって、こちらも突っ込んだ話をすることができたんです。そのとき、「この人は、すごくアニメが好きな人なんだな」と感じました。また、落合さんは彼と付き合いが長いので、彼が言葉にできない部分を、かなりスムーズに翻訳してくれました。ですから、この3人でのディスカッションの中で、スタージルさんがやりたいことは、僕の中でもすごくイメージしやすかったです。

落合:最後にスタージル本人が、「この企画に乗ってくれる人はいますかね?」という質問をしたんですが、竹内さんがそこで「大丈夫、きっといますよ!」と言ってくださったんですよ。

竹内:そこから、早速オファーを進めていきました。私は実は、神風動画さんは何十年も前から知っていたのですがタイミングが合わなかったので仕事はしたことがなかったのですが、その頃はちょうど『ニンジャバットマン』の制作が終わった後のタイミングだったので、声をかけてみました。すると水崎監督から「一度海外のアーティストのMVを撮ってみたかったんです」という返事が返ってきて、タイミング良く参加してくれることになりました。また、『アニマトリックス』の監督さんたちにも聞いてみたところ、マイケル・アリアスも、森本晃司も、「ちょうど空いている」という話になったんです。

ーーそれで今回の豪華な制作陣が集まることになったのですね。

落合:まるでドリームチームのような方々に参加していただけることになりました。森本さんが参加することになったときに、FaceTimeでそのことを伝えたら、「『AKIRA』に関わっていた人か!」(作画監督補)と興奮して電話を投げていましたね(笑)。

竹内:(笑)。他には、Skypeも使ってスタージルさんと落合さんと会議をしているときに、「キャラクターデザインを誰にしようか?」という段階で『ニンジャバットマン』の岡崎能士さんにやってもらえたらいいね、という話になり、水崎監督が、すぐ連絡してみたところ、岡崎さんも参加してもらえることになりました。

落合:「『ニンジャバットマン』の岡崎さんだよ!」と伝えると、「『アフロサムライ』の人かよ!」ととても興奮していました(笑)。

竹内:また、神風動画の代表の水崎淳平さんとの打ち合わせでも、非常にお互いのやりたいことに共感しあっているような様子でした。その後、アルバム全曲の映像を作ろうという話になったときに、「流石に無理じゃないか」とも思ったんですが、各クリエイターも「面白そうだ」という反応もありプロジェクトが広がっていきました。

挑戦していくのが、スタージル・シンプソン

ーー今回の『SOUND & FURY』は、サウンドがカントリーの枠からこれまで以上にはみ出していくような作品になっていますが、そういう意味でも、今回みなさんが用意された映像は、その作品の魅力を伝えるようなものになっていると感じました。

落合:彼の他の作品だったら、今回のような映像にはならないですよね。やはり、レコーディングしながらも、彼の頭の中に映像化のイメージがはっきりとあったんだと思います。

ーー映像を制作していく中で、今回のアルバム『SOUND & FURY』自体のテーマについても、みなさんで共有した部分はあったのでしょうか?

落合:今回のアルバムのコンセプトと映像のストーリーは、必ずしもすべてがリンクしているわけではないんです。音楽作品と映像作品が2つのパラレルワールドをそれぞれに走っていて、それが時たま交差するような雰囲気で。ただ、各楽曲の中で、映像的に詞の世界観を踏襲している部分もありますし、映像によっては曲の世界観や音のフィーリングが表現されているところもあって、中でも象徴的なものについては、不思議と楽曲と映像が上手くハマっているように感じました。森本さんの担当部分(「Mercury in Retrograde」)の、毛がウワーッっとなっていくところも、歌い出しの歌詞が「ノルウェーで髪を切った」というものになっていて。そこだけしかリンクはしていないんですけど、それが上手くハマっているように感じられたんですよ。

竹内:神風動画さんの担当作品以外は、水崎さんにも入ってもらって、「どのチームはどの曲がいいかな」ということを話し合いながら、監督たちにも曲を聴いて、歌詞を読んでもらって、担当する曲を決めていきました。その際、あまりこちらからテーマを指定しすぎないようにしていましたね。というのも、あまり説明をしすぎてしまうと、映像の可能性を狭めてしまうんですよ。むしろ、スタージルさんとそれぞれの監督たちの化学反応が生まれたらいいんじゃないかと思って制作を進めていきました。オムニバス作品ではそのバランスがとても重要で、あまりテーマを指定してしまうと、こじんまりとしたものになりますし、自由にやりすぎても収拾がつかなくなってしまいます。今回は、スタージルさんが考えた芯のある世界観の中で、「時系列や場所が変わったら何が起こるか」ということをルールとして監督たちに考えてもらい、そのうえで曲から感じたパッションをぶつけてもらいました。『SOUND & FURY』は作品自体に詞的な感覚があって、具体的に何かを言うよりも、様々な比喩的表現が多く、映像を作る側も、イメージののりしろがあって非常にやりやすかったと思います。

落合:確かに、今回は、歌詞の中でもそこまで直接的な表現はないんですよね。前作『A Sailor’s Guide to Earth』では、具体的なテーマががっつりあったのですが。

ーー「息子さんに向けた手紙」というものですよね。

落合:そうなんです。それに対して今回は、「(バンドメンバーも含めた)自分たちがライブをやって楽しめる楽曲」というイメージがあって、同時に、カントリーをやっているとはいっても、それだけを聴いてきたわけではないという、彼自身の音楽体験を反映したものにもなっているんだと思います。僕は彼と同い年なのですが、世代的にもMTVがあって、ヒップホップがすごく流行っていて、ダンスミュージックも聴いていてーー。

ーーそれに加えて、Led Zeppelinのような音楽や、もっと最近ではQueens of the Stone Ageのような音楽も聴いている感覚を、アルバム全編から感じました。

落合:やっぱり、彼の場合、周りから「カントリーをやってくれよ」ということを、求められる部分があると思うんですよ。でも、そうじゃなくて、「自分たちがやりたいことをやるんだ」という気持ちが、この作品には入っているように感じます。

竹内:そのスタージルさんの想いが強かったからこそ、映像を作る監督さんたちも、刺激を受ける部分が大きかったんじゃないかと思います。今回、彼と落合さんがかなり距離の近いところでやりとりをしてくださったので、制作自体も非常にやりやすかったです。

ーー今回の映像作品の中で、お2人が特に印象に残っているシーンといいますと?

落合:それはもう、たくさんありすぎるんですが……。

竹内:(笑)。たとえば、今回は「車」を筆頭にした様々なアイテムが明確にあったので、そこを中心に広げていけたことは、とてもよかったと思います。そうすることで、エピソードごとのテイストを変えることができるんです。オムニバス作品としては、観る方を飽きさせないようにテイストを変えていくことも重要ですが、その際に何か共通のアイテムがあれば、そのアイテムで統一感を出しつつ、映像のテイストをどんどん変えていくことができます。たとえば、オープニングの映像(「Ronin」)はフォトリアリスティックなフルCG表現になっていますが、そこがシームレスに繋がって神風動画のパートになっていく、というようなことですね。逆に大変だったのは、映像ができていく中で、エンディングに変更が生まれたことで、そこについてはスタジオと話をしながら進めていきました。あとは、「Last Man Standing」では、最初に一旦3DCGレイアウトで作ったものをもとにして、背景も含めてすべて手描きで描くという特殊な手法が使われています。また、この曲の映像のエンディングは、もともとは作中に出てくる老人が、最後に自分が助かるか、猫を助けて自分が燃えるか、という話だったんですが、スタージルさんが「それはダメだ。みんな死ぬんだ」ということを言っていて。マイケル・アリアスの作品(「Make Art Not Friends」)も、最初はもっと綺麗なハートウォームフルなものにしようと進んでいたものが、化学兵器に汚染された世界でもあるということで、「もっとそのカタルシスを出してほしい」とリクエストをもらいました。これは話を聞いていくうちに分かったんですが、スタージルさんが意識していたのは、「この世界に起こっている悲惨なことや事件を、隠したりせずに、真正面から受け止めよう」ということだったんです。それが分かったときに、各監督も本作品のテーマ性が理解できた部分があったと思います。

ーーなるほど。映像の最後に宮本武蔵の『五輪書』の言葉が出てきますが、そこに愛だけではなく「哀しみ」という言葉が入っていることも、今の話に通じる部分なのでしょうか?

落合:その部分に関しては、作品を最後まで観ていただければわかる通り、決してそれだけのための言葉ではないのですが、そう捉えていただいても問題はないんじゃないかと思います。

竹内:世の中にはハッピーなことだけではなくて、哀しいこともあるけれど、それをみんなで乗り越えていこう、という、スタージルさんからのメッセージなんだと思いますね。

落合:あと、僕は「A Good Look」でのダンスのシーンも印象的でした。

竹内:実は、あの部分は最後までなかなか決まらなかったパートなんですよ。あのシーンを作るのは非常に大変でもあるので、ギリギリまで「どうする?」と話し合っていました。

落合:でも、本人としては、どうしても入れたかったパートだったようです。2017年に映像のことを最初に話しはじめた頃から、本人としては、たとえば『座頭市』のような、「日本らしいダンスをイメージしたものがほしい」というアイデアがあったようで。そのため、あの部分は見得を切るような瞬間や、紙芝居のような演出が入っています。あと、オープニングに出てくる車のデザインに関しては、制作の終盤に「こうしてほしい」という大きな変更が加わりました。この部分は、最初に提案したデザインで進めていたんですが、そのデザインを、アルバムのジャケットを踏襲したものにしたい、という要望が出てきたんです。

ーーみなさんが用意された映像作品に対して、スタージル・シンプソン自身が強い繋がりを感じたからこその話なのかもしれません。

落合:これは僕の想像ですし、彼は「違う」と言うかもしれないのですが、もしかしたら、あの車はスタージル自身だということなのかもしれません。今回の映像作品には、スタージルが一切出ていないということもありますし、ジャケットと同じ車にしたいというのは、おそらくそういうことなんじゃないかな、と。この部分は、色々な方に尽力いただきました。

竹内:そうしたスタージルさんの想いが伝わったのか、各監督も自主的にリテイク作業をしてくれて、私から僕は何もリテイク指示をしていない部分でも、「あと少し待ってほしい」とギリギリまでクオリティを上げてくれました。こういう状態になると、作品は非常にいいものになるんです。ポストプロダクションを担当したLAのスタジオのスタッフも、彼らはマーベルのアニメ作品などを担当しているチームなのですが、日本から上がってくる映像を観て、「何だこれ! かっこいいじゃん!!」と興奮していました。もちろん、曲自体も「めちゃくちゃクールだ!」と言っていて。今回の映像はSEもなく楽曲だけでストーリーが進んでいく作品ですが、スタージルさんの曲の力が映像を引っ張ってくれた部分が、大きかったんだと思います。

ーーお2人は、『SOUND & FURY』というアルバムにどんな魅力を感じられましたか?

竹内:お世辞でなく、音楽に込められているメッセージ性が素晴らしいアルバムだと思いました。今回、映像を作る前にスタージルさんの過去の作品を色々と聴いてみて、「これを少しロックテイストのものにするのかな」と思っていたら、実際に聴いてみると全然違うものになっていて。その飛躍にも驚きました。「凄い音楽に出会っちゃったな」という感覚ですね。

落合:1枚目の『High Top Mountain』のときは、僕はMVも手伝っていたのにもかかわらず、彼の音楽自体については実は「よく分からないな」という状態で……。でも、今聴くと、あの作品はすごくいい作品に聴こえるんです。そして、2枚目の『Metamodern Sounds in Country Music』は、「Radioheadみたいなことがやりたいんだな」と感じたアルバムで、グラミー賞を獲った3枚目『A Sailor’s Guide to Earth』はドゥーワップ、ロック、カントリーと様々な要素があって、彼の場合、毎回全然違う作品になっていると思うんですよ。ただ、歌い方だけはずっと一緒で。それは今回の『SOUND & FURY』も同じで、そのうえでロックアルバムになっているので、きっと今回も多くの人が驚くと思うんですが、そうやって挑戦していくのが、スタージル・シンプソンなんだと思います。彼はよく、「音楽はソウルミュージックか、ダメな音楽しかない。いい音楽は、どんなジャンルでもすべてソウルミュージックだ」と言っていて。そう考えると、今回のアルバムは、ずっとカントリーをやってきた「ソウルミュージシャン」が出した「ロックアルバム」ということなんだと思っています。

(取材・文=杉山仁/写真=池村隆司)

■リリース情報
『SOUND & FURY』(日本盤)
発売:2019年10月16日(水)
価格:¥1,980(税抜)
デジタル・ダウンロードおよびストリーミング
配信中

オフィシャルサイト

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