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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ケイト・ウィンスレット

連載

第52回

ケイト・ウィンスレット

── 今回はケイト・ウィンスレットをお願いします。7度もアカデミー賞にノミネートされていて『愛を読むひと』(08)で主演女優賞を獲得している演技派のイギリス人女優。彼女がシアーシャ・ローナンと共演した『アンモナイトの目覚め』が公開されたばかりです。この作品の監督は『ゴッズ・オウン・カントリー』(17)で注目されたフランシス・リーですね。

『アンモナイトの目覚め』

渡辺 この監督さん、長編はその2本だけで、どちらも同性愛者のラブストーリーを描いているので、自身もそうなのかもしれませんね。『ゴッズ・オウン・カントリー』の出演者のひとり、アレック・セカレアヌとのレッドカーペットでのツーショット写真では、彼の腰に手を回していましたから。

── ということは、『アンモナイトの目覚め』はケイトとシアーシャがレズビアンなんですね?

渡辺 そうです。実在した19世紀の女性古生物学者メアリー・アニングをケイトが演じています。このメアリーという女性は一生独身を通したということなので、そこから想像を膨らませてレズビアンということにしたのかもしれない。

ケイトがこのメアリーを演じ、彼女と恋に落ちる裕福な地質学者の若き妻がシアーシャなんですが、もうケイトの独壇場なんですよ。

『アンモナイトの目覚め』

── シアーシャもオスカーの常連さんですよね?

渡辺 そうなんですけど、私はケイトの足元にも及ばないと思いました。この映画の彼女は素晴らしくて、なぜこれでオスカーにノミネートされなかったのか、不思議で仕方ない。何というか、女優としての覚悟が違う感じなんですよ、シアーシャとは。

何かのインタビューで「私はわりと脱ぐのは平気なの」みたいなことを言っていて、今回も脱ぎまくっているんですが、その体が見られることを意識していないというか、ヌードシーンがあるから体を美しく整えよう、美しく撮ってもらおうという発想なんてまるでない感じ。そのキャラクターに合った肉体を考えるんだと思いますね。だからきれいというわけでもない普通の体型なんですが、リアリティがハンパないんです。

オスカーにノミネートされた『リトル・チルドレン』(06)のとき、浮気相手のパトリック・ウィルソンと、洗濯機の上で激しいセックスシーンを演じていたと記憶しているんですが、その体は普通の主婦そのもの。さっきまでつけていたブラやパンストの跡がついているという感じだった。つまり、そういう演技をするときの覚悟が別次元なんだと思います。

パトリック・ウィルソンと波打ち際で抱擁するケイト。『リトル・チルドレン』ではダブル不倫に溺れる主婦を熱演。

── 若い頃から、演技派でしたからね。

渡辺 初めてのインタビューは『エターナル・サンシャイン』(04)でしたから、まだ29歳です。とはいえキャリア的には『いつか晴れた日に』(95)、『タイタニック』(97)、そして『アイリス』(01)とすでに3度もオスカーにノミネートされていましたし、本作でもノミネートされた。そのときから、文句ナシの演技派女優ですよ。もしかしたら人気スターにもなれたかもしれないんですが、それについてはこう言っていました。

「『タイタニック』の後、たくさんのオファーをいただき、中には大ヒットしたメジャー映画もあった。そういう作品を選んでいたら、ムービースターになれたのかもしれないけど、別にそれを望んでいたわけじゃない。私が役者になったのは、ただただ演技が大好きだから。遊んでるみたいな感覚で楽しいし、それがやったことのない役だったらよりやり甲斐が生まれ楽しくなる。そういう楽しさを満喫できるのが、私の場合はインディペンデントの映画なのよ。『タイタニック』が、私にとっては例外中の例外ね」

ちなみに『タイタニック』に出る以前、彼女はコスチューム映画が多かったので“コルセット・ケイト”と呼ばれていたとジェームズ・キャメロンが言っていました。そして「そういう女優を(ローズ役に)起用するのは安直だと思ったんだけど、みんなに薦められてケイトのスクリーンテストをやったら本当に上手くて、僕はまさにノックダウン。ケイトしか考えられなくなって、次の日には彼女にオファーしていたんだ」と言っていました。やっぱり、抜きん出ていたんだと思います。

7度のアカデミー賞ノミネートを誇るケイトのフィルモグラフィーの中で、唯一の超大作と言っていい『タイタニック』。ディカプリオが若い!

── 当時はまだ20歳くらいですよね?

渡辺 そうですよ。でも、本当に圧倒的だったみたいです。彼女を決めて、その後(レオナルド・)ディカプリオだったようですから。

で、『エターナル・サンシャイン』のとき、すでに「きれいな人にはあまり興味がない」と言っていました。そして「お化粧は好きじゃないし、普段も基本、やらないの。きれいにならなくちゃとか、痩せなきゃとか、若くないととか、そういうプレッシャーはイヤ。そういう部分で自分を変えるのはしたくないわ」って。

── 確かに、そういう部分で無理をしている感じはしないですが、そもそも美人さんですよね?

渡辺 そうなんですよ。『アンモナイトの目覚め』のときも、すっぴんなのかというくらいなのに本当に美しいですからね。冷たい風景の中、凛としていて、近寄りがたい美しさ。

『アンモナイトの目覚め』

私、ケイトは大好きな女優さんなんですよ。インタビューをしてより好きになりました。男前という印象で、ごまかしたり、テキトーにかわしたりしない。

たとえば、答えにくい質問とか、回避したい質問とかが出た場合、多くの人は差し障りのない答えを返してくるんです。中にはラッセル・クロウのように素直に怒る人もいますけど(笑)、ケイトは「その質問には答えたくないわ」とキッパリ。別に怒っているわけでもなく「じゃあ、次ね」となる。

一度、雑誌の都合で料理のレシピを聞いたことがあって、そのときも「今はちゃんと答えられないから、あとでメールするわ」というので「ほんとにくれます?」と言うと「たしかにそうね。簡単でいいの?」と言って教えてくれましたから。

── 筋が通っているんですね。

渡辺 それに、料理は自分でやるようで、それについても面白いことを言っていました。

「今日、この取材用にメイクをしていたとき、私が“今日の夕食、何にしようかしら? 悩むわー”ってつぶやいたら、メイクの女性が“自分で作るんですか?”って驚いたように言うのよ。私の方が驚いちゃった。私の家には執事や料理人がいると思い込んでいるのかしらって。そういう女優もいるだろうけど、私は掃除も料理もちゃんと自分でやってるのよ」って。

ちなみにこの言葉は、ジェイソン・ライトマンの『とらわれて夏』(15)というラブストーリーのときです。ライトマンは、彼女のスケジュールの都合に合わせて、1年間も撮影を待ったそうです。

本文とは関係ないですが、2018年のテニス全英オープン=ウィンブルドンで、熱狂的に応援する様子をパパラッチされていたケイト。大女優の貴重な素顔。

取材はロンドンのホテルで行われ、インタビュー中に紅茶とビスケットが出されたんですよ。すると「あら嬉しい。ビスケットまでついてる! ホテルでの取材って、こうやっていろんなおもてなしをしてもらえるのがすてきよねー」って、まるで庶民の私たちのように喜んでました(笑)。彼女にとって、そういうもてなしは今でもスペシャルのようで「だって、家では自分でやらない限り、誰もお茶やお菓子は出してくれないから」って笑っていましたからね。

かっこいい上にかわいい。しかも演技も文句なく上手いのがケイトなんです。

── それにケイトは意外と恋多き女性だったのでないですか?

渡辺 最初は『グッバイ・モロッコ』(98)というラブストーリーのときの助監督。このとき長女を生んで2001年に離婚。2003年にサム・メンデスと再婚して長男を出産し、彼が監督した『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(08)に出演した後、離婚しています。2012年にヴァージン・グループの創始者リチャード・ブランソンの甥と3度目の結婚をして、今も継続中なのでは?

ふたりが出会ったのはそのブランソンのカリブの別荘のようです。そこで火事が発生したことをきっかけに仲が深まったようです。そのときのことも話していました。

「私が今の夫と知り合ったのは、炎に包まれた別荘の中だったのよ! そんな中で誰かに出会うことにも驚いたし、ましてや結婚するなんて、本当にびっくり。人生は何が起きるか分からないわよね」

地中海西部のメノルカ島で、夫ネッド・ロックンロールと、ふたりの息子ベア・ブレイズ・ウィンスレットとともにバカンスを楽しむケイト。夫を突き飛ばす表情が楽しそう。

そして、今の家族についてはこう語っていました。「私の子供たち、みんな父親が違うの。普通じゃないことは分かっているけど、家族らしさが損なわれたりはしていない。私は子供たちに対して、とても正直に接しているし、楽しいお母さんでいるように努めてるわ。子供たちはみんな、楽しく健康で、幸せで愛嬌があって、地に足がついていて普通なの。人生で誇れるものは何かと尋ねられれば、子供たちをまず挙げるわ」って。

── いいお母さんみたいですね。

渡辺 かっこよくてかわいくて、演技もバツグンに上手く、しかもいいお母さん。ちょっと褒めすぎかもしれないけど、すてきな女優さんだし女性だと思います。

※次回は4/27(火)に掲載予定です。

文:渡辺麻紀
(C)The British Film Institute, The British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited 2019
Photo:AFLO

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