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『翔んで埼玉』は原作より盛大な“ディス”が炸裂!? 埼玉県は今一番オイシくて幸せな県

リアルサウンド

19/3/2(土) 10:00

 伝説のマンガ『翔んで埼玉』の実写版が2月22日から全国公開され週末の興行収入ランキング1位を獲得するほどの大ヒットを飛ばしている。

参考:『翔んで埼玉』まさかの大ヒットスタート その背景にあるのはGACKTと魔夜峰央と東映の縁?

 簡単なプロットを言うと、東京都民が埼玉県民を極端に差別している架空の日本社会を舞台に、差別をなくし埼玉の地位向上をもくろむ埼玉解放戦線の指導者・麻実麗が反乱を起こすという物語。原作は『パタリロ!』で知られる魔夜峰央が1982年から83年にかけて連載していたギャグマンガだ。当時の魔夜峰央は漫画家としてステップアップするために出身地新潟から都心に近い埼玉に転居したばかりで、自身が住む埼玉県をおちょくる目的で本作を考案。ちょうどタモリが『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ系)で発言して以来、「ダ埼玉」や「く埼玉」というワードが流行り始めていた時期だった。ところが魔夜は連載途中で横浜市に引っ越してしまい、「これでは埼玉県をただ馬鹿にする漫画になってしまう」と連載を中断、2018年現在まで『翔んで埼玉』は未完の作品となっている。

 しかし2015年にSNSなどで本作が話題となり、宝島社から復刊。発売から1年ほどで発行部数50万部を超える大ヒットとなり、晴れて『のだめカンタービレ』や『テルマエ・ロマエ』の武内英樹監督の手で実写映画化されることとなった。

 30年以上前の一巻しかない未完の原作は、武内監督がさらに独自の解釈を加えて映画化するには最適の題材だった。まず第一の改変ポイントとして原作の埼玉人が極端に差別される世界はあくまで都市伝説上の昔の日本ということになり、そのエピソードを現代の埼玉で暮らすとある一家がカーラジオで聞くという構成になっているのが巧い。都市伝説というファクターがかかったことにより、原作よりさらに容赦ない埼玉ディスが展開されている。

 また、現在45歳のGACKTが高校生の麻実麗を、彼を好きになってしまう東京都知事の息子・壇ノ浦百美を二階堂ふみが自身初の男役で演じている。他のキャストも宝塚っぽさを意識したという濃い顔ばかりなのもフィクション度が敢えて増すようになり、都市伝説の世界観を強化している。

 一方の埼玉イジリ要素も、30年以上の時を経て県庁所在地が「さいたま市」と平仮名になったり、様々なアンケートで郷土愛全国ワースト、夏に行きたい県ワースト、貧乳率1位、90年代に住みやすい県ランキング6年連続ワーストになるなどの現実に照らし合わせてさらにパワーアップ。埼玉県民であるか否かをチェックするために踏み絵代わりに草加せんべいを踏ませるなど原作にないギャグもてんこ盛りだ。また、「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」などの原作の名台詞もしっかり入っている。「中途半端にやると逆に失礼」と武内監督が語る通り、振り切ったイジリっぷりなのだ。

 しかし武内監督による最大の改変ポイントは、「埼玉ばかりいじられるのはズルい」と自身の出身地・千葉県へのイジリ要素も入れてきたこと。何でもかんでも「東京○○」と東京の威を借りている様を盛大にディスっている。

 そして東京に入る際に両県民が求められる通行手形をどちらが先に撤廃するか勝負するために、埼玉解放戦線と千葉解放戦線が戦うというオリジナル展開を入れたことで馬鹿馬鹿しさは一気に加速。両陣営が互いの出身有名人の写真の弾幕を広げて競い合うなど、抱腹絶倒のくだらないギャグを入れてきている。

 またその他の関東の県へのディスりも多い。特に昨今ネタで「未開の地グンマー」などと揶揄される群馬県へのイジリはかなりひどいのだが、実はそこに物語を進展させるヒントを盛り込んできているあたりは斬新かつ巧いところでもある。

 そんな東京以外の関東圏をイジリ倒しているかと思えば、最後に一番ディスられるのは実は東京と東京一極集中となっている日本の現状という意表を突いた展開に。詳しくはネタバレになるので避けるが、今まで虐げられてきた地方民たちが一気に留飲を下げるような痛快なクライマックスが待ち受けている。主演のGACKTと二階堂が沖縄県出身というのは偶然なのか否か……これほど埼玉県出身の役者が揃っているにもかかわらず、メインキャストは県外の役者を起用している点は、様々な憶測を呼びそうである。

 また中盤にとあるキャラから埼玉県民に対して行われる演説は誰もが持っている郷土愛というものを再認識させられて、くだらないながら少し感動してしまう不意打ちの名シーンとなっている。そこで言われるこんな一言が物語全体のテーマを表している。

「何にもないけど住みやすくていいところじゃないか!」

 このセリフを聞いて東京育ちの筆者は笑いながらも埼玉県民の地元愛が羨ましくなってしまった。

 益若つばさや島崎遥香、成田凌、ブラザー・トムなど実際に埼玉県出身のキャストが多数出演していることや写真だけ使われる埼玉出身有名人も使用を快諾したこと、そして本作が本拠地埼玉をはじめとして全国で大ヒットしていることを踏まえても、埼玉県は今一番オイシくて幸せな県なのではないだろうか。武内監督の手腕はとても大胆で、未完の原作の世界観をここまでくだらなく強化し、なおかつ普遍的な郷土愛を問う感動的な茶番劇に仕立て上げてみせた。

 ちなみに、「いまいち自分とは関係なさそうだな」と思っている関東以外にお住まいの方もご安心ください。最後の最後に何にもないことを逆手にとった埼玉県民による、日本全土が「あ、そういえば!」と思ってしまう爆笑の逆転劇が起こり、誰もがニコニコで劇場を後に出来る最高の締めくくりが待っている。

 全埼玉県民、全日本人必見のエンターテインメントだ。(文=シライシ)

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