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マイバッグはレジ袋の約50倍の二酸化炭素をだす? レジ袋有料化、環境への影響を考察

リアルサウンド

20/7/7(火) 8:00

 2020年7月1日から全国的にレジ袋の有料化が始まった。ネット上の反応を見る限りでは、否定的な反応が大勢なようだ。1枚につきたかだか数円という有料化は本当に削減に繋がるのか、袋の前にもっと制限すべきプラスチック製品があるのではないか、日本はプラスチックごみのリサイクル率が高いのだから、有料化はしなくても良かったのではないか。もちろん好意的な反応もいくつか見られ、場所によっては喧々諤々といった様相だが、経済産業省のホームページでは、有料化は「ライフスタイルを見直すきっかけとすることを目的」とされている。実際の効果についてはさておき、プラスチックごみの問題に目を向ける良い機会だととらえたいところだ。

参考:人類は深海の5%も目視できていないーー暗黒世界に横たわる巨大地形、その雄大なストーリーとは?

■マイバッグはレジ袋の約50倍の二酸化炭素をだす

 東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所の特任教授であり、サイエンスライターの保坂直紀氏が著した『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』(角川新書)は、プラスチックごみの問題を考える上で、一歩踏み込んだ視点を与えてくれる一冊だ。世界的な環境問題としてメディアでも取り上げられることが増えているプラスチックごみだが、その実態となると多くの人にとって漠然としたものがあるのではないか。

 例えば、プラスチックは自然に分解されることがない。正しく回収されず、廃棄されたプラスチックごみは河や海へと流れ出て、何年も漂うか、どこぞの海岸に行き着くか、海底に沈むか、いずれにしろ半永久的に残り続ける。こうしたごみは景観を損ねるだけでなく、海洋生物の体内に取り込まれたりもする。ストローを飲み込んだペンギンが、胃を破られて死んだケースがある。マッコウクジラの体内から7.6kgものプラスチックごみが出てきたこともあるそうだ。ごみは私たちの食卓に並ぶ魚や貝にも取り込まれており、実際に人間も多くのプラスチックを体内に入れていると言われている。また、日本近海のマイクロプラスチックの量は、世界平均の27倍にも及ぶという報告がある。2050年までには、海洋中のプラスチックの重さが魚を上まわるという推定も出ている。

 ショッキングなところをかいつまんだが、本書はことさら不安を煽るようなものではないことは断っておきたい。ごみ対策の世界的な流れや、プラスチックとはなんぞやといったことにも触れており、その実態を知る上で有用な情報が客観的に記されている。具体的なデータに則した記述からは、誤った先入観を持っていたことに気がつかされることも多い。

“繰り返し使えるポリエステル100%のマイバッグと、ポリエチレン100%のレジ袋のそれぞれ1袋について、原料の採掘から焼却処分するまでに、どれくらいの二酸化炭素を排出することになるか/マイバッグはレジ袋の約50倍の二酸化炭素をだすことがわかった”

 プラスチック製のマイバッグを使う場合、最低でも50回は使わなければならない。もしその間に破れ、使えなくなって捨てるようなことがあれば、二酸化炭素の排出という点では、レジ袋よりも環境負荷が大きいのである。マイバッグを使用する人は留意しておきたい点だ。また、こんな指摘もある。

“一般社団法人「プラスチック循環利用協会」の資料によると、2018年に生産されたプラスチックの重量は、原油以外にナフサとして輸入したぶんも考慮に入れて、もととなった原油の重量の約3%にあたるという”

 プラスチックごみは海洋汚染として大きな問題だが、原油という限られた地下資源の節約や二酸化炭素の削減という課題に対しては大きな比重を持たない。このふたつの問題は別で考える必要があるということだ。

 レジ袋有料化の制度の中にも、こうした混同があると著者は指摘する。それは有料化対象外に指定されたバイオマスプラスチックの存在だ。バイオマス素材の配合率が25%のものは対象外にするというものだが、バイオマスプラスチックは原料に植物由来のものを使用し、製造過程において石油の使用を減らすものだ。二酸化炭素の排出においても有効ではある。

しかし、他のプラスチックと同様、自然環境の中で分解されるわけではないので、プラスチックごみの削減という課題に対しては意味を持たない。プラスチックの使用量を減らそうという文脈の中で生まれたレジ袋有料化の制度に、こうしたものが紛れ込んでいるのは妙だと著者は言う。

 ちなみにレジ袋の使用を減らすことは、プラスチックごみの問題において有効だと著者は語っている。「レジ袋など、他のプラスチック製品と比べれば微々たるもの」という声も多く見かけるが、そうではない。レジ袋は海洋ごみとなった時、回収が難しいそうだ。浜辺では砂に埋もれて見つけづらいし、強くないので簡単にちぎれてしまう。ペットボトルなどは比較的回収がしやすいそうだが、レジ袋を完全に取り去るのは困難なのだと言う。

 環境問題は多くの要素が複雑に絡んでおり、魔法のような解決策はなかなか見つからないだろう。著者は「ライフサイクルアセスメント」という考え方を紹介しつつ、「環境問題」という大きなくくりに対して、私たちが本当にすべきことを考える必要性を説いている。そうでなければ、良かれとやったことが、別のところで思わぬ結果を生んでしまう可能性があるからだ。本書ではこんな話も出てくる。

 プラスチックの容器をリサイクルするためには、容器についた汚れを落とさなくてはいけない。油汚れがついた容器はリサイクル原料に適さないからだ。だから容器をお湯で洗うとする。この時、水をお湯にするのにエネルギーが必要になる。もしお湯を石油を燃やして沸かす場合、その時に使用される石油量が、新しく容器を作るために必要な石油量を上回ってしまう可能性もある。「リサイクル」と言えば聞こえはいいが、それが常に良いとは限らない。著者は耳障りの良いキャッチに惑わされることなく、具体的かつ数量的な事実と、それにかかる経済的負担などを考慮しながら、環境にとっての最適解を考えていかなくてはいけないと呼びかけている。

■熊谷和樹(くまがい かずき)
1985年生まれ。ライター/編集者/カメラマン。元「アコースティック・ギター・マガジン』(リットー・ミュージック)編集部所属。現在は音楽MVのディレクション、音楽系メディアを中心にライターとして活動中。

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