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鬼頭明里、内田真礼、早見沙織、田所あずさ……ユニゾン 田淵智也が引き出した声優アーティストたちの新たな表現

リアルサウンド

20/5/20(水) 6:00

 6月10日に1stアルバム『STYLE』をリリースする鬼頭明里が、同作に収録される「23時の春雷少女」を先行配信、さらに視聴動画を公開した。カラフルな衣装に身を包んだ映像とポップな曲調に、「おしゃれ」「可愛い」「○○色のあかりんが好き」など様々なコメントが寄せられた。同曲の作詞作曲を手がけている田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)は、鬼頭の他にも内田真礼、早見沙織、大橋彩香などへの詞曲提供や、声優ユニット・DIALOGUE+のプロデュースなど、女性声優とのタッグが多く見られる。本稿では、田淵による楽曲と女性声優との親和性の高さや、彼女らの新たな表現を引き出す楽曲の魅力を考察する。

(関連:鬼頭明里がソロ音楽活動で表現するものとは? デビューから最新シングルまでを考察

■田淵節が詰まった鬼頭明里「23時の春雷少女」

 鬼頭は、昨年シングル『Swinging Heart』でアーティストデビュー。今年2月にリリースした2ndシングル曲「Desire Again」では、ソリッドなロックサウンドに乗せてワイルドな歌声を聴かせ、夜の街でロケを行ったシーンを含むMVでは、ストリートスタイルのファッションも披露していた。鬼頭はここ最近『鬼滅の刃』の竈門禰豆子を筆頭に『地縛少年花子くん』の八尋寧々、『虚構推理』の岩永琴子といったダークファンタジー作品のヒロインを演じることが多く、そんなイメージともばっちり合った楽曲だったと言える。

 そんな鬼頭の1stアルバム『STYLE』には、神田ジョン、昆真由美、久保正貴(Black Butterfly)、Sakuなど多彩なクリエイターが参加し、シューゲイザー、エモーショナル、ライブチューンなど多彩なロックサウンドを収録。その中でも田淵が作詞作曲を務めた「23時の春雷少女」は、鬼頭の新たな一面を引き出していて聴き応えがあるナンバーだ。

 「23時の春雷少女」には、“田淵節”と呼べるポイントがいくつもある。例えばフワッとした浮遊感のあるコーラスや、早口になるメロディ展開がそうだ。こうしたリズムと一体になったメロディは、歌手自身のリズム感が問われる。ポテンシャルの限界ギリギリに立たされたことによって、鬼頭が持つ本来の個性や素の表情が見事に引き出されたと言えるだろう。

 また、ロックンロールやソウルなどのルーツミュージックを基盤にしながら、そこにトリッキーなアイデアを加えることで生まれるキャッチーさも田淵節だ。「23時の春雷少女」は田淵の盟友であるやしきんと成田ハネダ(パスピエ)によるアレンジによって、変拍子を織り交ぜた王道のジャズの展開を聴かせている。そこに懐かしさや親しみやすさが加わることで、歌い手である声優の存在をグッと近くに感じることができるのだ。

 そして「23時の春雷少女」というタイトルの付け方も、実に田淵流。同曲は恋の気持ちを、パソコン用語を用いながらコンピュータになぞらえて歌ったもの。恋に落ちた瞬間の身体に電気が走るような感覚を、春の訪れを告げる季語“春雷”という言葉で表した、乙女心と風情が絶妙にマッチする言語感覚が非常に心地良い。

■身内のようなスタンスで気持ちを読み取る力

 田淵が作詞作曲を手がけることで、これまでとはひと味違った瑞々しさと、刹那で輝く青春というきらめきを手に入れた鬼頭明里。田淵はこれまでにも、多くの女性声優の新たな魅力を引き出してきた。

 例えば、内田真礼は、2ndシングル「ギミー!レボリューション」を筆頭に、「Hello, future contact!」や「take you take me BANDWAGON」など、田淵の手によるロックンロールを多くレパートリーに持つ。昨年のミニアルバム『you are here』に収録された「共鳴レゾンデートル」では、ファンと内田が互いを必要としていることを、渾身のライブナンバーとして表現した。内田のくったくのない明るさを抽出し、そこに声優であるというアイデンティティも加えた楽曲群は、それがそのまま彼女の代名詞となっている。

 同様に田所あずさも、田淵の楽曲によって新たな魅力が引き出された一人だ。アルバム『So What?』で田淵は、2曲で作詞作曲、1曲で作詞を務めている。田淵が作詞作曲した「僕は空を飛べない」では、弱気な自分を奮い立たせて前を向くポジティブマインドを、熱さと切なさが同居したメロディと共に表現。もともと“タドコロック”と銘打ち、ワイルドなロックサウンドを信条とした田所だが、自身の内面に寄り添った楽曲でそれまでの殻を破り、やわらかな歌声で好評を博した。

 また、早見沙織の最新ミニアルバム『シスターシティーズ』に収録された、ゴスペル風コーラスで始まるシティポップ調の「PLACE」も秀逸だ。畳みかけるようなメロディから一転、ゆったりと揺れるようなメロディへと展開する楽曲で、美しく透明感のある歌声と早見自身の手による歌詞を引き立たせている。おしゃれをして銀座中央通りあたりをまるでミュージカルのワンシーンのように闊歩する、大人の女性のイメージが同曲からは伝わってくる。

 声優ではないが田淵の楽曲を数多く歌ってきたLiSAは、田淵のことを“先輩”と呼んでいる。それはまさに2人の信頼の証しと言えるだろう。親戚や家族のような近い距離感で接し、レコーディングにも立ち会い、単なる楽曲提供に終わらない。そうした田淵の姿勢が声優の心を開かせる。実際に田淵から楽曲を提供された人の多くが、心を見透かされたようだったと話す。身内のようなスタンスで心の奥にある言葉にならない気持ちを読み取り、自分でも気づかなかった自分に気づかせてくれる。そうした寄り添いと、王道×新たなアイデアの組み合わせで生まれる少しトリッキーな楽曲という両面で、田淵智也は彼女たちの新たな魅力を引き出している。(榑林 史章)

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